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悲痛なる叫び

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 突然の攻撃を技を放つことで受け止めたスレイたちは、新たな襲撃者を迎え撃つべく空間収納やいつも身に付けているポーチから武具を取り出し、それらを身に付けると明いている穴を広げて──もちろんこの穴自体自分たちの攻撃で空けたものだが──今だ砂塵が吹き荒れる地へと飛び降りると、自分たちの正面に先ほどの攻撃を放った人物が立っていた。


 土煙のせいでよく分からないがどうやら村人は逃げ惑っているようで声が、遠くからエンネアやラーレの声が聞こえてくる。

 ここは人がいる場所から少しは離れたところなので戦うことになっても被害は少ないとは思うが、周りに人さえいなければ思う存分、被害を気にせずに戦えると言うものだ。


 土煙が上がるなかで自分たちを襲撃した人物の姿が視認できる位置までやってきたスレイは、リーフから返された紅い剣を逆手に持ちかえると目の前にいる影に向かって渾身の力を込めて投擲した。

 投げられた剣は真っ直ぐ目の前の人物にまで飛んでいく。その際に投擲に使われた力の余波なのか、剣が通過した場所の地面が捲くれ上がり舞い上がっていた砂塵をも吹き飛ばした。

 なんとも清々しいまでの不意打ちによる全力のファーストアタックに、一瞬だけ敵であるのにかわいそうと思ったがすぐにノクトとリーフがハッとし、次の瞬間にはまるで叫び声をあげるかのようにスレイに向かってツッコミをいれ始める。


「ちょっ、ちょっとスレイ殿!いくらなんでもいなり問答無用の攻撃はないんじゃありませんか!?」

「そっ、そうですよ!もしかしたら人違いだったって可能性もあるんですから!それにユフィお姉さんも黙ってないでなにか言ってください!!」


 リーフとノクトのツッコミを無視してスレイは淡々と二人に向かって言葉を告げた。


「大丈夫だよ二人とも、ボクがあの人の気配を間違えるはずなんて無いし、例えあそこにいる人が違ったとしても殺気を込めた攻撃を放ったんだ。それで死でも文句は言えないさ」


 スレイの視線の先では、舞い上がっていた砂塵が吹き飛びスレイが投擲した剣を持ちながら、ニッと口元歪めた男が立っていた。

 その男の姿を見たスレイとユフィは一瞬だけ息を呑み口を開こうとしたその時、自分たちの立っている場所を正面として、二つの方向から足音が聞こえて来るのを聞き取った。スレイたちがその方向に視線を向けると、ちょうど右側からはレイネシアを連れたライアとラピスがこちらの騒動を聞きつけ戻ってきた。

 次に左側だがそこにはこの場で一番来てほしくない少女の姿を見つけ、スレイとユフィは思わず顔を歪めてしまった。


「てめぇら今度はいったい何をやらかしやがったんだ!それに貸してる家が更にひどいことになってるじゃねぇかって………なんでいるんだよ?」


 目の前にいる紅い剣を握った男の姿をみてだんだんと弱々しく、そして驚きに彩られていったラーレの言葉を聴きながらスレイとユフィは顔を更に歪めてしまった。


「久しぶりだなラーレ。それに七年ぶりだったか?でかくなってて見違えちまったぜボウズ、それに嬢ちゃんもな」


 そう、今回の襲撃の犯人はスレイとユフィ、そしてラーレが一番よく知る人物であり既にこの世にいないものとばかり思っていた人物、ルクレイツア・ステロンその人であった。


「親父てめぇ!生きてるんだったら生きてるってなんで連絡を寄越さねぇんだよ!!死んじまったとばかり思ってオレ………オレ!」


 父親が生きていたことへの喜びからラーレは一目散にルクレイツアの元へと走って行こうとしたが、それを阻止するように一瞬でラーレの真横に現れたスレイがサッと腕でそれを止めた。するとどうやってたった一瞬でこの場所にまで来たのかは分かっていないようだが、自分の行く道を遮っているスレイに向かってラーレの鋭い双眸が睨み付ける。


