暑い夏の日
なぜか今までで一番長い話が出来ました。
どうかお楽しみください。
一年にも及ぶ長い長い修行の日々を終え、故郷の村に帰ってきたことをスレイ。
これはスレイが帰ってきてからちょうど数ヵ月が経ったころのお話です。
⚔⚔⚔
その日はとてもとても蒸し暑い日の事だった。
遠くにはかげろうが立ち上ぼり、ただでさえ暑いのにこれでもかと照りつける陽射しのせいで余計に暑く感じる真夏日のこの日、いつものように修行に打ち込んでいたユフィは、止まることなく滝のように流れ出す汗に辟易し、ついに音を上げてしまった。
「もうムリぃ~!あぁ~つぅ~いぃ~!!」
限界だと叫びながら魔法の練習をやめて木陰に退避したユフィ。
その姿はいつもよりも夏らしい、レースのタンクトップにショートパンツといつもよりも涼しい格好をしていたが、それでも限界だったらしい。
女の子がしてはいけないと思いながらも、ユフィは堪らずに胸元をパタパタさせ、持ってきた水筒を空間収納から取り出すとゴクゴクと一気に飲んでから、少々行儀が悪いと思いながらも口の端から滴っている水をぬぐった。
「もぉ~!何でこんなに暑いの~!!」
もううんざりと言いたげなユフィの言葉を、少し離れた場所で聞いたスレイも確かにもう限界だった。
この炎天下のせいで剣は熱を持ち、汗で滑らないようにとつけていた指貫のグローブも汗で濡れ、もはや意味をなしていなかった。
無心で剣を振り続けていたスレイだったが、ユフィと同じように限界を感じて剣を鞘に戻しながら木陰に退避する。
「確かに、こうも毎日暑い日が続くと練習する気にもならないよな。あとユフィ、見えるよ」
「スレイくんのエッチ!」
「見てないから」
注意しただけで怒られるとはなんとも理不尽なことだと思ったスレイは、ユフィの隣に腰を下ろすとなぜか距離を取られた。
理由はスレイの格好のせいに違い無い。
いつもと代わり映えのない半袖の黒いシャツに黒のズボンと、見ているだけでも暑苦しい格好にはユフィでなくても距離を取りたくなるだろう。
「あっちも暑かったけど、この暑さは異常だな………木陰も暑いし」
死霊山のある南方大陸は年間を通して温暖な気候ではあったが、夏でもここまで酷くはなかった。とはいえ、あそこに気温に慣れてしまったスレイでも唸らすということは、これは本当に異常気象だとユフィは思った。
「もういやぁ~!海行きたぁ~い!涼しいところ行きたぁ~い!」
「いや海って、隣の国に行かないと無理だし……てかあそこって港町だから泳げないか」
そもそもこの世界に安全に泳いだり遊んだりできるビーチなどあるのだろうか、なんてことを思いながら水を飲んでいると突然ユフィが立ち上がる。
「そうだよ!泳げるなら海じゃなくてもいいんだよ!」
「ど、どうしたのユフィ?」
「スレイくん川に行こう、川!そして泳ご!」
驚くスレイを無視して自分の意見を言うユフィだったが、それには大きな問題があった。
「いや、泳ぐって水着は?」
「あ、持ってなかったっけ……」
そう、ユフィだけでなくスレイも水着を持っていない。それどころか内陸に位置するこの国で水着を取り扱っている服屋があるかどうかも分からない。
「このまま泳ぐわけにもいかないしな」
それなりに成長している二人。まだ幼いがしっかりと出るところは出ているユフィと思春期に入りそうなスレイにとって、薄着で水の中に入るのは何かと問題がある気がするのでそれだけは避けたいと思っていると、ユフィはあることを思い付いた。
「なら、スレイくんが作ってよ」
「はっ?いや無理だって材料もないのに」
「前に狩った魔物素材は?たしか前に水を弾くとかなんとかって言ってた気がするけど」
「あぁ~あの魔物の素材か……それなら……ってマジでボクが作るの?」
