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一人の人として

作品評価、誤字報告ありがとうございました!

 スレイとグレストリアムとの熾烈さを極め戦いは剣圧と爆風、刃が飛び交いそして血潮が吹き荒れていた。


 スレイは黒幻と白楼を交合に繰り出しながら息つく暇の無い連激を繰り出すが、グレストリアムはそれをスレイと同じ二振りの剣で、それもスレイと全くといって言いほど同じ動きで防いでいる。


「ハァアアアアッ!」

「シッ!!」


 だがこれにはなにもおかしなことはない。

 なぜならもともとスレイの剣技はルクレイツアから仕込まれた物で、今グレストリアムが使っている剣はスレイとの修行時代にルクレイツアが使っていた剣で、それに記憶されている剣技はスレイの使う物と全くおなじなのだ。

 一応スレイの剣はルクレイツアから教わった剣技を軸にし、そこから自分なりの動きを取り入れもはや我流となり果てているが、いくら元の剣技とは違う動きを取り入れたところでその剣技の根本はおなじなのだ。

 動きを先読みされ技を防がれることのも分かりきっていたこと、だがそんなスレイの心のなかでは全く違うことを思っていた。

 その動きひとつひとつがルクレイツアの動きを彷彿とさせてくる。


「クソッ!やりずらい!!」


 ギリッと奥歯を噛み締めたスレイは向かい合うグレストリアムに対して、自分の心の奥でフツフツと沸き上がる殺意を感じる。

 黒幻を右上から切り下ろすとグレストリアムが左の剣で受け止め押し返したところで、右の剣を斜め下から斜め上へと切り上げるがそれを白楼で受け止める。

 二対の剣がギリギリと押し返され膠着状態へとなってしまった。


「どうしたボウズ!剣から殺意が伝わってくるぜ?俺を斬り殺すってなぁ!」

「別に隠すつもりはないですからね。グレストリアム───テメェをぶっ殺すのは確定してるからなぁ!!」


 黒幻と白楼の刀身から漆黒の業火の炎が溢れ出すと、白楼と重なり合ったグレストリアムの剣が融解する。

 半ばから刀身が失った剣の代わりに残された剣で斬りかかると、スレイは黒幻で弾いた。

 重なり合ったグレストリアムの二振りの剣がスレイによって両断されると、グレストリアムは驚きの表情をしていた。


「ほぉ、俺の剣を斬るか」

「このままお前も切り裂く!」


 業火を纏った二振りの剣を握ったスレイが後ろに下がったグレストリアムを追って走る。


「待てよッ!」


 走りながら白楼の切っ先を持ち上げ、剣に籠められた業火の魔力を魔法に変換し背後から穿とうとしたとの時、逃げ去ったグレストリアムが身体をひねると折れた双剣を投擲する。


「シッ!」

「クッ!?」


 魔法を使うのをやめたスレイは投げられた剣を二振りの剣で斬り落としたそのとき、グレストリアムの手が地面に突き刺さる剣を手に取ろうと伸ばされている。


「させるかッ!」


 脚力を瞬間的に強化したスレイが一気に距離を詰めると、グレストリアムが一本の剣を地面から引き抜くと向かってくるスレイと対峙した。


「斬り裂かれろッ───双牙・業火の連撃ッ!」


 漆黒の業火を纏った黒幻と白楼の刀身が煌めき振り抜かれようとしたその時、グレストリアムが握りしめた剣を真っ直ぐ垂直に構えられた。

 その剣の刀身は普通の剣よりも細いのを見てあの剣がレイピアであることに気づいたスレイは、しまったっと思ったがすでにもう遅い。

 振るわれた剣を引き戻していたらこちらがやられる。ならばこのまま押し通すと、両手に力を込めて剣を振るうとそれを迎え撃つようにグレストリアムのレイピアがぶつかり合った。


