師匠の遺産
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改めてギルドの中へと入っていったスレイたち。
通されたギルドマスターの執務室でお茶をレイネシアにはジュースが出されると、一緒に出されたお茶請けをレイネシアが嬉しそうに食べている中、スレイは銀髪のダークエルフの少女ラーレの姿を見ながら少し疑いの眼差しを向けていた。
「なんだよ、ジロジロ見やがって?」
「いやなにも」
なぜならスレイはルクレイツアから結婚しているどころか、あんな年齢の娘がいるという話し一切聞いたことがなかったことだ。
たぶんだがラーレの年齢は十代前半くらいだ。
ダークエルフもエルフの親戚のため長寿な種族だが、見た目が十代の中頃までは人間や他の種族と大差ないので誤差があっても数年ほど、つまりスレイを修行している間、母親一人に子育てを任せていたとなる。
子供が一番多感な時期に父親としての責務を果たさなかった師匠の弟子として、師の不祥事を土下座で謝らなければならないだろうと考えていた。
「やはり、土下座しかないか」
「だから何なんだよさっきからッ!」
もう一度ラーレにツッコミを入れられるスレイ、これはかなり思い詰めているなっと思ったラピスがこっそりと耳打ちする。
「スレイさま、お師匠さまにご家族がいたことはお聞きにならなかったのですか?」
「師匠からそう言う話しは聞いてなかったし、そもそも父さんたちからも師匠が結婚してるって話しもなかったからな………あっ、レネ。ユフィママを服をしっかり掴んでおくんだよ?あと、ユフィはいい加減にしなさい!」
「はぁ~い!」
「レネちゃ~ん。いい娘だからそのお手々離そっか~。ね~、ラーレちゃん。いい娘だからお姉さんとお写真一枚撮ろうね~」
「こっちくんな!怖いんだよ!!」
ユフィが自作のカメラを片手にラーレに迫ろうとしてレイネシアに服を掴まれ、スレイの黒鎖で腰回りと一緒にソファに巻き付けただけでなく、グラビティーで重さを二倍くらいにして動きを止めている全く懲りない。
ついにはテーブルを挟んでラーレから抜き身の剣の切っ先を向けられてもめげることはない。
「これはもう、一種の病気ですね」
「一応、ある程度の線引はあるらしいよよ」
無類のエルフ好きのユフィさんとは言え手当たり次第と言うわけでもなく、自分のなかにあるエルフセンサーなるものが反応を示さないとこうはならないが、一度センサーにかかると最低でも一緒のツーショットを撮らなければ収まりはしないのだ。
「すみません、うちの連れが………どうも昔からエルフという種族に目がなくて」
「ハッハッハッ、面白い娘だね。いいよいいよこんなバカ娘の取り柄なんて顔か腕っぷしくらいだからね、好きに撮ってやりな」
「てめぇババア!他人事だと思って好き勝手言いやがって!!」
ギルドマスターに良いよと言われてユフィさらにヒートアップ、話し合いがぜんぜん進まないのでノクトに頼んでスリープで眠ってもらうことにした。
「それじゃあ、まず聞きたいのですが、ラーレさんだっけ?」
「なんだよヘタレ野郎?」
「あらあら、ずいぶんと口が悪いですわねこの娘」
ラーレの言葉を聞いてラピスが微かに顔をしかめているが、スレイは別に構わないし先ほどいきなり斬り付けられたことも慣れているので特に気にすることはない。
それに冒険者だったらこれくらいの口の悪さは普通のことだし、いちいち気にしていたら冒険者などやっては行けないのだ。
「改めてですが、先ほどあなたはステロンの家名を使っていましたが、ルクレイツア・ステロンとはいったいどういう関係だったのでしょうか?」
「あぁ?どうもこうもルクレイツアはオレの親父だよ。ただ血の繋がりはねぇ、義理の親父だったけどな」
「っということはラーレ殿は養子なのですか?」
「あぁ、そうさ。チビん時に帝国の奴隷狩りにあってな、そんときに家族を殺されて奴隷として売られそうになったところを親父に助けられて、そのまま親父がオレを引き取って育ててくれたんだよ」
聞いている分には良い話なのだが、スレイはどうもその話しに引っ掛かっていた。
あの師匠がマジで女の子を引き取って育てたのか?それって本物も師匠だったの?偽物じゃなくて?っと思っていた。
なぜならあの大雑把な性格に加えて炊事洗濯もできないあの師匠が!
洗濯などは宿屋に任せるからと、血に汚れは服を一ヶ月放置してカビだらけにして村の女将に怒られただけでなく、部屋を汚しすぎてネズミの巣を作ったせいで追い出されかけたりしたあの師匠が!
