忘れていたことと、その代償 ③
本日最後の更新です。
朝、いつもの時間に目が覚めた私はカーテンをあけて、部屋の中に朝の日の光………はさすがに冬だから、まだ入らないから、魔石灯の灯りをつけて部屋を明るくします。そして私は、部屋の隅に置いてある机、その上にリボンと一緒に置いてある腕輪を手に取ると、自然と笑みがあふれでてきた。
その腕輪を両手で持ちながら、私はもう一度ベッドの上に飛び乗る。
「ふふふっ、うふふふふっ、うれしいなぁ~、スレイくんとお揃いの腕輪、ふふふっ、まるでカップルみたいだもんねぇ~」
昨日の夜も寝る前に同じことをやったけど、やっぱり好きな人からのプレゼントはうれしいよねぇ~
あ、そろそろ着替えないと約束の時間に間に合わないかも……うん、早く着替えなきゃね。
昨日もらったキャミソールのパジャマを脱いで、下着姿のまま今日着るお洋服を探していると、下から誰かがかけ上がって来る。
こんな朝早くに何かあったのかな?
そう思いながらお洋服を探していると、後ろから扉が開く音が聞こえた。
お母さんでも来たのかな?
そうおもって後ろを振り向くと、扉の前にいたのはお母さんじゃなくと、何とスレイくんだった。
「え?スレイくん大丈夫?」
突然の来訪に驚いた私は、自分が下着姿のことを忘れて、肩で息をしているスレイくんのことを心配していると、ゆっくりとスレイくんがこっちに近づいてきて、私の肩に手を置いた。
「ひゃん、な、なんなの?」
「………ユフィ」
荒い息づかいが私の耳元に聞こえてく。
も、もしかしいて………スレイくん……わ、私のことを、襲おうとしてるの!?
ま、待って!?まだ、こ、心の準備が……
私は顔を真っ赤にしながら目を積むって、スレイくんが来るのを待っているけど、いつまで経ってもスレイくんが来ない代わりに、私の耳元にスレイくんの声が聞こえてきた。
「…………と、取り替えて」
「────えっ?」
「う、腕輪、別のと取り替えてください!!」
「え、えぇ?」
私はスレイくんがいっている意味を理解できずに、混乱を通り越して落ち着いてなんだか落ち着いた私は、下着姿のままは不味いと思った。
「ね、ねぇスレイくん、私、まだお洋服着てないの、だからちょっと待ってね」
「いや、待てない!今すぐに」
「スレイくん!?その言い方だと別のことに聞こえるかね!?」
「そんなのいいから頼むよ!?」
「お、お願い!ちょっと待ってお願いだから!」
「だから待てないって──ウグッ」
突然の力なくぐったりと倒れたスレイくんは、私の胸の中に顔を埋めて倒れこむ。
「えっ、スレイくん!?」
私はスレイくん抱きか抱えて顔をあげると、手刀を構えたお母さんが立っていた。
「ごめんなさい、ユフィちゃん。これどういうこと?」
「さ、さぁ?」
私とお母さんは、倒れたスレイくんのことを見ながら揃って首をかしげているのだった。
⚔⚔⚔
「本当にごめんなさい」
意識を取り戻したスレイはユフィとマリーに頭を下げていた。
「それで、なんでこんなことしたのかしら?」
「そうだよ。それになんで腕輪を変えてほしいなんて……?」
「えっ、ホントなのそれ!?スレイくんそれホントなの!?」
いつもはおっとりとした口調のマリーが、珍しく狼狽えていることに驚くユフィ、そしてその指摘に複雑そうな顔をしているスレイ。
「ねぇ、お母さん、この腕輪になにか意味でもあるの?」
昨夜、スレイからこの腕輪を渡されたときにも、驚いたような、歓喜に似た叫び声をあげられた──ゴードンだけは憤怒の叫びだが、ことを思い出したユフィは、どうしてあんなことを言われたのかを今さらになって疑問を覚え、腕につけた腕輪を見ながらマリーに訪ねる。
「あら?ユフィちゃん、もしかして知らなかったの?」
真顔になって驚いているマリー。
「う、うん」
「仕方ないわねぇ~、教えてあげるわ」
マリーが嬉々として話そうとするが、スレイは焦った。
──ま、不味い!?
