聖竜の怒り
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憤怒の使徒、フィルマーレスを取り込んだことにより、勇猛の使徒 レーゼスは本来の姿である甲虫型から大きく変化を遂げていた。竜の身体に甲虫の特徴である固い甲殻を持ったそれは、並みの攻撃では切り裂くことさえかなわず、スレイとユキヤの全力の技を受けても平然としているほどであった。
傷を負い膝をつき地に伏せたスレイとユキヤは、目の前に悠然と立ち尽くす勇猛の使徒を見上げると、頭部を以前のボルディアの姿に戻したレーゼスは、苦しそうに顔を歪めている二人のことを見下ろしていた。
「クソ野郎が………おい、ヒロ………てめぇお得意の魔道具で、この状況をどうにか、出来ねぇのかよ………?」
「むちゃ、言うなよ………ボクの最大の聖闇の炎を防ぐ相手だぞ、そんな魔道具があったら、もう使ってるし………正直に言うと守るためのだったらなんとかなる気がする………んだけど、なっ」
「クソが、あんまり役に立たねぇじゃねぇかよ………だったらなにか別の魔法はねぇのかよ?」
「あるけど………災厄、ボクたちみんなが粉々に吹っ飛ぶか、吸い込まれてこの世界から消滅するかの二択しかないけど、どっちがいい?ボクのおすすめは一応前者だね。死ぬ可能性が二つの中で一番低いから、たぶん五体満足では帰れないけど、ボクたちの再生能力なら………なんとか生き残れる可能性はあるな」
「どっちも願い下げだ………バカ野郎が、もっとマシなものを作れよ」
一応言っておくと前者はイルミネイテッド・ヘリオースのオリジナルである、純粋な太陽光の光を集めて放つ厳密に言えば魔法ではないあの技だ。もう一方の塵となって消える方はと言うと重力魔法を圧縮して疑似ブラックホール作り出すアヴィス・ルーテゥーを、暴走限界ギリギリまで圧縮して使う魔法だが、これは発動しか瞬間に暴走と消すことが不可能な可能性があるためこの星その物を飲み込んでしまう可能性がある。
本当にあの使徒を倒せる可能性があるのはこの二つしかないが、ギリギリ生き残れる可能性があるのヘリオースでの、極力やりたくはなかったのでスレイとしてはユキヤが否定してくれたのはありがたかった。
「まぁ………そんなわけだからさっ、もうこれしかないよな」
側に転がっていた剣を握り地面に突き刺し身体を支えながら立ち上がったスレイとユキヤは、どうにか回復してきた足で力強く地面に踏みしめると、持ち上げられた漆黒の剣の切っ先を真っ直ぐレーゼスに向けながら、二人は示し会わせたかにように視線を向けながら笑い合った。
「当たり前かも知れねぇが、あいつと正面から殺り合う覚悟は決まってるよなヒロ?」
「出来てるに決まってるだろ。ってかさぁ、ユキヤ。………そんなことを聞いてる時点でお前があいつと殺り合うのを避けたいみたいに聞こえるんだけど」
スレイとユキヤは再びニッと口元を歪めると、スレイは全身に闘気と竜力をユキヤは闘気と魔人の力をそれぞれ纏わせると、真っ直ぐレーゼスに向かって走っていった。
「人という下等で愚かなお前に言ったところで無駄かもはしれぬが、今の俺に向かっていく時点でお前たちの命を無駄にするだけだぞ?」
「そうかも、知れないけどボクたち人はさぁ、どうしょうもないくらい諦めが悪いんだよ………それにボクたちがここで殺られたとしても、お前が持っているその聖剣の真の担い手にその役割は受け継がれるし、ボクたちの想いを継いでくれる人たちが必ずお前たちを倒すからな」
「俺はこいつみてぇに死亡フラグを建てるきはねぇし、あいつらを残して死ぬ気もさらさらねぇんだが………こいつの言葉でただ一つ、てめぇを殺すまでは諦める気はねぇんだってことなんだよ」
「そうか、ならばお前たちが抗う気すら起こらぬほどにその心を打ち砕いてやろう。かかって来い人間ども!」
三人が一斉に地面を蹴るとスレイが黒幻と白楼を大きく後ろに構え、ユキヤは身体を捻りながら魔剣を居合いの構えに近い形で構える。
「先手はもらうぞ!──双牙・紫電ノ一閃!」
黒幻と白楼から放たれた紫電を纏った斬檄をレーゼスは聖剣で切り裂くと、いつの間にかレーゼスよりもさらに低い位置に走り込んできたユキヤが、魔剣の刀身に闇の輝きを乗せながら振り上げる。
