戦いの傷跡、少女との出合い
文字数が一万越えました。
長くなってしまいましたが。どうか最後までお楽しみにください。
アルメイア王国に現れた複数体の使徒との戦いが終わり、スレイたちはレーゼスとの戦いで受けた傷や使いすぎた闘気や魔力を回復させるべく、援軍に駆けつけたシャノンとウルスラ、時宗、そしてノクトたちに後の事を任せて全員が倒れるように眠りに着いてから一夜明け、スレイは顔に当たる日の光を受けて目を覚ました。
見覚えのない天井を見上げながらベッドから身体を持ち上げながら頭をかいている。
「ここは………病院、かな?」
目を覚ましときに鼻を突くような消毒薬の感じたスレイは、自分の着ているのがボロボロのいつもの服ではなく病院の入院着のようなものであることに気がついた。
着ている服を捲りその下にあった傷に包帯が巻かれているにを確認し、手当されているのを確認してから自分の近くで眠っているフリードとユキヤ、そして全身に包帯を巻いたアーロンやミハエルの姿を見てそう考えたスレイは、割れた窓ガラスのそとから見える太陽が既に沈み掛けていることと、体内の魔力と闘気の回復量からかんがみても、多分だが意識を失ってから少なくとも一日以上は過ぎてしまったのだと考える。
「ぅあぁ~、身体ダァ~ルッ」
どれだけの時間が経過しているからわからないが、あれだけの戦いに加えて最後の技を放ったときに闘気と魔力を全て聖剣に注いでしまったせいで、闘気と魔力が回復しきれていないのか身体が重いのでもう一眠りついて、目が覚めたらあのあとどうなったのかを聞こうと思いながらベッドに横になった。
寝返りを打つと自分の腕が何かに触れる。指先に吸い付くようなさわり心地に一肌の暖かさ、そして聞こえてくる規則正しい呼吸の声を聞こえ、その声が自分の意識を深い眠りに誘おう………としたところでスレイは目を覚ました。
「…………………………………ぅん!?」
なぜ一つのベッドのなかに二人も寝ているのか、寝起きと極度の疲労で鈍っていた頭が一瞬にして覚醒しバッとブランケットを剥ぎ取ったスレイが見たのは、自分と同じ白髪の髪に年のころは三四歳くらいの女の子がまるで子猫のように丸まって眠っていたのだが………そこまではよかった。
その女の子は服を着ていない、産まれたままの姿であった。
──えっ、ちょっ、えぇえええ―――――――――ッ!?
訳がわからないことに思いっきり叫びたくなったが、みんなが寝ていることとこんな状況を見たら衛兵を呼ばれるだけでは済まないので口を押さえながら心の中で一通り叫んでから、女の子に布団をかけ直しユフィか誰かを呼びに行くか、誰か事情を知ってそうな人を探そうと自分が剥ぎ取った布団に手を掛けたそのとき、女の子の目がパチッと開いた。
「「……………………………………」」
視線がかち合ったスレイと女の子はしばらくの間見つめあった。方やさぁ~っと顔を青くしているスレイ、方やキョトンっと首をかしげている謎の女の子。こんなところで叫ばれたら人生が終わる、どうするかと思っていると、女の子顔がぱぁ~っと花開くように変わり口を開いた。
「パパァ~!」
「はぁっ?えぇえええええ――――――――――――――――ッ!?」
女の子がスレイのことをパパと呼びながら抱きついてくると、異様な状況に思わず叫んでしまったスレイの声が病院中に響き渡り、別の部屋で寝ていたユフィたちがやってきて、同じ病室で一緒に寝ていたユキヤたちが跳ね起き、スレイと裸の女の子のことを黙ってみているのだった。
集まってきたみんなを落ち着かせてから服を着替えてたスレイたち男性陣は、昨日の夕食と今日の朝食をかねた昼食の席でユキヤがあの女の子のことについて話していた。
「多分だが、そいつは聖剣だな。俺もエンジュと契約を交わした次の日の朝にこんなことがあったな」
「はい。わたしたちは剣から肉体を作り出す際に、契約者であるとうさまの近くにいる必要があるのだとエンジュはお答えします」
「そういうことを知ってるんなら先に言えよ………ユキヤ、それにエンジュちゃんもさぁ」
