人と使徒の戦い ④
遅くなって申し訳ありませんでした!
炎の攻撃と光の鷹がラピスのすぐ横を過ぎ去り、ヴェイレンハルトとベルティーナを退けると目の前に立ちひさいだ二人の黒髪と赤毛の少女、ノクトとライアは杖と拳を構えながら目の前の使徒に向けて殺気を放っている。
すると、ヴェイレンハルトは自分の力で作り出したベルティーナを消し目の前で佇んでいるノクトとライア、そしてそんな二人の後ろで涙を流し続けているラピスの睨み付けると、突如放たれた膨大なプレッシャーを受けて二人が僅かに後ずさったが、すぐに自分たちの殺気でプレッシャーを押し返した。
「おやおやおやおや、お前たちはどんな理由があって俺の目の前に立ちふさがり、俺のお楽しみの邪魔しているんだ?」
「そんなこと決まっています!ラピスさんのことを守るためです!!」
「使徒であるフリューレアを?下等な人風情が守るだと?──アハハハハハハハッ!これは傑作もいいところだなぁ!笑わせてくれる!」
突如殺気を解き腹を抱えながら笑っているヴェイレンハルトを警戒しながら、二人はそれぞれ体内にある魔力と闘気を練りながらヴェイレンハルトがどう動くかを見ていると、ひとしきり笑い終えたヴェイレンハルトはまるで一気に興味が失せたのか突然身体を光へと変えた。
『あぁ、つまらない。実につまらない。だからもう僕は帰ることにしたよ。バイバイ、フリューレア。また次に会ったら僕と遊ぼうね。今度はこっちに落としてあげるからさ』
ヴェイレンハルトが消えていくなか、二人はこのまま攻撃を加えるか否かを悩んでいると、二人の後ろにいたラピスが突如短剣を手に取り二人の間を走り抜けるとヴェイレンハルトのコアを斬りつけようとした。
「死ねッ!ヴェイレンハルト!!」
ラピスが赤黒い神気を纏わせた短剣を振り抜こうとしたそのとき、見えない壁に斬激が遮られるとラピスが連続で目の前のかべに向かって斬激を放っている。
「逃がさない!逃がしはしない!お前はここで必ず殺す!ヴェイレンハルト!!」
今だかつてこれほどまでに殺気だったラピスのことを見たことがない二人は、一瞬本当に目の前にいるのがラピスなのかと疑ってしまったが、すぐになにかがラピスの前に漂っていることに気がついたノクトは、その光が高密度に圧縮された魔力の塊であることに気づくと、それがいったいなにを意味するのかが分かると思わず飛び出していた。
「───ッ!?危ないラピスさん!」
飛び出したノクトがラピスに抱きついて横に飛ぶと同時に、爆発音が鳴り響き吹き飛ばした地面の石畳が空中へと舞い上がり二人の上へと積みつもった。
出遅れたライアはその場で吹き荒れた爆煙から視界を守ってやり過ごした。しばらくして魔法が爆発が終わり、視界が晴れたのを確認してから顔をあげてライアは、ガントレットに込められた魔法を発動させようとしたがすでにそこに使徒の姿はなかった。
「……あいつは逃げたの?───ッ!ノクト!ラピス!」
拳を下ろしたライアは爆発によって吹き飛ばされたノクトとラピスの方へと走ると、ノクトの上に乗りながらその首を絞めているラピスの姿を見つけ、ライアはラピスのことを止めるべく後ろから羽交い締めにして押さえにかかった。
「……ラピス、やめて!」
「離せ、わたしの邪魔をするなら、誰であっても殺す!ノクト、お前であっても」
「……やめっ………ラピス……やめて!」