「いくぞエンジュ──改変・居合いの型 螺旋風・砕牙!」
闘気を纏ったユキヤの魔剣を巻き付けるように振り上げると、吹き荒れる旋風がレーゼスの身体を持ち上げさらに振るわれる魔剣の刃から放たれた二度の剣閃が煌めきによって切り裂くが、レーゼスには全くと言っていいほど効いてはいなかった。
ヒラリと翼を使い空中で体制を整え着地したレーゼスは、ユキヤの剣技によって斬られた頬から流れ出た血を指でぬぐいとると同時に、斬られた場所の傷が綺麗に消えていた。
それをみていたスレイとユキヤは小さく舌打ちをしながら、次の技を使うために闘気と魔力を練り始めると、レーゼスは二人の方をみながら聖剣を掲げる。
「ふむ、薄皮一枚は切れているみたいだがこんなものではないのだろ?」
「たりめぇだっての!今からてめぇの澄まし顔を叩き伏せてやるから覚悟しやがれ」
「そうか、ならば俺も本気で行かせてもらおうか───聖剣よ 我が求めに答えよ」
その言葉と共に聖剣の形が変化していくその光景をスレイとユキヤは、ただ呆然と眺めていることしか出来なかった。あの聖剣に隠された能力の一変、おとぎ話の中でも語られることの無かった未知なる力を前にして、二人の第六感とでも言うべき危機察知能力が激しい勢いで警鐘をならしているのだ。
これは聖剣が形を作り出す前になんとしても止める、あるいはレーゼスを倒さねばならないと思った二人は駆け出していた。
「なんだかよくわからないけど、やらせるわけにはいかない!──双牙・聖闇の連激ッ!」
「何をしようとしているにかわ知らねぇが、ただ斬るだけだ!──斬激の型 焔ノ太刀・陽炎ッ!」
二人が同時にレーゼスとの距離を積め自分の間合いに入った瞬間、スレイの手に握られている二振りの剣に纏われた聖闇の業火と闘気の輝きがより一層まし、ユキヤの手に握られている魔剣は闘気の上から魔剣の力である闇を濃縮させた輝きを放っていた。
振るわれた三つの刃がレーゼスに振るわれようとしたその時だった。
「撃ち抜け 聖弓よ」
レーゼスの手の中に現れたのは黄金の弓と、光で形作られた矢だった。放たれた光の矢を目の前にしてスレイとユキヤは技で斬ることを決めて剣を振り抜こうとしたその時だった。
『馬鹿者!早くその場から逃げろ!』
『とうさま!斬ってはいけません!』
スレイの黒幻からウィルナーシュの声が、ユキヤの魔剣からはエンジュの叫び声が同時に響くと、二人はその言葉の意味をすぐに理解した。
あの矢は今も頭上で燦々と輝いている太陽と同じなのだ。あれはスレイが擬似的に産み出している疑似太陽ではなく正真正銘の、あの聖剣の名を冠する太陽で造られた矢なのだ。
矢がスレイとユキヤへと向かってくるなか、二人は空間転移を使い矢をかわしレーゼスのすぐ横に転移すると、距離が短くなってしまったが一歩強く踏み込んだ二人は技を放とうと剣を振るった。
「聖剣よ 我が求めに答えよ」
レーゼスの手の中の弓が再び光だしたかと思うと、今度は二振りの短剣が握られてそれがスレイとユキヤの剣を受け止めていた。
「くっ──まだだぁあああああ―――――――ッ!」
「クソが!──斬激の型 夢想影斬ッ!」
スレイが受け止められた黒幻を振り抜き、その場で回転しながら白楼による二激目を放ちながらそこから流れるような連激を放ち、ユキヤは即座に別の技へと切り替える。
一見するとまるで無軌道に放たれる聖と闇の炎を纏った斬激と、まるで幻影を纏ったように放たれる予測不可能な変幻自在の斬激、その全く異なる攻撃を左右から一身に受けているレーゼスだったが、その顔はなんと穏やかな物であった。
「まえの俺であったならばやられていたかもしれぬが、今の俺はフィルマーレスの力を得て力を増しているのだ。そんな物では倒せぬが、時にお前良いものを持っていたな」
「──────ッ!?」
「──聖剣よ 我が求めに答えよ」
ギロリとレーゼスに睨まれたスレイは、聖闇の連激の最後の一撃を放とうとした振り上げた黒幻を、思わず引き戻しそうになってしまったが、ここでやめるわけにもいかずスレイは最後の一撃を振り抜こうとした。
甲高い音と共にスレイの握る黒幻と魔剣は弾かれる。
