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現れたるは恐怖の化身

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 剣を握りながらレーゼスと向かい合っているスレイとユキヤは、後ろにいるユフィとアカネ、そして傷付いたヴァルマリアがいる場所で戦うのはどうしても避けたいので、どうレーゼスをこの場から引き離すかを考えていると、レーゼスがゆっくりと口を開いた。


「お前たちはなぜそんな醜いトカゲを守るために、自らを危険にさらした?お前たちのその行為は全くもって理解に苦しむな」


 レーゼスの口にしたそんな疑問の言葉を聞いて、スレイたちは思わず首をかしげてしまったが、すぐにヴァルミリアの治療をしていたユフィが叫んだ。


「………なぜって、そんなの決まってるじゃない!ヴァルミリアさまは私たちの仲間で、大切な人だから──」

「アハハハハッ!そいつが人だと?笑わせるな!そいつは人でも、ましてやドラゴンでもないどっち付かずの半端で、この世で一等醜い獣だ!それこそ、あのお方がお前たち人以上の失敗作だと嘆くほどだ」

「どういう意味だそりゃあ?」

「言葉通りの意味さ………しかしあれだな、いつの時代もお前たち人間はそのトカゲに仲間だからとか、よくいえる。人でもドラゴンでもない半端で醜い存在なのになぁ」


 レーゼスのその言葉に対して意味がわからないとスレイたちは思っているなかで、たった一人、その言葉の意味を理解し、そして張本人でもあるヴァルミリアは苦渋の決断を強いられたかのようにうつむきながら、とても小さな言葉で言葉を紡ぎ始めたのだった。


「その使徒の言う通りです………私は、純粋な竜ではありません。竜であった父と人間であった母の間に産まれたなり損ないのドラゴン………いいえ、より正確に伝えるのでしたら私はドラゴニュートのなり損ないにして、竜人でもドラゴンでもない、どっち付かずの半端な存在なのです」

「どう言うことよ、それにドラゴニュートって言ったら数千年以上前にいたっていうあれじゃない」


 ヴァルミリアの口から聞かされた衝撃の真実に、スレイたちは一様に同様を隠せずにいた。


 ドラゴニュートとは別名エルダー・ドラゴンと呼ばれその姿は竜人族の姿に似ていたとされているが、一説によれば竜の姿であったとも考えられている。

 数千年前に存在したとされる体内に魔物と同じコアを持った種族だと言われ、長い歴史をかけて進化を続けるうちに体内からコアが抜け落ちた竜人族と、体内にコアを残した魔物に分類されるようになったドラゴンに別れたとどこかの学者が論文を以前読んだことがあった。

 ある論文の中ではドラゴンが百年以上を生きた成竜になると、人間の言葉を理解するまでの知性を得るのは祖先であるドラゴニュートの血の残りで有ると書かれている一方で、竜人族の角や翼等の疑似気管もまた前記のそれと同じではないかと考えられている。


「私はドラゴニュートが本来持つはずのコアを持たず、人かと聞かれたのならばそうではありません。………私はあの使徒がいう通り、ドラゴニュートでもなければ人でもドラゴンでもない醜い存在なのかもしれません」


 それを知っているスレイだったが、レーゼスの使徒特有の人を侮辱するようなあの言い様は正直ムカつくが、ヴァルミリアの自分のことを悲観するようなあの言葉だけはどうしても許せなかった。


「ヴァルミリアさま、一つお聞きしたいのですが………何であなたはそんなにも自分のことを悲観なさっているのですか?」

「スレイ………それは私が生命としてあるべき姿ではないからです、そして歪な私から産まれたあの子もまた……」

「それは違いますヴァルミリアさま」


 ヴァルミリアの言葉に被せるようにその言葉を否定したスレイに誰もが顔を向けるなか、スレイはヴァルミリアに向かって自分の言葉で告げる。


「この世界に生きている全ての生命は進化し続ける。確かにあなたという存在は、もしかしたらこの世に産まれるには速すぎたのかもしれない………でもそれは、言い換えればあなたは新しい進化たはした新たな生命だ」

