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帝国兵と怒れる母たち

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 帝国兵の奇襲を受けて負傷したエンネアと武器を奪われ拘束されたラーレは、両手に囚人用に作られている特殊な手枷をはめられ、帝国兵に囲まれた状態で村人たちが隠れていた避難所に連れていかれているのだ。

 そんな中でもラーレはどうにかしてこの状況を打破できる切っ掛けはないかを探しているが、今は手枷のせいで闘気が封じられているだけでなく、すぐ後ろを歩くエンネアの身体にはまだ矢が刺さったままで、治療はおろか止血さえもすることも許されなかったのだ。

 幸いにもエンネアに刺さった矢はそれほど深くもなく、骨に刺さり内蔵には届いていないようなので一先ずは安心かもしれないが、それでも怪我をしていることにはかわりなくこのまま止血が出来なければ死んでしまうかもしれないことにはかわりないのだ。

 なのでどうにかしてもこの帝国兵の中から抜け出し、エンネアの治療が出来ないかと考えているラーレだったが、ふと遥か遠くからは聞こえてくる激しい金属同士がぶつかり合う音に、魔法による激しい轟音と衝撃の音を聴き、いまだに誰かが戦っているスレイたちの顔が浮かぶと同時に、今朝方のスレイたちとの会話のことを思い出し頭のなかで考えを纏めていく。


 ──あいつらが持ってるって言ってた帝国が喉から手が出るほど欲しがってる物、こいつらはなにかを探しにここに来たって言ってたがつまりは帝国の狙いはあいつらってことなのか?………でもそれじゃあスレイが持ってるものってのはなんなんだ?皇帝が国から出てまで欲しがるものってのはいったい………──


 事情を知らないラーレが考え付くのはここまでが限界でもあり、思考を巡らせることの出きるタイムリミットでもあった。森のなかで開けた場所に作られた村の避難所にでたラーレとエンネアの目の前には、避難所の中にいたはずの村の老人たちと避難所を守っていたはずの冒険者、それに狩人たちにレイネシアがいまの二人と同じように両腕を拘束され避難所の前に一ヶ所に集められていたが、ラーレはそんな彼らを見て怒りがわいた。

 その理由は全員の顔や身体の至るところに擦り傷や打撲痕がみられる。抵抗したからなのか、殴られ暴力によって無理矢理にでも従わせたことが見てとれる。

 心の中に怒りを押さえ込んでいるラーレがふと村人たちの顔を見ると、目の前にいる帝国兵と皇帝ディグルスを前にしてかつて帝国領であった時のことを思い出したているのか全員が震え顔を青く染めている。

 そんななかでもレイネシアが不安そうな人に明るく気丈に振る舞っている姿を見つける。


「おじぃ~ちゃんおばぁ~ちゃん!しんぱいしないのぉ~!れーねしあのパパとママがみぃ~んなまもってくれるの!だからげんきだすの~!」

「そうかいそうかいレイネシアちゃんのお父さんとお母さんは強いのかい。それは心強いねぇ」

「わしらが子供に励まされておってはいかんのぉ、レイネシアちゃんありがとう」

「どういたしまして!」


 ニッコリと微笑むレイネシアのその姿を見てラーレとエンネアは、自分の胸が張り裂けるような痛みを感じることとなった。

 あんなに小さい子がこんな状況のなかでも笑顔を作りみんなを励まそうとしている。そのことに二人はレイネシアだけでもどうにか、そう考えていると二人は後ろから強く突き飛ばされる。


「こっちに来い!」

「ぐっ────ッ!?」


 兵士たちに背中を押されよろめいた拍子にエンネアが倒れ、脇に刺さったままの矢から鋭い痛みが頭まで駆け抜け、くぐもった悲鳴を上げて傷口を押さえるとラーレがエンネアの横に膝をついて声をかける。


「おいババア!しっかりしろ!」

「うっ、うるさいねバカ娘………あたしが、これくらいの傷でどうにかなるはずないわ。だからあんたは、今この場を乗り切る、そのことだけを考えていなさい」


 額にすさまじい量の脂汗を浮かび上がらせながらながらエンネアが、ラーレに向かってそう告げるがラーレはエンネアの忠告を聞きながらも自分たちを突き飛ばした帝国兵に牙を向ける。