共に最後の一撃を放った瞬間にレーゼスの握る双短剣が煌めくと、一瞬にして二人の剣を弾き飛ばしすと、その手に小さな短銃が握られていた。
「死ね」
放たれた太陽光の弾丸は至近距離と言うこともあり弾速がかなり早く、レーゼスによって剣を押し返されてバランスを崩していたスレイとユキヤだったが、二人の身体能力があれば見切ることが出来るし、相手の視線と銃口からも銃弾の軌道を予測してかわすことができた。
体勢を崩していたせいでかなりギリギリではあったが、どうにか弾丸をかわした二人は体勢を立て直しながら次の技を発動させようとしたその時、背後からかわしたはずの弾丸がスレイたちの方へと向かって軌道を変えてきたのだった。
「なにっ!?───アガッ!?」
「クソッ!?───ウグッ!?」
とっさに身を反転させてかわそうとしたスレイだったが帰ってきた弾丸が腹部を焼き、魔剣の刀身でどうにかして受け止めようとしたが刀身に当たった銃弾が反射しユキヤの肩を焼いた。
「──グッ、あぁああああああああ―――――――ッ!?」
「あぐっ、クソっ!?かっ、肩が………焼ける………」
受けたところが焼けるような痛みなどと生易しい言葉では言い表せないほどの痛みを受けて、地に倒れたスレイとユキヤはただ痛みを堪えながら叫ぶだけしか出来なかった。
「くっ、クソが………影の蕀でも………治癒が、追い付かねぇ………なんてこと………あるのかよっ!?」
『とうさま!大丈夫ですか!とうさま!』
「平気、だ。………ちょっと、静かにしていろエンジュ」
エンジュの声を聞きながらユキヤは魔人の力を使って産み出した黒い蕀を使い、どうにか傷を癒そうとしてはいるものの全く効いていない。
「────ぅがあぁああああああ―――――――――――――ッ!?」
『おい小僧!しっかりしろ!意識をしっかりたもてッ!!』
「いっ、言われ、なく……ても」
『よし、ならば刻印を起動させろ。我が刻印を通して治癒を手伝う』
黒幻から語りかけて来るウィルナーシュの声を聞きながらスレイは刻印を発動する。
再生能力に優れている竜の因子に加えてウィルナーシュからの治癒を受けているスレイだが、いまだに再生が始まらず悶え苦しみだした。
『思い通りに治らぬだと!ぐっ、刻印越しとはいえこれは──』
ウィルナーシュの苦悶の声を聞きながら、未だに感じる激痛で意識を失わずにポーションを取り出そうとする。
ガチャリと地面でのたうち回る二人の眼前に、レーゼスが短銃となった聖剣の銃口を向けていた。
「やはり人は脆く弱いな。たったこれだけのことで簡単に死にかけているのだからな」
「はっ、まだ俺は死んじゃいねぇぞ?」
「お前はな。だが、そちらはどうだ」
レーゼスは未だに腹に穴を開けてのたうち回るスレイの姿をちらりと見る。痛みから叫び声を上げながらも必死にポーションを振りかけて傷を塞いでいるが、それも微々たるものだが確実に傷は塞がりかけていた。
太陽の光に焼かれた場所が熱を帯びているためか、あの傷は細胞が再生すると同時に細胞が熱によって死滅して塞がりにくいが、時間をかけさえすれば確実に再生はする。
実際にユキヤの傷も今はほとんどが癒えているのだからと、必ずと言った確証はなにのだがスレイのあの目を、諦めないと言う強い意思を持った視線を見てしまったユキヤは、ただ自分の親友のことを信じるだけだった。
「こいつも、時間は掛かっているみたいだが死ぬつもりはないらしいぜ?」
「そうか………ならその首をさっさと落とすことにしようか!」
短銃から剣にソル・スヴィエートを戻したレーゼスは未だに動けずにいる二人へと振り下ろそうとしたその時、巨大な蒼い炎の竜が鰓を広げながらレーゼスを飲み込んだが、竜の腹部か光が漏れ出すと同時に炎の竜は四散して消えてしまった。
「やれやれ、俺に向かってこんなことをして来る奴がまだいるとは───」
レーゼスがなにかを言い切る前に上空から光の傍流がレーゼスに叩きつけれると、爆風が倒れているスレイとユキヤのところまでこようとしたが、それは魔法の盾によって防がれた。
「レンカ、それにスレイもあんたらちょっと見ないだけでボロボロね」
「スレイくん!今、治してあげるからもう少し我慢してててね!」
そこにいたのはユフィとアカネだった。