「私が………進化した存在?」

「あなたが人でもドラゴンでもないのは、消えるだけだったドラゴニュートの生きようとする想いがあなたを産み、その血と想いを後世へと残そうとしたんだとボクはそう思います。それにそんなあなたを受け入れてくれた人たちがちゃんといたんですよね?」


 ヴァルマリアはかつてレオンたちと旅をしていた頃に同じ話をしたことがあった。

 なぜ忘れてしまっていたのだろう、あの話をしたときレオンやオリヴィアたちがいってくれたあの言葉を


『そうか………でもさぁミリアはミリアだろ?そんな小さなことは気にせずに前を向い生きてこうぜ?』

『こらレオン!あなたという人はなんでそんなにいい加減なことしいえないのですか!ミリアさんは何千もの間悩み続けているというのに!』

『えっ、ちょっとエデン!?なんでお前そんなに怒ってるんだよ!?』


 怒られてる意味がわからないといった具合のレオンに、仲間たちが呆れたような顔をしながらレオンのことを嗜めるような言葉を告げる。


『今回ばかりはエデンの意見が正しい。お前は考えが無さすぎる』

『申し訳ありませんが今回ばかりはエデンさまとアルさまに同意します』

『でっ、でもだよオリヴィア。それって結局のところ、ミリアの中で生きてるってことなんじゃないかな?』

『どういうことだレオン?』

『だってさ、ミリアはドラゴニュートの血を引いてるんなら、ミリアの中ドラゴニュートは生き続ける。つまりは全部繋がってるんだよ』


 繋がっている。

 その言葉にヴァルマリアと一緒にオリヴィアたちが頭のなかで疑問を浮かべていると、レオンがその言葉の意味について答える。


『未来を夢見た想いとか、命を繋ぐ願いとか、いろんな想いがミリアの中で生きて未来へと向かうんだ………だからさ、ミリアは前を見て進んでいけば良いんだよ、俺たちみんなと一緒にさ』

『今の私にその言葉の意味はわかりません………』

『まぁ、ミリアは俺たちよりも長くいきるんだし、きっと答えを見つけれるさ』


 眩しいくらいの笑顔と共に差し出されたあの手の温もりを思い出したヴァルミリアは、あのときかけられたあの言葉の意味がようやくわかった。


「私は………私として生きていけば良い、ただそれだけでだったのですね」


 ポツリとこぼされた涙を見ながらスレイは小さくうなずいた。


「えぇ。だから、それを否定するのがあなた自身であったとしても、ましてやボクたち生命を産み出したはずの神自身が、それを否定するのは断じて許さない………レーゼス、お前もだ」


 スレイが白楼の切っ先をレーゼスに向けると、腹を抱えて笑いだした。


「進化、進化と来たか………はっはははははっ!お前、本気でそういっているのなら頭がおかしいだけじゃないなっ!バカだ、バカとしか思えねぇよ。消える種族が形を変えて残る?馬鹿馬鹿しい!そんなものは存在しない、消えてしまってはなにも残らねぇんだよ!バァーか!」


 笑っているレーゼスを無視して、今度はユフィとアカネがヴァルマリアの肩に手を置くと、未だに笑い続けているレーゼスのことを睨み付けながら、あふれでる怒りの想いを込めながら叫んだ。


「レーゼス、頭がおかしいのはあなたの方よ!心のないあなたには一生わからないかもしれないわね!」

「想いは、魂は受け継がれていく。例えそれがわかる形でなくったってね。ここで想いは繋がるの!」


 ユフィとアカネの言葉を聞いたレーゼスはそれを歯牙にもかけずににこう言い放った。


「わかるはずがない。使徒である俺は存在そのものが完成された生命そのものだからな。お前たちのように死に行く者共のように必要なんてないからな」

「そうかよ………やっぱりお前らは悲しいよな」

「なんだと?」


 今度はレーゼスの言葉に返したのはユキヤであった。


「人の心を、気持ちを、想いを理解できないお前たちは悲しい存在さ。だから、それを否定し続けただ一方的に消し去ろうとするお前たちに、俺たちは負けるわけにはいかねぇんだ」