「おい、なんで邪魔をするんだよスレイ!そこをどけよ!」

「父娘の感動の再会を邪魔したのはとっても忍びないとは思っているけどさ、死にたくなかったらそれ以上前に出るなよラーレ。それにみんなも今いる場所より前へ出ずにその場でジッとしててくれ、出ないと死ぬかも知れないから」


 スレイがルクレイツアの方から視線を外さずにみんなそう伝えると、いつでも前に出れるようにと準備をしていたリーフ、ライア、ラピスの三人がその指示に従うためにその場に留まり、ユフィとノクトもいつでも援護できるようにしてその場で制止する。

 だが、この場にいる全員はすれいの言葉の意味がわからなかった。

なぜ前に出ると死ぬのか。


「おいスレイ、なにもねぇだろ!そこどけよ!」

「ダメだ………っと言っても、見えてないからしかたないか」


どうあっても前に出ようとするラーレを引き留めたスレイは、白楼を抜きながら闘気でその刀身を強化し真上へと振り上げる。

すると、ピンッと張り積めていた透明な糸が切り裂かれた瞬間、スレイが業火の炎を切れた糸に放った。

切れた糸を伝って業火の炎が駆け抜ける。まるで獲物を絡めとるために張り巡らされた蜘蛛の糸のようだ。


「これは、いったいいつにまに………」

「本当に危なかったですね」


後一歩でも前へと進んでいたらあの糸に身体を引き裂かれていたかもしれない。そう思うと同時になぜという疑問が頭の中によぎっていた。


「なっ、なんで………今のは親父が、やったのか?」


震える声で義父ルクレイツアに問いかけるラーレだったが、ルクレイツアはラーレを見ずにその隣のスレイのことを笑ったような顔で睨み付ける。


「たっくボウズお前なんでバラすんだよ?つまらねぇじゃねぇか」

「どっ、どうして!?どうしてオレを殺そうとするんだよ!何でだよ親父!!」


 叫び声とともに投げ掛けられたラーレの問いにルクレイツアは答えない。その代わりにラーレのその問いかけに答えたのはスレイだった。


「ラーレ。あの人は君ボクたちの知っているルクレイツア・ステロンなんかじゃ決してない」

「じゃあなんだって言うんだよ!あそこにいるのが親父じゃなかったら誰だって言うんだよ!!」

「神の使徒。この世界を作り出しボクたち人を産み出し、理不尽にも世界を破壊しようとしている神の傀儡それな今のあの人の正体だ。違いますか師匠?」


 世界の真実を知らないラーレからすれば何をバカなと言いたくなることだろう、だがそんな言葉を言う前に真実は自分から目の前へと現れた。


「ボウズの言う通りだ。今の俺は人じゃねぇ。人を超越した存在、全てを創造した神の使徒だ」


 現れたのはまさに悪魔だった。

 今までの使徒とは違い、ルクレイツアは物語に出てくるような悪魔の姿と黒い翼を背にしてそこに確かに存在していた。普段から悪魔だ鬼だと揶揄を飛ばしていた相手が実際に悪魔担ってしまったと知ったスレイは、これは本当に笑えないそう思いながら隣にいるラーレをみると、信じられないと言わんばかりにうろたえ動揺を隠せないでいた。

 正面に立つルクレイツアが人の姿に戻るのをみながら、スレイはルクレイツアに向かってゆっくりと口を開く。


「師匠の死因を聞いたときはもしかしたらとは思ってはいましたけど、まさか使徒になってまで生きていたなんて思ってもみませんでしたよ。あ~ぁ、昨日悲しんで損しちゃったなぁ~」

「なんだ、お前は疑ってたのか?俺が死んだって話しに」

「当たり前ですよ。エンネアさんから聞かされた師匠の死因は魔物との戦闘によっての落命。その死体は見つかっておらず戦闘を行った場所にはおびただしい量の血痕と、無数の武器の破片が散乱していたって聞きましたけど、師匠を殺すことが出きる魔物がいるならもうこの村は地図の上から消えていてもおかしくないですからね」

