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新たな希望 ②

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 深い闇の中に飲み込まれる感覚に襲われたスレイはしばしの間その中でもがき暴れていたが、結局何をしても無駄だと分かると素直に諦めた。


「いつまで続くんだ、これは?」


 しばらくの間ただじっと闇の中を漂っているだけだったが突然闇の中に何か光のような物があることに気がついた。


「ん?アレは……」


 暗闇の中で見つけたただ一つ光、いつかどこかで見たことがるような優しい光でも、もしかしたらこれもレーゼスの罠かもしれない。

 だがどのみち帰り方も何もわからないこの状況で、こんな場所で足踏みしているだけではいられないスレイは覚悟を決めてその光に手を伸ばした。



 光を抜けた先でスレイは目を覚ますとそこはアルメイア王国の戦場ではなかった。

 アルミサッシの窓の外から見えるのは茜色に染まった空に、窓から下を見ると下校時間なのか制服を着た生徒たちが友人が自宅へと帰っていく帰宅の風景、そして窓に映るのは制服を着た自分の姿だった。


「なっ……えっ……」


 訳のわからない異常な光景に思わず立ち上がると同時に、ガタンと座っていた椅子が後ろに倒れて音を立てる。

 それを気にとめる様子を見せずに窓ガラスに手をついて自分の格好を見ていた。


「おいおい………いったいなんの冗談だよこれは」


 顔や背丈はスレイ・アルファスタのそれだが、着ている服は地球にいたころの月城 ヒロが通っていた学校の制服で、この部屋も通っていた高校の教室だったことをようやく思い出した。


「どういうことだ?」


 使徒の力?走馬灯?あれこれ理由を考えていると、背後からガラッと扉が開く音が聞こえ振り返った。

 人がいるならこの状況について教えてくれる、そう思ったがその顔を見てスレイはさらに驚いた。


「もぉ~。スレイくんたらようやく起きたんだぁ~?」

「昼寝なんてらしくないことするからだぞ~。どうせまたゲームで夜更かししたんだろ。なんのゲームやってたのかぼくにも教えろよ」

「全く、一年の頃からそれはいけませんよ、スレイさん。今度うちの道場でその弛んだ精神を鍛えてあげます」


 教室に入ってきたのはユフィとリーフ、それにゾーイの三人だった。

 三人とも高校の制服を着てリーフに至っては竹刀が入っている袋まで携帯しているではないか………これはいよいよおかしいと思いながらスレイは自分の頬をつねってみた。


「痛い………ウソだろ?痛みがある。ってことは、現実?」


 もはや訳がわからないこの状況に早々に匙を投げたくなったスレイは、キョトンッとこちらを見ている三人の方を見ながら、大きなため息をひとつ着いてから机の横にかけていた自分のリュックを手に取る。


「ごめんみんな、帰ろっか」


 どうなるかはわからないが、こうなったらこんな状況を作り出した存在の思惑にトコトン付き合ってやろう。

 覚悟と決めながらもと少しだけ………ほんの少しだけ憧れてしまっていたのかもしれない平和な世界での日常というものを味わうのもいいかもしれない、そう思いながら歩いていくのだった。