後ろから抱き締めるように押さえつけていたライアを、ラピスが神気にはよっては払い除ける。
「らっ、ライア………さん………ッ」
苦しそうに抵抗するノクトの頬にポタポタと何かが落ちてくるのを見て、首を絞められ酸欠による視界がかすれていくノクトが上を見上げると、ラピスが苦しそうに涙を流しているのだ。
ラピスが苦しんでいる、それがわかったノクトはゆっくりと震える手で必死に手を伸ばしラピスの頬を触ると、ビクッと震えたラピスの眼からポロポロと涙がこぼれながら、手が離れ立ち上がるとふらついた足取りでどこかへと歩き出したかと思うとラピスは頭を抱え叫び始める
「いや………違う…………わたしは………わたくしは………こんな、ことを望んで………ぅうあああああああ―――――――――――ッ!?」
暴れ始めたラピスのことを見ながらライアは一瞬ラピスの方へと足を向けようとしたが、それよりも先にノクトの安否を確認することにしたライアは、絞められていた首を押さえながら何度も咳を繰り返しているノクトの背中をさする。
「……ノクト平気?」
「はっ、はい………どうにか大丈夫、です」
「……良かった───ねぇ。ラピスはどうなっちゃったの?」
苦しそうに叫び声をあげているラピスを見ながら、先程の、まるでなにかに取り付かれているかのように眼を血走らせながら、ノクトの首を絞めていたあの姿を思い出しながら、あれは本当に自分の知っているラピスなのかと、ライアがそう思っていると、ノクトは立ち上がりゆっくりとラピスの方へと歩み寄ると、ソッとラピスのことを優しく抱き締める。
「ラピスさん。あなたに何があったのか、どうしてそんなにも苦しんでいるのか、それは今のわたしたちには分かりません………でも、悲しくて泣いているときくらい、わたしでも胸を貸すことはできます。だって、わたしたちは家族なんですから」
「ノクト………さま………?」
「……よく、わからないけど、私もそれにこの中にいるお姉さんも、一緒にいるから安心して」
「ライア………さま………姉さ、ま………」
ライアがソッと差し出したのはラピスの蒼い短剣、ラピスはそれを見ながら手を伸ばして両手で短剣を受けとると、まるでラピスのことを案じるかのように刀身がキランと光を放つと、ポロポロと両目に溢れていた。
「ごめん、なさい………わたくしは、なんて………ことを───うわああああああ―――――――――ッ!?」
町中へと響き渡るその中心ではラピスを抱き締めるノクトとライア、そして目を覚ましたレティシアと朱鷺芽がそんな彼女たちの後ろ姿を黙って見守っていたのだった。
一方その頃、旧教会ではフリードとアルフォンソの二人と、殺意の使徒 イブライムとの戦いは激化の一歩を辿っていった。
高速で火花を散らし会うのはフリードの振るう暴龍の剣と、イブライムの握る翼をもした形をした片刃の長剣がぶつかり合うと、吹き荒れた剣圧が木々を揺らし、振り抜かれた剣風が家を切り裂いた。
まるでその一ヶ所にありとあらゆる天災が起こっているかのような場所に、深い緑色の髪をした男が走り抜けると、フリードとイブライムの剣が交差し離れた瞬間を狙って振るわれたのはアルフォンソの剣だった。
剣を斜めに構えている今のイブライムでは、完全に防ぐことの出来ないその場所にアルフォンソの剣は振るわれた。
──取った!