あのあと、やって来たユフィたちからあの女の子について問い詰められたが、全くわからないと答えたスレイに対して女の子がパパっと呼んだことでさらにヒートアップし掛けたが、アカネとレティシアの二人が何かを言うと、ユフィたちが落ち着きを取り戻したら女の子のことをかっさらって行った。
ついでに女の子に着せるためにと、スレイが前にリーシャたちのためにと作った洋服のあまりを全部持っていってだ。
そんなことを思い出しながらコーヒーを啜るスレイは、チラリと隣を見る。
「世の中には不思議なことがあるな~。息子が勇者に選ばれたり、聖剣が女の子になったり。そう思いませんかアルフォンソさん?」
「神などという相手と戦ってるんですから、今さらでしょうね。しかし、これで私の娘たちは全員子持ちになるのか。これはますます老後が楽しみになるね。そうは思わないかい?」
「そうっすね。しっかし、あの娘がスレイをパパって呼んでるんなら、オレはじいちゃん………いや、ここはじぃ~じってのもありか?」
「悪いがフリードくん。その呼び名は私がもらうよ」
「あっ、ずりぃ!オレが先に考えてたのに!」
っとなんだか呼び名談義で白熱しているフリードとアルフォンソを横目に、軽食代わりのサンドイッチにかぶりついていると、バンッと扉が開かれユフィたちが現れるとなぜか腕を組んだユフィが中心に、同じ格好をしたノクトとライアが左右に立っていた。
「おまたせぇ~!あのこのお着替え終わったよぉ~!!」
「それじゃあお披露目です!!」
「……ん。どうぞ」
三人が扉の前から退くとスレイの作ったワンピースを着た白髪の女の子が、初めて着たのか不思議そうにスカートのヒラヒラの部分を握りながらキョトンとした顔をしていた。
「おぉ~。似合ってるじゃん」
スレイが女の子のことを見ながら素直な感想を伝えていると、恥ずかしそうに下を向いた女の子がなぜか後ろを向いて近くにいたリーフの足に抱きついてきたので、リーフは女の子の頭を撫でていた。
「あらあら。どうやら沢山の人に見られて恥ずかしいみたいですね」
「そうみたいですね。お着替えをさせるだけでも大暴れでしたから」
「ふふふっ、これくらいの子供はこんなものよ。ミーニャちゃんもたまにあったわよ。お着替えいやぁ~」
「ちょ!?お母さん!?いったいいつの話をしてるの!?ユキヤさん!?違いますから、子供のと気の話ですから!!」
ジュリアに恥ずかしい子供時代の話をされたミーニャがユキヤに弁解をする一方で、マリーとクレイアルラがスレイたちの方へとやってきた。
「ねぇねぇ~スレイくん。あの娘のお名前って~何て言うのかしら~?私の初孫のなんだもの~知りたいわ~」
「えっ、知りませんけど?」
「スズネとレティシアから、契約の際に名付けをしているはずだと聞きましたが」
「あぁ。そう言えばしたような気がします。えぇっと、たしか名前は………あぁ。そうそう、レイネシアだったと思います」
正直に言うとあのときのことはかなり曖昧でしか覚えていない。記憶は確かに残ってはいるのだが、頭の中に大量の情報を入れられてしまったせいかもしれない。
「おいおい。ちゃんと覚えといてやれよ、お前の娘の名前なんだろ?」
「そっ、それは………酷いよ?」
「全く。父親としてそれでは失格でござるね」
話を聞いていたヴィヴィアナ、アリステラ、朱鷺芽の三人が白い目を向けているが、理由が理由なだけにあまり言い返す気力はなかった。
「あぁ~。これで私もお婆ちゃんか~。なんだか嬉しいような、悲しいような妙な感じね」
「ふふふっ。そうは言いますけどお婆ちゃんというのも悪くないですよ?」
「あらぁ~そうなのぉ~?でもぉ~、私たちぃ~、まだ子供生んだばかりだからぁ~。もう少しはお母さんよねぇ~」
女性陣が騒がしいと思いながらスレイはもう好きにしてくださいと思っていると、レイネシアがピクリとなにかを感じ取ったらしく部屋の扉の方へと走っていくと、自分よりも高い位置にあるドアノブを開けようとピョンピョンと飛び上がっていた。
突然のレイネシアの行動にみんながキョトンとしているなか、扉の近くにいたラピスがレイネシアに視線を合わせるようにしゃがんだ。
「レイネシア?どうしたんですか?」
「ママ!あけてほしいのぉ~」
「まっ、ママですか………なぜでしょうか、わたくしが産んだわけでもありませんが、こう胸を締め付けるようなこの気持ちは」