「ゥオオオオオオオオ―――――――――――ッ!」


 左右の剣から放たれる業火の炎を纏った三十にも及ぶ連激と、並みの人の眼では全く捉えられず斬られたことにさえ気づかないであろう神速の突きがぶつかり合う。

 最後の一撃である黒幻の一撃とレイピアの一閃が重なり合った瞬間、スレイはこの剣が普通の剣ではないことに気がついた。


「くっ、アダマンタイトのレイピアかッ!?」

「ご明察」


 間合いを詰めると同時に放たれる神速の刺突が次々に繰り出されるなか、スレイは初撃を打ち合った時点にそのことに気付くべきだったと、自分の愚かさを悔やんだ。

 ルクレイツアが使う武器のほとんどはどこにでも有るような量産品だ。

 これは今のように周りに剣を投げて、一見すると武器を捨てるような戦いをするため、なくしても良いようにとどこでも手に入る武器を買い集めていると聞いた。

 だがそんな中にもあの赤い剣のような業物の武器が存在しており、その中でもアダマンタイト製の武器が多く所有しているそうだ。

 外見は普通の鉄剣等に似ているせいで自分でも分からないらしいが、ひとつひとつが存在を身体に覚えさせているので自分で分からなくても問題ないらしい。



 そんなことを思い返しながらレイピアの突きを技で弾き返すので精一杯のスレイ。


「やっぱり、硬いなッ!?」


 アダマンタイトはミスリルと同じく世界最高の硬度を持つ金属、闘気との相性の良い金属だ。

 そのため闘気の扱いに長けているルクレイツアが使うとなるとその硬度はまさに無敵に近く、いくら伝説の竜二匹の牙と爪を素材にし、ミスリルとアダマンタイトの複合合金で打たれた黒幻と白楼でも、あのレイピアは簡単には斬れそうにないと思ったスレイはどうにかしてこの剣を破壊するために策を弄する。

 二つの剣技がぶつかり合う中でグレストリアムの顔には、まるでスレイのことを見下しているかのような侮蔑の色がにじみ出ていた。


「残念だったなボウズ。俺が教えた技を自分の使いやすいように変えてるみたいだが、お前の技じゃ俺には勝てねぇよ。ここいらで諦めな」

「なん、だとっ!?」

「もう一度だけ言ってやる、この技では俺には勝てねぇ!」


 突きと見せかけてのハイキックを繰り出したグレストリアム。

 完全に虚をついたその攻撃に反応できなかったスレイは、顔面を蹴りぬかれ瞬間、蹴りが当たる場所に集中的にシールドを張ると同時に直撃を避けるためにあえて後ろに飛んで直撃の衝撃を逃した。

 だが、グレストリアムの蹴りを受けてただで済むはずもなく、後ろに蹴り飛ばされながらも距離を取って構えた。


「ボクが勝てない理由ってなんだよ?」

「お前は気づいていないみたいだが、お前は昔から連激で攻撃するときに僅かだが左の反応が遅れる」

「なんだと?」

「俺がお前に叩き込んだ二刀流は、長剣と短剣を使用したもの。いつからそれに持ち替えたかは知らねぇが、身体に染み込んだ短剣での防御の動きがわずかに出る」

「そうか、だったらやってみろッ!」


 挑発に乗るように駆け出したスレイが斬りかかる。

 黒幻で!お切り払いから白楼での切り下ろしの際に出来た僅かな一瞬の隙を突き白楼を弾き飛ばしたグレストリアム、その顔はしてやったりとしたり顔が浮かんでいた。


「終わりだボウズ!」


 左腕を大きくノックバックしバランスが崩れもはや立て直すのは不可能、そうグレストリアムは判断したがそこでやられるスレイではない。


「残念だよ、グレストリアム……やっぱり、お前は師匠じゃない」


 完全に終わりだと思ったスレイの口から聞こえてくる声にグレストリアムは眉をひそめたその瞬間、スレイが驚くべき行動に取った。


「なにィっ!?」


 吹き飛ばされた力をそのまま利用し大きく一回転したスレイは、グレストリアムの必殺の突きをかわしたのだ。


「喰らえ──氷刃ノ斬華ッ!」


 回転の力で回り込んだスレイは白楼に残されていた漆黒の業火の魔力を氷の魔力に変換すると、下からすくい上げるように突きつけられようとしているレイピアの刀身に振るった。