修行時代に死霊山に籠っていたときの食料全てが酒のつまみに持ってきた味の濃い干し肉で、他には一年分の酒しかもって行かなかったの師匠が!子育てなどまともにできたのかと心底驚いた。
小さい女の子を育てることが出来たのかと思ったが、ラーレのこの性格を見るに人格形成に必要な時期にあんな師匠といたせいで、こんな男っぽい性格になったんだろうなっと、ルクレイツアの性格を知っているスレイが哀れみにも似た視線を向けている。
「あと、オレこんな見た目だけど純粋なダークエルフじゃないからな?ガキの頃の記憶だけど、先祖がえり?とか言うのらしいぜ?」
「……どういうこと?」
「つまりラーレさまは見た目はダークエルフでも、種族的には人間族、ということですか?」
「わたしたちもこの娘からその話しを聞いたときは驚いたけど、王都の医者に確認をとったら事実だって言われたわよ」
色々と情報量が多いが、つまりラーレはルクレイツアの養女で妻子を長年ホッポリだしていたクズ師匠ではないことが立証され、スレイは心の底から疑ってしまったことを謝罪していたが、元はと言えばルクレイツアの生前の生活態度や日頃の行いの悪さが原因なので釈然としないとだけは伝えておこう。
そうスレイが自分の中で全てに決着をつけていると、今度はラーレがスレイに質問を返してきた。
「それで、お前らはオレの親父とどういう関係なんだよ?じいちゃんが親父の知り合いが訪ねてきたって騒いでたから腕を見てやろうと思ったんだがてんで弱っちいしよ」
「それは悪かったとは思うけどさ。君、ボクに本気で斬りかかっていなかっただろ?」
スレイだってだてに長く剣を使ってはいない。どんな相手であれ一度剣を交えれば相手がどんなことを考えながら剣を振るっているのか、つまりはその剣に込められている想いなどを読み取ることが出きるまでの域には至っているのだ。
そしてスレイの指摘通りだったのか、ラーレが顔をしかめている。
「まぁそれは良いが、次はこっちの質問に答えろよ?」
「あぁ。ボクとそこで眠っているユフィは小さい頃に君の養父、ルクレイツアと同じ村に住んでいてボクはルクレイツアの弟子で、今回はそのときの伝手で師匠の遺産を預かりにきたんだよ」
ラーレの質問に答えながらスレイは改めてギルドマスターエンネアにその事を伝えると、エンネアは封筒の中から三枚の紙を取り出してそれを正面に座っていたスレイの前にさしだした。
「あいつの遺産のリストだ。確認をしてもらってもいいかな?」
「拝見いたします」
一枚目はルクレイツアが今までにギルドに預けていた白金貨約千枚と、若い頃に攻略したダンジョンから収集したとおもしき数々の骨董品やら、それ一つで莫大な財を成しそうな古代の魔道具や特殊な材料で作られ強大な力を持っているとされる武具──これらを総称してアーティファクトとも呼ば、フリード暴龍の剣も該当する──が数個、これまた高価な魔道具の名前もそこに書かれていた。
「さすがSランク冒険者、所有物のレベルが違う」
「……気になる、見せて」
読み終わったリストをライスに渡すと、みんな揃って顔をつき合わしていた。
その他にも個人で買ったとされる当たり年のワインの樽の権利書や、自分で買い取ったとされる土地の権利書などが無数に存在していたが、どれもこれも別の国で同じ国に土地を持っているかと思ったら全く遠い場所のだったりとバラバラであった。
いったい師匠はこの土地でなにがしたかったんだ?っと内心で苦笑いをしながらスレイ次の紙を見る。
二枚目にはその一部をスレイとユフィの故郷の村へと譲渡する誓約書であり、金額にして白金貨二百枚とアーティファクトや所有していた魔道具の一部が書かれ、三枚目には養女であるラーレへの遺産として残りの金と魔道具やアーティファクトなどを相続させる旨が書かれていた。
「この相続はし……ルクレイツアさんの遺書にあったのですか?」
「あぁそうよ。一部をスレイとユフィを含めた故郷の村の人たちへ、そして遺産の大半はそこでふて腐れながらふんぞり返っているちびっこのバカ娘へのだってね」
「誰がちんちくりんのちびっこのガキだって?」
被害妄想が過ぎるラーレの一言にスレイたちは、誰もそこまでは言ってない!っと言いそうになったが、あえて口には出さずに言葉を飲みこんだ。
それになんで本人に遺産が相続されないのかと疑問を覚えていると、ライアがラーレに向かって質問した。
「……ラーレっていったい何歳なの?」
「オレか?オレは今年で十二だけど?」
ラーレの年齢を聞いたライアとノクトの目が輝き、二人の視線がラーレの顔より下、ちょうど胸の辺りにまで下がると今度は自分たちの胸に視線が行くと、二人が同時に満面の笑みを浮かべながら手を握り合って喜び合っていた。
大方ラーレが子供体型──実際にまだ子供だが──で、自分たちよりも発育が遅れていること知り喜んだのだろう。
最近知り合う女の子は明らかに自分たちよりも発育が進んでいるからと言って、自分よりも二歳も年下の娘に勝って嬉しいのか、そうリーフとラピスが思っている横でレイネシアがキョトンとしていた。
