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旅立ち、狼人の里へ

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 あれから一週間、傷の癒えたフリードたちは何だかんだで領地が心配だから──実際はバン・アルファスタの暴走を危惧してだが──と、早々にこの国を後にし、ヴィヴィアナたちは勲章を辞退する代わりに多額の謝礼金を貰い国に帰り、ユキヤたちも修行のために次の目的地へと向かうために去っていった。

 最後まで残っていたリュージュ家はと言うと、行方不明であった長女のララ一家の捜索をしていたのだがなかなか見つからず、災厄の結果を思い浮かべたその日のうちに古代遺跡より帰還したララ一家と再会、なんでも二ヶ月くらい調査のために潜っていったらしく、たまたま食料調達のために地上に出てきたそうで、リーフたちリュージュ家と久々の再会の感動を味わったのちにまた遺跡のなかに潜っていった。

 ララとその家族のの安全を知ったアルフォンソ、ルル夫妻とリリルカの三人は安心した顔をして自分の国へと帰っていったのだった。

 そしてスレイたちはというと、少し前に簡略ではあったが約束通り子爵の位を与えられたのだが、これは非公式の場でのことだったため近い内にソフィアとの婚約発表と同時に、大々的に授与式が執り行われることが約束され、早くても一ヶ月はかかるとのことだったのでそれまではやることもなく、そろそろアルメイア王国に来たもう一つの目的を達成するために旅に出ることにした。


 旅立の日の朝、修復されたばかりの門の前にはスレイたち一行はこれから、アニエスとスーシーの家族がいると言う狼人の里に向かうため旅に出る。

 そのため少し早いが夜が明けて間もない時間の出発となり、普段はまだ寝ているスーシーとレイネシアはアニエスとリーフの腕の中でものね寝ている。小さいが少しだけ立派な作りの馬車が一台止まっていた。


「じゃあソフィア、行ってくるけど何かあったらすぐにそのプレートを使ってよ?」

「わかってるよ。まぁ、今クーデターを起こしてもいいことないのはみんな知ってるから大丈夫だって」

「もう心配性なんだから~。プレートの他にも輝ける十字架や黒騎士のプロトタイプも置いてくんだし」

「……それに魔法師団もいる。だから大丈夫」

「戦力としては十分過ぎますし、ロークレア王国の騎士団もしばらくは騎士を派遣するようですからね」

「そうそう、確かにスレイの教え子もいるんだっけ?なんか稽古つけて欲しいって言ってたけど」


 ロークレアから派遣された騎士のなかにはベルリを初めとした、スレイの生徒が何人もいた。なんでもスレイたちがアルメイア王国を戦争から救ったことがアルフォンソ伝で伝わり、自分たちの未来を切り開いてくれとして恩返しのためにもと、来てくれたらしい。

 今回は時間がなく会えなかったが、次にもどって来たときにでも久しぶりに相手をしてやろう、そうスレイが思っていると、街の中からスレイたちを呼ぶ声が聞こえてくる。


「しぃ~しょ~!姉さぁ~ん!待ってくださぁ~いぃ~!」


 今度は誰?っと思っているといつかのようにでっかい大剣を背中に背負った少年テオドールと、その幼馴染みで最近よく振り回されているビルとハワードの三人だった。

 実はこの三人とは船の護衛で港に残っていたのだが、戦争が始まることになり一度はクライヴ陛下たちと一緒にマルグリットにまで戻っていたのだが、その後スレイの祖父のトラヴィスに頼み込んで魔法師団と一緒にこの国に戻ってきたのだ。