 魔剣を構えたユキヤがレーゼスに淡化を切ると、少々乗り遅れた感じがしたが最後にスレイがレーゼスに向かって最後の言葉を掛ける。


「レーゼス、お前だけはこの場で絶対に倒す。──さぁ、お前の罪を購え」

「神の徒であるこの俺に罪を問うとは、お前の方こそ、その罪を購え!」

「購うさ、お前という間違った存在を倒してから、いくらでもな!」


 レーゼスに向けて淡化を切ったスレイとユキヤが同時に地面を蹴り距離を積めると、二人は交互にレーゼスに斬りかかるが聖剣を自在に操り二人に剣をいなされ、なかなか攻撃自体が当たることはない。

 スレイの黒幻と白楼が交互に振るわれるとレーゼスは少ない動きでその剣戟をかわし、間に割り込むように入ってきたユキヤの鋭い一閃を聖剣で受け止めいなすと、ユキヤはしまったと思ったがレーゼスは追撃もせずに後ろへと下がってしまった。


「ちっ、なんなんださっきから!」


 ユキヤが怒っているのは先程からのレーゼスの戦いかたが、まるで二人のことをおちょくって遊んでいるかのように感じられたからだ。それは先程から斬りかかる度に何度か、剣をいなされて隙が出来た好機の場面であってもレーゼスは自分から攻撃を仕掛けようとしないのだ。


「ユキヤ、あせるな。攻撃を続けるぞ!」

「言われなくてもそのつもりだ!」


 スレイが黒幻に業火の炎を纏わせユキヤが闘気を魔剣に纏わせて走り出したのを見たレーゼスは、聖剣を何もないところで振るうと吹き抜けた剣圧が近くの瓦礫を飛ばし、向かってくるスレイとユキヤの視界をふさいだ。


「こんなものが効くか!──エアロ・ブラスト!」


 風の爆発によって瓦礫を突き飛ばしたまではよかったが、今度は砂塵が舞だし視界が効かなくなった二人はその場で足を止め背中合わせで立っている。なぜならもう既に目の前にレーゼスは存在しないことを知っているからだ。瓦礫を使った目眩ましの間に移動するには鉄則だ。

 巻き上げられた砂塵により視覚の情報はあまり役に立たないが、その変わりに二人が気配を探りそしてレーゼスの見つけると、スレイは業火にさらに暴風の魔力を剣に纏わせながら身を捻り、ユキヤもまた少し大回りになるように走り出した。


「見つけたぞ!──双牙・業炎十字斬!!」


 業火と暴風を同時に纏った黒幻と白楼を振り抜くと、放たれた炎の斬激が十字に重なりながらレーゼスを襲ったが、炎の斬激に向かってレーゼスはまばゆい光を放つ聖剣を振るうと、聖剣から放たれた光の斬激が炎の斬激を打ち消したのだ。


「そんな温い炎では俺の聖剣は破れぬは!」

「だったらこいつでどうだ!」


 声のした方にレーゼスが視線を向けると、そこには鞘に収まったままの魔剣を握るユキヤの姿を見てレーゼスは口に笑みを浮かべる。


「血迷ったか!剣で居合など出来るはずもないだろ!」

「よく知ってるじゃねぇか。確かに反りのねぇ剣で居合なんぞ出来るはずもねぇが………この魔剣が刀だったら出来るよな?」

「なにっ、まさか!」


 ニヤリと口元を歪めたユキヤは、大きく地面を踏む閉めながら視線を自分の手元にある魔剣へと落とす。


「──行けるか、エンジュ!」

『はい、とうさま!いつでも行けますと、エンジュはお伝えましす!』

「よし!──魔剣よ 我が願いに答えよ!」


 ユキヤがそう呟くと同時に魔剣に黄金の輝きに包まれながらその形を変えるなか、ユキヤはさらに大きく一歩を踏みしめ一気に地面を蹴り抜くと一瞬にしてレーゼスの目の前にまで距離を積める。