「ママぁ~!はやくぅ~!!」
レイネシアがラピスに扉を開けることを催促しているが、ラピスは未だに悶えているので仕方がないと言った感じてアカネが扉を開けた。
「ほら、開いたわよ」
「ありがとう~!」
アカネにお礼を言ったレイネシアが一目散にどこかへと駆け出してしまった。それを見送っていたユフィたちだったが、すぐにみんなが言った。
「これこれ、お主ら子供を一人で行かせるアホがおるか。はよう行ってやらぬか」
「あっ!そうだった!行こうスレイくん!」
「えっ、あっ!ちょっとまて!レイネシアッ!!」
椅子から立ち上がったスレイは駆け出していったレイネシアの名前を呼びながら走りだし、その後をユフィ、リーフ、ライア、ノクトと続いて一人で悶えていたラピスが少し遅れて、みんなが出ていったのに気がついてレティシアから事情を聞いて慌てて出ていった。
出遅れてはしまったが子供の足、それほど早くはないので追い付けるだろうと思っていたスレイたちだったが、部屋を出た瞬間に、看護婦ではなくシスターに──この病院は教会の運営で開かれている病院のため──捕まって怒られているレイネシアを見つけてずっこけた。
「あなたたち!子供のしつけはしっかりしなくちゃダメよ?病院のなかでは走らないこと、いいですね?」
「ごめんなさい」
「はい。以後気を付けます」
スレイたちもシスターに頭を下げてからレイネシアをだき抱える、そのまま外へと向かって歩いていった。
「全く。どうして急に走り出したんだ?」
「ごめんなさい………でもね、おそとからパパとおんなじかんじがしたの」
「お兄さんと同じ感じ?ほんとうんですかレイネシアちゃん?」
「うん」
どう言うことだろう?みんなでそう思っているとスレイはあることに気がついた。
「もしかして───」
「スレイ!みんな!無事でよかった!!」
スレイの言葉を遮って聞こえてきた声にみんなは一斉に振り向く。なぜなら、その声の主は遠く離れた海の向こうで帰りを待っているはずのアニエスの声だからだ。
みんなが振り向くとそこには正真正銘のアニエスの登場に驚いている。
「あっ、アニエス!?」
「えっ、どうして!?」
「なぜここにいるんですか?」
すれいたちが驚いているのを横目に、みんなの無事な姿を確認したアニエスが駆け寄ろうとした瞬間、スレイが抱き抱えているレイネシアの姿をみてアニエスが目を見開いて驚いていた。
「ちょ………ちょっとあんた、その子はいったい………」
「あぁ~、説明すると複雑なんだけど………レイネシア、もとの姿に戻れるか?」
「うん。なれるよぉ~」
説明するよりも見てもらった方が早いと思ったスレイは、周りに人がいないことを確認してからレイネシアにもとの聖剣の姿にもどってもらう。
「えっ、え?えぇえええ――――――ッ!?」
「うん。まぁ、そういう反応するよね、普通は」
女の子が剣になると言う常識から掛け離れた光景を受けてアニエスが驚き、普通の反応を示してくれたアニエスに安心を覚えたスレイだった。
人間の姿に戻ったレイネシアがアニエスの方に歩みよった。
「ねぇねぇ。このおねえちゃんもママなの?」
「あぁそうだぞ。っというわけでアニエス、この娘は聖剣でボクたちの娘になりましたレイネシアで、こっちがレイネシアのママの一人でアニエスママです」
「ママ!れーねしあです!よろしくです」
「ごめんちょっと理解が追い付けない。わたしがママ?まだ十四で結婚も妊娠もしてないのに、こんな大きな娘のママ?なんの冗談かしら?」
まぁ普通はこうなるだろうと、逆にユフィたちの順応が早すぎる気がしたので、おかしいのは自分ではないかと思っていたがやっぱり正しかったのだと思ったが、よかった、そう思い内心でギュッと拳を握ってガッツポーズをしていた。
するとレイネシアがうるうるした眼で困惑しているアニエスを下から覗き込む。
「ママ、れーねしあのママいやなの?」
「わたしはレイネシアのママよ」
アニエスはレイネシアの泣きそうな顔を見て一瞬でノックアウトされた。
例え初めての子供がすでに大きかろうと、例えその正体が聖剣だろうとも、娘を笑顔に出きるのならばなんでも受け入れる。
なぜかって?それは自分がこの子のママだから!