 真下からの切り上げを受けグレストリアムが身体を起こされると同時に、絶対零度の冷気がレイピアを凍てつかせるとビシッとレイピアの刀身に無数の亀裂が走っていった。


「どんなに硬い金属でも、業火の炎の熱を一身に受けた状態で急激に冷やされれば、脆くなるのは当たり前だ」

「こいつッ!?」


 更に回転し今度は業火を纏った黒幻を振り上げようとするスレイを前に、今追撃が来るのは不味いと感じたグレストリアムが蹴りでスレイを蹴り飛ばした。


「やるな、まさかあんな手で逃れるとは……しかし何だったんださっきの言葉は?」


 刀身が凍てついたレイピアの具合を確かめながら構えるグレストリアムに対して、スレイは再び業火の炎を二振りの剣に纏わせながら答える。


「だから、お前は師匠じゃない、偽物だって言ったんだ。グレストリアム」

「ふざけたことを抜かす。記憶も感情も全てルクレイツアのものを引き継いだ俺が偽物だと、どうして言い切れる!」

「それだよ。お前が偽物だっていうのは」

「なんだと!?」

「お前が師匠のすべてを引き継いでいるのなら、ボクのブラフに引っかかるわけがないんだよ」


 どういうことだとグレストリアムが眉をひそめたのを見て、スレイはその答えを口にした。


「ボクの左手の癖、アレはあえてお前に見せてたんだよ」

「どういうことだボウズ!」


 今までとスタイルを別の物に変えるのだ、すべてを一からを鍛え直す勢いで特訓し左右の腕で同じくらいの戦いができる粋にまで鍛えてある。

 仮にあれが本当の師匠なのならばあえてその癖を突き、次に来るであろう一撃にも備え叩き伏せる。


「ブラフ、ハッタリ、相手の人心掌握、全て師匠の教えだ。師匠の記憶があるお前ならボクの癖を見抜きそれを突く。だがお前は師匠じゃない。確実に殺れる瞬間に勝負を決めに来ると踏んでその隙をついた」

「クソ野郎がッ!」


 怒りに任せたグレストリアムの突きをスレイの黒幻が打ち砕く。

 砕け散ったレイピアを前にスレイは一歩踏み込み斬りかかると、それよりも先にグレストリアムが砕けたレイピアの切っ先と掴むと後ろに飛ぶ。


「こいつを喰らえッ!」


 投擲されるは砕いたレイピアの刀身の一部と残された柄をスレイに投擲する。

 投擲された二つを切り捨てたスレイだったが、スレイが剣を振り抜いたタイミングを見計らったかのように投擲された二本のナイフが、スレイの目を潰そうと迫る。


「─────ッ!?」


 今からでは回避どころかシールドを貼るのも間に合わない。

 竜の治癒能力でも眼をやられたらすぐには治癒できない。ならばと苦肉の策で、両目をつむり竜麟で眼を守るがその一瞬の隙が不味かった。


「かかったなボウズッ!」

「──ゥグッ!?」


 両の瞼にナイフがぶつかり弾かれたその時、横から伝わってくる強い衝撃で身体を起こされた。

 閉じていた目を開けたスレイが見たのは、ハンマーを握り振りかぶったグレストリアムの姿だった。


「なっ、にぃっ!?」

「戦いの途中で眼をつむっちまったらかわせるものもかわせねぇよな?」


 腰に力を入れてハンマーをフルスイングしたグレストリアム。


「グワッ!?───クソッ!?」


 振り抜かれたハンマーによって体を持ち上げられ、スイングによって空中に吹き飛ばされたスレイだったが、空中で体勢を立て直し着地と当時に斬りかかろうとしたが、それでは一歩遅かった。


