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越えるべき壁

 スレイとグレストリアムとの戦いは激しさをまして続いていた。

 重力の枷をはずしたスレイと、イブライムによって天界に存在しているさまざまな使徒の力を手に入れその中で純粋な力を底上げする使徒の力を使っているグレストリアム。

 剣の達人の域に迫る二人が自身の限界を越える神速の攻防が続いている。


「────ッ!ハァアアアア―――――――――ッ!!」

「────ッ!オォオオオオ―――――――――ッ!!」


 二人が距離を積めるために地面を強く踏みしめ蹴りあげるごとに地面がひび割れる。

 凄まじい勢いで飛び出したことにより空気がまるで爆発したかのような振動が遠くにまで鳴り響く。

 まさにこれこそ限界を超えた戦いであった。


 振るわれる二対の剣の斬激を黒幻と白楼の二振りの剣を巧みに操るスレイは、竜の目と強化によって人の限界を越える思考反応速度を使いグレストリアムの攻撃をかわし続ける。

 この速度での戦いでは一度でも判断を誤ればグレストリアムの最速の一撃によって両断されるというプレッシャーを肌で感じながらも、冷静な判断の元に攻撃をかわし隙あらば自身も攻撃に転じていた。


「───シッ!」


 だがしかしスレイの攻撃はことごとく打ち砕かれることなった。


「─────クッ!?」

「ウォゥラッ!」


 今のグレストリアムは自身の空間停止の能力を使わずに、力の使徒の能力を使っており純粋な力が何倍にも膨れ上がっている。

 それだけではなく師匠ルクレイツアの技《百錬の技巧》によって変わるさまざまな攻撃と動きによって、慣れた頃合いに攻撃に転じた瞬間には新たな武器とともに別の物へと変化するのだ。


