再開と開戦
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アルメイア王国に降り立つと同時にスレイたちを襲撃してきた者は、中央大陸にいるとばかり思っていたフリード・アルファスタであったが、何故に会っていきなり切りかかられにゃならんのかと、フリードの剣を受け止めているスレイとユキヤはギリギリと押し返してくる剣を押し返しながら、怒りの籠った眼で睨み返していた。
「なぁ父さん。いきなり斬りかかってきたのは何かしらの事情があるのは分かるんだけどさぁ、ちょっとずつ押し返して来るのが微妙にウザいから出来ればでいいんだけどその剣を早く退けてくれないかなぁ~」
「はっはっはっ、久しぶりに会った息子とのスキンシップだ。楽しまなきゃ損だろ?」
「よしダメだ。もう父さんは操られてるみたいだからここで切り捨てて行こうか。墓穴はなくてもいいかな?どうせリビングデッドにはなって欲しくないから、アヴィス・ルートゥーで消し去るつもりだったからさ」
フリードの冗談に対してスレイがマジで返すと、後ろからユフィたちの慌てる声が聞こえてきたがスレイは聞く耳持たないどころか、あぁ?なんだって?っと軟調系の主人公のようなやり取りをしている。
これ以上はさすがに不味いと思ったユキヤがスレイに小声で話をする。
「おいスレイ。お前マジで言ってるのかそれ?実の父親だろ?」
「マジに決まってるだろ?こっちはなるべく被害を減らそうとして少人数による電撃作戦を考えてたってのに、いったい何人連れてきたんだっての!」
スレイが怒りながら森の中に視線を送るとぞろぞろと森の中から人が出てきた。
そして、その顔ぶれの中にはスレイたちが知る者、っと言うよりも知っている人たちばかりであった。
森に設置された野営地ではそこに集まっていた人たちと合わせて改めて話し合いの席が儲けられていた。
「驚いたよ。父さんがいるならどうせ母さんと先生、それにもしかしたら先生はいるかもしれないとは思ったけど、まさかミーニャもいるなんて。マルグリットからはどうやって?」
「おじいちゃんから知らされて、先生に連れられて学園の何人かと一緒に中央大陸に逃げ帰ったの」
「それでお義父さん経由でオレたちにもお前が大変だってことが知らされてな、力を貸してやってほしいって頼まれたのさ」
「スレイちゃんたちなら、まずは様子見のためにこういう場所に来るんじゃないかと思って、街が一望できる丘のあるこの森で張ってたのよ」
さすがは血の繋がった家族。考えていることが手に取るように分かっているからこそ出来る山の張り方としこうの読み方、自分の両親ながらスレイは感服していた。
スレイとアルファスタ家の面々が話し合っている横ではユフィがマリーに話しかけていた。
「おじさんたちがいる理由はわかったけど、なんでお母さんがいるの?」
「決まってるじゃなぁ~い。お母さんもぉ~、娘が心配だったからよぉ~」
「パーシーちゃんは良いかもしれないけど、トーマスちゃんはいいの?」
「平気よぉ~。ちゃぁ~んと乳母さんに預けてきたんだからぁ~。それに、愛する娘がやろうとしていることですもの。精一杯力を貸すのが良い母というもなんだけど、こんなおばさんじゃお邪魔かしら?」
今のマリーからはいつもののほほぉ~んとした優しい雰囲気は微塵も感じられない。
その変わりに鋭い、まるで磨きあげられた刃のような鋭さと、言葉に対する真剣さがひしひしと伝わってきたのでこれ以上はなにかを言うにはマリーに悪いと思ったユフィは、最後にありがとう、その言葉だけを伝えるのだった。
次にリーフがアルフォンソとルル、それにフリードたちと同じく中央大陸にいるはずのリリルカと話し込んでいた。
「まさか、お父様とお母様にリリカ姉さままでここにおられるとは思いませんでした。それもスレイ殿のご両親とユフィ殿のお母様と一緒に」
「まぁ。フリードくんとは昔ちょっと会って知ってる間からではあったんだけどね」
「そういうことを聞いているのではありませんが」
「実はね。あそこにララたちがいるみたいなんだ」
「ララ姉さまが!?」
「ララ姉ぇから届いた最後に手紙にね、ここでの発掘作業で滞在してるらしいのよ。だから心配になってね」
「そうなの。私たちもリリィから話を聞いてハリーくん経由でジュリアさんたちと連絡を取ったのよ」
「そうだったのですね……ララ姉さま」
姉とその家族がここにいる。その事を知りリーフはもう一度戦うために新たな覚悟をその胸に刻むのだった。
とりあえず、本当にとりあえずだが家族と話して理由は知ることができたので、もう一度作戦を練り直さなければと考えていると、クレイアルラと話していたノクトたちが戻ってきたスレイとユフィに向かって訪ねてきた。