 ⚔⚔⚔


 教室を出たスレイは歩きながらユフィたちと話しているうちに、まるでゲームの中にでもいるかのように三人の情報?というか、設定?みたいなものが次々に流れ込んでくる。

 意味がわからない状況に別の意味で頭をいためているスレイは、ユフィたちの話に適当に相槌を打ちながら話を整理する。


 とりあえず設定道理ならば、大まかに説明するとこんな感じだ。

 家族は向こうの世界と同じ構成でユフィは同じ歳の幼馴染み、リーフは二つ上の先輩で剣道部、ゾーイはお金持ちのお嬢様だが家のしきたりで男装をしているそうだ。

 それでスレイはこの三人と付き合っているらしい。

 地球なら一発アウトの状況だがいいのかそれで?っと思っているが、設定では法律があちらの世界基準で重婚は認められているらしい。


 流れてくる情報を整理しながら帰りの電車に乗るための町中を歩いているスレイは、先をいくユフィたちの話を聞いていると、また別の声が聞こえてくる。


「あっ、兄さん」

「ミーニャ?っと、それにノクトたちも一緒か」


 妹のミーニャと一緒にいるには中学の後輩で一学年下のラピスとアニエス、それにミーニャの同級生のノクトとライアだった。

 二人とも受験生で来年はスレイたちの高校を受験する設定らしい。


「みんな今帰りなのかい?」

「はい。わたくしとミーニャさんが生徒会の仕事で遅くなってしまいまして、アニエスさんたちが待っていてくださったんです」

「わたしは別に待ってないわよ。部活の居残りしてて、そしたらノクトたち一緒になってせっかくだからみんなで帰ろうと思ったのよ」


 なんだかツンデレみたいなアニエスはおいておいて、やはりみんな出てくるのかとおもっているとライアがスレイの側にまでやってくる。


「……ねぇスレイ、お腹空いた。何かおごって?」

「ダメですよライアさん!中学生の寄り道は校則で禁止です!それとお兄さん、じゃなくてスレイ先輩のことを呼び捨てにしちゃいけません!」

「……ノクトの意地悪。スレイがダメならリーフお願い」

「いけませんよ。皆さんもうすぐ自宅でお夕飯の時間ですから、買い食いは禁止です」

「……ぶぅ~。リーフも意地悪」


 膨れるライアを見てみんなで笑っていると今度はユキヤとアカネ、それにレティシアも合流しみんなで帰ることになった。



 それからは、久しぶりに平和な時を満喫させてった。

 家族揃っての食事や雑談、友人と一緒にゲームをしたり本当はこの平和な世界が現実で戦いばかりのあの世界が虚構だったのかもしれない。

 そんなことを思いながら自分の部屋のベッドに寝転がりながら物思いに更けていると、部屋の中に突然気配が現れるのを感じた。


「ようやくお出ましか………いったいボクにこんな夢を見せて何をしようとしてるんだい?」


 起き上がったスレイの視線の先には十歳かそこらの白髪の少女が驚いた顔をしていた。


「あれれっ、おかしいな~。気配は消えるというかここでそんなものないと思ったんだけど?」

「突然視線を感じたからね。でっ、質問なんだけど。ここはいったいどこで、さっきの夢はなんなんだ?」

「ふぅ~ん、まずはそれなんだ。いいよ答えてあげる。ここは魂の世界だよ。あなたが望んでいる平和な世界の楽しい夢を見せてあげたの。面白かたでしょ?」


 要らぬ世話をする少女だと思いながらも、確かに面白く平和な世界の良い夢だったと答えたスレイは、この少女が言っている言葉にウソは含まれていない気がした。

 本当に魂だけの世界ならば、魔眼も使えそうにないのでただの直感でしかなかったが、この少女は敵ではないとおもった。

 それにたった少しの間だけだったとして、本当良い夢を見せてくれたのだからそうだと信じたいものだ。


「それじゃあ、次の質問だけど君は誰なんだ?」

「それと、わたしの正体についてはもうあなたの中で結論が出てるんじゃないかな?ウィルナーシュも言ってたし」

「なら、君は聖剣の意思なのか………でもエンジュ、魔剣の娘は君に意思はまだないって言ってたはずだけど?」

「正確に言うなら、新しい意思がないってだけ。わたしは前の戦いで消滅した聖剣に宿っていた精霊の残留思念みたいなものだよ」


 自分のことを精霊の残留思念と例えた少女が指を一回ならすと、服が元の黒いズボンとシャツ、それにコート姿へと代わり部屋が消滅しもとの闇の中へと戻ってしまった。

 だた、一つだけ違うとすれば精霊の少女の背後に大きな球状の水槽のようなものがあり、その中では少女の半分ほどの年齢とおもしき少女が眠っているのだ。


「この子が新しいわたし。なんで眠ってるかわかる?」

「いいや」

「あなたを待ってたの。レオンの想いを、願いを繋いだあなたのことを………本当はあの使徒が倒されて落ち着いてからあなたを呼ぼうと思ったんだけど、そうもしている余裕がなくなっちゃったから」