ユフィはすぐに穴が空いたままのスレイの腹部を治療するべく治癒魔法をかけ、アカネは倒れていたユキヤに手を差しのべて立ち上がらせた。
「すまねぇスズネ」
「あなたが無事ならそれでいいわ。もちろんエンジュもね」
『ありがとうございますと、エンジュはお伝えしますスズネかあさま』
「子供を助けるのが親の勤め………と言いたいけど、助けたのはユフィだから出る幕ないわね」
「そんなことねぇよ。お前が来てくれたってことが大事だ。なっエンジュ?」
『はい!っとエンジュはお伝えします!』
「そっ、そうなのね………ちょっと恥ずかしいわ」
ユキヤとアカネ、そしてエンジュの三人のやり取りの横では、ユフィが必死にスレイの治癒を行っていた。
「これで、大丈夫だけど………痛みとかはない?」
「あぁ。さっきまでの痛みが嘘のようだよ。ありがとうユフィ、それにウィルナーシュも助かった」
『構わぬ。以前も言ったがお前を助けているのは我の目的を達するためだ』
「あれれぇ~。伝説の暗黒竜さまがもしかして照れてる~?」
『照れるわけがなかろう!』
反論するウィルナーシュの声を聞きながらスレイとユフィは小さく笑っていると、立ち上がれるまでに回復したスレイとユキヤは剣を握りながら巨大なクレーターの中央にみると、そこには聖剣を握ったレーゼスと身体は人形だが両手と両足竜のままにして白兵戦を行っているヴァルミリアがいた。
「まさかレオンとオリヴィアの血を引くものが使徒に落ちるとは………なんとも情けないことです!」
鋭い竜の爪がレーゼスを狙って放たれると、レーゼスは聖剣で受け流しながら剣のままでは不利だと悟ったのか、聖剣をガントレットに変化させてヴァルミリアと拳による応酬を始める。
「トカゲ風情が崇高なる神の徒侮辱するとは面白!」
「何が神の徒か………お前たちはただの神の傀儡だ!ただ命じられるがまま人を殺して、大事な者たちを奪う。それがお前たち使徒だ!」
ヴァルミリアが拳を振るい続ける中で大きく口を広げると、幾何学的な魔方陣が展開されるとレーゼスは後ろに飛びながらガントレットを盾へと変化させた瞬間、レーゼスに向かってゼロ距離からのブレスが放たれた。
文字通りゼロ距離ブレスを受けたレーゼスは地面を転がりながら吹き飛んだ一方、聖剣が変化して現れた盾によって四方へと分散されたブレスは、遠くで見ていたスレイたちの元にまで被害を与えていた。
「うぉっ!?あっぶねぇ!?」
「そう思うんならシールドの一つでも張れよ!」
そう叫んだスレイだったがそもそも、この最近ユキヤが魔法を使っているところを見たことがないが、魔力を無くしたとかはないよな?
っと、変なことを思いながらヴァルミリアの様子を見ていたスレイはどうも不安だった。
『あのままでは、小娘が不利だな』
「ウィルナーシュ、あんたもそう思うのか?」
「どう言うことよ?」
アカネとユフィがスレイに向かって疑問の視線を向けていると、スレイはどうしてそう思ったかの理由を話し始めた。
「ヴァルミリアさまの戦いかた、どう見ても冷静じゃない。言葉は戦いの音で書き消されてるけどレーゼスがなにか言ってるみたいだ」
「それに、あの表情はおかしい。目だけで人を殺せそうだぜ?」
「ヴァルミリアさまが怒ってるってこと?」
「たぶんね。だから、もしもレーゼスがあと一言でも決定的な何かを言ったら───」
スレイが一度視線を向けると、そこには左腕が宙を舞いレーゼスの返した刃でヴァルミリアの首を落とそうとした。
それを見たスレイとユキヤは同時に地面を蹴り、レーゼスの刃が降り注ごうとしているヴァルミリアの元へと飛び出していた。
拳と拳の応酬を繰り広げているレーゼスはヴァルミリアの拳をいなし受け止めていた。
「ヴァルミリア、お前はいったいなぜ怒っているのだ?」
「怒りもします!私にはあなたにようなものを産み出してしまった罪がありますから」
「いいや違うだろ?お前が怒っている理由は、それだけではない」
振りかざされたヴァルミリアの拳をいなし間合いを詰めたレーゼスは、そっとヴァルミリアの耳元でこう囁いた。
「お前が怒っている本当の理由、それはお前が愛した男の側を自ら離れてしまった後悔だろ?」
「なにをっ!」