アニエスもその言葉を聞いてレイネシアがパァ~っと満面の笑みを浮かべながらアニエスに抱きついた。
「ママ!だぁ~いすき!」
「ママもレイネシアが大好きよ」
娘に大好きと言われたアニエスは、尻尾が千切れるのではないかと思うほど高速で左右に降っている。
「あぁ~!ずるいです!アニエスさんとラピスさんだけママって、レイネシアさん!ノクトママって呼んでください!」
「……ダメ。次は私がレイネシアにママって呼んでもらう。ほら、レイネシア、ママってよんで」
「あっ!ずるいですよ自分も呼んでもらいたいです!レイネシア!リーフママですよ」
「ちょっと~、私だってママって呼んでもらいたいの~!レイネシアちゃん!ほら、ユフィママだよ~!」
「あぁ~ん!ずるいです!わたくしももう一度ママと呼んでくださいまし!」
なんだかレイネシアを巡ってママ呼び争奪戦が行われている光景を見ていたスレイは、ちょっとした疑問を口にした。
「しかし、ゲートを使えないアニエスがどうしてこっちに?」
「私がみなを連れてきたんです」
その声を聞いて振り返ったスレイたちはヴァルミリアと、その手に引かれているヴァルマリアの姿を見てその後ろにスーシーとどういうわけかクレハ、そしてユーシス陛下とセレスティア王妃までいることに気がつき、レイネシアが反応したのはやはりユーシス陛下だったかと思っていた。
「スレイくん、それにユフィくんたちも目が覚めたみたいで良かったよ」
「みなさん、この度はどうもありがとうございました」
「うむ。このような場所で済まないが、まずは礼を、この度は感謝してもしきれない。本当にありがとう」
「陛下、王妃も頭をお上げください!?」
ユーシス陛下とセレスティア王妃が一緒に頭を下げる。
ロイヤル一家に頭を下げ指すなど恐れ多いので、スレイはどうにか二人に頭を上げさせようとしたが、そんなことお構いなしにクレハがレイネシア争奪戦をしているユフィたちの方に向かっていった。
「みなはん!うちの旦那はんは無事なんかぇ!大怪我をなはったと聞いてうちはもう心配で心配で胸がはち切れんおもぉとったんどす!!」
「……ん。ちゃんと無事、あっちの部屋でみんなでごはん食べてる」
「ライアはん!おおきに!」
ライアにお礼を言ったクレハが一目散に目的の病室へと走っていくのを見送ったユフィたちの元に、スーシーとヴァルマリアがやってきて初めて会うレイネシアに興味津々のご様子だったが…………
「だれでもいいからこっちも手伝ってよ!?」
一人で二人の説得をするの無理だと思っていると、ヴァルミリアが二人に言ってもらった。
「お礼を言いに来たのに困らせてどうするのですか?」
「いや。面目ない」
「そうでしたわね。ところでソフィア?いつまでそうしているつもりですか?ちゃんとスレイくんたちに挨拶をしなさい」
セレスティア王妃が曲がり角の方へを見ながら名前を呼んだのだが、ソフィアとはいったい誰なのなのかそう思っていると、出てきたのはゾーイだったが良く見るといつのと違った。
性格には服装はいつのと同じなのだが、今まではどうやって隠していたのかその胸部には立派な小山が二つ連なり、短く切り整えられた髪には小さな髪止めがされ、顔にはうっすらとだが化粧が施され口に塗られたグロスが妙に艶かしい。
今までは中性的な美少年のようにも見えたが、今のゾーイは男装の麗人と言った方が正しい。
「やっ、やぁ!スレイ!きっ、昨日ぶり………だね」
「あっ、あぁ。うん。そうだねゾーイ………じゃなくて、ソフィアだったけ?」
「うっ、うん。そう。ぼくの本当の名前」
昨日あんなことがあった手前、なんだか気恥ずかしさを感じながら話をしている二人を見ながら、ユーシス陛下とセレスティア王妃が微笑ましそうに笑っている。
「さて、君たち二人の青春を邪魔するには忍びないが、少し私の話を聞いてもらえるかね?」
ユーシス陛下の言葉を聞いてスレイたちは真面目な話だと思い、ここではできない話だからとこの病室を引き払い以前使っていたあの屋敷に移動することとになったが、怪我人の移動はいいのかと思ったが、どうもヴァルミリアの生き血によって全員怪我が治ってるらしい。
ユーシス陛下の話とはスレイたちが眠っている間に起きたことについてだった。
デボラ・アルメイア、並びにボルディア・アルメイアが全世界へと仕掛けようとした戦争は、その首謀者である二名が死亡したことを国王ユーシス・アルメイアによって全世界に向けて伝えられた。
これによって、全体陸を巻き込もうとした第二次大陸間大戦は開戦するまもなく終戦を迎える結末となった。