「待っておばさん!!」
「シールド!」
スレイがマリーを止めようとしたが、その動きを阻止したのはマリーではなくユフィだった。魔力の盾が張られたせいで、顔面を強打したスレイは鼻を押さえてうずくまる。
「は、鼻が」
血は出てなかったが、痛いものは痛い。
そのせいで少し出遅れてしまったスレイは、マリーのことを止めることができなかった。
「あのねユフィちゃん、この国にはね婚約者同士が同じ腕輪をするって習わしがあるの」
「え、えぇ!?」
「だからお母さん、てっきりスレイくんがユフィちゃんに告白、と言うよりも婚約を申し込んだんだとばかりおもって喜んじゃったのよぉ~」
数秒間ユフィは固まった。
「え、え、えぇぇぇぇぇえええっぇえぇっ!?」
ユフィは、その事を聞いて大きな声をあげた。
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「さぁ、スレイくん何をしたかったのか教えてもらうわぁ~」
ユフィが落ち着くのを待ってから、スレイから朝早くにユフィの部屋に直撃した理由を聞くことにした。ついでに言うとことの次第を聞いてジュリアもやって来ていた。
「さぁスレイちゃん、早く言いなさい」
「……………はい」
下を見ながらスレイは話し始める。
「……えっとですね、さっき先生からボクがしたことについて聞きまして」
「それで、なんで腕輪を変えてもらおうとしたの?」
「…………だって、婚約の証って言われて焦って」
母親たちは呆れたように大きなため息をつくと、ガタンッと大きな音が聞こえみんなが揃ってそちらを見ると、今まで黙っていたユフィが立ち上がっていた。
「……………スレイくんは……私のこと、嫌いなんだ」
「ま、待ってユフィ、それは──」
弁解を謀ろうとするスレイだが、ユフィはそんなこと聞こうともしない。
踵を返して背を向けたユフィ、その目の中に光るものを見たスレイは呼び止めようとしたのを止めてしまう。そしてユフィは家を飛び出した。
取り残されたスレイたちの間には、なんとも言えない空気が流れた。
⚔⚔⚔
…………ユフィ……泣いてた……ボクが泣かしたのか……
その場にたたずむことしか出来ないボクは、さっき一瞬だけ見たユフィの涙に言葉を失っていた。
「ねぇスレイ、あなたホントにユフィちゃんのこと嫌いなの?」
「じゅ、ジュリア?」
母さんの声が聞こえた。
「そんな訳ないよ」
「なら、なんで腕輪を返してもらいに行ったの?」
「─────っ」
ボクは言葉に詰まる。
どうしてって、なぜか身体が勝手に動いたから……いや、違う。
「だって、婚約の証なんて……ユフィが迷惑だと思って」
もし渡すとしても、ちゃんとした雰囲気の元、ちゃんと段階を踏んでから渡したかった。
そうおもっていると、前からあきれる声が聞こえる。
「「はぁ~」」
声を揃えてつかれたため息に、ボクは驚いた。
「な、なんでため息を?」
ボクが驚いていると母さんがこめかみを押さえながら話し始める。
「いい?なんでユフィちゃんが泣いてたか、わかる?」
母さんの言葉にボクは首を横に降ると、再び母さんからため息を疲れて呆れられた。だからなんであきれられるのさ!?
「いいスレイ。好きな子からこんなことをされたら、誰だって悲しくなるものよ?」
「そうよぉ~、全くスレイくんは鈍感なんだからぁ~」
母さんとおばさんから、衝撃的な言葉を口にされボクは固まる。
「ちょ、ちょっと、母さん、今なんて?」
ユフィがボクのことを好き?んなバカな?