「おい、てめえッ!もっと優しくしやがれ、こっちには怪我人がいるんだぞ!!」

「やっ、やめなラーレ!」

「貴様らのように我が国を捨てた裏切り者どもを忘れたりはしていないだろう。今この場で切り捨てずに生かして捕らえているだけでもありがたいと思え」


 ギリッと奥歯を噛み締めるラーレはエンネアを起き上がらせてみんなのもとへと歩み寄ると、すぐに村の人たちが怪我をしたエンネアの怪我を見て止血をしようとすると、兵士の一人が村人を蹴り飛ばす。


「おっ、ぐっ!?」

「勝手なことをするなっ!!」


 殴られて弾き飛ばされた村のおじいさんを見てレイネシアが立ち上がると、周りの大人の制止の言葉を聞こうともせずに倒れたおじいさんに向かって走っていく。剣に手を掛けた兵士に前にレイネシアが立ちはだかった。


「おじいちゃんいじめちゃダメなの!みんななかよくするの!!」

「なんだこのガキは!邪魔をするならばガキだろうと切り捨てる!!」


 シャンッと剣を抜き放とうとした瞬間、馬上にいた皇帝ディグルスからの制止の声が響きレイネシアに斬りかかろうとした兵士が動きを止めて敬礼をするが、皇帝ディグルスが馬の上から降りて兵士の前に立った瞬間、抜き放った剣でその兵士の首を切り捨てた。


「なっ!?」

「えっ!?」


 突然のことに誰しもが眼を見開き声にならない声を上げていた。

 横に一閃されたると兵士の首が飛び村人たちの方へとゴロゴロと転がり、傷口からおびただしい量の血が飛び散り、すこししてから膝から崩れ落ちるようにバタンッと倒れた兵士からは、血が流れ続け地面を赤一色に染め上げていった。


「ヒィッ!?」

「レイネシア!見るな、眼をつむって───ガハッ!?」

「皇帝陛下の御膳である!言葉を発するな馬鹿者がッ!!」


 兵士の首が切り落とされ血が流れでる瞬間を目の前で見たレイネシアは、小さな悲鳴を上げながら恐怖でブルブルと震えている。これ以上この光景を見せないためにレイネシアに眼をつむるようにと叫びかけるラーレだったが、それよりも先に動いた兵士がラーレの前に歩み寄ると、ラーレの腹に拳を突き付ける。

 守ることも出来ずにまともに腹に拳をもらったラーレは、胃液の味が口のなかに広がるのを感じながらも必死の込み上げてくる吐き気を押さえていると、後頭部を掴まれそのまま地面に伏せられ起き上れないように背中に足で踏まれる。


「てっ、テメェ!」

「黙っていろよ気色の悪い亜人の娘が、少しでも動けばすぐに切り捨てるぞ」

「──────ッ!!」


 身動きを封じられ剣を当てられたラーレが悔しさのあまり奥歯を強く噛み締めている。

 皇帝ディグルスが転がった兵士の頭を踏みつけると、闘気の光が皇帝ディグルスの身体に現れ踏みつけていた頭をまるでリンゴでも潰したかのようにグシャリと音を立てて潰れると、村人たちは気持ち悪そうに視線を横へとずらしていた。

 そんな中で皇帝ディグルスは死んだ兵士に唾を吐き捨てるかのように叫びかける。


「この馬鹿者めが、その娘が目的の物だ!おい本国へと帰った暁にはこのゴミの一族をの二等市民権を剥奪し、四等市民、奴隷の身分へと格下げを行え。男どもは重犯罪者どもと共に炭鉱施設に送れ、女どもはそうだな……しばらくは余のペットにでもしておこう」