「あの。さっきあちらの方々に話しかけられていろいろと聞かれたんですけど………あの方たち誰なんですか?」
「お話を聞く限りではお二人のお知り合いの方々のようでしたけど」
「……スレイ、手を出してるとかない?」
「ないないない。絶対ない」
スレイのその発言に三人は疑いの眼差しを向けているが、そこはきっちりとユフィが疑いをといてくれたようだったので、改めてスレイとユフィはノクトたちが心配していた人たちの元へと向かっていくと、二人の姿を見た人たちの中で一人の少女がニッコリとしながら片手をあげている。
「ようスレイ。お前、たった一年でハーレム野郎になってるなんて思わなかったぜ?」
「それはボクが一番驚いてるところだよヴィー。それにみんなも元気そうで何よりだよ。ミハエルは………見た目とか変わっててちょっとビックリしたかも」
そう、ここに集まったのはスレイとユフィが冒険者として初めて逗留した街で友人で同期の冒険者たちであったのだが、どうして彼らまでいるのかと聞いたところデイテルシアで冒険者業を続けていたのだが、今回の件でフリードたちに一緒に来て欲しいと頼まれてここに来たらしいのだ。
「そっか。ありがとうみんな」
「礼はいらぬよ。お主には以前ダンジョンで助けられておるからな」
「…………………あのときの借りを変えさせてもらう」
「あぁ。便りにさせてもらうよパックス。ベネディクト、それにアーロンも来てくれたんだ」
「えぇ、自分もスレイさんたちのお力くらいにはなれますから」
「助かるよ」
久しぶりに会ったヴィヴィアナ、パックス、ベネディクト、アーロンとはデイテルシアを旅立ってから約一年くらい経っているが、あのときと変わらずに接してくれる四人に小さく笑みを浮かべている一方で、あのときからかなり見た目が変わってしまったミハエルと、そんなミハエルにベッタリとくっつかれて熟れたリンゴのように顔を真っ赤にしているアリステラの方に声をかける。
「なんか前にもベッタリと引っ付いてるねミハエル。あと、アリスも久しぶり」
「あたりまだ。アリスは俺の恋人だからな。引っ付いて何が悪い?」
「ちょ、ちょっと………恥ずかしいから、やめてよ」
なんだか性格も変わっているようだ。
ちなみに昔は爽やか系のイケメンと言った感じのミハエルだったが、今はがっしりと鍛えられた筋肉質に長い髪をバッサリと切りスポーツ刈りにしたスポーツマン系のイケメンに大変身していたのだ。
しかも頬には切り傷が合ったりするので、なんだか歴戦の猛者のような凄みまで化持ち出している。
雰囲気が変わっていてちょっとビックリするくらいだった。
残っていたクレイアルラ、シャノン、ウルスラの三人とも簡単に挨拶をして一通り終えたスレイは、改めてみんなを交えて作戦会議をすることにした。
「まずは始めに聞きたいのですが、あなた方が行おうとしていた作戦と言うものはなんだったのですか?」
「作戦て言う作戦ではないんですが、取り敢えずボクとこいつが街で暴れている間にユフィたちが城に乗り込むって感じでした」
「前に中央大陸でやったのと似てるな………だけど、なんでスレイと……レンカくんだっけ?どうしてお前たちがなんだ?」
「今回は勇者やその仲間を城から引き離すのが目的ですから、私たちの中で一番破壊力のあるスレイくんと勇者が見過ごせないレンカくんなんです」
「そいつになにかあるのか?」
「秘密」
ユキヤが魔王だと言うことはまだこのときは黙っていた方がいいし、そのために魔剣であるエンジュを連れてくることはしなかった。
パーティー内での前衛主力二人による陽動作戦、残ったユフィたちは隠密行動で城に向かい、デボラがユーシス陛下とゾーイに心滅の鎖を使用とした場合にはアラクネによって術者の暗殺、及び魔法が付与された魔道具の破壊をすることが決まっている。
「まぁそれが妥当さねぇ。黒の坊やは知らないが、白の坊やは一度うちのウルスラに勝ってるわけだしねぇ」
「待て待て!俺は負けてなかったし、そもそも途中で止めたから引き分けだぞ?」
「うるさいねぇ。仮にもSランクの冒険者なんだから潔さってのを覚えな。そんなんだからいつまでも童貞だったのさ。まぁあんたの童貞食ったのはあたしだけどね?」
「言うなよ!俺の人生最大の過ちを!ってか朝起きたらお前が俺のあ──グボラッ!?」
ウルスラのどうでもいいような下の話を始めた所でスレイ、ユキヤ、フリード、時宗の四人がウルスラに向かって剣と太刀で殴り飛ばした。
ここにはそういう経験があってもまだお年頃の女の子が多いのだ。
あんたらがそんな話するから、卑猥談なんかに耐性の無いミーニャと朱鷺芽が顔を真っ赤にしてるんだよ。ついでにゾーイも顔を真っ赤にして頭から湯気が出ているではないか!