だが、首謀者である両名による各国首脳の人質にしただけでなく、複数の国では死傷者が──心滅の首輪を無理にでも解こうとした結果で──出ていたこと、そして五大陸を巻き込んだ戦争を引き起こそうとしたことについてアルメイア王国は各国から糾弾を受けることとなった。
世界に向けての報道後に開かれた大陸間会議ではその事後、国王ユーシス・アルメイアは各国からの要求をいくつか受ける結果となってしまった。
まずは実質的な被害を受けていなかったドランドラを除いた東方大陸の五つの国に対しては、アルメイア王国が保有している採掘資源の一割とが賠償として支払われ、死傷者を出してしまった国に対しては向こう数十年、あるいは百年単位での賠償金の支払いが義務付けられる結果となった。
実質的な被害を受けなかった国からは上記の要求以上のことはなにもなかったが、一国だけ自らこの戦争へと介入をしようとしていたベルセルガー帝国からは、アルメイア王国が不当に保有し続けている聖剣ソル・スヴィエート及び、その担い手たる異世界人の引き渡しが要求されたのだが、これについては各国からの総スカンをくらっただけでなく、ベルセルガー帝国が自らの野心から戦争への介入を決めたことを受け、四十年前の戦争で生じた各国への賠償金の額が跳ね上がったらしい。
この分では数年以内にベルセルガー帝国の名前が、この世界の地図の上から完全に消え去るのも時間の問題ではないかと、誰しもがそう思っているのだった。
次に街についてはと言うと、使徒との戦いで破壊された倒壊した建物の瓦礫の撤去作業から復興作業に、家を失った人々への炊き出した仮設住宅の建築など、数ヵ月の単位での復興が必要な損害を受けていたのだが、事情を知っているマルグリット魔法国のクライヴ陛下から派遣された魔法建築士や、使徒の襲撃に備えるべく国の結界強化のための魔導師の派遣などを即座に行ってくれたお陰か、以前のマルグリットの時のように………とまではいかなかったが、たった数週間で街は復興を遂げる予定だ。
最後に異世界から呼び出され、聖剣ソル・スヴィエートと担い手として勇者と祭り上げられていた佐伯 劉鷹を含めたクラスメイト二十人の処遇については、もとの世界への帰還させる方法が見つかるまでの間、アルメイア王国での預かりとなることが決まったが、これについては女神アストライアが完全に力を取り戻したのちに必ずもとの世界へ戻すことを誓った。
「っと、これが今朝から先ほどまでに開かれていた大陸間会議での話になりますね」
「不謹慎かもしれないが、ことの大きさから考えても、たったそれだけでの賠償問題で済んで良かったとしか言いようがないな」
「えぇ。本当にそうですね。ことと次第によっては四十年前の帝国と同じ末路をたどる可能性もありましたし」
「各国からすれば、アルメイア王国は伝説の勇者が作りし国、あのようなことがあったがこの国の経済効果は計り知れませんからおいそれと国土を要求はできないのだと思われます」
国の賠償問題に対しては仕方がない話だと思っている一方で、スレイは帝国から聖剣と勇者の引き渡し──今回要求されたのは異世界のだが──を求めらたことを聞き、すこしだけ気を付けておいた方が言いと思った。
「さて、次だが、ここにいるみなには感謝してもしきれない恩が出来てしまった。こんなことでは返しきれるとは思わないが、この場にいる全員に勲章の授与を考えている」
「うふふっ、その話やったらうちの国でも出てるで?まぁ、旦那はんへの報酬はうちの全てを受け取ってもらうさかい、ちゃんとお母様のお許しも得てもうてるやよ」
「………もう、何を言っても無駄な気がしてきたんだが、取り敢えず最低でも五年は勘弁してくれ」
もうクレハを留めることが実質的に不可能だと諦めかけているユキヤがそこにいた。
「ほぉ、魔王殿にはワカバ様のご息女を、でしたら私どもも娘を勇者殿に差し出す必要があるかな?」
「あら?いいですわね陛下!」
「はぁっ!?」
「ふへっ!?」
とんでもないことを口走ったユーシス陛下とセレスティア王妃に対して、スレイとゾーイ改めソフィアが同時にすっとんきょうな声を上げた。
「いや、あの陛下!?ボク平民ですけど!?身分違いですって!?」
「ちちっ、父上も母上も何言ってるのさっ!ぼくはスレイとそんな」
「あらあら、そんなこと言ってジュリアちゃんとマリーちゃんから聞きましたよ?二人が抱き合って熱いキスを交わす仲だって」
「ちょっと母さん!?何口走ってんの!?ってか、なんか家の母と義母がいつの間にか王妃がフレンドリーになってるのはなぜ!?」
実は馬車の中で仲良くなりました等とは言わない母親たちであった。
