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忘れていたことと、その代償 ①

みなさんお久しぶりです。

最近忙しく更新が二週間開きましたが、ようやく更新です。

今回は連続で三話更新します。

書き溜めを全部出すわけではありません。ただ、書いていたらいつの間にか長くなりすぎてしまったので分割しただけです。

では、お楽しみください

 年末、後一週間ほどで一年の終わりが近づくこの日、日本にいた頃は一年で溜まりにたまった汚れを落とすため大掃除を行う家庭も少なくないだろう。

 それはこの世界でも同様で昨日ボクは家族みんなで家の大掃除を行った。

 その時にふと思い出したことがあった。

 それは死霊山から帰ってきてから一度も整理したことのなかった空間収納の整理だった。

 せっかくの年末なのでこれを気に空間収納の中を整理しようと思い立った。

 こういう事はその時実行したほうがいいものだ。

 そうと決まれば早速庭に空間収納の中身をぶちまけてみたのだが………身の丈を有に越えるほどの大きな山が三つほど出来てしまった。

 ………………見なかったことにしておこうかな………?

 何てことを考えてたら、母さんに見つかった。


「スレイちゃん。夜までに片付けるのよ」

「あ、はい……わかりました」


 と言うわけでやることになった。


 ⚔⚔⚔


 ガサガサ、ガサガサと山の一つに登りながら、その中にあったものを掻き分けはじめるスレイは、いるものと要らないものを整理し始める。

 その山のほとんどは、魔物から剥ぎ取った素材だったりコアだったりするので、まだギルドに登録していないスレイは近いうちに、フリードにでも頼んで売りにいってもらおうと考える。

 まぁ、冒険者になったら売りにいけばいいのでそのまま残してもいいのだが、ある程度換金はしておいた方がいい。

 黙々と掘り進んでいくと、明らかにあっては不味いものまで入っていた。


「うわ、これいつのだよ?」


 スレイは手に持った酒瓶を揺らすとちゃぽんッと中の液体が音を立てる。

 全く覚えがないが、中に入っているものの検討はついているスレイは、空間収納内部で物が腐ることはないとわかっていても蓋を開けるのだけはごめんだった。


「これは、うん。廃棄だな」


 容赦なくゴミを置いてある方に投げようとしたが、中に入っている物のことを思い出し、もしも投げてガラスが割れてしまうとご近所さんのご迷惑にもなりかねない。

 すこし面倒だったが一度山を降りなければと思ったところに運良く人が来た。


「うわぁ~。これまた、すごい数だねぇ~」

「あっ、ユフィ」


 声した方を見ると白に獣の毛で作られたファーがついたコート──製作と素材となった魔物の素材の提供はスレイ──を羽織ったユフィだった。


「どうしたのこれ~?」

「空間収納の中に入れてあった物、いつの間にかこんなになってたから大掃除のついでの整頓中」

「スレイくんって昔っからそうだよね。たまに雪崩起こしちゃうし」


 ユフィが言っている昔とは地球でのことだ。大掃除になる度にスレイの部屋だけ終わらず、毎度毎度ユフィに救援を頼んでいたからだ。


「あぁ~……その節はお世話になりました………あ、これそこ置いていて」


 スレイは手に持っていた瓶を投げ、ユフィは危なげなくキャッチする。


「なになに?お酒みたいだけど、スレイくんたらこっそり飲んじゃったりしてるのぉ~?」

「いいや。それ、()()()()()()

