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人と使徒の戦い ②

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 それはスレイとユキヤがレーゼスとセファルバーゼとの戦いが始まってしばらくたったこと、レーゼスの握る聖剣によって破壊された教会の跡地では、どうにか生き残ったフリードたちがスレイの置いていった黒騎士四機と共に、上空から襲い来る使徒の分体を捌きながら移動を開始しようとしていた。

 移動するに当たって使徒との戦いによって傷つき、いまだに意識を失っているアーロンたちを担いで避難することになったが、唯一分体を倒せるフリードとアルフォンソ、それにルルは手を貸せれなかったが地下に隠れていた神父たちの手も借りてどうにか移動できるだけの人数が集まった。


「怪我人はなるべく揺らすなよ、それと国王陛下にまでこんな真似をさせてしまってすみませんね。なにぶん人手が足りないもので」

「いや、構わないさ。私も何かしていないと気が引けてしまうし………それに、こうなってしまったのも私の責任でもあるからね」


 今は亡きデボラの心の闇を、ボルディアの想いを汲み取ってやれずにいた後悔からか、ユーシス陛下に暗い影が射したのを見たフリードはかつて同じ想いをしたことがあるためか、悲しい表情をしながらもポンッとユーシス陛下の肩に手を乗せた。


「全部終わったら、身分なんて関係なくどこにでもいる一人の男として酒でも呑み交わしましょう。オレなんかで良ければ愚痴くらいは聞いてやれますからね」

「ならその席には私も出席してもよろしいでしょうか?どのみち近いうちにでも親類になるんですから、構わないでしょう?」

「おぉ、構わないですよ。それにアルフォンソさんとならサシで呑み交わしたりするのも面白そうだと思ってましたからね」


 父親たちがそんな会話をしている横でジュリアたちはと言うと


『「男の飲み会をするんだったら、私たちもこれが終わったら飲み会でもしましょうよ。ユフィちゃんたちも誘って色々と聞き出したりするの」』

「あら。いいですねぇ。私も娘がどこまで進んでるのか気になります」

『「あまり娘たちの赤裸々な話しは聞かないようにしてくださいね………なぜだかスレイがいろいろな意味で死にそうな気がするので」』

『「大丈夫よ。あっ、もちろんミーニャちゃんとゾーイちゃん?も一緒だからね。ついでだからスズネちゃんとレティシアちゃんも呼びましょう」』


 どういうわけかミーニャとゾーイも一緒で、さらにユキヤまで被害者が増えてしまったことにミーニャたちは苦苦笑していたが、二人ともその手の話しには興味があったのでちょっとだけワクワクしていたのは内緒だ。


 負傷した四人を抱えながら壊された教会とは別の教会──正確には壊された教会が建つ前に使われていた教会であり、老朽化のため廃棄されたが歴史的な価値と付与されている結界が強力なため、緊急時のもう一つの避難場として残されている場所だ──に向かって走っていくフリードたちは、先程からこちらを狙ってくる分体を斬り伏せて進んでいく。


 その途中フリードとジュリア、それにクレイアルラの三人は無数の分体の気配から感じる禍々しい気配を感じとる。

 念のため三人がアルフォンソとルルに視線を向けると、二人とも静かに眼を伏せたので二人とも気づいていてわざと気付かない不利をしているのだと思った。


『「お父さんもお母さんも、あと先生もどうかしたんですか?」』

「何でもないよミーニャ。それよりもゾーイちゃんのこと守るのは頼んだぞ。父さんと母さんはちょっとばかしやることが出来ちまったみたいだからな」


 どういうことかと聞き返そうとしたところで真上から分体が近づいてくるのを見たミーニャが、シルフの風の操作能力で空中を飛び上がると、精霊武装であるレイピアを分体の眉間に突き刺し引き抜きながら空中で身をよじり、さらに横から向かってきた分体を両断し降り立つと、フリードたちが口々にミーニャのことを誉めちぎった。