「なに、身分の差など気にせずともよい。それとも娘では不満か?」
「いやそんなもとはないですよ!?一緒にいると楽しいですし、さっき会ったときも一瞬眼を奪われるくらい可愛かったですし」
「すっ、スレイ………さすがのぼくも恥ずかしい」
必死な弁解がソフィアを恥ずかしがらせてしまったことに気がついたスレイも、なぜかつられて赤くなっていた。
「両人とも問題はなさそうだし、君の身分についても問題はないよ。クライヴとも話してな、君には子爵の爵位を与えることとなった。もちろんフリードくんのアルファスタ男爵家からは独立という形を取らせてはもらうが、跡取りの件は君の弟がいるらしいから問題はなさそうだしね」
「クライヴ陛下ぁ~!今度ベルト壊したら金取ってやる!」
自分の住んでいる国の国王への仕返しで金をせびろうとしているスレイ、そこにフリードが小さくこんなことを呟いていた。
「くそっ、スレイが爵位を押し付けると言うオレの壮大なプランと、ジュリアさんと子供たちとのラブラブ隠居生活が白紙に」
人の預かり知らぬところで変なプランが進行していたことにすれいは驚いた。
「フリードさんたら、恥ずかしいからこう言うことは言わないで」
「陛下、その爵位謹んで拝命いたします。あんないわく付きの領地要らないので」
「お前!家の領地が要らないのか!?」
「いるか!死人が徘徊してた領地なんぞいらん!ってか親戚に明け渡すって話しどこ行った!?」
「そんなもの早々に断られたは!親父のせいで!!」
「あのジジイマジでぶっ殺す!!」
スレイとフリードが怒りを露にしながらバン・アルファスタ殺害計画について話し合いを始める。
やはり毒殺か暗殺か、その後の死体処理はどうするか、
「うん。まぁ、君が娘をもらってくれないとなると、この先あの娘の嫁ぎ先が見つかるかどうか………災厄の場合は行き遅れになる可能性はあるかな」
「こう育てた私たちから言うにもあれですが、淑やかさとは無縁の育て方をしてしまいましたから、このままでは四十歳以上歳上の人に嫁がされる可能性もあるわね。それか変態貴族のところにでも」
「ちょっ、父上も母上も本気で言ってるの!?」
自分の親に変な嫁ぎ先をあてがわれるかもしかしたら行き遅れると言われたソフィアは、さすがにツッコミをいれたくなった。
そして件のスレイは王家から婚姻を結ばなければこうなる未来があるぞと脅されていた。
「いや、でもですね、もうすでに六人も婚約者がいるわけですし」
「いいよ。取り敢えずあと二人までなら。ねっ、みんな?」
「えぇ。自分はソフィア殿の気持ちも聞きましたし」
「わたしもソフィアさんなら大丈夫です!」
「……ん。歓迎する」
「よろしくお願い致しますねソフィアさま!」
「こいつの嫁はちょっと大変だけど一緒に頑張りましょうね」
「おねえちゃんもママになるの?」
ユフィ、リーフ、ノクト、ライア、ラピス、アニエスの順でソフィアの嫁入り大歓迎ムード、そして首をかしげながらも瞳はキラキラさせながら期待に満ちているレイネシアを前にしてスレイは何も言えなくなり、ついでにニヤニヤとこちらを見ている両親や友人たちを、いったいどのタイミングで叩き出そうかと割りとマジで考えている。
「決まりのようだね。娘を頼むよ」
スレイの見方は一人もいなかった事実に肩を大きく落としながらも、ソフィアの気持ちも知っているしスレイもソフィアのことが嫌いでもない。そもそも友達感覚で接っせられるのもあってからかなり好きだ。
「さぁ、早くいつもの出して出して!」
「ユフィさま、それではスレイさまがいつでもどこでも求婚するような人みたいですよ?」
「まぁ、あながち間違ってない気もするわね。わたしとラピスに同時に渡してたし」
「それでしたら私とノクト殿もですから、一人に対して渡してませんね」
「確かに………今のところユフィお姉さんとライアさんだけですね」
取り敢えずユフィたちは無視しながらスレイは残っていた腕輪の一つを取り出す。
「なんだか、毎度説明してるんだけど、故郷の風習で婚約の証しなものなんだけど、受け取ってくれるかな?」
「こんな男みたいなぼくだけど、末長くよろしくスレイ」
「こちらこそよろしくソフィア」
なんだかムードも何もないプロポーズだったが、これもある意味自分たちらしいかと思いながらスレイはその祝福を受けている。
「良かったじゃねぇかヒロ、また嫁さんが増えて」
「うるせぇよユキヤ!お前も似たようなもんだろ!」
「うぐっ、それを言うな」