「好きな子からことをされたら、誰だって悲しくなるものよ?」
「……………それ、マジ?」
「マジもマジ、おおマジよ」
ははっ、嘘だろ?
「それで、スレイくんはどうなの?」
おばさんが、ボクのことを見ながら訪ねる。
ボクは……うん、始めっから決まってるよ。
「ボクも……ユフィが好きだよ」
ずっと前から、それこそ地球にいたときからずっと好きだった。
ポンっと母さんに背中を叩かれたボクは、母さんたちの方をみる。
「それは、私たちじゃなくてユフィちゃんに言ってあげなさい」
「だけどねぇ~、ユフィを泣かしたら許さないわよぉ~」
「はい!」
ボクは駆け出した。
ユフィにこの思いを伝えるために。
⚔⚔⚔
スレイが出ていったのを見てジュリアとマリーはお茶を飲み交わしていた。
「全くあの子は誰に似たのかしらね?」
「ジュリーじゃないかしらぁ~、フリードとくっつくのも遅かったしぃ~」
「ほっときなさい、それより、今夜はまたパーティーでもする?」
「いいわよぉ~」
二人が笑っていると、後ろから誰かが降りてきた。
「あらあなた?どうしたんですか?」
そこにいたのはゴードンだったが、どうも様子がおかしい。
「ちょっと祭りに行ってくる」
祭りという言葉に二人は首をかしげる。この村で祭りなどやっていないし、近くに町に行ったところで、この時期に祭りなどはやっていな。
「小僧の血祭りだ」
そう言うと背中から取り外した重戦士用のバトルアレックスをもって家を飛び出しかけたが。
「行かせないわよぉ~」
闘気を纏った手刀でゴードンを沈めるマリーだった。
⚔⚔⚔
丘の上の大きな木を背に、私は涙をぬぐっていた。
「スレイくんの………バカ」
あの時、お母さんから腕輪のことを聞いてはじめはビックリしたけど、ほんとは嬉しかったんだよ?でも、渡してくれたスレイくんも知らなくて、それで、勘違いだったんだって知って、悲しくなって、飛び出してきちゃったけど……ちゃんと話せば良かったかな?
「なんで、スレイくん……何て言おうとしたのかな?」
私が出ていく前にスレイくんが言おうとした言葉が、今更ながら気になってしまった。
戻ったら、聞かせてくれるかな?………ムリ、だよね?
下を向いてうつむいていると
「それは違うよ、って言おうとしたんだよ」
私が顔をあげて振り向くと、朝と同じように肩で息をしているスレイくんが立っていた。
⚔⚔⚔
村の中を駆けずり回り、ようやく見つかったユフィは丘の木を背にして泣いていた。スレイはそんなユフィの横に腰を下ろす。
「「……………………………………………」」
二人は気まずい沈黙の中、ユフィが話し出した。
「ね、ねぇ、さっきのホント?」
「さっきのって?」
「だから、違うって」
「あぁ、ホントだよ」
スレイは頬をかきながらそっぽを向いた。
「なら、スレイくんは……私のこと、どう思ってるの?」
「……………い、今っすか?」
ユフィがスレイの顔を覗きこむ。本当にここで言わなければならないのかと思ているスレイだが、ここで言わなければ送り出してくれたジュリアとマリーの思いに報いるためにも、ここで言わなければならないと思っている。大きく息を吸ったスレイは、じっとこっちを見ているユフィの顔を見て、両肩に手を置いた。
「ユフィ……ボクは君のことがずっと、いや、地球にいたときから君のことが」
「す、スレイくん?」
「ボクは、君のことが好きだ」
今まで言えなかったことを言ったスレイ。
──これで拒否られたら、うん。死のう。
母親二人のお墨付きがあると言っても、さすがに拒否されたら立ち直れる自信がなかったスレイは、そんな物騒なことを考えていると、隣からポタポタっとなにかが落ちる音が聞こえた。
横をみると、ポタポタッと涙を流しているユフィがいた。