「うん!だからお願いね」
笑顔で言うユフィにスレイは断るに断れないスレイだが作ると言うことはつまりあれを知ることになる。
「ねぇユフィ?水着を作るってことはボクにサイズを計れってことでしょうか?」
「えっ?サイズってなんの?」
「いや……だからさ……その……スリーサイズとか……です」
視線を外しながら告げるスレイだったが、ユフィがスレイの言った言葉を頭の中で何度もその言葉が反芻し、ようやくその意味を理解したユフィはみるみるうちに顔を真っ赤にした。
「す、スレイくんのエッチ!変態!」
「ボクのせいかよ……?」
一度咳払いをしたスレイは、ユフィのことを見ながら話を続ける。
「それでもいいなら作るけど……どうする?」
「むぅっ……………」
うねりながら考え込むユフィ。
まぁ必要なのは腰回りのサイズと胸囲なのだがそれでも計るにはかわらないので断ってくれればいいと思っているスレイだったがユフィは違った。
「わかった!いいよ!」
「えっ、マジで!?」
まさかの返答にスレイは驚く。
「泳ぐためだもん!さぁスレイくんどうぞ!」
杖を置いてベルトにシャツを脱ぎ出そうとするユフィ。
「待て待て待て待て待て!冗談だから、腰回りと胸囲を教えてくれれば良いだけからね!?後ここ外だから!?」
こんなところで脱ごうとしだすユフィを止めるスレイは、取り敢えず空間収納から取り出した薄手の上着を羽織らせる。
「むぅ、ならそういってよ……でも、スレイくんがいうならいつでも脱ぐからね」
「脱がんでよろしい!ってか嫁入り前の娘がなんてこと言うの!」
「スレイくんお父さんみたい」
「お願いだから茶化すな……はぁ……後でデザイン描くから家に来て」
「うん!楽しみにしてるね」
なんだかドッと疲れたスレイは、日課の早朝練習も早々に切り上げて家に帰ることにした。
⚔⚔⚔
ボードの上に紙を置いてペンを片手にサラサラっとペンを走らせていった。
数分後、ペンを置いたスレイは書き上がったデザイン画を持ってユフィに見せる。
「これはどう?」
「うぅ~ん……もう少し露出が少ないのが良いかも~」
「ならセパレートかパレオ巻くかどっちかにしたら?」
「セパレートは子供っぽいからイヤかなぁ~」
「もう勘弁してくれ」
すでに十数枚も水着のデザインを書き続けていたスレイは、何が悲しくて女性物の水着をなん十枚もデッサンしなければならないのかと、いい加減もううんざりした顔をしながらテーブルの上に突っ伏していると上から声が聞こえてきた。
「あなたたち、さっきから何してるの?」
突っ伏しながら顔をあげるとリーシャを抱っこしたジュリアが立っていた。
「なにこれ……下着?……じゃないわねよね。水着のデザイン画かしら?」
「そうだよ。ユフィが川で泳ぎたいから水着を作ってくれって言ったから、こうしてデザインを描いてるんだけど、どれも気にいらないんだって」
「あぁ、だから帰ってくるなり私のデザイン本を借りてったのね」
スレイの手元にある本を見ながらジュリアはそう呟いた。
今さらだがこの世界の本には挿し絵やイラストが書かれている本が存在する。聞いた話でしかないがカメラも存在するため、このデザイン本には服の写真がいろいろのっていた。
まぁその全ての写真は白黒なので若干ではあったがかなり見ずらかった。
仕方ないのでユフィのためにもう一枚描こうとデザイン本を開こうとしたところで、ふとなぜジュリアがまだいるのか気になった。
「ってか、母さん今日依頼は?」
朝、早朝練習から帰ったらすでにフリードは簡単な討伐依頼に行くために出ていったが、ジュリアはそれについていかなかった。
「お休みよ。リーシャがまだ乳離れするまではね。ミーニャの時もそうだったでしょ?」
「いや覚えてないけど………それで母さん、何でそんなに見てるの?」