「それは確かにそうだな。俺を殺せる魔物なんてエルダークラスの魔物だけだ。そんなものが出てきたら世界でも大騒ぎになる」


 エルダークラスとは遥か太古の昔から生き続ける魔物の総称であり、その多くは外界から隔絶された場所や世界の裏側と呼ばれる異空間に身を潜めていると聞いた。百年ほど前に一匹のエルダークラスのドラゴンが現れた際には、立った一匹で世界を火の海にしたという記録が残っているほどだ。


「それじゃあ、どうして死んだなんてウソを?それにいつ、どのタイミング使徒になったんですか?」

「質問だらけだな。まぁいいぜ答えてやるよ。ボウズ、グリムセリアって使徒の名に聞き覚えはあるだろ?」

「始まりの使徒」

「そう。そいつに俺は一度殺されかけた。あの日、いつものように魔物を退治した帰りにグリムセリアと出会い戦いそして負けた。死にかけた俺はあいつに使徒にされたことで生きこ残り、そして忠義を誓ったのさ、この素晴らしい力を与えてくださったあのお方にな」

「それじゃあ師匠、あんたは生きるために魂を人の尊厳を捨てたってか?………ふふふっ、くっあはははっ」


 突然笑いだしたスレイに全員の視線が集まっているがそんなことお構いなしにスレイは笑い続けると、一頻り笑ってスッキリしたらしく目尻に貯まった涙をぬぐったスレイは、小さく息を吐いてルクレイツアの方へと視線を戻した。


「わかったよ。あんたは師匠なんかじゃ決してない。だって師匠は絶対にそんなことを言うはずがない。だけどさぁ一応聞いてやるよ。今のあんたはいったいどっちなんだ?」

「どっち?決まってる俺は俺だ。それ以下でもそれ以上でもない。ルクレイツアと言う使徒さ」

「ちげぇよ。お前は師匠じゃない。師匠が自分を生かしてくれたから誰かに忠義を誓う?はっ、冗談じゃない。ボクの師匠はなぁ、そんなことで人の下につくくらいならそいつをぶっ殺してでもそんなことはしない」

「だったら俺はいったいなんだって言うんだよボウズ?」

「お前は師匠を生かすために憑依した使徒だ。そして師匠の肉体を奪いその記憶を人格を奪ったみたいだけど、弟子が自分の師匠をわからないとでも思ったか?」


 スレイがそう言いきると今度は反対にルクレイツアが笑い声をあげ始める。


「なるほど、そうかそうか。いやぁ~、それは確かに誤算だったな。師弟の絆、それは確かにこいつの記憶を持っている俺でもわかるわけがねぇな」

「なんだ。簡単に認めたな。もっと粘るかと思ったんだが」

「それで俺になんの特がある?それがねぇんだったらさっさと正体を明かすに限るってもんよ。───では改めて名乗るとしようか、俺は破壊の使徒グレストリアム、ルクレイツアの肉体と人格を得て生まれた新たな使徒の一柱で、そこにいるラーレの姉弟ってもんになるのかねぇ」


 どの口がそれを言う?そう思ったスレイはルクレイツア改めグレストリアムに言い返そうとしたそのとき、ザンッとスレイのすぐ横から風を切る音と共に闘気の斬激が放たれると、真っ直ぐグレストリアムに向かって放たれた斬激を払いのけ地面にぶつけると土煙が上がった。


「ラーレ、何してるんだ?」

「悪いけどよぉスレイ。ちょっとだまっててくれねぇか?」


 ラーレの声に微かな怒りが含まれているのを感じ取ったスレイは、敢えてラーレの言う通りに黙って話しに邪魔にならないようにと一歩後ろに下がると、ラーレはスレイに一言だけ礼の言葉を伝えた。