「さすががオレの娘だ。剣の才能も見事に引き継いでるな」

「君のそれとはかなり違う言うようだが、確かにいい腕前だね」

「闘気が感じれないのが惜しいわね」

『「いえ、誉められるのは嬉しいんですけど………後ろのそれを見たあとだとむなしいだけです」』


 ミーニャが三人のは以後に見たのは数十体の分体の死体だった。

 ついでに一部始終を見ていたであろうユーシス陛下とゾーイは、ある種の驚愕を覚えているのだった。


「あれがSランクの冒険者の腕前か………まさに世界の猛者の一人と言うわけだな」

「凄かった………あれがスレイのお父さん、それにリーフのご両親も本当にすごい」


 いったいミーニャが見ていなかったあの一瞬で何があったのか、改めて自分の父のすごさを目の当たりにしたミーニャは、ふと急に分体たちが襲ってこなくなり仰ぐと空では分体たちが光の粒となって消えていたのだが、そんなことを気にする様子もないフリードは目の前にいるそいつに向かって小さく言葉を発した。


「ようやくお出ましみたいだな」


 古びた教会の真ん前には剣を握った赤毛の使徒 イブライムが立ちふさがっているのであった。




 フリードたちが殺意の使徒 イブライムと対面しているとき、王城に待機していていたユフィたちは目が覚めた騎士や冒険者たちと協力しながら、王城に逃げてきた人々の治療などに当たっていた。

 避難民の収容や傷付いた人々の治療を終えたユフィたちは、不安そうにこの未曾有の襲撃に対して必ず皆を救ってくれると信じて祈りを捧げていた。


「こっちはもう大丈夫そうですし、そろそろ行きましょうか?」

「そうね。………ここにうちの姉もいなみたいだし、ったっく、こんなときにまでダンジョンに潜ってたりしないでしょうね?」

「いや、さすがにそれは………あり得ますね。ララ姉さまは昔から一度のめり込むと回りが見えなくなり明日から」


 どうやらリーフとリリルカの姉ララ・リュージュはそういう人らしく、ここにいないと言うのであればダンジョンに潜ったままなのだろうと言う結論に至った。


「それじゃあ、みんなのところに行こうか………あの二人が降りてきた以上はスレイくんとユキヤくんが戦ってると思うけど、正直二人とも今ごろはボロボロだと思うし」

「そうね。あの二人が揃うと大体無茶しかしないし、今ごろは腕の一本くらい斬られてたりして」

「ありうるよねぇ~」


 自分の旦那たちのことだからといってかなり物騒なことを言っているユフィとアカネの話を聞いて、リリルカは大丈夫なのかしらこの娘たち?っと思いながら他のみんなの方を見ると、ノクトたちもそろってうなずいていたので余計に心配になった。


 城から出たユフィたちは、そこで不思議な光景を目の当たりにすることになった。それは先程まで街の空を覆うほどいたはずの使徒の分体が地に落ち、チリとなって消えていって行く光景であった。