ユキヤが自分の言ったことに対して盛大なブーメランを食らっていると、意を決したかのように立ち上がったミーニャが緊張した足取りでユキヤの前に行くき、大きな声で名前を読んだ。
「どっ、どうしたんだよミーニャ?」
「あっ、あの………わっ、私、ユキヤさんのことが──」
「ちょいと待ちなはれ!あんさん、うちの旦那はんに何を言うつもりなん?」
「邪魔しないでください!一世一代の告白なんですから!」
「告白やと!?うちが絶対に許しません!」
「いいじゃないですか!私の初恋なんです!けじめをつけさしてください!!」
「せやったら、うちかて初恋や!」
ミーニャとクレハが言い合いをしている横でスレイはユキヤにニッコリと微笑みながら、お前あれどうするんだ?うちの妹泣かしたら殺すぞ?っと無言の圧をかける。
「俺、一応、スズネとレティシアと付き合ってるんだが………」
「ボクも七人目の婚約者ができたところだし、三人くらい増えても良いんじゃないか?」
「あのなぁ、姫に手を出したら社会的に死ぬは!ってかあと一人誰だよ?」
「トキメさん。トキムネさんも言ってたし」
「んなもん冗談だろ?第一、本人の意思をだな」
「拙者は構わぬでござるし、正妻殿と第二婦人殿の許しも得てるでござるし」
「スズネ!?レティシア!?何許可してんだ!?」
「二人ともいい娘だし、ユフィじゃないけど家族は多い方がいいわ」
「そうじゃな。妾も一人が長かったからのぉ」
幼いときに家族を失ったアカネとレティシア、二人の気持ちもわかるユキヤは
「わかった……取り敢えず、ちゃんとみんなで話し合おう」
結局その後、押しきられる形で三人と交際することになり、その日の夜に有り合わせの食材やらを集めレイネシアの歓迎会件、スレイの婚約とミーニャの初の彼氏誕生に盛り上がったジュリアにより、小さなパーティーが開かれたのであった。
その日の深夜、スレイはレイネシアとエンジュが眠ったのを確認してからユフィたちとヴァルミリアと話し合いの席をもうけた。
その内容はもちろんスレイが勇者レオンの転生者であった事実についてで、それを全て話し終わった後みんなは一様に顔をしかめている。
「ぼくとしては、スレイとユフィが別の世界からの転生者でラピスが街を襲った使徒だったって知っただけでも驚いたのに、さらにぼくのご先祖さまの転生者って………ここ笑うところかな?」
「うん。もう笑えば良いんじゃないかしらねこれ?」
「こういうときどうすれば良いのか、さすがに自分にもよくは分かりません」
「……ん、確かに」
「ですよね。わたしもよくわからないです」
ソフィア、アニエス、ライア、ノクトの四人が染々とそう話しているのを見ながら、平然と話してはいるもののスレイも内心ではみんなと同じ気持ちなのでもう笑いたい。
「ヴァルミリアさま知ってたんですか。スレイくんが勇者レオンの転生者だって」
「えぇ。始めてあったときに………それにあの娘、マリアも直感でスレイがレオン、つまり自分の父親の転生者であったことに気付いていました」
なるほど、だからヴァルマリアがなつくわけだ。そう思いながら納得していると、ヴァルミリアが今度は後ろで腕を組みながら話を聞いていたユキヤの方へと視線を向ける。
「それにあなたもそうですね。魔王デュークの転生者」
「はっ?」
すとん虚な声を上げているユキヤに、今度はアカネとレティシアが訪ねる。
「私たち、あんたからはそんな話し聞いてないんだけど?」
「マジでか、妾の旦那さまがご先祖さま?マジで冗談かえ?」
「いや、俺も始めて知った………はっ?マジか?」
「おぉ~いユキヤ~。お前語彙が残念なまでに退化してるぞぉ~」
同じくらいショックな感じのユキヤにそう言っているスレイだったが、ユキヤがおもいっきりスレイの頭を叩いたため二人は取っ組み合いの喧嘩を始める。
するとノクトが持っている結晶のペンダントが光ると、霊体のアストライアが現れる
『ヴァルミリアから話しは聞いたのですね』
「えぇ。取り敢えず詳しい話しなんかを聞きたいんですけど」
『そうですね。それでは』
アストライアが話してくれたのはスレイたちが考えていた通りのことだった。
突如無数の世界を破壊し始めた神を止めるためこの世界に降り立ったアストライアは七百年前、勇者レオンと魔王デュークそして賢者エデンを初めとした仲間と共に神へと戦いを挑み、神を消滅寸是まで追い詰めることができたが結果は負けてしまった。
神は自分に牙を剥いた人を滅ぼすべく使徒を使わしそしてこの世界を滅ぼそうとした。だがそれを勇者たちは退けたが、人々は希望を求めていた。
だから魔王デュークは自身が悪となり勇者レオンに撃ち取られることを選んだのだと言う。
