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忘れていたことと、その代償 ②

本日二話目の更新です。

 家の中に入った瞬間鳴った火薬が弾ける音、そして、その後に続いて降り注いだ紙吹雪と紙テープ、その後に聞こえてきた、祝福の声、唐突のことに驚き固まっているスレイとユフィ、他のみんなは顔を見合わせてどうかしたのかと思い、二人のもとにフリードが近づく。


「なに固まってんだスレイ、それにユフィちゃんも」


 背中を叩かれてようやく正気に戻ったスレイは、目の前に集まっていたのか家族に訪ねる。


「え、いや……誕生日って誰の?」


 その問いかけにフリードたちは口々に答える。


「誰のってお前とユフィちゃんの」

「もしかしなくても、忘れてたの?」


 フリードがスレイとユフィを順に指差し、ジュリアが疑問を口にしたところで二人は、ようやく今日の日付と自分達の誕生日を思い出した。


「「あ、そう言えばそうだった」」


 二人が声を揃えて言うと、みんなが呆れたようにため息をついた。

 去年はスレイが居なかったせいで、一緒に祝わうことをしなかったせいですっかり忘れてしまった。

 いつまでも玄関先で駄弁っている訳にもいかず、みんな揃ってダイニングに移動すると、テーブルの上には豪華な料理が大量に並べられていた。


「すごい料理、母さん張り切りすぎじゃない?」

「ふふふっ、去年はお祝いできなかったからね、今年は二倍よ」

「ありがと母さん」

「良かったねスレイくん」

「うん」


 早速座って料理に手をつけようとした二人だったが、そこに待ったをかける人物がいた。


「スレイ、ユフィ、まずは手を洗い服も着替えてきなさい。せっかくの主役が台無しですよ?」


 座ろうとした二人に待ったの声をかけたクレイアルラ、二人は自分の服を見下ろすと、丸一日外で片付けにいそしんでいたせおで、所々土がついていたり、スレイに至っては魔物の毛がついている。


「そうね、二人ともせっかくのパーティーなんだから着替えてらっしゃい」

「今日のためにユフィちゃんに新しいお洋服用意してるわよぉ~」


 二人の背後に回ったジュリアとマリー。


「ちょ、ちょっと母さん!?」

「お、押さないでよ、自分で歩けるよ!?」


 スレイとユフィは自分の背中を押してくる母親に抗議の声をあげる。


「「いいから、いいから」」


 母親二人が声を揃えて言い、二人を二回の部屋へと連れていく。

 その光景を黙って見ていた者たちは、なぜだか、とっても嫌な予感がしたそうだ。


⚔⚔⚔


 ジュリアとマリーの二人が、スレイとユフィの背中を押し二階の部屋に連れていった。


「じゃあ着替えたら降りてきてね」

「遅くなっちゃダメよぉ~?」


 手を降りながら扉を閉めるジュリアとマリー、だが


「待て待て待て待て待てぇぇぇぇ!!何してくれてんすかあんたら!?」

「お母さん!?おばさん!?イタズラはやめてくださいよ!?」


 なぜか母親二人に一部屋に閉じ込められたスレイとユフィ、何とか部屋を出ようと扉のノブを回し、ガタガタッとどれだけ回して引いてみるが、どれだけノブを回してもどれだけ引いても扉は開かない。

 不振に思ったスレイが魔力を流してみると、扉を覆うように術式が浮かび上がった。


「あ!なんか術式書き込まれた!!」

「これ、空間固定の術式だよ!?」

「なに考えてんだあの人たち!?こうなったら、ユフィちょっと離れてて」


 瞬時に魔力と闘気で強化したスレイは、少し助走をつけて扉をぶち破るべく拳を振うと、扉に拳が触れた瞬間、空間固定の術式とは別の術式が浮かび上がり強い衝撃がスレイを襲った。