「はっ。皇帝陛下の仰せのままに」


 皇帝ディグルス腐ったような台詞に側に控えていた文官のようなメガネの男が深々と頭を下げる。


「して皇帝陛下。その娘が件の物で間違いはございませんのですね?」

「なんだ貴様は我が勘違いをしているとでも言いたいのか?」

「決してそのようなことはございません。ですが、事実なのだとしても人の姿をされてしましては我々にはいささか信じられず、申し訳ありません」

「ふん。まぁよい。人の姿をしていれば誰であろうとそうは見えぬであろうからな」


 皇帝ディグルスとその家臣である男の会話を聞いていたラーレたちは、レイネシアのことをまるで人ではないなにか別の生き物、あるいは物のような言い方に疑問を覚えていると皇帝ディグルスがレイネシアの腕をつかむと自分の方へと引っ張ろうとすると、レイネシアはその腕から逃れるようにバタバタと暴れだす。


「いやぁ~!はなしてぇ~!!」

「暴れるでないもう貴様は我のものなのだ!貴様の真の所有者である選ばれし人間であるこの皇帝ディグルスのなのだ!言うことを聞かぬか!!」


 皇帝ディグルスが暴れるレイネシアの腕をつかみながら叫ぶが、そんなディグルスの声に比例するかのようにレイネシアがさらに声を上げながら暴れる。

 ラーレや村の人たちはどうにかして連れていかれそうなレイネシアを助けようとするが、周りには剣を持った人たちに囲まれており動くことが出来ないでいると、レイネシアが自分の腕をつかんでいるディグルスの腕を噛みつくいた。

 これにはたまらずディグルスが掴んでいたレイネシアことを投げるように払いのける。


「貴様!いい加減に我の言うことを聞かぬか!我と言う選ばれた人間に使われるべきはずのもの!なのになぜに我の言うことを聞かぬのだ!!」

「れーねしあ、おじさんのじゃないもん!パパとママのむすめのれーねしあだもん!」

「ふざけたことを抜かすなッ!!」


 パシンッとディグルスがレイネシアの頬を横にひっぱたくと、小さな身体が宙へと浮かぶと地面にバウンドして倒れ込んだ。


「ぅっ、うぅ………ふぇええええ~~~~~~~ん~~~~~~、いたいよぉ~~~~~~!!」


 起き上がったレイネシアが叩かれたところを真っ赤に腫ら、少しして堰を切ったような勢いで泣き始めるとポロポロと大粒の涙を流して泣き叫んでいた。

 ディグルスの暴挙を止めれなかったことに対してラーレたちは歯噛みしていると、顔を湯で上がったタコのように真っ赤に染め上げたディグルスがレイネシアの胸元をつかむと自分の目の前にまで引っ張った。


「貴様は人間ではない!それが人を語るだけでは飽きたらず選ばれし者であるこの我に歯向かうな!貴様は人に使われる剣、真に選ばれし勇者であるこの我に使われる聖剣ソル・スヴィエートであろうが!!」

「ぅえぇええええええ――――――――――――――ん!ふっぇええええ~~~~~~~~~ん」

「えぇい!黙らぬか!」


 ディグルスが怒鳴り散らすとレイネシアはさらに大声で泣きわめいている中で、ラーレたちは今しがたディグルスの口から語られたレイネシアの正体とでも言うのか………あの少女が聖剣ソル・スヴィエートだとはいったいどう言うことなのか?

 そんな疑問が頭をよぎった瞬間、ディグルスがもう一度レイネシアに拳を振り上げようとしたのを見たラーレが吠える。


「やめろぉおおおおお―――――――――ッ!!」


 例え剣で斬り殺されたとしてもあんな幼い娘に手を上げるこの男を許さない!そう心に強く誓い地面を蹴ろうとしたそのときだった。


「ねぇ。あなた。私たちのレネちゃんにいったいなにをしようとしてるのかな?」


 耳に届いた聞き覚えのあるはずの声だったが、それを聞いた瞬間ラーレはゾワッと全身を駆け抜ける得体も知れない恐怖を感じると同時に、颯爽とラーレたちの側を駆け抜けたひとつの影が、まるで流れるような動きで剣を抜き放ちながら接近し懐に入るとレイネシアの首元を掴んでいるディグルスの腕に剣を振るった。