アルフォンソが心の中でそう叫んだその瞬間、イブライムの握る剣の柄頭の形が変化し始めたかと思うと、柄が延び逆方向にまで刃が延びる。
「なにッ!?」
ガキィーンっと受け止められたアルフォンソの剣、そしてニヤリと口元を歪ませたイブライムは両の刃に神気の輝きを纏わせると、正面にいたフリードとアルフォンソは揃って後ろに飛びながら闘気を最大にまで守りの姿勢を取るが、そんな二人に対してイブライムが問いかける。
「そんなもので守れると思っているのですか?」
両端に刃を持つ剣が振るわれた瞬間、赤黒い神気のオーラがフリードたちに向かって放たれるのをみて、フリードはこのままでは殺られると本能的に感じ、あまり使いたくはないあの技を使うことにしたフリードは、嫌々ながらもガードの構えを解き暴龍の剣を両手で握った。
「やるしかねぇか!──暴龍よ、喰らいつくせッ!」
真上から振り下ろされた暴龍の剣から現れた漆黒の竜の幻影は、イブライムの剣から放たれた神気のオーラを呑み込むと消えていった。
今の一撃によって身体の中から大量の闘気を失ったフリードは、押し寄せてくる疲労感からおもわず膝をついてしまった。
「フリードくん!無事か!?」
「えぇ。無事ですよアルフォンソさん………しかし奴ッこさんの得物、確か双刃剣だったっけか?あんなの使う奴とは初めて戦うぜ」
「私も、あの男とは長い付き合いだとは思っていたのだが、まさかあんなものを使えるとは思っていなかった」
立ち上がったフリードとアルフォンソの前には双刃剣を肩に担ぐように構えたイブライム。
「おやおや、これは困りましたねぇ。セファルヴァーゼさんに続いてヴェイレンハルトさんまでもが、上に帰ってしまわれたようですねぇ。これは私ももう上がりでいいのかもしれません」
「逃がすと思っているのかベクター」
フリードとアルフォンソが剣を構えて走り出すと先にたどり着いたフリードが暴龍の剣を振り抜くと、双刃剣の刃が受け止めながらイブライムが刃を回転させて受け流すと、次に走り込んできたアルフォンソに向かって刃を上へと切り上げる。
「ぐっ───こっ、これは!?」
「どうしましたアルフォンソ・リュージュ。私の剣が知っている剣よりも重いことが、それほどまでに不思議ですか?」
「───ッ!そんなことはないッ!」
まるで心の中を見透かされたように告げられたイブライムの言葉に、アルフォンソは剣に込められるギリギリまでに闘気を込める。
切り上げられた剣を受け止めたイブライムはそれを押し返し斜め下から切り上げると、弾かれた剣をどうにか引き戻したアルフォンソが剣を受け止めたが、イブライムの剣が受け止めると同時に込められる力が増した。
「うっ、これは!?」
「残念だったねぇ。アルフォンソ・リュージュ」
双刃剣によって弾き飛ばされたアルフォンソは、そのまま民家へと壁をぶち破って消えていった。
「ハッハッハ、他愛もない」
「こいつよくもッ!──秘技・煌翼一刀!」
フリードの最速の一刀がイブライムに振るわれるが、双刃剣の刃が最速の一刀を意図も簡単に受け流すイブライムだった。
「残念だったねぇ。この技は一度だけ見たことがあるんだよ」
「ハッ、そうかよ。でもなぁ、こいつは見たことがねぇだろ。食らえ──秘技・瞬光 散り羽!」
全く同時に放たれた無数の斬激に対してイブライムは双刃剣でどうにか打ち払おうとしたが、フリードの放った剣はそのすべてが同時に放たれた斬檄のため完全には防ぐことが出来ない。
だがそこはさすがの使徒とでも言うべきか、完全には防げずともその一撃一撃を致命傷にならないよう、僅かに剣をぶつけることによって斬檄の軌道をずらし受けきった。
「アルフォンソ・リュージュよりはやるようですが、やはりあなたもただの人。神の使徒であるこの私を殺すことは出来ないのですよ」
「はっ、そいつはどうかな?──喰らえ、暴龍よ!」
フリードが叫んだその瞬間イブライムの身体のあちらこちらに無数の噛み傷が付けられ、その中でも右足、左肩、脇腹といった斬檄によって深く斬られた場所は深く抉られ口から血を吐き出したイブライムが初めて膝をついた。
「うぐっ、これはかなり厄介な剣ですね」
「あんだけ斬りつけて大きい傷はたったの三ヶ所か、最近はディスクワークばっかやってるからちっとばかし技のキレが落ちちまってるかもな………だが次はその首を喰らってやるぜ?」