 そんな三人がスレイたちのもとにまで走ってくると──ビルとハワードは限界なのかぐったりしている──テオドールがスレイに詰め寄ってくる。


「師匠!置いてくなんて酷いですよ!」

「いや、連れてくって一言も言ってないし………まぁ来たいなら来てもいいけど、乗れるかな?」


 テオドールはいいかもしれないが、ビルとハワードはさすがに可愛そうだしと思いながらそう言っていると、ふとソフィアがあることに気がついた。


「そういえば、馬車とか見当たらないけどどうやって里まで行くのさ?まさか歩き?」

「さすがに子供二人連れてそれはきついから………まぁ、見てもらったらわかるさ」


 スレイは空間収納を広げると中から巨大な四角い箱に四つのタイヤを取り付けた物と、それと少し小型の縦長の箱に前後にタイヤを取り付けた物があるが、これはこっちの世界の人が見たときの感想で、地球出身のユフィはついにこれを作っちゃったかぁ~っと思いながら顔を押さえている。


「なっ、なんだよこれ!?」

「実は前々からマルグリットの魔法学園に製作を依頼していた乗り物でね、こっちのが大型魔道式四輪車で、こっちが魔道式二輪車って名付けてみました。動力は黒騎士に搭載している空気中の魔力を取り込む魔力変換ユニットによって駆動部、つまりはタイヤを回転させる場所のことだけど、これを動かすことが出来るんだ。それにこの動力部は理論上では空気中に魔力が存在する限り、半永久的に駆動部を動かすことが可能になっり魔道モーターには──」

「ごっ、ごめん。ぼくじゃ理解できないかな。それになんだかみんなもあきれてるし」


 スレイがみんなを見ると魔道具造りに対して全く理解のないノクトたちが呆れ果て、スレイと共に魔道具造りをしているユフィでさえも理解しがたいものを見る眼をしていた、っというよりも、もうあきらめたと言ったのが正しいのかもしれない。


「スレイくん。どうやって動かすのか教えてよ」

「あぁ。簡単、右のペダルを踏み込んで加速、左で停止。サイドのレバーで速度の変更が出来るようになってる」

「簡単だねぇ~。っで、武器は?」

「ボンネット部分にはガンナー・シェルのガトリングガンを、左右のドアにはマシンガン、天井には小型のポルクスと同じバズーカが仕込んであり、タイヤの内部には円形式のソード・シェル・参式があります」

「全部取り外して」

「えぇ~、せっかくアドモア学部長に頼んで搭載してもらったのに、断固拒否する」


 実はこの車とバイクは前からアドモア学部長と一緒に設計と開発を進めていた物で、黒騎士に搭載している動力炉の技術の一部と、スレイが研究をしようとしていたとある物のデータを提供したところ喜んで力を貸してくれ、設計図に完成後は製作を全て一任していた。

 ちなみにアルメイア王国が戦争を引き起こそうとしたときには、何かの役に立つかもしれないとアドモア学部長とその生徒によってこうして完成まで持っていってもらったらしく、この地に派遣されたアドモア学部長の弟子の一人が直々に渡してくれたのだ。

 ついでに、なんでもこれの次世代機の製作にも乗り気らしく、年甲斐もなく張り切っているそうだ。


「マルグリットに帰ったら学部長共々、いいわけを聞きたいけど………まぁ武器については危ないしこのままでいい………のかな~?」


 もうどうでもいいやと思いながらユフィは大きくため息をついていた。そしてスレイはその後ろで大きくガッツポーズをとり、隠して製作しているあれにお披露目もどうにかなりそうだと思っていた。


「それで、これってどうやって乗るんですか?」

「あぁ。今開けるよ。一応全員乗れるとは思うけど、テオドールたちは一番後ろでもいいよな?」

「はい!俺たちなら屋根でも平気です!」

「それだとバズーカ展開できないし、ビルとハワードが高速で首横に降ってるから却下だ」


 座席は無理をすれば三人、後ろに六人は乗れる設計になっているが当初の予定ではユフィたちには車に乗ってもらい、スレイはバイクに乗ろうと思っていたが、テオドールたちも行く事になったのでバイクにもう一人乗る必要が出てくる。


