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真夜中の襲撃者

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 その日の夜、貸与えられた部屋の一室でスレイは手元に置かれているプレートに目を落としながら、今日あったことを両親に報告しようかと考えていた。

 中央大陸では未だにフリードとジュリア、それにクレイアルラの三人の結婚パーティーが続いており、この時間ならばもうパーティーも終わっているとは思うが、さすがに結婚をしたばかりの夫婦の夜を邪魔するほどスレイは空気が読めないわけでもないので明日の朝、パーティーが始まる前にでも説明しようと考える。



 夕食を終えてレイネシアと遊んだり絵本を読み聞かせたりしていたら、いつの間にか九時を過ぎていた。

 眠るにしてもまだ早い時間なので本でも読みながら一杯飲もうと思ったスレイは、最近飲みやすくて気に入っている蒸留酒のボトルと、簡単なカクテル風でも楽しめるためにいろいろと出してみるのも良いかもしれないと考えながら、ハーブやジュースのボトルを用意しているスレイの顔はとても嬉しそうだった。

 最近はレイネシアがいる手前あんまり晩酌をしていないが、こういうときくらいは良いだろう。そう思いながらボトルの栓を開けて、早速一口目をいただこうとしたそのとき部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。


「スレイ殿、夜分にすみませんが少しよろしいでしょうか?」

「リーフ?鍵は開いてるから入ってきて良いよ」

「では、失礼しますね」


 扉が開くとそこには年中暑いこの大陸ではぴったりの薄手のブラウスに、ハーフパンツといった格好のリーフだった。


「すみませんこんな時間にって、スレイ殿お酒を飲まれようとしていたのですか?」

「あぁ、いろいろあったから飲みたくなってね。ちょっと強い酒だけど、せっかくだからリーフも一杯どうかな?」

「では少しいただきます」


 部屋の扉を閉めて入ってきたリーフをベッドの隅に座らせたスレイは、テーマの方へ行き新しいグラスをまえにしていた。取り敢えず一人ので晩酌はお預けとなってしまったが、そもそも酒を一人で飲むのはあまり好きではないのでリーフが着てくれて良かったと思いながら、簡単に作れるカクテルを作り椅子と一緒に二つのグラスをもってリーフの前に出した。


「いただきます………うん。甘くてまるでジュースみたいで美味しいですね」

「あぁ。ボクのお気に入り…………それで、こんな時間に話っていったいなんなの?」


 ベッドの横に椅子を置いてグラスを傾けたスレイは、同じように酒を飲んでいるリーフに向き直った。

 普通に考えて夜遅くに女性が一人で男の部屋に来ると言うことはアレしかないが、うちの場合はまずそんなことはあり得ないと断言できる。なぜなら、それをするときはもっぱら一人ではなく複数で来るのが我が家の常識になっているからだ。


「その、これからのことについて少し………スレイ殿はこの村に滞在中はどうするおつもりなのかとお聞きしたくて」

「どうするって………取り敢えずやることもないし久しぶりにギルドで依頼を受けるつもりだったけど………リーフ心配してるのってそんなことじゃないよね?」

「………はい。スレイ殿、みなさんと話し合ったのですが、もしもこの村にいるのがお辛いようでしたら明日にでも一度帰りませんか?」

「えっ?………あぁ。もしかして昼間のこと気にしてた?」


 スレイが言う昼間のこととは貸家に来る前に村のなかを回った際に、村の人々が次から次へとスレイのもとにやってきては、この村でのルクレイツアの話しをして去っていった。

 この村の人々からあの人の話を聞くたびにスレイはあの人の影を見てしまっていたのだが、それがリーフの言う通り辛いのかどうなのかはわからないが、今のリーフの発言からすると実際にはかなり顔に出ていたようだ。


「ごめん。割りきってたつもりだったんだけど………やっぱりそう簡単にはいかないみたいだ」


 師匠がいたことのこと忘れていたとは言わないが、最後に合ってから六年も経てば記憶など風化していってしまう。それこそ何気ない日に何をしていたかなど覚えていられるはずもないようにだ。

 だから今日村の人々の話を聞いて、あぁ確かに師匠ならそうするよな、確かに師匠らしい、っと忘れてしまっていたはずの記憶が呼び起こされていた。

 話を聞くたびに師匠の顔を思いだし、辛かった思い出や楽しかった思い出が呼び起こされるたびに、自分でも気付かないうちにスレイは心、気持ちを封じ込めようとしていたのだ。


「師匠の話を聞くたびにボクは確かに師匠の影を見てたかもね………師匠と出会ってからもう少しで十二年、そこから修行をつけてもらったのが六年前になって、そこから六年全く音信不通だったあの人が死んだって聞かされて、頭ではちゃんと理解できてたんだけど気持ちの整理はまだ出来てなかったみたいだ」

「そんなの当たり前です。スレイ殿だって人間なのですから、当たり前です」


 そう言いながらリーフがスレイから恥ずかしそうに視線を外して少し頬を染めながら両手を広げてくる。そんなリーフの正面に座っているスレイは、突然の恋人の行動の意味が分からなかかったが取り敢えずリーフが可愛かったので頭を撫でてみた。