「やっぱりやりづらいッ!」


 そのせいで後手に回ることとなったスレイはグレストリアムの攻撃をかわしつづけていたのだが、そろそろ頃合いだと考えながらバックステップで後ろに飛ぶ。

 後ろに下がりグレストリアムから十分な距離を取り体を前傾姿勢に傾けると、両手を後ろに伸ばし左右の剣の切っ先を後ろに向けながら一気に地面を踏み抜いた。

 右手に握る黒幻には漆黒の業火の炎を、左手に握る白楼には純白の聖火の炎を宿らせると漆黒と白銀の刀身を持った二振りの剣に淡い光が灯った。


「これで焼け死ねッ!───双炎烈閃刃ッ!」


 接近し間合いに入った瞬間スレイは二つの炎を宿した剣を勢いよく振り上げる。


「いい熱量だ───だがッ!」


 グレストリアムが足を高く揚げて勢いよく何かを踏み抜いた。


「─────ッ!?」


 振り抜かれようとする二振りの剣が交わる瞬間、スレイの眼に写ったのは弾かれたコインのように空中で回転する円形の縦だった。


「残念」


 空中に放り投げられた盾を手に取ったグレストリアムは、盾に闘気を纏わせて防御力を上げる。だがスレイの作り出した炎はそんな物で防げるほど柔なものではなかった。


「舐めるなァあああァァ――――ッ!!」


 漆黒の業火を宿した刃がグレストリアムの盾に触れた瞬間、溢れだした炎がグレストリアムの盾ごとその腕を焼き斬った。


「ぐっ!?なんだと!!」

「───ゥオオオオオオ―――――――――――――――――ッ!!」


 苦悶の声を上げながるグレストリアムに対して吠えるスレイは、引き戻したなが白楼を肩に担ぐように構えて上から斬る。

 あと少しで届くというギリギリのところで体を後ろに倒したグレストリアムが間に剣を滑り込まして受け止めるが、結果は先程の盾と同じく剣も簡単に両断されてしまった。

 そのまま一度後ろに倒れてから起き上がったグレストリアムは、斬られた左腕を再生させ刀身を失った剣を投げ捨てると、また別の剣を掴みスレイに斬りかかる、


「調子に乗るなよボウズッ!」

「別に調子になんて乗ってないさ………でもいい加減、お前との戦いも飽きてきたよ!」


 真上へと振り上げられる剣をかわしたスレイがグレストリアムの懐へと潜り込むと、黒幻と白楼の刃でグレストリアムの両腕を切断し回し蹴りでグレストリアムを蹴り飛ばす。


「ごはっ!?」


 背中を強く打ち付けたグレストリアムが苦しそうに肺の中の空気を吐き出すと一緒に血を吐いていた。


「クッ───チィッ!」


 再生した腕で口元についた血を拭っていたグレストリアムのもとのやって来たスレイは、未だに炎を宿している黒幻の切っ先を突きつける。

 顔を上げたグレストリアムが自分のことをこんな風にしたスレイのことを、まるで鬼のような表情で睨み付けている。それに対してスレイは冷ややかな目を向けながらゆっくりと口を開いた。


「グレストリアム。お前、なんでボクに斬られたのわからないって顔をしてるね?」

「当たり前だ俺がお前のような人間風情に斬られるはずがない!いったい何をしたんだッ!!」


 グレストリアムが決めつけるようにスレイが戦いの最中になにか仕掛けたのだと言ってきた。

 自分が負けた事実を受け入れようとしていないことに、いくら師匠が元であっても人格はやはり使徒のもだと、呆れたような安心したようなどちらつかずの感想を抱きながら話し始める。


「お前は確かに師匠を元にした使徒だよ。強さも師匠と遜色ないどころか使徒の力を使える分、お前の方が上だろう」

「そうだ!俺は強いッ!なのになぜだッ!」

「簡単だよ。お前よりも師匠の方が何倍も強かったからだ」



 静かにグレストリアムに現実を突きつけるスレイ。だが、グレストリアムはその言葉に耳を疑う。


「なん、だと?俺が弱い?バカなことを言うな!俺はあのお方より最高の人間の肉体と記憶を与えられた使徒だ!それが死んだ人間よりも弱いだと!ふざけるのも大概にしろ!!」


 叫びかけるグレストリアムに対して、スレイはギリッと奥歯を噛み締める。


「ふざけてないさ。確かにお前は師匠の記憶や思考を引き継いでいるだけあって、師匠の技を完璧に再現していた。だけど、ただ師匠の技を真似ているだけでお前の技じゃない」

「それの何がおかしい!百練の技巧は武器によって様々な動きをトレースする技だ!俺は完璧にルクレイツアの技を、動きを使っていたはずだ!なのになぜ俺が劣っているのだ!!」

「だからさぁ、言ってるだろ?お前のはただの猿真似なんだよ」


 スレイのその一言にグレストリアムのこめかみに青筋が浮かび上がり、凄まじい勢いで殺気の籠った眼で睨み付けられている。

 一度目を閉じたスレイはグレストリアムに負けない殺気で押し返しす。そして、周りに散らばっている無数の武器を見ながら口を開いた。


「師匠の技は確かに複数の武器を使って様々な動きをトレースする。でもそれは、様々な動きの中から相手に対応した動きに合わせてさらに発展させていくんだよ」


 それこそが師匠の技の真髄であり、あの人が最強と言わしめる理由となっている。


「だけどお前のそれは違う、ただ無駄に武器を変え手を変えているだけで次の手も読みやすい。だからボクにも簡単にお前を追い詰めることができたんだよ」


 静に、そして冷静に答えたスレイに対して、グレストリアムがブワッと殺気が溢れ頭からブチッと血管の切れる音とともに吹き荒れた殺気が落ち着いていく。

 なにか来るかと身構えるスレイはグレストリアムがニッと小さく口元をつり上がるのを見る。


「そうかそうか、ならばこうすればいいだけのことだろう」

「おい、なにする気だッ!」


 スレイが止めるよりも先に腕を使徒の真体の物へと変化させると、ドスッと自分の胸に、ちょうど使徒のコアがある部分に爪を突き立てるとゴリッとなにかを握り潰したような音が聞こえてくる。