「まだまだッ!」


 着地した瞬間、すでにハンマーを捨てて地面にささっていたハルバードと民家の壁に刺さっていたナイフを抜き取ったグレストリアムがこちらに攻撃を仕掛ける。

 真上に振りかぶったハルバードの刃をスレイに向けて振り下ろすと、スレイはそれを受け止めるのではなくバックステップで回避する。

 今の一撃で大きな隙が出来たグレストリアム、それを横から回り込み切りかかったスレイだったがそれはナイフでさばかれ、そして懐へと潜り込まれる。

 不味いと思ったスレイがガードに入ろうとしたが、グレストリアムのほうが早かった。


「遅せぇんだよ!」


 拳とナイフの猛烈なラッシュがスレイを襲う中、致命傷にならないよう竜燐を身にまとい防いでいると、正面から凄まじい衝撃がスレイを襲った。


「はっ。生意気な口を叩くくれぇならこれくらいは簡単に反応してみせろよ」

「かはっ────ぐッ!?」


 ラッシュからの前蹴りをまともに受け体を起こしたスレイを更に真横から蹴り飛ばした。

 どうにか蹴りが当たる瞬間に竜鱗を纏い強化を使うことでダメージ軽減できたが、グレストリアムの蹴りをまともに受けたスレイは蹴り飛ばされる。


「ウグッ……やってくれる」

「まだ、終わらねぇぞ!」

「なにッ!?」


 民家の壁に突きつけられたスレイは顔を上げてグレストリアムの方へと視線を向けると、一瞬で距離を積めてきたグレストリアムの膝がスレイの腹部に突き刺さった。

 蹴りが当たった瞬間、身体を突き抜けるような鋭い痛みが駆け抜けると胃の中から食道を通り何かが競り上がってくるのを感じ、たまらずそれを吐き出した。


「げほっ!?」


 ベチャッと吐き出されたのはどす黒い血の塊だった。

 先ほどの横蹴りに合わせて今の膝蹴りを受けた瞬間に内蔵が傷付いたのか、一瞬の思考と同時にスレイは竜の治癒能力で傷付いた内蔵を回復させていると、グレストリアムがスレイに言葉を投げ掛けてくる。


「こんなもんじゃないんだろボウズ。力の出し惜しみなんてしているとマジで死んじまうぜ?」


 蹴られた腹部を押さえながら顔を上げるスレイだったが、グレストリアムはさらに蹴りを加える。

 真横から蹴り払われ宙を舞ながら壁に激突しそして地面へと倒れた。

 地面に大の字で倒れたスレイはこんな痛みいつもの使徒との戦いに比べればどうと言うこともないのに、どうしてだろう、いつもよりも痛く感じてしまうのは………なんで、こんなにも剣で斬り結ぶ度に胸の奥で悲鳴にも似た激痛が走るのは………なぜなんだ?

 ギュッと強く握りしめられていた指をほどき、手の中に包まれていた剣の柄を放したスレイはもう十二の月だと言うのに、燦々と輝く太陽と清々しいまで青空を見上げながら昔の記憶を思い返した。


「そういやぁ、師匠との最後の修行の地もこの大陸で、最後の日もこんなに清々しいまでの晴天だったっけ」


 だからなのかもしれない、自分でも知らず知らずの内に頭の片隅でかつてのことを思い出し、ルクレイツアと同じ姿をしているグレストリアムに対しての怒りを感じながらも、心のどこかではきっと何かの冗談だ、まだ師匠は死んでいない、そんな甘い考えが残っていたのだ。


「どうした、死ぬにはまだ早いんじゃないかボウズ?」


 その声を聞いてスレイは頭だけを傾けると、重そうな戦鎚を引きずってきたグレストリアムがすぐ目の前にまで迫っていたが、これといって意に返さずにもう一度空へと視線を向ける。


「ボクは死ぬ気はないさ。だって、死ぬのはお前だからなグレストリアム」

「はっ、口先だけはいっぱしのことを言うようになってるみてぇだが、そんななりして言えることじゃねぇのはお前が一番分かってるんじゃねぇのか?」

「なにが言いたい?」

「だから使えって言ってるんだよ。お前の持ってる聖剣を。でなけりゃ死ぬのは俺じゃなくてお前だってことだよ。まぁ、聖剣を使われたところでお前が死ぬことに変わりはないがな」