そんなことを思いながら四人に殴られて伸びているウルスラを睨んでいると、クレイアルラが冷たい目をしながらシャノンに詰め寄った。
「あなた、とうとうウルスラに手を出したのですか?見下げた貞操の弛みっぷりですね。いやはや感服いたしましたよ」
「これでも食う相手は選んでるさね。そろそろあんたもその旨味を覚えたらどうだい?妻子持ちだがそこの剛剣の坊やはまだ食いごたえありそうだしねぇ、噂じゃ貴族さまなんだろ?なら妾の一人は必要だろ?」
「あなた。そんなことジュリアが許すわけがありませんね」
「あら。ルラなら別に構わないわよ。知らない人でもないし、妾と言わずに第二婦人でも良いわよ?」
「「「!?」」」
ジュリアの一言にスレイ、ユフィ、クレイアルラの三人が驚愕した。
だって、あの年中付き合いたてのカップルのような甘ぁ~い雰囲気を出しまくっているこの夫婦から、第二婦人を作ってもいいと言われた。
ついにこの夫婦にも倦怠期が!?そう思ったスレイは大変貴重なので動画撮っておこう、そう思いながらプレートを取り出すとフリードに殴られた。
「別に夫婦の危機とかじゃないからな」
「じゃあなんで?」
「実は、見合い話が来てて」
「リーシャとアーニャに来てるなら見合い相手絞めるよ?ついでに持ってきた相手を消すよ物理的に」
「やめろやめろ、お前ならマジで出来るからな。それと見合いの相手はオレだ、オレ」
「あぁ~。跡取り的な理由?」
「まぁそういうことだ。断ってはいるんだが日に日に量が増えてきてさすがに困っててな………」
フリードの目から精気が抜けていく。ついでにジュリアの目からは憤怒の炎が燃えていた。
アルファスタ家の領地は国内でも有数の観光地の一つだ。
グレイ・アルファスタのせいで一時期は客足が落ちたものの、今では過去と同じように人が押し寄せているらしいので、どうにか自分の家にもその恩恵を、っという貴族がいるのだろう。
それを考えていると、話を聞いたユーシス陛下とアルフォンソが眼に涙を貯めながらフリードの手を固く握りしめた。
「分かる。分かるぞ、その気持ち!私も前妻を病で亡くし、今の妻と婚姻を結んだあともいろいろと影で言われ続けておるからな」
「私も、騎士団の副団長に任命されてからと言うもの、その手の話は多いですからね。あれはウザイ」
「わかってくれますか!」
なまじ貴族の身分と権力、あるいは財力を有するとこう言うことが起こるのかという、なんとも分かりやすい縮図であった。
ちなみにジュリアはと言うと、知らない貴族の娘を娶ってもらうよりも家族のようなクレイアルラに第二婦人になってもらいたいらしく、クレイアルラを洗脳する勢いで何かを言っている。
話が大分それてしまったが、もう一度作戦を練り直すに当たり作戦の細部はそのままには囮となるチームとして、スレイとユキヤの他に、ラピス、レティシア、朱鷺芽、フリード、ジュリア、クレイアルラ、マリー、シャノン、ウルスラ、時宗、ヴァルミリア、そしてミーニャが加わることになった。
現Sランク元Sランク冒険者を一同に終結させたドリームチーム。囮として過去にこれ以上に無いと言わんばかりの豪華な顔ぶれとなった。欲を言えば後はユフィとリーフも入れたかったが、ユフィはゾーイとユーシス陛下を守るシールド・シェルの操作があり、リーフは前衛として前を張ってもらう予定だ。
各チーム同士の細かい部分までの話を擦り合わせと、囮であるチームには伝えておくべき点等も伝え終わり、もしも予期せぬ敵の増援があった場合の対処法など、話し合えることを全て話終え作戦の開始となったときユーシス陛下とゾーイがみんなの前に出て頭を下げる。
「みなさん。この度は我らの国のた力を貸してくれたこと、本当に感謝する。今は無理だが全てが終わった暁には必ず礼をする。どうかよろしく頼む」
「ぼくたちの国のことを他所の国の人に頼むのは間違ってるかもしれない。だけど力の無いぼくたちにどうか戦う力を貸してほしい」
頭を下げているユーシス陛下とゾーイを見て、みんながなにかいえとスレイに視線だけで訴えてきた。
「お二人とも頭をあげてくださいよ。それにですよ?ボクたちは依頼されたから戦うのではなく、ただ自分の目的のために戦うんですから」
「………えっ?」
「友人のため、家族にため、誰かを守るため、ここにいる全員がそれぞれ自分の意思であなた方を利用してここにいる。ならお二人もボクたちを利用しちゃってくださいよ。それで気に病むのなら、アルメイア王家が秘蔵する高級ワインでも戦勝の宴で振る舞ってください」
スレイのその言葉に呆気に取られたユーシス陛下とゾーイだったが、
「はっはっはっ、そうか、ならば私たちも君たちを利用させてもらうよ。そして戦勝の宴では城の酒蔵の酒だけでなく私が個人的に秘蔵しているワインも出そう」
「ぼくもそのときはお酌してあげるから、楽しみにしててよスレイ?」
「えぇ。楽しみにしています──それじゃあみんな行きましょうか!」
「「「「「おぉ!」」」」」