「なっ、に────ッ!!」


 突然のことに反応が遅れたスレイはこれからなにかをされる前に斬るべく、剣の切っ先を突き立てようとしたそのとき、虚空より現れた手が直ぐ側に落ちていた剣を拾い上げてスレイに向かって振るう。


「──────ッ!!」


 スレイは振り抜いていない白楼の刀身で振るわれた剣を受け止めるが、さら虚空から現れた脚がスレイを蹴り飛ばした。


「ハァッ!」

「ぐっ!?」


 後ろに蹴り飛ばされたスレイがステップを踏んで後ろに下がると、さらに別の影がスレイの元に詰め寄ると一気に拳を振り抜いてきた。

 とっさに身を屈めて拳をかわしたスレイだったがかわしたときに微かに拳が掠り、そこに追撃するかのように蹴りが腹を蹴り抜き吹き飛ばされる。


「グガッ!?」


 地面を吹き飛ばされながら片手で身を持ち上げて起き上がったスレイだったが、今の一撃を完全に入ったため膝をついた。

 すると先ほどの拳で斬れたのは血がポタポタと滴り落ちる。

 どうやら斬れた額から血が滴り眼に入ったのか視界が赤く染まっていた。

 赤く染まった視界で顔を上げたスレイの眼に写ったのは、グレストリアムの他にもう一人の人物だった。


「なるほどね、今度はそう来たって訳か」


 未だに滴り続ける血を拭いとったスレイの顔には小さな笑みを浮かべていると、グレストリアムの隣に立っていた人物が口を開いた。


「おいボウズ。俺を前にいつまでそんな情けない姿を晒す気だ?さっさと立て、でないと刻むぞ?」


 このいいよう、そして凍てつくように冷たく射抜くような殺意は確かに師匠ルクレイツアの物だとわかると同時に、スレイは自分でも驚くほど冷静になっていることがわかった。


「どうやら本当に本物の師匠みたいですね………なるほど、グレストリアムのコアと創造の使徒の力を使って肉体を作り出したのか」


 チラリとルクレイツアの横に並び立つグレストリアムの方を見ると、あちらは肉体を構成していたルクレイツアがいなくなったからなのか、使徒の真体である悪魔のような姿に戻っているのを見てそう思った。


「ほぉ、さすがに察しがいいじゃないか」

「うるさいですよ、今のあんたに誉めらるなんて虫酸が走りますから、やめていただいていいですか?」


 肩をすくめたルクレイツアが周りをうかがいだすと、唐突にどこかへと行ってしまった。まぁそれはおいておくとしても、グレストリアムだけは逃がさない。


「それとグレストリアム、てめぇは必ず殺すから覚悟しろよ」

「俺を殺すか。言うじゃねぇかボウズ。だがなぁ俺を殺すってことは俺だけじゃなくもう一人の俺も一緒に相手をするってことになるんだが?」


 立ちはだかったルクレイツアは修行時代に使っていた剣ともう一本、村の襲撃者を殺した男を殺した赤い剣を持っていた。つまりはあれがルクレイツアが自分を殺すために選んだ武器なのだと、心の中でそう思ったスレイは小さく息を吐き、そして剣を構えた。