 あぁ、そういうこと事か………。


 グレストリアムなにを言いたいのか察したスレイは小さく息を吐いてからもう一度空を見上げる。

 始めッから薄々ではあったがスレイ感ずいていたが、グレストリアムは本気でかかってこない理由は聖剣を使うのを待っているのではないか、そう思っていたがどうやら正解のようだ。


 だがスレイは今回のこの戦いでは、いいやグレストリアムとの戦いでは聖剣の力を借りることは考えていない。

 そもそも今回の戦いは完全にスレイの私事であり、普段の戦いのように人々を守るためでもなければグレストリアムに対して抱いているのは全て私怨の感情が色濃く出ているこの戦いで聖剣を………レイネシアを使うことだけはしたくない。

 なによりも、いくら聖剣とはいえ意思があり自分を父と慕っているあの娘にそんな感情を教えるのは、父として間違っている。だからスレイはどんなにレイネシアから頼まれたとしても今回だけは使わないのだ。

 空を見ていたせいか思考がかなりクリアになってきたスレイは、グレストリアムの問いかけに返す。


「悪いなグレストリアム。お前に聖剣を使う気はないよ」

「なに?」

「お前ごときに使うほど、ボクの娘は安かないって言ってるんだよ。察しろよグレストリアム」

「死ねっ!!スレイ・アルファスタッ!!」


 スレイを潰すために振り下ろされた戦鎚が轟音を鳴らしながら地面を割り、衝撃が地面を駆け抜け砂塵を巻き上げたがグレストリアムの顔は優れない。なぜなら戦鎚の握りごしに伝わってくる手応えは、人間の頭を潰した時のそれは感じないからだ。


「どこを狙ってるんだよ?」


 背後から聞こえた声にグレストリアムは振り替えると、そこには何食わぬ顔でたたずむスレイの姿があり驚いているグレストリアムだったが、もう一度スレイが目の前から消えたのとほぼ同時に、真後ろから地面を蹴る音が聞こる。バッとグレストリアムが後ろに振り替えると、そこで眼にしたのは空中に飛び上がったスレイの回し蹴りが振り抜かれる瞬間であった。


 蹴りが来るのは今ちょうど向いている正面、グレストリアムはとっさに戦鎚を手放し両の腕をクロスさせて受け止めるが、あり得ないほど重い蹴りにガードが崩すと地面に着地したスレイが身体を捻りながら横蹴りがグレストリアムを後ろに蹴り飛ばす。

 蹴りを受け止めたときに痺れたのか両手を振っている。


「はっ、良い蹴りだ。純粋な体術だけじゃないな。身体強化と重力魔法を使って瞬間的に蹴りに重さを与えたようだな」


 冷静にスレイの攻撃の分析をするグレストリアムに答えるつもりはなく、そのままもう一度同じ手を使いグレストリアムの元にまで接近し黒幻で斬りかかる。

 背後を取り完璧なタイミングで決まる。そう確信したスレイは迷わず剣を振り抜いたが、グルンッと高速で回転したグレストリアムが回転の力を利用してスレイに拳を放った。


「同じ手は何度も食わねぇっての!!」

「グッ!!」


 とっさに白楼をの鍔で拳を受け止めたが先ほどのスレイと同じように魔法を使っているのか、身体を捻ることで得られる回転の力だけでは決してない拳の威力が伝わり、スレイはその場から吹き飛ばされてしまった。


「空間転移か。たしか扱いが難しいとかルラが言ってたが、この七年サボってたって訳じゃないみたいだが俺にそう何度も同じ手は通用しないってことは理解できたか?」


 剣を突き立て膝を付いてしまったスレイはゆっくりと立ち上がると、黒幻の切っ先を真っ直ぐグレストリアムに向ける。


「なぁグレストリアム。殺しあいくらい黙って殺らないか?お互いにこの場にただのおしゃべりに来ている、なんて訳じゃないんだからさ」


 スレイが殺気の籠った視線でグレストリアムを睨むと、思わずグレストリアムは後ろへ後退してしまう。その表情や纏っている雰囲気は先ほどの物とはまるで違う。


「くっ、ハッハッハッハッハッ!良い殺気じゃねぇか!!心地良いぜボウズ!!」

「黙れって言ったばっかだよな?もういい」


 身体を前に傾けたスレイは一瞬でその場から消え去ると、たった一瞬でグレストリアムの目の前にまで移動すると、業火の炎を宿した黒幻がグレストリアムの首に吸い込まれるかのように振るわれる。