「ゆ、ユフィ!?ど、どうしたの!?」
突然の涙に困惑するスレイにユフィは嗚咽を漏らしながら答える。
「ちがうの……やっと……スレイくんの……ヒロくんの、言葉が、思いが聞けて、うれしいの」
泣き出してしまったユフィのことを抱き締め、優しく背中をさするスレイ。
「ごめん。今までちゃんと言ったことなかったもんな」
朝日が昇る中、抱き締め会う二人の影が優しく延びていった。
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ユフィが泣き止むのを待ってスレイはユフィに訪ねる。
「なぁ、ユフィは結局ボクのことどう思ってるの?」
木にもたれ掛かり、身を寄せあっていた二人だったが、スレイの問いかけにユフィはスレイから離れた。
「え、言わなくちゃ……ダメ?」
「ボクだって言ったんだぞ?ユフィは、いやミユからの言葉で聞かせてほしいな」
「むぅ~~っ、ヒロくんの意地悪」
「ほらほら、早く言わないと、その腕輪返してもらおうかな?」
「えぇ!?」
驚きのあまり目を見開くユフィに、スレイはイタズラっ子のような笑みを浮かべて話を続ける。
「だって、ボクのことが嫌いならそれをしてたらおかしいでしょ?」
イタズラっぽい笑みを浮かべたスレイを見て、ユフィが観念したように声を大にして答えた。
「むぅぅぅ~、私だって大好きだよ!ミユだった頃からズゥ~ッと大好きだったよ!」
恥ずかしそうに顔を真っ赤にして答えるユフィ。
「言質しっかりとったから」
「……なら、ちゃんと責任とてよね?」
「はいはい、ちゃんととりますよ」
「お嫁さんにしてくれなきゃ、許さないんだからね?」
「お嫁さんにでもなんでもしてあげるよ?」
スレイがそう言うと、ユフィが何かを怪しむそぶりを見せた。
「な、なに?」
「いや、今度はちゃんと聞いてるかなって?」
「今度って……あ、まさか昨日言ったのってこれ?」
「うん」
大きく首を縦に降ったユフィ。
「あのさぁ、腕輪渡したのに信じられない?」
「一回返してもらおうとしてたの誰だっけ?」
「ウグッ」
これは身から出た錆なので、反論が出来ないスレイ。
「あ、あれは、その……告白もまだなのに、婚約とかいろいろすっ飛びすぎたからで」
「あぁ~あぁ~、傷ついちゃったなぁ~、あんなことされてぇ~」
「…………わ、わかったよ、なにすれば信じてくれるんだい?」
その言葉にユフィは待ってましたという笑みを浮かべた。
「ならね、私にキスして!」
「そ、それくらいなら」
「頬っぺたじゃなくて唇にだからね!」
ピシャリとスレイが固まったが、すぐに戻ったスレイは自分の頬をパンパンッと叩いた。
「……わかった」
スレイがユフィの頬に手を当てると、ユフィは目をつむって受け入れる体制をとった。
そっとユフィの元に近づくスレイ、だったがいつまで経っても二人の距離は縮まらない。
その事を不信に思ったユフィが目を開けると、自分よりも少し上の方にあるスレイの顔が、ひきつったまま固まっているのを見て、ユフィはスレイの視線のある方を見てユフィも固まる。
「おい、小僧……死ぬ準備は出来てるか?」
そこには憤怒の化身になったゴードンと、それを魔法によって拘束しようとしているジュリアとクレイアルラ、その後ろには鎧を纏ったフリードとガントレットをつけたジュリアがそろって申し訳なさそうな視線を二人に向けていた。
「いつから見てたんだ!?」
「いつから見てたの!?」
丘の上に二人の声が響いたのだった。
⚔⚔⚔
それから憤怒の化身となったゴードンを打ち倒し、晴れて恋人どうしになったスレイとユフィだが、これから受難──主にゴードンのせいで、が続きそうだと思ったのだった。