「ガハッ!?」


 部屋の端まで飛ばされたスレイは、背中を強く打ち付けた。


「スレイくん!?大丈夫!?」

「な、何とか……クソ、リフレクションまで書き込んである」


 リフレクションとは物理攻撃をそのままの勢いで反射する魔法だ。


「ホント、いったい何したいんだろ?」

「わからん……取り敢えずディスペル出来ないか試してみるか」


 ディスペルとは、術式の効果を打ち消すアンチマジックだ。


「ってな訳で先に着替えてて」

「うん、わかった──ってここで!?」


 顔を真っ赤にしたユフィがスレイのことを見る。


「この魔力量だと一時間は閉じ込められるからね、大丈夫後ろみないから」

「むぅぅ~、後ろみたらお嫁さんにもらってもらうからね?」

「はいはい、嫁でも何でももらってあげるから、早く着替えてね」


 扉の前にあぐらで座ったスレイ。


「その言葉忘れないでね」

「了解だよ……ってか前にボクの前で脱ぎ出したの誰だよ?」


 小さくぼやきながらスレイは扉に触れ、魔力を流して術式を浮かび上がらせる。


「さて、やりますか!」


 袖を捲りながら術式の解除に取りかかるスレイだった。



 ──ふふふっ、お母さんこのためだったんだね。



 コートとシャツ、それにスカートを脱いだユフィは下着姿のままスレイのベッドの上に腰を下ろした。



 ──ふふふっ、言ってみるもんだね、さぁ、スレイくんこっちを見て、さぁこっちを見なさい!



 満面の笑みを浮かべながら、必死に扉の魔法を消し去ろうとしているスレイを見ている。



 ──五分後



「あれ?おっかしいな……あ、こっちか」



 ──まだなの?まだなのかな?



 ──十分後



「ふぅ……ようやく魔力が消せたか」



 ──ねぇまだなのかな?さすがに寒いよ?



 ──十五分後



「これで後はリフレクションだけか」



 ──ねぇもう服着たよ?何でこっち見てくれないの?



 ──二十分後



「終わったぁ~、あぁ~、何で今日はこんな疲れることばっか──って、うをぉ!?」


 扉の魔法をリスペルし終えたスレイは大きく伸びをしようとすると、後ろから突如伸びた手がスレイの頬を挟み込むとグリンッと振り向かせると、そこには目の座ったユフィが立っていた。


「…………………………………」

「……………………え、ユフィ?……な、なに怒ってるの?」


 ただただ睨まれるだけのスレイに、ユフィはたじろいでしまう。




「すぅ~…………っ、スレイくんの、バカぁぁぁあぁぁぁあっぁぁぁッ!!」



 スレイの耳元で叫んだユフィは、バタァーンッと大きな音を鳴らして扉を閉めると、ドタドタと大きな足音を鳴らして降りていった。

 そして、部屋に取り残されたスレイは、


「え、え?……なんで?」


⚔⚔⚔


 怒り狂ったユフィのお陰でなんとも気まずいパーティーが終わった。

 チラチラとお茶を飲むユフィを見ているスレイ、そこに左右から母親二人が訪ねる。


「スレイちゃん、あなたいったいなにしたの?」

「なにもしてません」

「あそこまで怒っているユフィを見るのは初めてですが、ホントに何もしてなんですか?」

「なにもしてません」

「おかしいわねぇ~、ならなんでユフィちゃんはあそこまで怒ってるのかしらねぇ~」

「ホントに何もしてませんって!ってか、こうなったのも母さんたちのせいな気が?」


 呆顔のジュリアと、ひきつった顔を浮かべるクレイアルラ、笑ってるが確実に怒り狂っているマリー、そして母親二人のことをジと目でみるスレイ。


「あ、そういえば、ディスペルする前にユフィになにか言われた気が……あれ?でもなんて言われたんだっけ?」


 思い出せないスレイは、まぁいいか、と言ってお茶を飲んでいると、パーシーがうとうとしだし船を漕ぎ出したのを気にお開きとなった。



「ごめんね家の子のせいで」

「気にしないでぇ~、家の子もこんなんだからぁ~」


 母親二人が子供を見ながら話している。

 結局最後までユフィの機嫌は収まらなかった。

 それどころか終始無言だった。


「またね、ユフィちゃん」

「早く機嫌直しなよユフィちゃん」

「はい、おばさん、おじさん、おやすみなさい……じゃあねスレイくん」


 突き刺さるような視線を受けたスレイ。


「あぁ…………その、ごめん」

「ふん!」


 全くもって取り合おうとしないユフィ、その姿にスレイはガックリと肩を落とした。


「じゃあ、おやすみなさい」

「またな」


 ゴードンとマリーが出ていき、その後ろをユフィも出ようとした。


「ごめんユフィ、ちょっと待って」


 スレイはユフィを呼び止める。その行動にフリードとジュリア、それにゴードンとマリーは、これからスレイが何をするのかを見守っている。

 呼び止められたユフィは、不機嫌な顔のまま訪ねる。


「なに?」

「あぁ~………えぇ~っと」


 スレイはユフィのことを見ながら言葉を選ぶ。


「実を言うと、なんでユフィが怒ってるのか皆目見当がつかないんだ」

「ふぅ~ん、そうなんだぁ~」


 スレイの言葉にユフィは怒りながら答える。

 そして親たちはというと


 ──スレイ、お前には女性への接し方を一から教えなければいけないかもしれないな


 ──スレイちゃんには女心をしっかりと教えてあげないといけないかしら?