 周りに先ほどのトラップが無いことを確認したラーレは、服についた土埃を払っているグレストリアムに向けていた曲刀の切っ先を真下へと下ろした。


「なんだラーレ。お前もボウズと同じでオレのことが許せないのか?」

「黙れよ。親父でもねぇてめぇにオレの名前を呼ばれる筋合いはねぇんだよ」

「それもそうだな。でっお前はなにか言いたいのか?」

「あぁ。言いたいことは色々あったさ。でもよぉ、それは全部てめぇじゃなくて親父に言いてぇ言葉なんだよ」


 ポロポロと両の瞳からこぼれ落ちる涙を見てスレイたちはラーレが、本当にルクレイツアを父として慕っていたのだと言うことを改めて思い知らされた。

 ラーレは流れ出た涙を乱暴に拭い鼻をすすりながら話を続けた。


「なら言えばいいじゃねぇか。確かに俺はお前の親父じゃねぇが似たようなもんだしなぁ」

「黙れよ」


 ラーレの周りから殺気が嵐のように吹き荒れグレストリアムのもとにまで吹き抜けると、ラーレの殺気を一身に受け止めたグレストリアムは口元を小さく歪めて笑っていた。


「心地いい殺気を放てるじゃないかラーレ。親父として鼻が高いぜ?」

「黙れって言ってるだろ?」

「なんだよ。そいつの言葉を信じてるのか?」

「わかんだよ、オレはルクレイツア娘だ。だから親父とてめぇは全然違うってなぁ。だからてめぇが親父の姿で、声でこれ以上オレになにかを語りかけるのは虫酸走るくらい許せねぇ!!」

「ほぉ~。だったらどうするつもりだ?」

「そんなこと決まってるじゃねぇか………オレがてめぇをぶっ殺す!!」


 そういい放つと地面を蹴ったラーレが鞘に収まっていたもう一本の曲刀を抜きながら、グレストリアムに向かって走り出すとユフィたちが少し遅れて慌てながらラーレのことを止めようとした。


「ダメですラーレ殿!一人では!!」

「待ってくださいラーレさん!!」

「リーフさん!ノクトちゃん!私たちもいくよ!!」


 ユフィ、リーフ、ノクトの三人がラーレの加勢にはいろうとしたが、それを止めるようにスレイがみんなに向かって叫ぶ。


「みんな師匠は………いいや、グレストリアムはラーレに任せる。ボクたちは別の使徒を相手にするんだ」


 別の使徒の存在を告げたスレイの言葉にユフィたちは一斉に身構える。

 使徒は探査魔法で見つけることが出来ない、それに今この場には気配もなにも感じない。なのにいったいスレイはどうしてこの場に別の使徒がいると思ったのか、そう考えたライアはレイネシアを庇うよう背中合わせで立っているラピスに向かって訊ねる。


「……別の使徒って、ラピスは気付いてるの?」

「えぇ。スレイさまがお気づきになっているとは思いませんでしたが、昨夜微かでしたが複数の使徒の気配を感じました………そしてグレストリアム以外にも複数の気配がこの場に───そこです!」


 そういいながらラピスは自分の左側に向かってチャクラムを投擲すると、なにもないはずの場所で火花が散らせながらチャクラムがラピスのもとにまで戻る。


「おやおや、私の気配に気付くとはやりますねぇフリューレア」

「フッ、我らに攻撃を加えるとはいい度胸だな」

「あらあら、良いじゃないですか。これでこそいたぶりがいがあると言うものですこと」


 そこにいたのは殺意の使徒イブライムと今まで見にたことのない獅子の頭を持った大男の使徒、そして二人の使徒とは正反対に小柄な身体に純白の翼を背に携えた天人族のような女性の使徒だった。

 あの二人の使徒の顔を見たラピスは顔をしかめながら強く奥歯を噛み締めた。


「金剛の使徒ウルクソリヴェ、それに流麗の使徒キーアベルです」


 この場に四体の使徒が同時に現れた。

 ここ最近複数の使徒が同時に現れていることから、いよいよ神も本気になったのかもしれないと思いながらスレイたちは剣を抜くのだった。

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