『戦いを迎える前日。私は彼らから自分の魂を二つに別け、こことは別の世界へと送ってほしいと頼まれました。もしもの時の保険として』
「保険?いったいなんのですか?」
『あの者を倒すためのです』
アストライアの鬼気迫るその迫力にスレイたちは思わず後ずさるなか、素朴な疑問を感じた……ッと言うよりも、詳しい事情をいまいちよく知らないソフィアがある疑問を口ずさんだ。
「ちょっと質問なんだけど、そもそもなんでアストライアさまはその神と戦うことになったの?」
「それは確か、お兄さんとユフィお姉さんがいた世界をその神様が滅ぼしてそれでこの世界に………あれ、でもそれじゃあ」
「ん~?あれれ、前に聞いた話しと食い違うような………」
ソフィアに説明しようとしたノクトがいまの話しとの食い違いに気付き、それにユフィも同じように気がつくとみんなの中で緊張が走った。
信じていたアストライアが敵だった、そんな考えがみんなの頭の中を過るなか、ユキヤが黒刀取り出しその切っ先をノクトの持つ結晶に向ける。
「女神アストライア、返答次第ではあんたの入っているその結晶を砕く」
これの返答次第ではスレイたちも今この場でアストライアと戦わなければならなくなる。
ゴクリと生唾を飲み込んでいるスレイたちに向かってアストライアはその頭を下げる。
『すみません。私はあなた方に一つ嘘を付いていました』
「それは、なぜですか?」
『信じてもらえるかは分かりませんが、あのときはスレイに真実を教えてはいけない理由があったのです』
「ボクにですか?」
『えぇ。それはあんたにレオンの人格を呼び覚まさせないためです』
「……ん?なんで?」
『もともとレオンとデュークの魂を転生させる際、私は彼らの記憶と人格を封じたまま転生させました。でなければ一つの身体に複数の人格を有してしまい、少しのきっかけで精神が崩壊してしまう危険があるからです』
「それってつまりは多重人格みたいなものですか?」
『えぇ。その通りですが、私はあなたちをこちらに呼び戻す際に問題が起きました』
「問題とはなんなのじゃ?」
『あの者が力を取り戻すのが予想よりも三百年ほど早く、この世界よりも最も遠い場であるはずも地球から二人の魂を見つけ、あの世界を破壊したことです。その際にレンカの魂をあの者に捕らわれ、私はスレイの魂にあるレオンの魂の封印を半端な状態で解除し転生させざるをえませんでした。そのため、あのときはどんな些細なきっかけで記憶が蘇りでもするかわからず、嘘を付くしか有りませんでした』
確かに事情が事情なので責められないところだが、今の話を聞く限りではもうその心配は要らないのかもしれない。
『これの短い間ではありますが私があなたたちの側にいてわかったことです。どういうわけか今のあなたたちはレオンとデュークの人格が混ざり有った状態だと言うことです』
「つまりボクはスレイでありながら同時にレオンでもあるってことですか?」
「んだそりゃ?俺は俺だぞ?こいつもヒロのままだ、変わってねぇよ」
「そう、だよね?二人ともあっちと変わらないし」
地球での二人と知っているユフィがそう言うと、アストライアが小さく首を縦に降った。
『これは憶測でしかありませんが、私は彼らを転生させた際に残りの半分の魂を新たに作りましたが、たぶんそのときからあの二人の魂と新しく作られた魂が融合し、今のあなたたち人格を形成されたのだと思います』
「じゃあ、元からレオンとリュークの人格を持ってたってこと?」
『えぇ。なのでこちらに戻す際に封印不完全解いても人格が崩壊も起きず、平気であると確信しました』
なんと言うか、もう本当に笑うしかなくなってきたと感じたスレイたち。
「もう訳がわからねぇ。おいヒロ、テメェの持ってる酒で度数の高いのよこせ。こんなん酔わねぇとやってられねぇって」
「今回ばかりはボクも呑みたい。ウォッカでいいか?」
本当に酒盛りを始めようとしている二人の横で最後にユフィがアストライアに訪ねる。
「あの、前にも聞いたんですけど、私がこの世界に来た理由って」
『その理由は代わりません。あなたとスレイが強く引かれあったから、私はあなたをこの世界に呼び寄せたのです』
「そっか………そうなんだ………うん、ありがとうございます」
小さく首を横に振っていた。
『本当にその言葉を伝えなければならないのは私の方です。ありがとう、こんな私のことを助けてくれて』
アストライアの泣きそうような笑顔を見てスレイたちは小さく笑ったのだった。
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