 だが黒幻の切っ先はグレストリアムの首には当たらず、性格には首のすぐ前で刃が停止しているのだ。動かないのは剣だけでなく、スレイの身体もどれだけの力を入れてもピクリとも動かない。


「焦らせるんじゃねぇよボウズ。思わず使っちまったじゃねぇか、俺の力をよぉ」


 使徒の能力を使い身体の動きを止められたのだと感じはスレイは、先ほどの戦鎚の一撃をかわしたときと同じように空間転移を使おうとしたが、


「やめておけ。空間転移じゃ動けないぞ、なにせ俺の力は人をその空間そのものに停止させることが出来る。いくら空間を飛べる魔法でも固定された空間は動かせねぇのさ。無理にでも動かそうとすると身体が弾け飛んじまうかもしれねぇからやめとけよ」


 なぜこんなにも敵である自分に情報をしゃべっているのか、それはグレストリアムの元となったルクレイツアそうさせているのか、なんてあの師匠がそんならしくないことをするものかと、自分で自分の考えを否定しながらどうにかこの状況を打開することを考える。


「ただなぁ。俺の力でお前の身体は動けねぇが、意識や痛みなんかはそのままお前の身体に伝わるんだぜ?」


 ザシュッとグレストリアムはスレイの肩にナイフを突き刺すと、刺された場所から焼けるような痛みが一瞬で頭のてっぺんにまで駆け抜けるが、身体を動かせないスレイは叫ぶのとが出来ない。

 このままでは確実になんも出来ずにただ殺られるだけだ。それだけはなんとしてでも避けなければならにスレイは、一か八かの賭けに出ることにした。


 動けない身体から意識を手放し右手の甲に刻まれている暗黒竜ウィルナーシュの刻印に意識を集中させ、自分の意識を刻印を通してウィルナーシュの元にまで送り届ける。



 前に聖剣ソル・スヴィエートを継承する際に意思だけを抜き取られたあの感覚、それを思い出してやってみたがうまく行ったみたいだ。

 そう思いながらスレイは意識だけで繋がったウィルナーシュを見上げながら語りかける。


『フッ、お主が自分の力でここに来るとはな。さすがの我にも思い付かなかったぞ』

『聖剣の儀でしたっけ、あれのときの感覚を覚えていましたからね………しかし、なにもないと思っていましたけど、色々といるもんなんだな次元の狭間ってところにも』


 意識だけではあるがスレイは今次元の狭間へと来ているのだが、どうやらスレイからもそちらの世界を見ることは可能らしく始めに思い描いていた世界とは全く違う世界にスレイは驚きを隠せないでいた。

 空には満天の星に巨大な大きな惑星が見とれ、大地には現実の世界や地球では見たことがない草花が一面に咲き誇っているのだ。


『ふっ、始めにここに落とされたとき我も今のお主と同じ顔をしたのを覚えておる。ここは幻獣が生まれいずる場であり、生命が終わる場所でもある。見てみよ』


 ウィルナーシュが頭を向けた方を見ると無数の光の玉が空へと上って行く。それを見ていると、スレイは自然と自分の魔眼が発動しているのを感じる。


『あれは魂なのか?』

『そうだ。地上でその生を終えた魂がこの狭間を通り神が住まう天界へと帰り、そしてまた再び地上へと舞い戻る。摩訶不思議な場所と言えよう』


 ウィルナーシュの話を聴きながらスレイは天へと上る魂を見つめている。

 あの先に天界、神のいる場所がある。


『して、なにようでこの場を訪れた?』

『ウィルナーシュ。今の状況を見て知っているはずだ。なんとかなりませんかね?このままじゃ割りとマジで危ないんですけど』

『ふん。なんとかなる方法に心当たりが無いわけではないが、お主の両の手にある刻印を使い竜人化をしろ。空間を操るこの使徒は、お主と言う人間のスレイ・アルファスタを固定している。ならば竜人のお主ならもしや解けるかもしれぬ』