「知っているさ、俺の中に流れるレオンの血の記憶。そして、お前の子供の父親のことも、お前が隠している秘密もな」
「黙りなさい!」
レーゼスを離すために大振りの回し蹴りで牽制したヴァルミリアは、そこから大振りの左で拳をつき出すと、レーゼスもそれに遭わせるように拳を放った。
二つの拳がクロスしたその時、レーゼスのガントレットが光を放ちカタールへと変化し、突き刺しながらヴァルミリアの腕を切り裂いた。
「ぐっ!?」
切り落とされた腕が宙を舞い飛び散る血が地面を濡らすなか、カタールから剣へと聖剣を戻した。ヴァルミリアは切り落とされた腕を押さえながら地面に座り込むとレーゼスがヴァルミリアの首を落とスッとその刃を当てた。
「さらばだ。純粋な竜でもなく、ましてや人でもない歪な物よ。ここで、お前の愛した男の剣の刃で死ね」
自分の首を落とすべく振るわれる聖剣、それはかつてともに戦い、そして愛した人の持っていた剣。これで殺されるのも何かの運命かもしれない、そう思ったヴァルミリアは最後のその瞬間を受け入れるべく目を瞑ったその時、この世に生を受けてからの永い年月、たった数年の旅の中で得た掛け替えのない愛すべき友との記憶、そしてドランドラへ残してきた愛娘ヴァルマリアの姿を思い浮かべた。
──最後にもう一度、あなたを抱き締めてあげたかったわ
今は遠くにいる愛娘への最後の一言を残したヴァルマリアは、自分の首に聖剣の刃が押し当てられたのを感じたその時、ガキィーンっとなにかがぶつかり合う音が鳴り響くのを聞いて目を見開くと、そこにはスレイとユキヤの剣が聖剣の刃を受け止めていた。
「あなたたち、なぜ?」
「すみません。ちょっと黙っててくださいヴァルミリアさま」
「わりぃな、俺らはあんまし余裕がないもんでね」
既に限界だというのに二人のはレーゼスの剣を受け止めている、その事にヴァルミリアは驚いている。
「レーゼスを押さえているうちに、頼むユフィ!」
「了解!全力の~───テンペスター・ドラゴラムッ!!」
「うぉおおおおお――――――――――ッ!!」
スレイが叫ぶとそれに答えるようにユフィが杖を掲げて、暴風によって形作られた竜が姿を表しユキヤが魔剣に出せる限りの力を込めてレーゼスの剣を押し返す。
「──ちっ、これは不味そうだな」
さすがにあれに飲み込まれればただではすまないと思ったレーゼスは、逃げることを選ぼうとしたその時だった。
「──逃がさないわよ!」
無数のクナイがレーゼスに向かって放たれると、それを聖剣で弾いて回避した。だが、それによってレーゼスの動きは完全に封じられた。
「なにこれは──」
「ふふふっ、掛かったわね──鋼糸・縛鎖・弐の型──簡単に逃げられると思わないことね」
鋼糸付きのクナイを投げた張本人であるアカネを見ながらレーゼスは忌々しそうに叫んだ。
「貴様よくもッ!!」
「今よユフィ!」
ハッとしたレーゼスが唯一動く首でそちらを見ると、ユフィが杖を振り上げるそして叫ぶ。
「行けっ──テンペスター・ドラゴラム!」
「おまけだ!──ノア・ライティング・ドラゴラム!」
暴風の竜に聖闇の業火の竜が合わさり、二人の魔方陣が融合し巨大な一つの魔法へと変化させる。
「「───合成魔法 ノア・テンペスト・ドラグインフェルノッ!!」」
スレイとユフィの放った聖闇、そして暴風が合わさった一匹の竜は鋼糸に縛られたレーゼスの元へと飛来し、轟音を鳴り響きながらその全てを飲み込んだ。
吹き荒れる爆風を感じながらスレイとユキヤは、後ろにいるユフィたちのことをかばうように立ちながら剣に闘気纏わせながら、吹き荒れる風を切り裂いた。
「あれで終わってくれるならどんなによかったかって思うよな?」
「あぁ。ところでヴァルマリアさま。ボクとユキヤに任せてもらいますから、良いですよね?」
「やめなさい!スレイ!この場は私に任せて──」
「頭に血の上っているあなたに任せる方が危険ですし、お兄ちゃんとしてマリアに悲しい顔をさせたくありませんからね」
ニヤリと笑って見せたスレイは身を翻し黒幻と白楼を構えると、炎の中から現れたレーゼスを見る。
「さぁ、もう一度、仕切り直しだユキヤ」
「はっ、お前が仕切るんじゃねぇよ」
スレイとユキヤは再びレーゼスとの戦いに望むのであった。