「へぇ~魔物の…………………………へ?」


 ユフィは自分の手の中にある瓶、その中に並々注がれている赤黒いドロッとした液体を数秒見てからだんだんと顔を青くしていった。



「いやぁぁああぁああぁッ!!」



 奇声を上げながらフルスイングで酒瓶を真上に投げ、それを見たスレイは先程のユフィとはまた別の意味で顔を青くしていた。ご近所さんトラブルとかいろいろと。

 一定の高さにまで浮かび上がった瓶はゆっくりと重力に身を任せ自由落下を開始し、あと数センチのところで地面に激突する前にスレイが風魔法で受け止めた。


「何で投げたの!?」

「何で渡したの!?」


 二人の声が重なった。


「その前に何でそんなもの持ってるの!飲むの?飲んじゃうの!?」

「飲むか!気色悪い!魔物の避けだよ!死霊山で囲まれたときに手頃なのに投げて逃げるための!」

「そんなの処分してよ!」

「だから後で纏めて焼くからそこ置いといてって言ってんじゃん!」


 スレイが指差す場所には多種多様なかなり怪しい物ばかりが積み重なっていた。

 なぜだかあそこだけもの物々しいオーラが出ているような気がしたユフィは、覚悟を決め恐る恐るそこに近寄って瓶を置いた。

 ついでに何が置いてあるのか見てみようと思ったのだが、そこにスレイから声をかけられた。


「それ見ない方がいいよ。魔物の内蔵やら生首とかも置いてあるから」

「何でそんなの持ってるの!?」

「……………………………捨て忘れた」


 そっぽを向いたかと思たら後数秒間、たっぷりと開けて一言だけ告げたスレイにユフィは眉間を押さえながら大きなため息を一つ漏らした。


「なぁ、フィ~今暇?」

「暇だけど、なに?」

「片付け手伝って」

「やだ」


 たった一言でスレイの要望を断ったユフィ。

 始めに生き血の充たされた瓶を投げ渡されたのだから仕方がない。

 そう思ったスレイだが、ここで引き下がってしまったらこの片付けは夜までには終わるわけはない。

 踵を返して立ち去ろうとし始めたユフィを見て、スレイはガラクタ──かどうかはおいておいて──の上から飛び降りてユフィの後を追った。


「お願いだよユフィ~。今日中に片付けが終わらないと家に入れてもらえないんだって」

「自業自得だよぉ~だ」

「この通り、ここにある素材何でも持っていっていいし、コアもあげるから」


 誠心誠意、素材の山の上ではあったが土下座に近い格好をしてお願いをしていると、前を歩いていたユフィの足が止まった。


「何でもいいの?」

「あ、あぁ……どうせ売り払うつもりだったし、なんだったら前に食べた魔物の肉も持っていってもいいよ。まだ沢山残ってるから」

「しょうがないなぁ~。その代わり素材とコア、お願いだからね」

「はい。わかりました」


 なんとも現金な話だが、せっかく快く?ユフィが引き受けてくれたので要らぬ言葉は口の出さないスレイだった。


 ⚔⚔⚔


 スレイとユフィは黙々と作業を続けていく。


「ねぇスレイくんこれは?」


 ユフィは山の中から見つけた石の山を指差した。

 そこに積まれた石はただの石なんの変哲もないが付くほどの、どこにでも転がっているようなただの石だった。

 一応聞く前に鉄鉱石の類いかもしれないので確認したが本当にただの石だった。


「あぁ。それね。捨てていいよ」

「はぁ~い」


 スレイから返答を聞いたユフィは風魔法で石を浮かび上がらせると、そのままごみ置き場に移動させる。


「ところで……何であんなの入れてたの?」


 作業を続けながらユフィがスレイになぜあんなにもただの石があったのかと訊ねる。


「前に重力魔法で石を重くして、頭上にゲートを開いて魔物の頭を潰せないかって思ったんだ」


 なんだか漫画にありそうな方法だと思いながら、ユフィはさらに尋ねる。


「試したの?」

「やってはみたけど、まずただの石じゃ重力魔法に耐えれずにで潰れた。それに重くしたところで元はただの石だから、魔物の頭を潰すまでにはいかなかった」


 遠目をしながら話し出すスレイを見てユフィは納得した。


「……試したんだ」

「怒り狂った魔物を倒すのに苦労したよ……後普通にストーンバレット撃ったほうが早かった」


 から笑いしながら語るスレイにユフィも苦笑いで答える。


 二人で他愛もない話をしながら作業を続けて行くとユフィが山の奥底からあるものを見つけ出した。


「なんだろ、これ?」


 上に乗っていた物を押し退けてそれを取り出してみると、それは鈍色の鋼で出来た金属で出来た巨大な人形の腕だった。

 なんでこんな物がと思う一方で、面白そうだという好奇心から全体を見てみたいと思ったユフィ。掘り起こすために強化魔法で筋力を強化し持ち上げると山の一部が崩れてゴーレムが出現した。


「何でこんなのがあるんだろ?」


 初めはスレイが作ったものかとも思ったが、腕は融解して切り裂かれており胸にも大きな穴が空いていた。


「ねぇ、これどうしたの?」

「うぅ~ん、なにが?」


 別の場所でコアや素材を分けていたスレイが名前を呼ばれて振り向り、かつて戦った魔物の姿を見て思わず剣を抜いてしまいそうになったがすぐにそれを止める。


「そういやぁ、そいつ持ってきてたんだっけ」

「なんなのこれ?」

「アイアンゴーレムだよ。どっかの誰かが山に捨てたゴーレムが魔物化した奴。そいつに短剣は潰されるし、腕は折られるし、倒すために業火を使えば剣が折れるし、ろくなことがない相手だったよ」