『今はそれしか方法がないのならそれに賭けるしかないさ。ってか、そろそろ止めないとマジで死にそう』


 さすがは師匠を元にした使徒、地味に痛いところを正確には突いては死なない程度に傷付けてまた別のところに刃を突き立てる当たりまさしく師匠の手口だ。

 それを教わったスレイも盗賊相手によく使っている手であるためその嫌らしさを十二分に理解しているのだが、自分にやられるとすごい痛いしマジでムカつく。

 なのでここいらで一度手酷い仕返しと言うものをしてやりたい。


『おい小僧。お主が望むなら我があの使徒を殺してやろうか?』

『………ウィルナーシュ。あなた、人の気遣いなってことが出来たんですか?』

『噛み千切ってやろうか?』

『冗談、冗談ですって………大丈夫。ボクがちゃんとけじめを着けるからさ』

『ならよい。さてそろそろ戻れ』

『えぇ。次に会うときは生身の肉体でって言いたいですけど、まだ当分はこちらにいてもらいますからね』

『分かっておる。我が地上に戻るのは真なる戦いの場、あの神を引きずり下ろしたそのときだ。だから、このような場所でみすみす命を失うでないぞ』

『えぇ。それでは、ムカつく使徒をぶっ殺してくるよ』


 拳を突き上げたスレイを見てウィルナーシュは大きな咆哮を上げる。

 まるでそれはスレイの勝利を願うかのように………



 次はどこにナイフを刺そうか、グレストリアムはスレイの二の腕に突き刺していたナイフを抜いて反対側の腕にも刺そう、そう思い真上から逆手に握られたナイフを振り下ろすと、ガキィーンっと人の肉体を刺したときになるはずの無いあり得ない音とともにナイフの刃先が弾かれた。


「───────ッ!!」


 あまりにも未知の現象に思わずグレストリアムは後ろに下がる。使徒の力はまだ発動しているのに、なぜいきなりあんなことが起きた。

 焦るグレストリアムは見た。

 空間に固定されているはずのスレイの身体に無数の模様が広がり、真っ白な髪が登頂からの一部が漆黒に染まっていくのを、そして見開かれていた両の目の瞳孔が縦に延び瞳の色が緋と蒼に変わっていた。


「ボウズ、貴様まさか!!」


 グレストリアムの言葉を発したそのとき、自身の使った力が消え弾かれたようにスレイの剣が振り抜かれる。


「ははっ、本当に動けた」

「おっ、お前どうやって………なぜ動ける!」

「ちょっと反則な技を使わせてもらってさ。さて反撃といかせてもらいますか!」

「させるとおもうかッ!」


 再び力をしようとしたグレストリアムだったが、スレイは先程よりも速く動きグレストリアムの目の前から消える。


「お前の力はその眼にボクを捉える必要がある。だったら、捉えられない速度で動けば良いってだけだろ?」


 正確にはある一定の時間を視覚にいれておかなければならない、それがグレストリアムの力ではあるがそれをスレイが知っているはずもなく、たった一瞬の交錯によるヒットアンドウェイの戦法へと切り替える。

 それがスレイが今の自分の戦い方であるとグレストリアムに教える。


「速ぇえなぁ!今までのボウズの動きとは違う………いや、そうかこれが竜の力ってやつか?」

「それもあるけど、正確にはボクの修行の結果であり運命に抗い戦い続ける一人の人としての力だ───さぁ、覚悟しろグレストリアム」


 これがスレイの戦い、ルクレイツア・ステロンの弟子としてではなく、使徒に立ち向かうただの人であるスレイ・アルファスタとして目の前の使徒を叩き潰す。

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