「いやはや、やはりその剣は面倒だ。なのでさきに………あちらから殺らせていただくことにしましょうか!」
どんな力を使ったのかフリードの暴龍の剣に喰われた箇所を、一瞬で再生させたイブライムがフリード真後ろ、守るべき対象であるユーシス・アルメイアたちのいる場所へと向かっていく。
「やろう、待ちやがれ!」
突然のイブライムの行動に慌てたフリードが走り出そうとしたその時、突如イブライムの動きが止まったのを見て口元をつり上げる。
『「私たちの存在を忘れもらっては困るわね」』
そこに立っていたいたのは時計の秒針のような槍を握ったジュリアと、レイピアを握ったルル、そして黒と紫を基調にしたコートに身を包み二降りのナイフを握ったクレイアルラの三人、そしてさらに人の気配が近づいてくる。
「どうやら、間に合ったみたいね」
「えぇ。そうですね」
そこに現れたのはリーフとリリルカ、さらにはフリードとアルフォンソまでもが動きの停まったイブライムを取り囲んだ。
「七対一とはいささか卑怯な気もするが、ここまでやられたとあっちゃなりふりなんて構っちゃいられねぇからな、次はこの全員で相手をさせてもらうぞ?」
「はぁ。いやだいやだ。私の神気とて有限なんですからもう一割を切ってしまっていますし、ここは潔く逃げさせてもらうことにしましょうか」
そう言うとイブライムは自分の身体を光の粒へと変えてしまった。
「逃がしませんベクター!」
リーフが翡翠に闘気を纏わせると、光となって消えようとしていたイブライムのコアを切り裂こうと振り抜く。
だが、振り抜かれた剣はコアを確かに捕らえたのだが、剣の刃はコアをすり抜けてしまった。
「なっ、どうして!?」
『残念ですが、私のコアはこの場にはありません。この肉体も主の神気によって形作られた偽物です』
「ちっ、だからあんな傷も瞬時に回復したわけか」
暴龍の剣によって喰われた部分の再生が異様に速かった事実を知らされたフリードは、舌打ちをしながら忌々しくイブライムを睨み付ける。
全員が何も出来ないことに腹だたちさを覚えるなかで、イブライムがリーフの方へと向き直った。
『リーフ・リュージュ。スレイ・アルファスタに言伝てを、次会うときはお前を殺すとね』
「………あなたの刃よりも先にスレイ殿の剣がお前を切り裂きます。覚悟するのはあなたの方です」
不敵な笑みと共に消えて行くイブライムを見送ったリーフは、みんなの方に振り向きながら遠くでまだ鳴り響いている戦いの音を聴き、いまだに戦っているであろうあスレイたちの元へと今すぐにでも向かいたいと思った。
「みなさん、私はこのままスレイ殿のもとへ向かいます」
それを聞いていたみんなの中でまずは先にフリードが動いた。
「なら、俺たちも行こうぜ。どうせ最後の使徒とやらを倒さねぇと終わらねぇみたいだしな。アルフォンソさんはどうします?」
「そうだね私も行きたいのだが、この傷じゃもう動けそうにはないから残るよ」
「私もここに残ろうかしら。」
「アタシもパスするわ。最近子育てが忙しくてまともに動いてなかったからもうヘロヘロだし、闘気も限界よ」
アルフォンソとルル、そしてリリルカの三人の戦線離脱は痛手だが、前の戦いでの傷がまだ完全には癒えていない二人がここまで使徒との戦いを続けられたのが奇跡でしかない。
「それなら私はここに残ります。防衛についてはマリーとウルスラたちを呼び戻して守りを固めましょう」
「任せるわルラ。ミーニャちゃん、あなたはどうする?」
「行きます!お兄ちゃんとレンカさんを助けたから!」
アルファスタ家の面々は全員参加が確定したので、早く行こうかと思っていると最後にもう一人名乗りをあげた。
「リーフ、ぼくも一緒にいかして」
それは護衛対象であり戦いには参加させることの出来ないゾーイからの声であった。
「ダメです。ゾーイ殿に何かあっては国が大変です」
「いや、今この戦いをこの国を導く者としての責務だ。それに、見届けたいんだ。この戦いの最後を………だから父上、ぼくをいかしてください」
ゾーイがユーシス陛下のことをじっと見つめると、なにか考え込むような表情をしたユーシス陛下はすぐにかおをあげる。
「あぁ。行ってきなさい」
「ありがとうございます!」
ユーシス陛下にお礼を言ったゾーイは改めてみんなに頼み込み、そしてついていけることになったのだった。
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