戦いの幕開け
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アルメイア王国首都、その城門の前で槍を持った二人の門番が立っていた。彼らはアルメイアという国を守る衛兵として十数年職務を全うし続けて来たが、世界に向けて戦争を起こそうとしているとしても、彼らにとってその職務が変わるなどない、そう信じていたのだが………
数日前、アルメイア王国が主導し七か国による同盟の発表から今まで衛兵の役割は国を守ることではなく、国の主導者となったデボラ皇女が気に食わない貴族、戦争に反対する市民の弾圧、彼らはそんなことをするために衛兵になったのではない。だが、突如現れた魔法使いたちによってかけられた魔法のせいで抗うこともできず、ただただやるせない日々を送っていたそんなとき、街道から数人の団体がやってきた。
彼らの手には剣や杖などが握られていることから旅の冒険者かなにかだろう、そう思いながら槍の矛先を旅の冒険者たちに向かって突きつける。
「止まれ。現在我が国で武器の携帯は認められていない。もしそれでも武器の携帯するというもならば強硬手段をとることになるぞ」
「えぇ。その必要はないですよ?」
「なに?」
「だって。ボクたちはこの街をぶっ壊しにきたあなた方の敵なんですから」
そういいながら前に出た白髪の青年は肩に巨大な筒のような物を担ぐと、まばゆい光が輝いたと思うと輝かしい閃光が城門にぶつかり大爆発を起こした。
城門を破壊したスレイは肩に担いでいたバズーカ型魔道銃 サルガス・Ⅱを下ろすと、ヘリオース並に圧縮した魔力砲を放ったせいで銃身が熱を持ち真っ赤に融解しかけていた。
「ふむ。やっぱりこうなったか」
まだ改良中だったこともあり仕方ないと思いながらスレイは融解した銃身を切り離し、残った部分を空間収納にしまっていると後ろから突き刺さるような視線を無視したまま、腰を抜かして倒れている二人の門番に歩み寄りながらナイフを取り出すと
「たっ、たのむ、こっ、ころさ、ないで」
「そんなことしませんよ。ちょっと失礼」
その首に心滅の鎖が巻かれているのを見つけてスレイは顔をしかめる。
「やっぱりか───パラライズ」
パラライズによって兵士たちが倒れるが、これだけでは心配だったので錬金術を使い鎧と瓦礫を使って門番たちを拘束した。
パンパンっと手を叩いたスレイがみんなの方を見ると、やはりどこか突き刺さるような視線を向けられているので、スレイはみんなに向かって苦言を進言した。
「いやいや、ちゃんと事前に決めていたよね城門を破壊して中に入るってさぁ。ちゃぁ~んと人が居ないことも門の強度も確認して放ったから、ここ以外にそんな被害はない………はず」
「そこは言い切りませんか?」
「まぁまぁラピスちゃん。派手に吹き飛ばしたお陰でぞろぞろと集まってきてるんだから、あんまり攻めずにこっちも迎え撃つ準備をしようか」
フリードに言われてぞろぞろと鎧を着た騎士や兵士、それに冒険者に傭兵やらと所属はバラバラだが多分だが騎士と衛兵には心滅の首輪が巻かれているだろうが、首元が鎧で隠れてしまっているので良く分からない。
傭兵は金さえ貰えばどんな事情があれ戦うので多分巻かれていないか、術者が用心深い性格なら確実に巻くし金を払いたくないから、戦争が終われば殺すつもりなら確実に巻かれている。
冒険者の方は半々くらいか、金に困っている冒険者なら望んで戦争に参加するだろうと考えながら、スレイは剣では無く魔道銃を抜いた。
「数はだいたい五百人、いや多くても七百はおるまい………まぁ一人当たり大体三十人と言ったところかのぉ。これはちぃとばかし骨がおれそうじゃがこの面子ならば可能かのうトキメや」
「ふふふっ、対するは五百あまりの大群に対してこちらはたった二十。なんとも心踊る展開でござるなぁ、レティシア殿!」
なんだか狂戦士のようなことを言っているレティシアとトキメを指差しながらユキヤを見ると、ユキヤはソッと目線をそらしていた。
「全く………あやつらは朱鷺芽の教育をどこで間違えたのやら、もう手遅れかもしれぬがどこかにこの娘の嫁の貰い手はいないものか」
「時宗殿、私に視線を向けるに早めてください」
レティシアと朱鷺芽のやり取りを聞いて時宗が頭を抱えている。
実はこの二人、祖父と孫娘の間柄なのだが、祖父としてはかわいい孫娘には戦いに身を置く武士の道ではなく、愛するもの隣で添い遂げる普通の町娘の道を歩んでもらいたいらしい。
ついでに時宗の中で婿候補はユキヤらしい。
そんなことはどうでもいいとしてみんなそれぞれの武器を握りながら迎え撃つため、ゆっくりと近づいてくる団体の方へと向かって歩いていく中でウルスラがみんなに向かって大声で叫んだ。