 するとリーフがむすぅ~っと表情を変えていった。


「なぜそこで私の頭を撫でるのですか!?こういうときは私の胸に飛び込んで泣きじゃくる場面ではないのですか!?」

「あぁごめん。リーフが可愛くてつい──って、もしかしなくてもそれってユフィにそそのかされたりした?」

「去れてませんよそんなこと、私はただこんなときくらいは甘えてもらいたくて……それよりもスレイ殿、前々から思っていたのですが、あなた私が歳上であることをたまに忘れていませんか?」

「えっ、そんなことあるはずないじゃないなですか」

「すみませんが、その台詞を今度は自分の顔を見ながらもう一度言ってもらえますでしょうか?」


 すぅ~っと視線が横にずれていくスレイを見てリーフは目を細める。その間もスレイは目線を外して答えようとしないでいると、小さく息を一つ吐いたリーフは立ち上がりそして正面に座っていたスレイの頭を包み込むようにして抱き締めた。


「スレイ殿は溜め込みすぎるんです。たまには弱音を吐いたり泣いたりして歳上のお姉さんに甘えなさい」

「………知り合ったばかりの頃、お姉ちゃんって呼んで恥ずかしがってたの誰だったっけ?」

「忘れましたそんなこと。それで私の可愛い恋人は元気が出たでしょうか?」

「あぁ。十分すぎるくらい───」


 そう答えようとしたそのとき窓の外から誰かに見られているような視線を感じ、気になったスレイが窓の方へと視線を向ける。すると窓の外で何かが輝いたのと同時に竜人の耳が外から聞こえてくる無数の風切り音を聞き取った。

 スレイは足に力を込めて前へとリーフを押し倒した。


「リーフちょっとごめんよ!」

「えっスレイ殿、───ッ!?」


 いきなりスレイが自分を押し倒そうとしてので、一度はまさかそう言うことを?っとリーフが思ったが、すぐに自分たちを狙っている視線に気が付くと同時に窓ガラスが割れ、無数のナイフが壁に突き刺さると次が来る前にスレイとリーフが身体を起こし、自分たちがいましがた折れ込んだベッドの端に移動するとスレイがベッドを倒してその後ろに隠れる。


「スレイ殿、確認ですが襲われるようなことをした覚えは?」

「逆に聞くけどさ、今日一日どころかこの一ヶ月の間はずっとみんなと行動してたのに、そんな恨みを買うようなことをしてるような現場に遭遇した覚えある?」

「記憶にはありませんね。それにしても、私やスレイ殿が全く気付かないなんて………いったい何者なんでしょうか?」

「さぁ………取り敢えずただ者じゃないね」


 ベッドの端からナイフで割られた窓の外を見たスレイは、再び聞こえてくる風切り音を感じ慌てて身を屈めると同時に今まで自分がいた場所、それもちょうど眉間の合った辺りに矢が突き刺さった。


「ナイフの次は矢か、しかもかなり正確な腕をしてやがるな」


 悪態をつきながら空間収納から黒鎖を取り出し、壁に立て掛けてあった黒幻と白楼を取ろうとした瞬間に鎖と鎖の合間を矢で射抜かれてしまった。


「相手はかなりの手練れですね………」

「どうするもこうするも、襲ってきた奴を捕まえて吐かせるしかないだろ?───っと言うわけですぐにユフィたちが来るから説明はませた」

「えっ、ちょっ!?スレイ殿!!」


 リーフの制止も聞かずに飛び出したスレイは自分の剣のある場所にまで走ると、襲撃者はそれを見越して矢を放っているらしく複数の矢がほぼ同時に窓ガラスを破りスレイの元へとやってくるが、スレイはそれを見越して竜翼を発現させながら踵を返すと、強く翼を羽ばたかせることによって巻き起こる風圧だけで矢を弾き落とした。


「────────ッ!?」


 突如室内に巻き起こった小さな竜巻に驚きの声を上げているリーフは、どうにか薄目を開けながら様子を伺うと、広げていた竜翼を折り畳んだスレイが壁際に立て掛けていた黒幻を掴んだ。

 そうすると割れた窓の方へと走りながらリーフに振り替える。


「スレイ殿!どこへッ!?」

「ちょっと行ってくる!」


 窓を突き破り外へと出たスレイを見送ったリーフは、外の様子をうかがいながら丸腰では何も出来ないのでスレイが残していった白楼を取るためベッドの影から出ると、どうやら襲撃者は一人だったようでリーフに矢が向けられることはなかった。

 白楼を手に取ったリーフは両手に伝わってくる重さを堪えながらどうにか持ち上げ、窓を警戒しながら部屋の外に出て攻撃がなかったことに一安心すしていると、背後からそんなリーフに声をかけてくる人物がいた。


「リーフさん!いったいなにがあったの!?」


 あんなことがあった後なので一瞬ビクリと肩を震わせたリーフだったが、聞きなれた声を聴いて安心して振り帰ると、そこには肩で息をし、その手には自分の杖のほかに翡翠と盾を持ったユフィが立っていた。