「こっ、こいつ!」

「喰らいやがれ───居合の型 閃華!」


 繰り出されるのはユキヤの持つ技の中で最速を誇る居合の技、それに対するレーゼスは如何に使徒であろうとも達人の域に達しようとしているユキヤの一撃は、まさに閃光のごとし一撃であったが………


「くっ、あははははっ!どうだ!人間ごときのちゃちな剣技で使徒である俺が倒せると思ったか!」


 ユキヤの魔剣の刃がレーゼスの首筋を捉えようとしたその瞬間、レーゼスは常人ではまず不可能な速さで動き聖剣の刃でその剣を受け止めていたのだ。

 最速の一撃を止めて上機嫌なのかレーゼスが高笑いをしているなか、ユキヤはつばぜり合いによって間近にあるレーゼスの顔を見ながらしらけた眼を向けていた。


「上機嫌なところ悪いんだが、俺の一撃を受け止めたくらいで喜ぶんじゃねぇよ」

「負け惜しみを言うな。貴様では俺には勝てぬと解って頭でもいかれたか?」

「バカじゃねぇのか?誰がテメェに勝てねぇって言ったよ。それになぁ、俺のは単なる時間稼ぎだぜ?」


 ユキヤの後方、レーゼスに向かって技を放って以降動こうとしていなかったスレイを見ると、背後では業火の炎で形作られた竜を黒幻に纏わせていた。

 あの炎の竜はスレイの魔力が限界にまで圧縮されたものだと気付いたレーゼスは、如何に勇猛の使徒だったとしても受けきれるか否かと聞かれれば、確実に受けきれる自信はなかった。


「クソッ!」


なのではレーゼスはただこの場から逃げることを選び、聖剣から光の斬激を放ちユキヤを後退させたが斬激を魔剣の刀身でそれを弾くと、ユキヤは逃亡するレーゼスを逃がさないべく魔剣に語り掛ける。


「悪いが逃がしはしねぇからな。──魔剣よ 我が願いに答えよ!」


 刀に変化した魔剣の刀身が無数の鋼糸状の物へと変化すると、一瞬にしてレーゼスの身体を絡めとった。


「貴様ッ!なにをする!」

「うっせぇ!やれヒロ!」

「あぁ!行くぞレーゼス!───竜炎(ドラグインフェルノ)()突激(ストライク)!」


 地面を蹴り黒幻を大きく引きながら走り出したスレイは、剣の届く間合いに入った瞬間、引き絞られた腕を伸ばし竜を纏った黒幻の切っ先がレーゼスを捉える。


「調子に、乗るなぁあああああ―――――――――ッ!!」


 糸のような魔剣の刀身によって絡め取られたレーゼスが吠えると、レーゼスを中心に吹き荒れた神気がまるで衝撃波のごとき力となり、向かってきたスレイと絡めとったユキヤをまとめて吹き飛ばした。


「─────ッ!?」

「なっ、ぐあっ!?」


 吹き荒れた神気の嵐によって吹き飛ばされたスレイとユキヤは、瓦礫に手を突きながら身体を起こして自分たちを吹き飛ばしたレーゼスを見ると、二人は言葉を失った。


「おいおい、んだよあいつは?」

「はははっ、もう人間でも何でもないよあれ──」


 二人の──正確には遠く離れた場所から覗き見る三人もいるが──目の前に現れたそれは、もはやレーゼスではなかった。

 背中に生えた使徒特有の白い翼は荒れ果て黒く染まり、至るところに鱗のような物が表れる。顔はまるで竜と人間の顔を混ぜ合わせたかのように歪み、握られていたはずの聖剣は腕に飲み込まれたのか、はたまた人体と融合でもしてしまったのか巨大な腕と一体化しその流麗な刀身には血管のようなものまで現れ脈打っている。

 その姿はもはや使徒ではないと、この場にいる誰しもがそう思った。


「あんなの、もうただの化け物じゃないか」



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