「さてみんなここからは持久戦になるからな!確実、ペース配分を間違えるなよ」
「あらあらぁ~、なんで~あなたが指揮てるのかしらぁ~?作戦の立案なんかはぁ~、スレイくんがしたんだからぁ~こういう場合はあなたじゃないんじゃないかしらぁ~?」
眼に殺気を込めながらウルスラを睨み付けるマリー。これがまさに視線だけで人が殺せると言ったところか、巨漢のウルスラが小柄なマリーに完全に震え上がっているのが分かるが、見方にそんなことしてる暇あったらその殺気を敵に向けてほしかった。
「言い合いはその辺に。まぁウルスラの言い分も分かりますが、この数をまともに相手していれば先に力尽きるのはこちらですからね」
「あらルラ、なにか策でもあるの?」
「えぇ。まぁ、私一人では出来ませんがね」
そういうとクレイアルラは、ミーニャの方を見る。
「ミーニャ、私に合わせることは出来ますね?」
「はい!このためにずっと修行してきましたから、やらせてください!」
「いい返事です。では行きますよ」
なにをするつもりなのか、スレイたちの視線が二人の方へと向いていると、ミーニャとクレイアルラが腕に付けられたブレスレット、そこに埋め込まれている赤と青の石に触れる。
「──焔を司る精霊よ 我が身と共に 精霊憑依 イフリート!」
「──水を司る精霊よ 我が身と共に 精霊憑依 ウィンディーネ!」
二人のブレスレットから光が放たれ、一瞬二人の後ろに赤々と燃える炎の髪を持った巨漢と、青々とまるで流れる水のような髪をした女性が現れたかと思うと二人の身体に光が集まりる。そして現れたのは赤々と燃えるような赤い髪に豪華な真っ赤なマントを身に纏いその手には大きな一振りの斧を持ったクレイアルラと、青々とした髪に輝く星を散りばめたような深い蒼いドレスを身に纏い弓を握ったミーニャだった。
「ほぉ、精霊魔法かい」
そう呟いたシャノンの言葉を聴きながら改めて精霊の力を間の辺りにしたスレイは、その強大な力に静かに息を飲んでいた。
『「ミーニャ、行きますよ」』
『「はい!」』
ミーニャが弓の弦に手をかけると水で形作られた矢が現れ、それ合わせてクレイアルラが大剣を大きく真上へと掲げる。
『「大いなる水流よ 彼の者を押し流せ」』
『「大いなる炎よ 彼の者を焼き払え」』
ミーニャの握る弓から放たれた巨大な水の渦、それの周りに螺旋を描くように放たれたのはクレイアルラの握る大剣から振り下ろされた紅蓮の炎だった。
水と炎、その二つが合わさった瞬間に巨大な爆発音と共に真っ白な煙が吹き荒れ、向かってきた一段を凪ぎ払った。
開始早々に全員を水蒸気爆発で吹き飛ばしたかもしれない、そう思っていたが吹き飛んだ人たち以外はあまり関係なかった………いや、顔とか肌が出ている所は赤く爛れているのであの爆発した水はかなり熱かったのだろう。
そもそもの話、水を一瞬で沸騰させるほどの高温でなければ水蒸気爆発は起こらないので、クレイアルラはあの炎の渦にいったいどれだけの魔力を込めたのだろうか?、そんな疑問が頭をよぎる一方で当のクレイアルラは精霊憑依を解除しながらどこか不服といった具合で首をかしげていた。
「ふむ。倒せたのは五十人ほどですか………まぁいいでしょう」
何がいいのかは聞かないで置く、っと言うよりももう聞いている余裕がないのだ。すぐ目の前へと迫り来る大群を前にスレイたちはそれを迎え撃つために歩みを進めていく中で、最後にスレイがみんなに向かって一言だけ声をかけることにした。
「さてみんな、順調にことが進めば二時間持ちこたえれば勝機は掴めるはずだ。全部終わったらアルメイアの高級ワインで宴会が待ってるんだ。死なずに生き残ろう!」
「「「「「おぉっ!」」」」」
全員がスレイに言葉に返事をすると、同時に切り込み部隊となるスレイを初めてユキヤ、フリード、ウルスラ、時宗の五人が一斉に地面を蹴り一団の先頭に突っ込みながらスレイは黒幻に暴風の魔力を流し、ユキヤは鞘に収まった状態から身体を屈めさらに一歩強く踏み込み、フリードは闘気を剣に貯めながら腰だめに構えながら走りだし、ウルスラは少し前で立ち止まると両手で大剣を真上に振り上げ、時宗はユキヤと同じく居合いの体勢で走り出すと五人が一斉に技を放った
「凍てつけ──風牙・氷嵐ノ伊吹!」
「遅いな──混成居合いの型 雷鳴斬・朧」
「いくぞ!──秘技・煌凰翼刄!」
「吹き飛べ!──グランドクラッシュ!」
「我が刃が死へと誘おう──冥福の嘆き」