ジュリアが手に持ったデザイン画を置いて別の絵に手をかけていた。
「あのねスレイちゃん。お母さんにも一着作ってもらってもいいかしら?」
「……………………いいけど、泳ぐの?」
「ここの暑さはちょっとね」
手をうちわのようにしてあおぎながら答えるジュリア。
「わかったよ。ユフィと母さん……それにミーニャとリーシャの分もかな?」
スレイが後ろを見ると、ピクッとミーニャの肩が揺れる。先ほどからこちらのようすをチラチラと覗き見をしていたミーニャ、それに気付かないスレイではない。
「お、お兄ちゃん、わたしのも作ってくれるの?」
「あぁ、一着も二着も関係ないからね。あ、ユフィ、おじさんとおばさん、後パーシーくんも作るつもりなんだけどあとでサイズとか教えてよ」
「わかった伝えとくね」
「そんじゃ、後何枚か描くけどいい加減決めてね」
そう言いながらスレイは十枚ほどのデザイン画を書き上げていったのだった。
⚔⚔⚔
ユフィの突発的な思い付きで水着製作を初めてから数日、ボクは薄暗い明かりのついている部屋で一人、チクチク、チクチク、チクチクチクチクチクチクと針で布を縫っていた。
「あぁ~……今日で何日寝てないんだっけ?」
目を虚ろにしながら一人愚痴るボクはもう思考までもがボケてきた。
何が悲しくて一人で十着も作らないといけないんだよ………あれからルラ先生に父さんの分も増えたし……あぁ~ねみぃ~、誰か代わってくれぇ~
何て言っても誰も答えてくれない……眠すぎて頭いってぇし目も霞んできた……もっと言うと心なしか性格まで変わったような……取り敢えずコーヒーでも飲んで目を覚ますか……
作業する手を止めてボクは、部屋を出て台所に行くと母さんがいた。
「あら、おはようスレイちゃん大丈夫?目の下の隈すごいわよ」
「おはよう?……あれ?今夜中じゃ……」
霞んだ目で窓を見ると東から朝日が上っていた。
「うっわぁ~……もう夜が明けてたかぁ~……母さん……コーヒー淹れてぇ~」
もう疲れがピークに達したボクは、頭を打ち付けるようにしながらテーブルに倒れこんだ。
「はい、これ」
「ありがと~」
ズズズッと音をたてながらコーヒーを飲む。
あぁ~目が覚めるな。
「ねぇスレイちゃん。後どれくらいで出来るの?」
「後二着で終わるから、今日中には終わると思われます」
「口調がおかしくなってるわよ?………まぁ、それなら川遊びは明後日かしらね」
「そうだね……じゃあボクもう少しやって来るからあと一杯コーヒーください」
もう一杯カップにコーヒーを注いでボクは部屋に戻っていく。
「あんまり無理しちゃダメよ?あとで軽くサンドイッチでも持っていくから」
「はぁ~い」
あくびを噛み締めながら答えるボクの耳に母さんの大きなため息が聞こえてきた。
「さぁって、もう一頑張りますか」
ボクは縫いかけの布と針を手に取り再びチクチクチクチクと針を動かし出した。
⚔⚔⚔
二日後、一人で十着の水着を作ると言う苦行から解放されたスレイは、昨日丸一日寝続け疲れと体力と気力を回復させた。
川遊びの当日、村から街へと繋がる街道から少し離れた場所にある河原、そこに着替えようのテントを張りそこで男女別れて着替えを行っておる。
「あぁ~もう当分縫い物はやりたくねぇ~」
早々に着替え終わったスレイはまだ小さいリーシャのための遊び場を作っていた。
遊び場と言っても土魔法で丸みのある石を作り出し怪我をしないように地面の石をキメの細かい砂に変え、そこに水が流れるようにしてあるだけの簡単な遊び場だ。
ついでに空間収納の中にしまってあるパラソルやテントやチェアも取り出し並べている。
──あぁ~なんかこれ、キャンプみたいだな……やったことないけど。