 その時のことを思いだしげんなりし始めるスレイをよそに、ユフィは壊れて動かなくなってしまったゴーレムの体を数回コンコンっと叩き金属の具合を確かめてみた。


 ──あ、けっこう硬いんだ。


 少し魔力を流して叩いてもびくともしないゴーレムのことを感心して見ていた。


「スレイくんこれもらってもいいかな?」

「いいよ、持ってって」

「ありがとうスレイくん!これで新しい魔道具が作れるよ」


 わくわくウキウキしているユフィの事を苦笑いを浮かべながら見ているスレイ。


「ほどほどにね……っと、魔道具と言えば。なぁユフィ。前にボクの魔道銃、一緒にばらしたよね」

「うん、分解したね。あ、もしかしてどこかおかしかった?」

「いや、別に問題はないよ。たださぁ、前から思ってたんだけど威力がね」


 作業する手を止めてスレイの事を見るユフィが尋ねる。


「え、でも前に盗賊の盾撃ち抜いてたよね?」


 少し前に王都に遊びに行った帰りのこと、大勢の盗賊に教われその時にスレイがタワーシールドを持った盗賊を、魔道銃で撃ち抜いていた姿を思い出したユフィはこれ以上威力を上げていったいなにと戦うのか、とそう思ってしまった。


「あ、違う違う、威力をあげるのもそうだけど、ボクが頼みたいのは威力調節が出来るようにしたいんだよ」

「威力調節?なんでまた?」


 ユフィがスレイを見るととてつもなく気まずそうなスレイがいた。


「いやぁ~ちょっと前に血だらけで帰ってきたことあったでしょ?」

「……あぁ~、そう言えばあったねそんなこと。結局はぐらかされちゃったっけど」


 ジと目でスレイを見るユフィは、バツの悪そうな顔をするスレイを更に睨みつける。


「あぁ~………そんでその時なんだけど……魔道銃でどれだけも威力が出せるかって試してたんだよ」

「へぇ~」

「それで、銃身が弾け飛びました」

「嘘でしょぉーーッ!?」


 ユフィが年頃の乙女にあるまじき目を見開きながらスレイを見た。


「はっはっは、その時に弾けた魔力と銃身の破片で血だらけになっちゃいました」


 その時のことをより詳しく話すと、最大までに溜めに溜めた魔力を撃ちだそうとした瞬間、銃身がその魔力の量に耐えきれず弾けとんだ。その時とっさに全身にシールドを張ったのだが、魔道銃を握っていた左手は間に合わずに吹き飛んだのだ。

 その時の手は悲惨な物だった。


「……爪は剥がれたし、破片は刺さるし、指の骨は折れるし、手の皮はめくれて骨が見えるし、全身に血は飛んだし、意識は飛びかけるし散々だったよ」


 はっはっは、と笑っているスレイだったが突然、顔をがっしりと固定されてグリンっと向きを変えられると、そこには真顔のユフィがいた。


「スレイくんそれ笑い事じゃない、次そんなことやったらおばさんに頼んで、魔道銃を取り上げてもらうから」

「あ、はい」


 なぜだか逆らってはいけない気がしたスレイは、素直にうなずきました。



 話がそれついでに作業の手も止まったのが、作業も半分ほど終わり山積みになっていたガラクタの半分ほどが処分用の山に積まれていた。その山をスレイとユフィ見ている。


「ねぇ、あのガラクタどこで手に入れたの?」


 ユフィは山積みになったガラクタの中から壊れたおもちゃのようなものを手に取った。


「……えぇ~っとガラクタと言いますか、それ前にミーニャとリーシャの誕生日におもちゃ作ったの覚えてる?」

「うん。確かミーニャちゃんにはぬいぐるみで、リーシャちゃんには動くアヒルのおもちゃだったっけ?」

「そうそれなんだけど、なんか母さんがその事を近所のお母さん方に話したらしくってさ、リーシャと同じ歳のお母さん方がぜひ家にも一つ、こっちにも一つ、ってな具合にこの村の子供たち全員分を作ってまして」

「確かリーシャちゃんと同じくらいの歳の子って……」

「十人くらいかな?」


 なぜかリーシャが生まれた年はこの村の新生児の出生率が高く子供が多い。


「まぁそれで上の子が壊したから新しいのをとか、動かなくなったから修理してとか、隣り村や町に住んでる友人に子供が出来たからとか、町で暮らす孫のためにとか、いろいろな理由で作ることになってね」