「別に構わないさ。どのみち師匠も斬らないといけなくなるんだ。だったら二人まとめてかかってこいよ」


 真っ直ぐ伸ばされた黒幻の切っ先をルクレイツアに向けたスレイは、じっとルクレイツアの方を睨み付けると小さくルクレイツアが吹き出した。


「マジで言うようになったなボウズ。だがなぁ、身の程ってやつを教えてやる」


 一身に降り注ぐ冷徹なまでの殺気にスレイは微かに後退させられるが、強い意思によってその殺気を押し返すとこんどはルクレイツアが驚く番であった。


「ほぉ、俺の殺気を受けて耐えるか」

「あなり前でしょう。こっちは!あなたを殺したような相手と戦い続けてきたんだから」

「やるようになっているとは思ったがここまでとは思わなかった。これなら少しは俺を楽しませてくれるかもしれねぇな」

「楽しませるなんてするわけないじゃないですか師匠。今度は地の底から這い上がって来ないよう徹底的に殺してやりますから覚悟してくださいよ」

「覚悟するのは俺じゃなくお前のほうじゃねぇのかボウズ?死ぬ覚悟って奴をな!」

「そんなの旅を始めたときから………いや、あなたから剣を教わることを選んだその日から出来ています。でも、今じゃない。神をぶん殴るまで、死ぬ気はないッ!」


 スレイの啖呵にルクレイツア小さく肩をすぼめるとグレストリアムの方へと振り返った。


「悪いな、俺の弟子はあんな奴なんだわ。殺す気で行かねぇとこっちが殺られるぜグレストリアム」

「言われなくてもわかっている。でなければ俺のコアを分けてお前を作り出したりしないルクレイツア」


 同じ声でお互いの名前を呼びあっているルクレイツアとグレストリアム。

 まるで一人芝居を見せられている気になったスレイだったが、ここで気を抜くことは出来ないと気を引き締めると、すぐ目の前にナイフの切っ先が迫っていた。


「──────ッ!?」


 とっさに身を横にしてナイフをかわしたスレイ、それを見たルクレイツアが感心したように呟いた。


「ほぉ~、いまのを避けたか」


 全くのノーモーションから受けた攻撃をかわせたのは偶然、二度目はないとスレイは自分でも思っている。

 今までの戦いの経験から頭で考えるよりも身体が先に動いた、いわば条件反射みたいなもので次はないと思いながら、思考のギアを一段階上へと引き上げようとすると視界の端で黒い影がスレイの元に飛び込んでくる。


「死ねよ、ボウズッ!!」

「─────ッ!?」


 飛び込んできたグレストリアムの拳がスレイに向かって振るわれるのを見て、スレイは内心でかなりの焦りを露にした。

 ───今度のは避けきれないッ!

 完全な不意打ちによる避けることの出来ない一撃を前にしながらもスレイは冷静に剣を傾けながら、衝撃に備えて全身の筋肉繊維を竜人の物へと変化させる。

 さらに両腕に竜麟を纏い駄目押しとばかりに身体強化を施して受け止める。


「───ッグゥ!?」

「吹っ飛びなッ!」


 受け止めた一撃によって身体を起こされるとその場で回転したグレストリアムの横蹴りがスレイを吹き飛ばした。


「グッ!」


 地面を転がったスレイが身体を起こすと、今度はルクレイツアが剣を構えながら突っ込んでくる。


「次は俺だぜ」

「グッ、チィッ!!」


 ルクレイツアの握る二振りの剣から繰り出される高速の連激を、黒幻と白楼の二振りを巧みに操って受け流す。

 今のルクレイツアの動きはスレイの物と似ているのだが、一撃一撃がとてつもなく重激を受けていては腕が持たない。加え自在な脚運びから来る巧みな剣戟がスレイのことを翻弄しているせいで、剣を受け流すだけで手一杯だ。


「オラオラ!どうしたボウズ!俺を殺すって言ったのは嘘だったのか?」

「そんなわけないでしょうが!」


 ルクレイツアの双剣から振るわれる剣閃を黒幻と白楼で受け流し、攻撃に転じようとしたスレイは黒幻に業火を纏わせ斜め下から上へと振り上げようとした瞬間、ルクレイツアが後ろへと飛んだ。


「なにッ!?」


 あのルクレイツアが後ろに引いたことに、スレイは驚きの声を上げる。


「交代だ、グレストリアム」

「ふっ、任せろ!」


 一瞬で間合いを積めてきたグレストリアムが振り上げられる黒幻の刀身に拳を合わせようとする。

 もう既に剣を引き戻す余裕はないせいでスレイはそのまま黒幻を振り上げると、グレストリアムの拳と黒幻がぶつかり合うと凄まじい衝撃が腕に伝わり大きく剣を弾かれる。


「隙あり、だな」


 ノックバックを受けて身体が硬直するスレイ、守りの体制に入ろうと白楼を前に出そうとしたが、それよりも早くグレストリアムが懐へと潜りこんだ。


 一呼吸の合間に打ち込まれる無数の連打がスレイの身体に打ち込まれる。


「─────がはっ!?」


 肺から空気を吐き出し一撃一撃とてつもない重さの連打に思わず後ろへと後退したスレイ、膝を付き崩れ落ちそうになったところに、グレストリアムが飛び退くと同時にその背後からルクレイツアの怒気の籠もった声が届いた。