「汚らわしい手でレネ触るなッ!───改変秘技・煌翼一刀ッ!」


 横から上へと振り抜かれた剣がディグルスの腕を斬り飛ばすと、身体を捻りながら突き出された拳がディグルスを殴り飛ばした。

 突然のことにラーレたちだけではなく自身の国の皇帝が殴り飛ばされたと言うのに、あまりの出来事から眼を大きく見開かれてい動けないままであった。


「へっ、陛下ぁあああ――――――――ッ!!」


 メガネの宰相が陛下を殴り付けた下手人の顔をみるべく振り替える。そこにいたのは怒りを露にしたリーフとユフィの姿があったのだった。




 帝国の皇帝陛下を殴り飛ばしたリーフは、翡翠を構えながらレイネシアを庇うように立っていた。


「うちの娘に酷いことをした報い、っと言いたいですがどうもおかしな手応えでしたね」


 リーフは確かに切り落としたはずの皇帝ディグルスの腕がどこにもなく、さらには剣で斬りつけたときの感覚がおかしいと感じた。


「ふぇええええ~~~~~~~ん!ママぁああああ~~~~~~~~~~~~」


 リーフの姿をみたレイネシアが嬉しさと今まで我慢していた恐怖が一気に決壊したのか、リーフの足にしがみついて鳴き始めた。

 優しくレイネシアの頭をなで続けるリーフだったが、そこに声をかける人物がいた。


「貴様ッ良くも陛下をッ!者共この女を切り殺せッ!」


 一人騒ぎ立てるメガネをみてリーフはピシリと額に青筋が浮かび、自分でも思ってもみないほどの低い声が漏れ出した。


「ちょっと黙ってなさい」

「「「「─────────ッ!?」」」」


 言葉と共に放たれた強い殺気によって兵士たちの動きが止まると、リーフはいまだに泣き続けるレイネシアに声をかける。


「レネ、ごめんね。ママはまだやることがあるの。だからラーレお姉ちゃんたちのところで待っていなさい」

「いやぁ~~~だぁ~~~!ふぇええええ~~~~~~ん」


 泣いているレイネシアの頭を撫でるリーフは、レイネシアの頬が赤く腫れていることに気がつくと自分でも驚くほどの殺意があふれでる。


「おい、そこのお前」


 リーフが自分から近い位置にいた男に声をかける。


「────ッ!!なっ、なんだ?」

「これをやったのは、お前か?」

「ひぃ、ちっ、違っ!?」

「ならばお前か?」


 一人一人にそう問いかけ殺気を振り撒いていくリーフ。

 そんなリーフの肩をポンッと叩いた人物がいた。


「リーフさん、落ち着いてね」

「ユフィ殿………他の敵は?」

「もう片付けたよ」


 ユフィの視線の先にはリーフが殺気を当てていたの以外と、メガネの宰相を除くすべての帝国兵を魔法で拘束されていた。

 それを見てリーフは小さく頷いてから自分の足にしがみついていたレイネシアを抱き上げてユフィに渡した。


「レネが怪我をしています。治療をお願いします」

「わかってるよ。他の人たちの治療もするけど………その前にこの手枷を外さなくちゃね」


 錬金術でレイネシアの手枷を外したユフィは杖を構えて小さくヒールと唱えるのであった。


 その言葉にラーレは回りを確認すると確かに自分を取り押さえていた兵士だけでなく、村人を取り囲んでいたはずの兵士たちが氷の蔦と氷の幕に包まれている。

 取り押さえられていたはずのラーレたちに気づかれずにどうやってやったのか、ラーレには全く理解できないでいると、ラーレの側にまでやってきたエンネアがそっと小さく呟いた。


「千魔姫、かっ。噂にしか聞いていなかったがとてつもない魔法の腕だね。それに翡翠の妖精だったかね。まったく良い冒険者を囲ってるじゃないか、ジャルナの婆さんは」


 エンネアが苦しそうに言っている横でラーレは、あれが自分のバカにしていたスレイの仲間の実力なのかと驚愕していると、ユフィと未だにしゃくり上げているレイネシアを抱き上げながら、ラーレとエンネアの前に座る。