「……どういうこと?」

「分体がチリとなって………崩れ落ちている?」


 ボロボロとからだが崩れ落ち地に落ちるときには光の粒となって消えていく。

 まるで空から光が降ってくるかのような幻想的な光景を見上げているユフィたちだったが、それがまるで何か良くないことの暗示のように思えてしまった。


『これは、分体の中から神気が抜けているみたいです…………この感覚は、どうやら分体を産み出した使徒が神気を抜き取っているようです』


 ノクトの胸元が光だしそこから現れた女神 アストライアは、空中から落ちてくるチリを手に取りそう呟いた。


 突然現れたアストライアに驚いた様子のリリルカ。事前にユフィたちからアストライアの存在は教えられてはいたが、やはりいきなり現れると驚いてしまったらしい。

 そんなリリルカは置いておいて今のアストライアの発言にユフィたちは揃って顔をしかめてしまった。


「アストライアさま、それはつまりあのボルディアとかいう王子に憑依した使徒がってことなの?」

『えぇ。私は先程まで眠っていたのでわかりませんが、あなたたちが言うのであればその使徒なのでしょう』

「……でもどうして?」

『たぶんですが、命の危機を感じて本気を出してきたのだと思います』


 使徒の本気と聞いてユフィたちの顔が強ばっているのを見て、リリルカも今一度気合いを入れ直した方がいいかと思いながら話を聞いていた。


「アストライアさま。使徒の居場所を教えてください」

『えぇ。誰でもいいですから地図を貸してください』

「あっ、はい」


 リーフがプレートを取り出してユフィが付け加えたらしいマップのマーキング機能を使い、アストライアが四ヶ所の場所にマーキングをする。


「マーキングが四つって、ベクターたちの他にも使徒が降りてきていたのですか!?」

『えぇ。神気の残り香と私の中に流れてくる神気から推測するに、この地に降り立った使徒は六体、うちの寵愛の使徒は消滅、武芸の使徒は天界へと帰還していますね』

「武芸の………おじさまに憑依していた使徒はこの場にいないのね」

『えぇ。他にいるのは殺意の使徒はわかりますが………この感覚は怒り、もしくは憤怒の使徒、それに勇猛の使徒、最後は………想像の使徒だと思われますが、断定は難しいでしょう』


 神気の残り香から使徒の名前を言っているアストライアだったが、ユフィとノクトそれにアカネの三人はアストライアが最後に口にした使徒の名前を聞いて首をかしげる。


「創造の使徒って、ラピスちゃんのお姉さん………だったよね?」

「そのはずです」

「でもその使徒ってあの時、しっかりと消滅するところをこの眼で見てたわ」


 三人ともラピスの姉である創造の使徒が消え去る瞬間を見ていた、なのになぜまた創造の使徒がこの場にいるのかと疑問を覚えていると


『造り出す創造ではなく、思い浮かべたりする方の想像のことです。そしてその使徒の側にはラピスの神気を感じますが、神気に僅かですが淀みを感じます。これは殺意の使徒の神気、やはり残っていましたか………これは危ないですね』


 アストライアの呟くようなその言葉を聞いてユフィたちは、前にスレイから教えてもらったことを思い出していた。

 それはラピスがベクターによって一度操られたときのことだ。もしこのまま戦わせたらラピスが危ないのではないかと思ったノクトとライアは揃ってうなずいた。


「……ユフィ、リーフ。ラピスのところは私たちがいく」

「心配しないでください。わたしたちが絶対にラピスさんを連れ戻してきますから!」


 二人はそう言ってくれるがやはりユフィもリーフもラピスのことが心配だった。だが、もしもアストライアの言ったように殺意に飲まれているのだとすると、それを救えるのは自分たちでは出来そうにないとも考えた。


「ノクトちゃん。ライアちゃん。ラピスちゃんのことをお願いね」

「ラピス殿のことはお二人にお任せします。どうかみな無事に戻ってきてください」

「はい!行ってきます!」

「……ん。そっちも頑張って」


 使徒の分体がいなくなり青空を取り戻した空にむかってボードに乗って飛び立ったノクトと、竜翼を広げて飛び立ったライアを見送ったユフィたちは地図上で残された残り二つの場所を一目見ると、四人ともやることが決まったかのように揃ってうなずきあった。


「それで自分とリリカ姉さまでベクターのところへと向かいます」

「話しには聞かされてたけど、あそこで会うまでは半信半疑だったんだけど………身内って訳でもないけどあたしらの国の人間だったんならあたしらで決着つけなきゃだしね」

「そっちのことはお任せします。こっちは私とアカネで勇猛の使徒と憤怒の使徒の方に向かうね」

「名前からしてみてもこの勇猛の使徒ってのがあの王子の使徒っぽいし、ここにレンカとスレイがいる可能性がありそうだしね」


 ユフィとアカネ、リーフとリリリルカのペアで別れることとなり、今いる場所から二つの地点まではそれなりに距離が離れているため、この場で全員が別れることなった。


「そっちはお願いねリーフさん」

「お任せを。そちらもスレイ殿のことをよろしくお願いします」

「うん。任されました」


 短い話を終えたリーフとリリルカは一瞬でその場から消え去った。残されたのはユフィとアカネだけだが、飛びにしろ走るにしろ闘気が使えないユフィはアカネについていけるか不安だった。


「あんたの速度に合わせるから安心しなさいよ」

「えへへっ、ごめんね?アカネ」

「それじゃあ行くわよ」


 この場でじっとしていられなかった二人はゆっくりと走り出した。身体強化でそれなりに脚力が上がるとはいえ、やはりアカネの速さには追い付けそうにないユフィはそのままの速度を維持していくのだった。

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