「そっち一人乗れないし、ラピス。ボクの後ろ乗る?」

「あら、わたくしでいいのですか?ライアさまが物欲しそうな眼で見てますが」

「悪いなライア、後で乗せるから今は頼むよ」

「……ん。仕方ない。後でで我慢する」

「ごめんな。っと、そうだった、ラピスこれ乗るときに被っておいて」


 スレイは空間収納から取り出したのはバイクに乗るためのメットなのだが、それを見たことのないラピスは首を傾げていた。


「なぜ兜を?」

「乗ってるときは風が強いから顔を保護するの。それと改良した通信機を内蔵してあるから通信も出来るんだけど、テストモデルだからこれ同士でしか話せないのが難点だけど」


 前からプレートの小型化が出来ないかと色々と試した試作品を付けてみたが、うまく機能するかわからない。

 そうこうしているうちにみんなが乗ったのを確認したスレイは、最後にもう一度ソフィアの方を見る。


「じゃあソフィア、しばらくお別れだけど元気で」

「そっちもね。行ってらっしゃいスレイ、みんな」

「行ってきます」


 みんながソフィアに手を振るとユックリとユフィの運転する車が動きだし、それに続くようにスレイとラピスが乗るバイクが動き出した。


「行ってらっしゃ~い!みんな無事に戻ってきてねぇ~!!」


 最後にソフィアが大きな声で叫ぶと、バイクに乗っているスレイが手を振って答えるのだった。



 走り出してからしばらくしてユフィが運転のコツをつかんだのか、少しずつスピードをあげていったのでスレイもそれに習うようにスピードをあげて行き、その途中でスレイはメットに仕込んでいる通信機で後ろのラピスに通信を入れる。


「ラピス。聞こえてる?」

『はい。聞こえています。何かありましたか?』

「いや、最近忙しかったからラピスとあまり話せてなかったでだろ?………その、ヴェイレンハルトって使徒との戦いのことでさ」

『………ノクトさまとライアさまからお聞きになられたのですね?』


 スレイはラピスが使徒との戦いの最中、想像の使途によりラピスの亡き姉の姿で惑わされ、ベクター──いや、殺意の使徒イヴライムによって植え付けられた殺意の力き飲まれて暴走したことを聞いていた。がたかいが終わってすぐにアストライアによってもう一度取り除かれたそうだが、ラピスが持っていた神気と混ざり会い完全に取り除くことは不可能だそうだ。


「もし、次にその使徒が現れたら、ボクかみんなが相手をするけど」

『いいえ。ヴェイレンハルトの相手はわたくしにやらせてください』

「けど………ラピスが辛くなるんじゃ」

『たしかにそうかもしれませんが、お二人のお陰で気づいたんです。姉さまはいつも見守っている。例え姿は見えなくともわたくしの側で寄り添ってくれていると』


 ラピスは自分の腰に下がっている短剣に触れながらそう呟くと、スレイはラピスの思いを感じとりながら小さく頷いていた。


『心配していただきありがとうございます。スレイさま』

「これくらい旦那なら当たり前………って言いたいけど取り越し苦労だったみたいだな………おっ、レネとスー起きたみたいだな」


 レネとはレイネシアの愛称で、本名が少し長すぎると言うことでみんなが自然と呼び出した。

 そしてスレイは並走している車の方を見ると、車内ではレイネシアとスーシーが大はしゃぎで騒ぎ、リーフとアニエスがそれを諌めている光景が見えかと思うと、レイネシアが外にいるスレイとラピスの存在に気づき手を振っている。