今の光景を見たスレイは昔テレビ等で見た家族ずれのキャンプの様子に重なって見えていた。
「おっ!準備終わってるみたいだなスレイ」
声が聞こえた方を見るとスレイと同じように水着に着替えた父フリードとユフィの父ゴードンに、ゴードンの腕に抱えられたパーシーの姿だった。
「父さん、おじさん。サイズどうだった?」
「おう、バッチリだったぜ」
「俺も問題はないな」
「パーシーくんは?」
「ぼくもだいじょうぶぅ~」
「そっか、良かった」
三人とも問題はないとの答えを聞き良かったと思っていると後ろから別の声が聞こえてきた。
「お待たせぇ~」
四人が揃って振り向くと、そこにはそれぞれ形の異なる水着を身に纏った美女、美少女?の集団だった。
スレイたちはそんなに女性たちの姿に見惚れていると、ユフィがスレイの前に駆け寄ってきた。
「どう似合ってるかな?」
「あぁ、とっても似合ってるよ」
「ありがとうスレイくん」
ユフィの水着は上下ともに二段のレースがついた白いビキニタイプの水着だ。その姿をスレイに誉めてもらい、ユフィはとても嬉しそうに微笑んでいた。
その横では妖艶に頬笑むみながら正面に立つフリードを見つめるジュリア。そんなジュリアが着ているのは真っ赤なビキニに腰の辺りには同じく生地の薄い赤いパレオを巻いている。
「ふふふっ、どうかしらフリードさん?」
「思わず見とれてしまうほど似合ってるよ。ジュリアさん」
「あら、うれしい」
フリードに称賛の言葉をもらい頬笑むジュリア。
その横ではほほに手を当てながら微笑んでいるマリー。来ている水着は黒のビキニタイプ、ただし下はフリルの着いたものだ。
「ねぇあなたぁ~この水着、似合ってるかしらぁ~」
「あぁ」
「あらあら、なぜこちらを見てくれないんですかぁ~?」
一向に視線を会わせ用途しないゴードン、その視線に入ろうとマリーが移動してまた視線をはずす。それを何度も繰り返すマリーだが顔が笑っているのでただ楽しんでいるだけだろう。
「ねぇねぇ、お兄ちゃんわたしたちは?」
そう訪ねてくるのはミーニャとその腕に抱かれているのはリーシャだ。二人が着ている水着はお揃いの黄色のワンピースタイプだ。
「あぁ、ミーニャも似合ってるよ」
「うん。スッゴクかわいいよ」
「ありがとお兄ちゃん、お姉ちゃん」
「あ~ぁ」
誉められて喜ぶミーニャ、リーシャも嬉しそうに──多分、手を叩いて喜んでいる。
「スレイくん私たちお父さんたちにも見せてくるね」
「わかった。ミーニャたちも頼むね」
「任されました!行こっかミーニャちゃん、リーシャちゃん」
「うん!」
「あぅ~あぁ~!」
元気よく歩いていくユフィたちの姿を見送ったスレイ。
「スレイは手先が器用ですね」
振り返るとそこにはクレイアルラがいた。いつもは下ろしている髪をアップにまとめ髪の色と同じ緑色の──こちらは少し薄いが──ビキニ、その上には日焼け防止かはたまた肌を見せぬためかパーカーを羽織ってはいるがクレイアルラの美しさをより引き出していた。
「先生、とっても似合ってますよ」
「ありがとうございます。それにしても、あなたはこちらの方でも稼げるのではないですか?」
「無理ですよ。どれも独学ですから売れるわけがありません」
「謙遜は美徳ですが、それでは損をすることもありますよ」
「こういう性格なもので、そのときはその時です」
スレイが頭をかきながら笑っていると、なぜかもじもじキョロキョロと周りの様子を伺いだした。そんなクレイアルラの姿をスレイは不思議に見ていると、顔を真っ赤にしたクレイアルラがスレイに訊ねる。
「あっ、あのですね………なぜこんなに布の少ない水着を作ったのですか?」
「はぁ?」
スレイは耳を疑った。
──え、なに言ってんの?ボクは言われた通りの物を作ったんだけど?苦情は受け付けませんよ?