「まだ落ちるんじゃねぇぞッ!」


 向かってくるルクレイツアの姿を満たスレイは両足で地面を強く踏みしめる。


「負けぇ、るかぁあああああーーーーーーッ!!」


 突き技を放とうとして来るルクレイツアに対して、同じく突き技で返すべく黒幻を垂直に構えようとしたその時、引いたと思ったグレストリアムが横から走り込んで来る。


「俺もいることを忘れるんじゃねぇ!」


 二方向からの同時攻撃にスレイは攻撃のモーションを中断し、脚力を強化して上へと飛び上がり体勢を整えようとした。


「上、取ったぜ!」

「ッ!?───しまっ!」


 すると使徒の翼を広げたグレストリアムがスレイの上を取り、上空から落下する勢いをのせたかかと落とし放ったが、とっさのところで身をよじり蹴りをかわした。

 すれ違いざまに蹴りを加えようとしたその時、真下から凄まじい闘気を感じた。


「───────ッ!?」


 ここにいたら不味いと本能で察したスレイは、グレストリアムへ放とうとした蹴りを中断し竜翼を広げその場から離れると、スレイが飛び退いた瞬間に闘気の斬激が飛び去っていった。


「クッ、師匠か!」


 真下から放たれた斬激が放たれた場所を見ると、そこにはわかりきっていることではあったが真上へと剣を振り上げた状態のルクレイツアがいた。

 後一秒でも飛び退くのが遅れたら身体を両断されてしまっていたかもしれないと振るえながらも、竜翼を強く羽ばたかせグレストリアムに接近する。

 これは好機だとスレイは思った。

 ルクレイツアは闘気の浮遊は苦手、今ならば空中と地上、二つに分断できた今なら片側ずつ相手ができると踏んだスレイは、下に注意しながらグレストリアムに狙いを定めた。


「まずはお前から仕留める!」

「簡単に殺れると思うなよボウズ!」


 肩に担ぐように構えられた黒幻に漆黒の炎の竜を宿られ、右の脇に抱えるように構えられた白楼には純白の炎の竜を宿らせるたスレイと、両の拳と両の脚に神気の輝きを纏わせたグレストリアムが同時に接近する。


「喰らえッ!───双牙・竜皇の連激ッ!」

「来いやぁ!ボウズ!!」


 スレイとグレストリアムが同時に背中の翼をはためかせ激突する。

 漆黒と純白に輝く二つの竜を宿したスレイの剣と神気の輝きを纏ったグレストリアムの拳が空中でぶつかり合うと、空中で衝撃と無数の炎の残滓が飛び散っていく。

 黒幻と白楼の斜め上からの切り落としを拳で受け流し、左の腹部への回し蹴りを黒幻を真横へと切り返すことで押し返し、垂直に構えられた白楼を真っ直ぐ突き立てると裏拳で刀身を逸らされ、振り抜かれた拳に向かって真上から振り下ろした黒幻の刀身で迎え撃った。


「ハハハッ!どうしたボウズ!お前の鍛えた技ってのはそんな物なのか!!」

「んなわけ、ねぇだろぉおおおおお――――――――――――――――――――――――ッ!!」


 既に十連激を使いきったスレイだがまだまだここからだと叫ぶ。

 残り二十六連激。

 全身の闘気と魔力、竜力の全てを使い速度をあげ使える力を全て注ぎ込んで放った十六激目、上からの切り下ろしを受けたグレストリアムの拳をから僅に血が流れ出ると、グレストリアムが放った連打をスレイの双剣が切り裂いた。