「レーゼスが聖剣である君を取り込んだせいか?」

「うん。そう。本当のここは光で溢れてる。でも今はあの使徒の憤怒の闇しかない」


 この黒い闇は全てレーゼスと、レーゼス取り込まれたフィグマーレスの憤怒の感情がここを染め上げている。


「じゃあなんでボクをここに呼んだんだ?聖剣ならボクじゃなく劉鷹を呼べばよかったじゃないか」

「それはダメ。ユタカは真の勇者じゃない。本当の勇者はあなたなの。………あなたが真にレオンの意思を継ぐものだから」


 いきなりそんなことを言われても意味がわからない。

 そもそも自分が勇者を継ぐ者だとするならばなぜあの佐伯 劉鷹を勇者に選んだのか、他にもいくつか聞きたいことがあったが一つずつ聞き出すことにする。


「ちょっと待ってくれ。ボクが君を、つまり聖剣を受け継ぐんなら今の勇者はなんなんだよ?」

「あの人は神があなたに聖剣を渡さないたために、わたしと波長の合う人を選んできたの。それが今勇者って呼ばれてたあのユタカさんだよ」

「波長?」

「うぅ~ん。何て言ったらいいのかなぁ~。わたしは魂の波長って呼んでるんだけど、あなたにわかりやすく言うとその魔眼でわたしのことみて」

「ここで魔眼が使えるのか?」

「うん。本当は使えないんだけど、今回は特別ね、それにちょっと特殊な使い方も教えてあげる」


 言われた通りに魔眼を発動させたスレイだったが、見えてくるのはノイズみたいなものが見えるだけで魂の色が見えない。

 やっぱり無駄なんじゃないかと思いながら魔眼を解こうとした瞬間、少女はスレイの方に向かって魔力にも似た力を放ち出した。


「ちょっとじっとしててね………うん。もういいよ」

「今いったいなにをした?」

「ちょっと魔眼をいじったの。今だったらわたしの言っている波長って言うのもわかると思うよ」


 そう言われてもう一度魔眼で少女のことを見ると、今度はノイズのようなものが消えてキレイな銀色の魂の色が見えていた。


「キレイな色だな」

「えへへっ、ありがとう。それじゃあ、魔眼に力を込めてみて」


 言われた通りに魔眼に力を込めてみると、銀色の魂の色が今度は小さくなっていき少女の胸の位置で小さな炎の揺らめきのようになっていた。


「みえた?わたしのここにあるそれの揺らめきが魂の波長。わたしの波長はレオンの魂の波長と同じになっているから、わたしがレオン以外に使えなかったにはそれが理由なの」

「魂の波長についてはわかったけど、どうしてボクが?」

「それは、あなたが転生者だからだよ」

「しってるさ。地球から転生したときの記憶も残ってるからね」

「違う。あなたはもっと以前にこの世界で生きていたんだよ」


 スレイが少女に聞き返そうとしたその時、頭にみたことのない光景が流れ出してきた。

 幼い少年たちが笑い成長し、あるとき女神とであった。そして巻き起こる戦乱の時記、今よりも遥か昔に起きた人と神の歴史の闇の中へと埋もれてしまったその一幕なのだと、スレイは理解すると同時に懐かしく悲しい気持ちになった。


「今のは………いったい」

「見えたでしょ?これがあなたの魂の過去」

「あぁ。懐かしく感じたし………それに、あの記憶というか映像?みたいなのに出てきたのって」


 アルメイア王国に来てから何度も目にすることがあった伝説の人々の肖像画、そして先ほど見せられたあの記憶の中に出てきた人々の顔を思い出しながらスレイは、まさかと想いながら少女のことを見る。

 すると少女スレイの言わんとすることを見ると理解したのか小さくうなずいていた。


「うん。あなたはレオンの転生者。正確にはレオンの魂の半分が転生したのがあなたなんだけどね」

「ボクが勇者レオン転生者?冗談………とは言いきれないよな。確かにさっきの記憶をみて、なつかしいと感じたのも事実だ。だけど魂の半分が転生したってのは、いったいどう言うこと?」

「それは───うん。ごめんね、時間切れみたい」


 唐突にそう言われたスレイが少女のことを見ると、その身体が光の粒となって背後にそびえ立つ水槽の中で眠っているのだ女の子へと吸い込まれているのだ。


「なっ、ちょっと君、いったいなにがどうなってるんだ!?」

「言ったでしょ時間切れだって。わたしは元々、新しく産まれてくるあの娘とそれを守るあなたが出会うまでを見守るためだった存在だもの。役目を終えたらあの娘の一部になって消えるだけだからね」