 どうやら騒動を聞き付けてリーフの部屋まで翡翠と盾を取りに行ってくれたのだろう。


「分かりませんが、今スレイ殿が外に追っていきました」

「スレイくんが追ってくれたなら間違いはないと思うけど、私たちもあとを追おっか。はい、リーフさんの翡翠と盾」

「えぇ。ありがとうございます。………ところでレネはどうされたのですか?」


 剣と盾を受け取り変わりにスレイの白楼を渡したリーフがユフィに訊ねる。

 毎日ユフィたちが日替わりで一緒に寝ているレイネシア、確か今夜はユフィだったはずだがここにその姿がないので心配になったリーフが訊ねると、ユフィがニッコリと微笑みながら答えた。


「今はラピスちゃんたちが見てくれているけど、パパになにかが有ったんじゃないかって心配しちゃって、おとなしく寝てくれそうにないんだよねぇ~」

「はははっ、でしたらスレイ殿には戻ってきたらレネをしっかりと寝かしつけてもらはないといけませんね」


 二人は寝間着姿のままでは外に出れないのでジャケットとローブ、それに身体を隠すためのマントを羽織り外に出ようとしたそのとき、ユフィはふと壁から突き出ていた矢じりを見て何かを思ったのか、突然壁の方に歩み寄ると空間収納から取り出したモノクル型の魔道具を取り出して観察し出した。


「あれれっ?この矢ってもしかして………」

「どうかなされたのですか?」

「ちょっと、この矢が気になって」


 ジッと矢じりを観察しているユフィの後ろでリーフが犯人を追ったスレイの救援に早く向かわなければと思いながらも、その矢が今回の襲撃の犯人の手がかりになるかもしれないと思い黙っている。


「なにか分かりそうですか?」

「うぅ~ん。ここから見えてる矢じりの部分だけじゃなんとも………ごめんリーフさん!ちょっと待ってて」


 ユフィが部屋の扉を開けてなかに入っていくのを見て、リーフもまだ外に襲撃者の仲間がいる可能性も拭いきれないので何かあったときのためにと部屋のなかにはいり、割れた窓の方を正面にして盾を構えながら、自分の後ろで壁に刺さった矢やナイフを抜き何かを調べているユフィを見やった。


「あぁ~、うん。やっぱりそうだ」

「なにか、分かったのですか?」

「うん。今回の襲撃してきた犯人って訳じゃないんだけど、この矢は魔道具になってる。それもこの魔力回路の作りからして、魔道具の効果は魔力の霧散………じゃないよねこれは、たぶんこの矢じりに触れた魔力を吸収してその魔力を使って風魔法によって飛距離を伸ばす設計になってる?」


 ユフィが矢を見ながらブツブツと何かを呟いている。それを聞いてはいるものの魔道具関係というよりも、かなり専門的な話しになってしまっていくのでリーフにはさっぱり理解できない。

 取り敢えず、先程のように矢を射ってくる気配も、この家に人が近づいて来る気配も感じないので、ユフィの解析に役立つかもしれないのでリーフ壁に刺さっていたナイフや矢を抜いてみることにした。

 すると、ナイフの方に何かがついていることに気が付いた。


「ユフィ殿、このナイフの刃先に何かが塗られているのですが、なんでしょうか?」

「えっ、ちょっと見せて」

「あっ、はい。こちらです」


 手に持っていたナイフをユフィに渡すと、ナイフに塗られていた液体を指で拭いとりそして匂いを嗅いだユフィは、先程までとは打って代わりとても苦い顔をするとすぐに水魔法できれいに洗い流した。


「このナイフに塗られているの、たぶん魔法薬だよ。それもかなりの劇薬だねぇ~これは~」

「そっ、そんなに危ない物なのですか!?」


 リーフが顔を青くさせて驚いたのを見てユフィが慌てて説明に付け加えた。


「ごめんねリーフさん。確かにこれは劇薬なんだけど、リーフさんには効かないから」

「それは、どうして」

「リーフさんも魔力病って知ってるでしょ?」

「えぇ。魔力持ちの方がかかる病気で、確か魔力が暴走する病だと聞いております」

「そうそうそれ。っでねこの魔法薬はその魔力病の薬なんだけど、その効果は魔力の暴走を抑えるために体内の魔力を自然に排出するんだけど、もしも健康な魔法使いがこれを体内に入れればどうなると思う?」

「体内から魔力が抜け戦いに支障をきたします」

「そう。それにこれ普通は薄めて使うんだけど、たぶん原液のままだから効果も絶大。だから純粋な魔法使いにとっては劇薬になるの」


 つまり相手はスレイが魔法使いであることを知っていてこれを使ったのだと分かると、リーフはすぐにユフィの方を見る。


「待ってください。まだあの犯人がその薬を持っていたとしたらスレイ殿が危ないのでは?」

「たぶん平気だと思うけど、もしものこともあるかもしれないから」


 薬の危険性を感じてユフィとリーフは急いでスレイの元へと急ぐのであった。

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