 とフリードとジュリアが思い。


 ──このガキいっぺん殺すか?


 ──あらあら、今度一回スレイくんとお話ししなくてはいけないかしら?


 殺気をみなぎらせているゴードンとマリーだったが、スレイの話はここでは終わっていない。


「見当はつかない……でも、どうせボクがいけないんだよね……ユフィの話しをちゃんと聞いてなかったから」

「……………………………聞いてなかったの?」

「うん……どっかの誰かさんが仕掛けた魔法を解除するのに集中してたから」


 スレイが後ろにいるジュリアのことを見ると、ジュリアはササッと視線を反らし、ついでにユフィもマリーのことを見ると、マリーも同じように視線をササッと反らした。


「人のせいにするつもりはない、聞いてなかったボクが悪いんだ。本当にごめんなさい」


 頭を下げる。

 心のそこからの言葉と誠意を込めて、その言葉をユフィに告げた。


「…………………………………………………」


 ユフィは頭を下げたスレイのことをジッと見ていた。

 なんとも言えない長い沈黙が流れた。


「…………ふぅ~もういいよ。顔あげてよスレイくん」

「……………うん」


 ユフィに言われてスレイは顔をあげる。


「元々はお母さんたちのイタズラが原因だし、あんなことで叶えてもらっても嬉しくないもんね」


 申し訳なさそうな顔で答えるユフィ、その顔にはもう怒りは孕んでいなかった。


「ありがとうユフィ」


 これでみんなが丸く収まった、そう思ったのだが、


「えっとそれでなんだけどユフィ……」


 まさかの、まだ話しを続けるスレイにみんなは揃って耳を傾ける。ようやく収まったユフィの機嫌が、再び損なわれないようにするためにだ。


「今日は、ユフィにいっぱい迷惑をかけたし、せっかくの誕生日パーティーなのに怒らせもした」

「うん。そうだね」

「それでなんだけど、お詫び……じゃないな、お礼……でもないし……うん、そうだ。誕生日プレゼントだ、受け取ってもらえるかな」


 スレイは空間収納の中から取り出したそれを、ユフィの前に差し出すと、ユフィはそれを両手で受け取ってそれを目の前に持っていく。


「…………腕輪?」


 スレイが渡したのは銀色に黒いラインが入った、シンプルなデザインだがそこには小さな黄色い石が埋め込まれていた。


「これって、スレイくんがしてるのと同じもの、だよね?」

「あ、一応はめてる魔石は違うけど……もしかして、別のが良かった?ならちょっと待って」


 空間収納を開いたスレイは、その中に手を入れて違う腕輪を取り出そうとしたが、


「うぅん、違うの!スレイくんとお揃いの物が貰えてうれしいの」

「そっか、喜んで貰えてうれしいよ」


 頬を赤らめて喜ぶユフィ、それを見ながらうっすらと笑みを浮かべるスレイ、だったが、なぜか回りの親、特にゴードンが騒ぎ──暴れ──だしたため、スレイとユフィは揃って首をかしげていた。


⚔⚔⚔


 次の日の朝、その理由がわかった。


「スレイ、聞きましたよ。あなたユフィに告白したそうですね」

「……………………はい?」


 それは昨夜、ミーニャとリーシャの面倒を見てそのまま泊まっていったクレイアルラからの言葉だった。


「あら、違ったのですか?」

「いや、あの、えっと……先生、それどういうことですか?」

「?」


 小首をかしげるクレイアルラだが、今一番それをやりたいのはスレイだった。


「ジュリアから聞きましたが、ユフィにお揃いの腕輪をあげたんですよね?」

「はい、でもそれがどうして告白に繋がるんですか?」

「…………もしかして知らないんですか」


 驚いたように告げるクレイアルラ。


「この国ではカップルや夫婦、それに婚約者同士で同じ装飾品をつける習わしがあるんですよ。確か、カップルならネックレス、夫婦なら指輪、そして婚約者なら腕輪……だったかしら?まぁそこはおいておいて、これはかなり常識的なことですが……まさか、本当に知らなかったんですか?」


 話しを聞いているうちに、スレイの顔は熟れたトマトのように真っ赤になっていき、途中クレイアルラが口にした婚約者のところから赤ではなく、真っ青に変わっていった。


 ──い、今の話がホントなら……やっべ、告白にすっ飛ばして婚約者になってしもおたわ……


 なぜかエセ関西弁で心の中で突っ込みを入れていた。

このあと、一時間後にもう一話更新します。

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