 自分のことを死んだ精霊の残留思念だと語っていた少女が、この世から消え去る瞬間を目の前にしてスレイはその顔がどこか晴れやかなものに感じた。


「………悲しくはないのか?消えることが」

「悲しいとは思わないよ。だってわたしはただの聖剣に宿った精霊。本来なら感情など持ってなかったし、それにもう死んでる身だからさ、ようやく終われるって思ってるかもね」

「そう、なのか」

「だから寂しくもないんだけど、こうしてレオンの魂を持つあなたに会えて良かった。ちゃんと未来へと繋がっていたことがわかったから」


 ニッコリと微笑みながら消えて行く少女のことをみながらスレイは胸に手を当てて感謝の言葉をのべた。


「ありがとう」

「どういたしまして」


 少女が光の粒となって消えていくのを見送ったスレイの耳元に最後に少女の言葉か聞こえてきた。


『ここを出るには、あの水槽に触れてあの娘の名前をつけて呼んであげてね』


 最後にとんでもない置き土産を残して消えていった女の子に苦笑を漏らしながら、スレイは少女の光が消えていった巨大な水槽の前にたち、その中でスヤスヤと眠っている女の子のことを見ながら名前を考える。


「そうだな………光、レイじゃ男っぽいし…………うん、よし決めた。君の名前はレイネシアだ」


 スレイが決めた名前を告げると同時に水槽の中に眠っていた少女が目を覚まし、そして闇しかなかった世界に目映い光が溢れだしたのだった。


 ⚔⚔⚔


 スレイの身体に憑依したウィルナーシュは地に伏せたみんなのことを見ながら、レーゼスの聖剣を受け止める。

 ギリギリッと受け止めた剣が悲鳴を上げる中ウィルナーシュが大きく舌打ちをした。


「我ら全員でかかってもこれとは………あの聖剣を早くなんとかしなければ」

「黙ってやてろ!クソが!!あの野郎はまだ戻ってこねぇのか!!」

「分からぬ!」


 このままではこっちが殺られてしまう、そう思ったウィルナーシュは圧されているフリードとマリーの援護に向かおうとしたその時、スレイの心臓がドクンッと力強く鼓動したのだ。

 それを感じ取ったウィルナーシュはニッと、口をつり上げるとすぐ近くで攻防を繰り広げるフリードの方へ向き直る。


「フリードの小僧!今だ!!やれッ!!」

「へっ、ようやくかジュリアさん!ルラ!マリー!ちょっとの間、頼んだぜ!」


 その言葉を聞いたフリードは暴龍の剣にありったけの闘気を流し込こみながら三人の名前を呼ぶと、膨大な闘気を感じてレーゼスがユキヤとウィルナーシュから、攻撃の目標をフリードへと変更し駆ける。


『「行かせません!」』

『「止まりなさい!」』

「やらせないわぁ~」


 接近し聖剣を振り下ろすレーゼスに対してジュリアとクレイアルラの精霊武装、そしてマリーの拳が振り下ろされた聖剣に重ねることで防いだ。


「グラァアアアアア――――――――――――――――ッ!」


 ギリギリッと三人の武器がレーゼスと一体化した聖剣に神気の輝きが纏われると、三人が放たれた神気によって弾き飛ばされる。


『「きゃあっ!?」』

『「───ッ!?逃がしません」』

「まだまだよぉ~!」


 ジュリアたちがレーゼスを追うとしたそのとき、フリードの叫び声が聞こえてくる


「待たせたな、三人ともッ!」


 ジュリアたちがレーゼスの向かっている場所の置くに、闘気を溜めた漆黒の刃を真上に掲げたフリードそこにいた。


「喰らい尽くせ暴龍の牙よ!───煌刃竜翔斬!!」


 掲げられた暴龍の剣を振り下ろしたフリード。

 漆黒の剣から放った闘気の斬激が竜の形へと変化しレーゼスの腕を噛み千切ると、レーゼスから解き放たれた聖剣が空中を舞った。


「へへっ、どう………だっ」


 千切れた腕を再生するが聖剣と繋がっていた部分は腕の形に戻らず、まるで触手のようなものへと変貌した。

 レーゼスはそれを使い闘気を使いきったフリードを凪払い、背後から近づくマリーまでも凪払うのであった。



 そして、レーゼスから切り離され空中を舞った聖剣はと言うと、ゆっくりとスレイの元へと飛んでいき、その目の前で突き刺さった。


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