「なんだとッ!?」

「ここでようやくか………次で斬る!」

「なめるなぁあああああ――――――――ッ!!」


 ラスト六連激。

 三十一、三十二激目の左右の斜め上からの切り下ろしを手の甲で受け流し、続く切り上げを両の掌で受け止めるとグレストリアムの悪魔の指が斬られる。


「グォオッ!?」

「ゥオオオオオオ―――――――――ッ!」


 それにはたまらずグレストリアムが後ろへと後退させられると、スレイは最後の二激を残した状態で翼を強く羽ばたかせ後ろへと跳ぶと僅に空いた空間を利用し、一気に加速し竜の炎を纏った白楼を垂直に構え突き立てるとグレストリアムが左の掌で突きを受け止める。


「砕けろ!」

「負けるかぁッ!!」


 剣の切っ先と掌がぶつかった瞬間に白楼より現れた白炎の竜の顋がグレストリアムの左腕を食いちぎるように爆発した。

 失った左肩から血吹きを吹き出しながらその場で回転したグレストリアムの裏拳がスレイの頭を潰すべく振るわれると、その場で翼を消し去り下へと落ち裏拳をかわした。


「クソがッ!!」


 もう一度背中に翼を発現させたスレイは、上に飛び上がり肩に担がれた黒幻の刃をグレストリアムの失われた左肩から斜めに切り下ろす。


「ウゥオオオオオオオオ――――――――――――――ッ!!」


 完全に入った最後の一撃、これでグレストリアムを殺すべく黒幻のなかに眠る黒龍の炎を解放し力を込める。

 刃が押し進みグレストリアムの身体の中心にまで刃が通ったとき、グレストリアムが叫ぶ。


「止めろぉおおおおおお―――――――――ッ!!」


 剣越しに伝わってくるなにかが割れる感触、ここにグレストリアムのコアがあると悟ったスレイが更に刃を押し込もうとしたその時だった。


「殺らせはしねぇよ」


 聞こえてきた声ととこに背後から突然現れた気配、思わずスレイがそちらへと振り返ろうとしたその時、腹部に強烈な痛み感じた。


「ぐっ!?」


 スレイが見たのはルクレイツアの赤い剣の刀身、ゆっくりと首を回して後ろを見るそこには翼を生や背後をとったルクレイツアがそこにいた。


「なにッ!?」

「悪いな坊主。以下の俺は空も自在なんだわ」


 完全に失念していた。

 いまのルクレイツアは半分使徒、人間の姿しか使わなかったせいでその可能性を失念していた。いいや、わざと考えないようにさせられていたのだ。

 ルクレイツアが腹に刺した剣をグルっと回すと、スレイの身体に激しい激痛が走った。


「ぐぅぁああああぁぁぁぁぁっぁぁッ!?」


 痛みに叫ぶスレイの声を聞き不敵な笑みを浮かべたルクレイツアは、剣を引き抜いたと同時にグレストリアムが叫び声を上げる。


「ウガァアアアアアアアアアア―――――――――――――――ッ!!」


 グレストリアムが吠えながら右腕でスレイの頬を殴る。


「グゥォッ!?」


 殴られ吹き飛ばされたスレイ、痛みでうまく反応できないでいると真上に現れたグレストリアムが拳を振り上げる。

 とっさに腕を重ねてガードをしようとし画がそれとよりも速く撃ち抜かれた拳はスレイを地面に叩き起こした。


 地面に落ちたスレイは腹の傷を押さえながら立ち上がる。

 フラフラとおぼつかない足取りで崩れた民家の壁に手を付きながら立ち上がった。


「うっ………クソしくじった」


 竜の再生能力がなければ完全に致命傷だったと思いながら、瓦礫に手を突きながら立ち上がった。


 ──やっぱり師匠は凄いな


 改めて実感させられたルクレイツア・ステロンの実力の高さにスレイは自然と口元をつり上げる。

 これこそ自分が越えるべき壁であり、いまここで確実に倒さなければならない最強の敵だ。


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