斬激と共に駆け抜ける凍えるような氷の吹雪が敵を凍てつかせ、まるで雷鳴のごとき神速から振るわれた霞のような刃が敵を凪ぎ払い、淡い光を纏った刃から振るわれる無数の斬激が敵を打ち倒し、大地を砕く衝撃波が敵を纏めて吹き飛ばし、すれ違い様に敵を斬りつけていった。
五人の技を受けて大軍の一部が吹き飛び凍りついたが、まだまだ半分以上は残っているがこれくらい倒すのには造作もない。
一瞬で多くの仲間を倒された騎士や冒険者たちだったが、一斉に動き出すとスレイたちを取り囲んだ。
「囲め!囲め!数で押せば倒せるぞ!」
「後ろは女どもと魔法使いだけだ!お前ら女からから狙え!」
「総員!隊列を乱さずに対処しろ!日頃の訓練の成果を見せるのだ!」
冒険者と騎士団がスレイたちを取り囲み、傭兵たちがジュリアたちのほうに向かっていくのを見てスレイたちはずいぶんとなめた真似をしてくれると思っている。
なぜならあそこにいるのは世界最強の女性たちなのだから、簡単にやられるなどあるはずが無いのだから。
襲ってきた騎士たちを剣と魔道銃で倒しながらスレイは一瞬で囲んでいた敵を凪ぎ払うと、騎士たちを指揮している一人の騎士に向かって声高らかに宣言する。
「悪いけど、簡単に負けるつもりも有りませんしボクたちを相手にするよりも、あちらの援護に向かった方がいいと思いますよ?なにせ、集められる最強の人たちを集めてきましたからね」
スレイがそう言うと遥か後方からドカン!ガッコン!グシャ!バキバキ!ゴシャと何かを破壊する音と一緒になにかが潰れるような生々しい音が鳴り響いている。
いったい何事でしょうか?そんな感想を持ちながら戦っていた全員が後ろを見ると、そこには血と臓物を撒き散らしながら傭兵たちを薙ぎ倒すマリーと、どんな魔法を使っているのかは分からないがジュリアに傭兵たちが近づいた瞬間に凍りそして砕け赤い雪に変わっていくのを目の当たりにして絶句する。
「あらあら~。おばさんだと思って油断するとぉ~死んじゃうわよ~?」
「うふふっ、魔法使いだから近付けば倒せる、なんてと思ってるから凍って動けなくなっちゃうのよ。よぉ~く覚えておきなさい」
あの二人が戦っているところを見るのは初めてではないが、まさかここまでとは思わないし、村に居たときは戦うことなどまずはないが、ただ例外としてフリードとルクレイツアが喧嘩したときは全力で落としていたが。
そもそもの話だがなぜあの村に世界最強の戦力が終結していたのかが気になる。
まぁそんなことはいいとして、スレイはジュリアとマリーに一言言いたいことがあったので後ろから斬りかかってくる騎士の剣をかわすと、顔面を柄頭で殴りつけると鼻が潰れてしまう泣き叫ぶ騎士を蹴り飛ばした。
「まったく、母さんたちはわかってるのかよ、ッと!」
左右から斬りかかってくる騎士の剣を黒幻と魔道銃をクロスさせて受け止め押し返すと、左にいた騎士を魔道銃で両の太股を撃ち抜いてから魔力弾で撃ち払い、右の騎士は剣の腹で殴って気絶させると、向かってくる敵を目の前に魔道銃を握りながら耳に手を当てながら短くコールを唱える。
『どうしたのよスレイちゃん?』
「どうしたの?じゃないって、母さんもそこにいるおばさんもあんまり殺さないでよ!望まずに戦ってる人もいるんだからさ」
コール越しにジュリアに怒鳴りながら次々に斬りつけられる攻撃を交わすスレイは、相手の動きを誘導して同士討ちを誘いながら、剣で相手の攻撃をいなしながら蹴りで相手を倒す。
『わかってるわよそれくらい。私もマリーも心滅の首輪がない子たちは殺してません』
「ならいいんだけど、お願いだから無駄な殺生はやめてよ」
これ以上は片手で相手するのも限界なので一度コールを切ったスレイは、やっぱり元とはいえSランク冒険者だったあの二人を心配するのはやめようと思いながら目の前の騎士たちを凪ぎ払っていくのだった。
少し離れた場所でフリードがスレイの戦いぶりをみながら感慨に更けていた。
「うむ。いつの間にかうちの息子が強くなっててオレは嬉しいよ」
うんうんと頷きながらフリードは剣を振り下ろすと剣を一刀で切り落とすと、返す刃で吹き飛ばしていた。
こちらも普段は街の領主でありながら仕事をサボって妻の起こられている残念な父親だが、現役のSランク冒険者、例え執務が忙しく実戦の機会が減ったとはいえ鍛練は怠っていないのだ。
場所は代わりユキヤはと言うと、居合いの構えを解いて流れるような動きで刀を抜くと刀を返して峰で構えながら敵を牽制している。
「あぁ、クソッ。なるべく殺さないように斬るってのもなかなか苦労するな」
悪態をつきながらも一撃一撃を確実に当てながら敵を倒していく。
このように様々な場所で戦いを繰り広げているスレイたち、後どれくらいの時間戦えばいいのかそれは誰にも分からないのだった。