「ねぇねぇ、ママたちなんでうれしそーなの?」
「レネ。これはあなたはまだ知らなくて良いことです」
「もう少し大きくなったらレネにも分かるときが来ます………かね?」
っと曖昧なことを言っているリーフとラピスにレイネシアは意味が分からずただ首をかしげているだけだった。
そんな彼女たちの横で話を聞いていていたスレイは小さく呟いた。
「あぁ。なるほど、だから父さんに預けるのか」
なんとなく今回の件の事情を察してきたスレイがそう呟くと、エンネアが今度は封筒のようなものを取り出してスレイに手渡した。
「あいつが自分が死んだときのために残していた遺書よ。大体は察してるみたいだけど、念のために目を通しておきなさい」
「ありがとうございます。拝見させてもらいますね」
エンネアから受け取ったルクレイツアの遺書を読み簡単に説明すると、自分がラーレの成人前に死んだときは自分の遺産をフリードたちに預け、ラーレが成人したときに渡すようにと書かれていた。
これを本当に師匠が書いたのかスレイは思ったが、筆跡は確かにルクレイツアの物で遺書の入った封筒にはこの国の紋章が押されていたので、王立の公共機関に預けられ管理されていたのだろう。
さらにはこの遺書の入っていた封筒にもかなり強力な魔法がかけられており、本人以外では正しい手順を取らなければ開けられなくなる術式が織り込まれている。
これを全部ルクレイツアが自分に何かあったときのために用意しておいたのかと考えながら、本当に失礼だと思いながらも、あの師匠がこんな全うな父親らしいことをしていることにするとはどんな人でも変われば変わるものだと思った。
「時間の流れか、はたまたラーレという娘をもったことで父性が目覚めたのか………あの鬼と悪魔を掛け合わせたかのような慈悲の欠片もなく、子供だったボクを確実に何度か殺しかけてた師匠がこうも変わったと思うと、感慨深いものがあるな」
ルクレイツアの遺書を片付けながらスレイがそう呟くと、全員が言葉をなくしてスレイの方へとひきつった表情を向けていた。
「前々から思っていたのですが、ルクレイツア殿のお話をするときさらりとすごい言葉を言いますよね?」
「……ん。鬼と悪魔を掛け合わせたってなに?慈悲の欠片もないってどういうこと?」
「お話は伺っていましたし、前にそのときの映像を見ましたけど前より悪化してませんか!?」
「これは一度、ユフィさまとお義母さま方を交えてそのお話をお聞きしなければ行けませんね」
上の台詞はリーフ、ライア、ノクト、ラピスの順での台詞なのだが、修行時代のことは何度も話したこと以外は存在しないし、そのときの師匠のことは今でも鮮明に思い出せるほどの鬼畜ぶりだったので、スレイはその評価を覆らせることは決してないといっても過言ではなかった。
昔のことを思い出して顔にくらい影が射してしまったため、レイネシアを膝の上に乗せながらその愛らしい愛娘の姿に癒されていることも付け加えておこう。
「なぁ、お前いったい親父からどんな修行を付けられたんだ?」
「えっ?出会い頭に蹴り飛ばされて、剣の振りが甘かったら岩を斬れそうな勢いの剣が振るわれるし、動体視力の訓練だとか言って超至近距離で石を投げられて骨が砕けるし、手合わせすれば割りと本気だったし、極めつけに最後の修行の一日目に死霊山から投げられるし、他にもいくつかありますけど何が聞きたい?」
「いや、もういいは、ってかよく今まで生きてたな?」
「それはまぁ死にたくないからね。人って死に直面すると何でも出来るんだよ、例えそれが自分の肉体の限界であってもさ………それに魔法の先生とそこでスリープをディスペルして狸寝入りしてるユフィの治癒魔法のお陰もあるしね」
みんなの視線がユフィの方へと向くと、気まずそうに目を開いたユフィが手を合わせながらみんなの方を見る。
「あはははぁ~、スレイくんにはばれちゃってたかぁ~」
「始めっから、まぁおとなしくしてたから言わなかったんだけどさ」
ユフィが申し訳なさそうにしている横で、スレイはエンネアの方へと向き直った。
「ところで師匠の遺産は今すぐにでも預かれるんでしょうか?」
「リストは出来てるんだけど遺品の準備にはあと数日かかるわね」
そうなると当分はこの村に滞在ということになるのだが、大事なことを一つ聞いておきたかった。
「それじゃあ当分はこの村に滞在するしかないのですけど、この村って宿屋とかってあるんですかね?」
「……見た感じそんなのはなさそうだったけど」
「宿屋はないけど、貸家はあるからそこを使いなさい。今ちょうど村長が来てるから鍵も貸してもらえると思うわよ」
子供がいるのであまり野宿はしたくなかったので良かったと思いながら、話しも終わったし村長に挨拶に、そう思ったスレイだったが最後にどうしても聞きたいことがあった。
「そういえば、今さらなのですけど師匠の死因は一体なんだったんですか?」
「あぁ。それはだな───」
スレイたちはルクレイツアの死因を聞いて顔をしかめるのであった。
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