 話しているスレイの目から段々とハイライトが消える。


「す、スレイくん!?気をしっかりもって!!」

「はっはっは、大丈夫だよ」


 そう言うスレイの目は更に死んでいった。

 その目を見たユフィは何か別の話は無いのかとあれこれ考えを巡らせる。


「あ、え、ええっと……そ、そうだ!スレイくんさっきの魔道銃!その後どうしたの!?」

「え?あぁ、あの話か」


 先ほど途中で終わってしまったその話を続ける。


「吹っ飛んだのは銃身だけだったから錬金術で直したよ。幸い回路には傷が無かったからね」

「回路ってスレイくんも直せるでしょ?」

「直せるよ。でも、どうも人の作った回路って見辛いから」

「あ、それ分かるかも、たまに家の冷蔵庫とか調子悪いときに直してって言われるんだけど、見辛くて嫌になっちゃう時あるもん」

「それならまだいいよ。ボクの家なんてあれでよく動いてたなってのあったからね」

「えぇ~それどこで買ったやつなの?」

「知らないよ。でね」


 二人は今までに見た酷い作りの魔道具の談義に花を咲かせた。


 ⚔⚔⚔


 本気で話が脱線してしまったので話しの大幅な路線変更を行った。


「それでなんだけど、新しい銃造るの手伝って」

「いいよ、いい材料も手に入ったし」


 ホクホク顔で語るユフィ、そのいい材料と言うのは先ほどスレイが渡したアイアンゴーレムのことだろう。


 ──うぅ~ん……前に苦戦させられた魔物が素材か……


「…………なんか複雑」

「何が?」

「いや、こっちの話し」


 スレイが話を終わらせたので、この話しはこれで終わった。


「それよりこれ、どうするの?」

「燃やすしかないでしょ」

「でも、燃やせないものは?」

「石は捨ててくる、生き血や臓物は山で燃やしてくる」


 そう言ってスレイは燃やせない物だけを空間収納の中に納める。その中には石や魔物の生き血に臓物など、燃やしたら確実に異臭がするだろうと言うものだけを納めると、よく狩りに行く山奥の方へとゲートを開いた。


「ちょいと行ってきます」

「行ってらっしゃ~ぁい、早く戻ってきてね」

「わぁ~ってます」


 ゲートをくぐり山の中に入ったスレイは、土魔法で地面に穴を二ヶ所開けて、片方には石をもう片方には壊れたおもちゃを数点と問題の血と臓物をぶちまけた。


「……………いつ嗅いでもすごい臭いだな」


 何度も言うが空間収納の中は時間が進まないので腐ることはない、だが血の生臭さなどが酷い臭いだった。


「石の方は砕いて埋めるとして問題はこっちだな」


 真っ赤に染まった穴の方を見たスレイは手を真っ直ぐ掲げると、赤黒い業火の炎が現れ一瞬にして地面ごと燃やしつくして消えた。

 灰になったのを確認したスレイは炎を消してゲートで戻った。


「ただいま」

「お帰りなさい早かったね」

「さっさと終わらせなきゃいけないしね」


 スレイは残りの山を見ながらそう呟き、ユフィと共に片付けにかかりすべての仕分けが終わったのは、日もくれてしまうような時間であった。


「あ゛ぁ~疲れたぁ~」

「もう、お掃除なんてやりたくぁ~ない」


 疲れはてた二人は、服についた土ぼこりを払いながら、何か飲み物でも飲んでゆっくり疲れを取ろう、そう決めながらスレイの家の中に入った。

 次の瞬間、パン、パパァーンっと軽快な音が響いた。


「「────────ッ!?」」


 音が聞こえたと同時に二人は空間収納の中にしまってあった武器を取り出そうとしたのだが、



「「「「「スレイ!ユフィ!お誕生日おめでとう!!」」」」」



「「お兄ちゃん!お姉ちゃん!お誕生日おめでとう!!」」



 聞こえてきた声と少し遅れて降ってきた紙テープや紙ふぶき、そしていつの間に集まっていたのか、そこにはスレイの家族だけでなく、ユフィの家族にクレイアルラの計八人が集まっていた。

 それを見たスレイは抜きかけた剣を、ユフィは構えかけた杖を揃って下ろした。


「「………………………………………………はぁ?」」


 長い間を開けて発せられたのはそれだけだった。

 

このあと一七時にもう一話更新します。

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