「遅くなってごめんねラーレちゃん。エンネアさんも」

「構わしないけど、その子のこととかあとで色々と聞かせてもらうからね?」

「えぇ。話せる限りのことですけど………とりあえず治療をしますから刺さっている矢を抜きます。ラーレちゃん、レネを預かっててもらっても良いかな?」

「えっ、あぁ」


 レイネシアを受け取ったラーレは初めて抱く幼い子供を見て、先ほどの自分よりも大きな大人を目の前にし、村のみんなや自分を守るために帝国兵の前に立ちはだかり強い意思を宿した顔をしていたレイネシアを見て、ラーレは自分の不甲斐なさを強く実感した。


「こんなチビに守られてたなんてな………俺も情けねぇ」

「情けなくなんかないよ。ラーレちゃんだってみんなを守ろうとしてくれてた。レネを守ろうとしてくれていたのを私は知ってるから」

「……………サンキューな、ユフィ」

「うん。さぁ、次はラーレちゃんの手枷を外すからね」

「あんがと」


 ユフィがレイネシアの手枷を外したときと同じように錬金術で手枷を壊していると、パタパタと複数の足音が聞こえ剣のないラーレがレイネシアを後ろにかばいながら拳を構える。


「ユフィお姉さん!リーフお姉さん!やっと追い付きました!」

「……ん。二人とも早すぎ」

「ですが間に合ったみたいですわね」


 やってきたのはノクト、ライア、ラピスの三人だった。


「ママぁ~~~~~~~~~!!」


 三人の姿を見たレイネシアがラーレを押し退けて三人の元に走っていくと、はじめからわかりきっていた様子のユフィを見たラーレがふぅっと息を吐いている。


「みんなこっちに来たのかよ?」

「……ん。当たり前。娘の心配をするの母の勤め」

「それよりも、ラーレさまの方はお怪我は大丈夫ですか」

「あっ、あぁ」


 ラーレがライアに向かってそう答えているとノクトがユフィの方に向き直った。


「ユフィお姉さん、皆さんの治療はわたしがやっておきますから結界の構築をお願いします」

「もう始めてるよ。リーフさん!こっちにの護衛をお願い!」


 既にシェルを使いながら結界の構築を始めていたユフィは、もそもの時のために守りを固めれるようにリーフを呼び寄せようとするが、リーフは横に頭を横に降って否定した。


「すみませんが、それはできそうにはありませんね」


 ユフィたちがリーフの方をみながらなぜ?っと聞き返そうとしたが、それよりも先にその答えの理由がよくわかった。


「貴様ら、下等な平民風情が選ばれし人間である我を斬るだけでなく殴るなど万死に値する!おい!あれを出せッ!!」

「ハッ!こちらに」


 身体中を血に濡らした皇帝ディグルスの元にかけよったメガネの宰相が、懐から取り出した赤いペンダントのようなものを奪い取ると、ペンダントに魔力の光を灯しながら前へと掲げると森の奥からおぞましい獣のような叫び声が木霊する。


『『『『グラァアアアアアア――――――――――――――――ッ!!』』』』


 ドゴォーンっとなにかが爆発する音が鳴り響き、森のなかを疾走してきたかと思うとユフィたちの前に姿を表した。


 ユフィたちの前に現れたのは継ぎ接ぎだらけの巨大ななにか複数匹やってきた。

 人の身体に無数の魔物や動物の肉体を移植したようなその姿にユフィたちは小さな悲鳴を上げている。


「キメラに似てるけど、あれって人だよね?」


 結界の構築を進めていたユフィが小さく呟くと、赤いペンダントを握りしめているディグルスが叫ぶ。


「我が国が作り出した最高の手駒だ。やれ貴様ら!先ずは我を斬ったあの女から始末しろ!」


 ディグルスが叫ぶと砲口を上げながらキメラたちがリーフの方へと向かっていく。


「キメラは自分が引き受けます!今のうちに避難をお願いします!」

「エンネアさん!レネをよろしくお願いします!」

「リーフさま!援護します!」


 エンネアにレイネシアを預けたラピスがチャクラムを取り出しリーフを援護するために投擲するが、キメラが器用にも尻尾で払い落としてしまった。投擲されたチャクラムを弾くなど並のキメラじゃないと察したリーフは、尻尾の払い除けをかわしながら真上から翡翠を振るい続けている。