「ラピス、悪いけどプレート向こうに通信してくれるかな、近くに川があるからそこで休憩しようって」

『………通信をするのはいいのですが、地図も見ずにどうしてわかるのですか?』

「メットの部分にプレートのマップ機能を付けてるから、それで見えてる」

『スレイさま、相変わらず規格外ですね』


 なぜかもの凄くあきれたような声で言われた気がしたが、たぶん気のせいだろうと思いながらスレイはみんなを誘導するために先を急いで行くのだった。



 川原での休憩中、スレイは狼人族の里までの距離を計算していると、テオドールが吹っ飛んできた。


「うぉっ!?どうしたテオドール!?」

「いってて、リーフの姉さんに稽古つけてもらってたら吹っ飛ばされました」

「テオドール!剣の動きばかりに気を取られるからそうなるんです!相手の全体の動きを良く見なさい!次、ビル!来なさい!!」

「はっ、はい!」


 リーフが今度はビルに稽古を付けている横では、レイネシアがリーフの戦いを見ながら大はしゃぎ、多分だが娘に良いところを見せるために張り切っているみたいだ。


「師匠、オレ何がダメだったんですか?」

「それは自分で考えろ………って言いたいけど、教えてあげるから剣を構えてみな」

「あっ、はい」


 テオドールは落ちていた大剣を拾い上げ構えると、スレイは近くに落ちていたちょうどいい長さの木の枝を拾い上げ、強度を確かめてから構えてて見せる。


「いいか?これから、ボクがお前に斬りかかるけどしっかり防いで見せろ」

「はっ、はい!」

「行くぞ!」


 スレイが突きの構えを取りながら走り出すと、正面に構えらていたテオドールは大剣を斜めに構えて突きを受けようとしたが、その寸前にスレイは構えを変えて上段からの切り下ろしへと切り替える。するとテオドールは反応するのが遅れてしまい木の枝で頭を叩かれる。


「わかったか?今みたいに相手が済んでのところで技を変える可能性もある」

「でっ、でも、それってわかりませんって」

「まぁ今のはそうだけど、例えば次はテオドールからこい」

「わかりました。行きます!」


 テオドールは剣を振りかぶりながらスレイに斬りかかると、どうやっているのかスレイの持つ木の枝は大剣と火花を散らし会う。数回の打ち合いの後、スレイとテオドールは膠着状態になった。


「はい、テオドールの敗けだ」

「えっ、どうして?」

「下見てみ」


 言われた通りテオドールが下を見ると、スレイが左手で作り出した氷のナイフが当てられていた。


「わかったか?さっきからテオドールはボクの枝ばっかりに意識が行ってた。まぁ、普通の大剣と木の枝で打ち合わせたら一発で折れるからな、でも折れずにちょっとムキになっていた。違うか?」

「はい………その通りです」

「だからボクは敢えて最後のつばぜり合いに持ち込むまでは仕掛けなかった。一言で言えば人間や知能を持った魔物はズルい、例えば一騎討ちを望んだ場合、もしかしたら何かを仕掛けてくるかもしれない、後ろやそこの茂みから仲間が矢を向けているかもしれない、さっきのように魔法が使ってるかもしれない、考えれば考えるほど色々と出てくる。可能性はゼロじゃないからな」

「じゃあ、ずっと気にしろってことですか?」

「そうじゃないよ。ただ一つのものに囚われるなってこと、一つに眼が行けば他がおろそかになる。ただ、他を見れば一がおろそかになる。ようは経験が必要になるってことだ」

「経験……」

「まぁそう言うわけだ。おぉ~い、みんなそろそろ出発するから準備してよ」


 みんながまた車に乗り込み──今度はリーフが運転したいそうなので任せた──、スレイは約束通りライアを後ろに乗せて前にはレイネシアを乗せていた。


「いいかレネ、乗ってるときは騒がない、一人で降りようとしない、なにか合ったらすぐにパパか後ろのママに知らせる、いいな?」

「はぁ~い!」

「ライアもしっかり掴まっててよ。結構スピード出るから」

「……ん。わかってる」

「よし、それじゃあ出発するからな」


 この後、数回の休憩を挟みながら狼人の里にたどり着いたのは夜に差し掛かる時間であった。

 そして………


「貴様ら動くなっ!!」


 なぜか槍を持った狼頭の集団に囲まれてしまいました………いったいなぜに?

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