 リーフの戦いを見ていたノクトは結界を準備しているユフィを見て叫ぶ。


「ユフィお姉さん!結界の準備は!?」

「もう少しで終わるけど、何が来るかわからないからそっちはお願いね!」

「お任せを───ッ!?ライアさま!」

「……ん、わかってる!」


 チャクラムを失い短剣を抜いたラピスがライアの側にあった氷像に亀裂が入っていることに気がついた。

 ラピスが叫ぶとビシリッとライアの側にあった氷の彫刻が砕けると、その中から現れたのは怪物であり肥大化した拳がライアに振るうが、それに気づいていたライアは拳をクロスさせることで受け止める。


「……ん。ッ強い!?」

「ライアさんッ!!」


 本来の人間では出せるはずのない力にライアは吹き飛ばされるのを見てノクトが叫んだが、竜翼を展開し羽ばたかせて空中で体勢を立て直して着地する。


「ライアさま怪我は!?」

「……ん。平気。でもラピスもノクトもすぐにそこを退く。そこにいるのも同じだから」


 ライアが静かに告げると、ノクトとラピスが自分の側にあった氷像の側から離れる。バキンっと砕け散った氷の中から現れたのは先ほどライアを殴り飛ばしたのと同じ兵士、それが続々と氷を破って現れるのだ。


「危ない!」

「間に合って!───シールド!」


 砕けた氷の破片が弾丸の如く勢いで無防備に集められた村人たちのもとへと降り注ぐ。その寸前にノクトとラピスが走り込み、ノクトのシールドが防ぎラピスの剣閃が氷の弾丸を切り裂いた。


「ノクト!ラピス!危ねぇッ!!」


 叫ばれるラーレの言葉にノクトとラピスが振り替えると、いつのまにか背後にまで接近していた兵士が、理性を失った状態でもなお手放そうとしていない剣や槍を二人に振るおうとしている。


「「──────────ッ!!」」


 二人が杖と短剣で防ごうとするが、どう考えても押し負ける。


「───アブソリュート・レイン!」


 ユフィの声が響くとノクトとラピスの目の前に展開された魔方陣から放たれた絶対零度の雨が降り注いだ。


「ユフィちゃん!ノクトちゃん!大丈夫!?」

「ありがとうございます!ユフィお姉さん!」

「助かりました!」


 ノクトとラピスがユフィにお礼を言っていると、遠くから皇帝ディグルスの叫ぶような声が鳴り響く。


「やれ貴様ら!この場にいるすべての愚民どもを皆殺しにしろ!!」


『『『『オォオオオオオオ――――――――――――――――ッ!!』』』』


 今倒し兵士たちははキメラではなくなにか別のもの、たぶん違法な魔法薬かなにかを事前に服用させていいたものか、あるいは身に付けている物の中に仕込まれていた魔道具によるものか、あるいはその両方かはわからないが、ひとつだけ言えることがあった。それは、あの兵士たちが理性を失ったのは完全に違法魔法薬の使用によるものであると、魔法薬に精通のあるユフィとノクトはすぐに察する。

 至るところから兵士たち閉じ込めていた氷が一斉に砕けるのと同時に、結界の構築を終えたユフィが叫んだ。


「避難所に結界を作ったからみんな入って!」

「みなさん!わたしたちが守ります!こちらへ急いで!」

「村の皆さまの避難はわたくしたちが行います!皆さまはこちらを頼みます!」


 ユフィ、ノクト、ラピスの三人が氷の中から出てきた怪物から村の人々を守り、避難所の中へと先導している。

 そして残されたリーフとライアは避難が完了するまでのキメラを相手取る。


「おい!オレも手を貸すぜ!」


 両手に曲刀を握ったラーレがリーフとライアのところにまでやってくると、ライアがラーレの顔を見ながらすぐに視線をキメラの方に移しながら攻撃をかわし殴りとす。


「……ラーレ。ん。でもユフィとノクトが来るまでで良い。その後はスレイのところに行って」

「そうですね。ラーレ殿も最後くらいはお父上の側に」

「お前らもそれかよ………わかった。そんときはあと頼むは」


 ラーレ小さく愚痴をこぼしながらそういうが、先ずは目の前のこの化け物をどうにかしなくては、そう考えながらキメラに向かって剣を振るうのであった。

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