口には出さずにそう思っていると、クレイアルラは話を続ける。
「私が頼んだのは、布の多い水着です」
「え、でもボクが頼まれたのはこれでしたけど」
スレイは空間収納の中にしまってあったデザイン画を纏めたファイルを取り出し、その中から今回頼まれた水着の絵を取り出す。
「あっ、あったあった。たしか指定されたのってこれですよ?」
クレイアルラに渡した絵にはクレイアルラの名前と胸囲などのサイズが書かれていた。
「そっ、そんな!………スレイ、そのファイルを貸してください」
スレイからファイルを引ったくったクレイアルラはペラペラとページをめくり一枚の絵を見せた。
「これです!私がお願いしたものわ!」
クレイアルラが持っている紙に描かれているのはフィットネス水着だったが、どうしてそれがこれになっているのかわからなかった。
「何でこれが、それに?」
「全くわかりません」
「「……………………………」」
二人は一枚の絵を見ながら考え込みそしてスレイはあることに気がついた。
「あっ………もしかして、母さんたちがなにかした……っとか?」
この絵を持ってきたのはジュリアとマリー、もしかしたらその二人なのではないかと思ったスレイは隣から沸々と伝わってくる怒りのオーラを感じながら少しだけクレイアルラから距離をとる。
「すみませんが、ちょっとジュリアたちにお話がありますので私はこれで」
踵を返し身を翻したクレイアルラ、その手にはいつの間にか杖が握られていたのを見たスレイは、取り敢えず自業自得だと思ったので止める気には慣れなかった。
「さぁって……泳ぎますか」
遠くで爆発音やらジュリアとマリーの悲鳴とクレイアルラの怒号の声、そんなものが聞こえていたが今日は疲れているので気にしないことにした。
⚔⚔⚔
流れる水の中を浮かぶスレイとユフィの二人。
「あぁ~気持ちいなぁ~」
「そうだねぇ~」
のんびりとしている二人、他の場所では父親二人が釣りを楽しんだり、友人を起こらせた母親二人が正座させられたり、小さな子供たちがスレイの作った遊び場で遊んだりと、思い思いも楽しみかたをしていた。
「あぁ~そろそろ昼か」
空に輝く太陽がちょうど真上に来ている。それを見ながらスレイが呟く。
「腹……へったな」
「お昼なにかな?」
「魚じゃないかな、さっき釣ってたし」
「そうかも……お手伝いしないとね」
「そうだな」
話ながらの二人はずっと浮かび続けている。なにもせずにただ流れるる水を感じながら浮かんでいた。だが、一つ可笑しなことがあった。
「なぁ、お前ら、それどうやって浮いてるんだ?」
いつの間にか川の中腹の深いところにまでやって来たフリードが、プカプカと浮かんだまま動くことのない二人に疑問を投げ掛ける。
その疑問の通り、スレイとユフィは浮かんだまま動いていない、水はしっかりと流れているのでその場に留まり続けることなど不可能なはずなのに二人はずっと、かれこれ十分近くその場で浮かび続けていたのだ。
「簡単だよ、水の魔力で身体をくるんでその場に固定してるだけぇ~」
「おじさんもやってみますかぁ~」
「いや、結構だよ。おいゴードン、競争しようぜ」
やんわりと断ったフリードは、少し手前の方で水浴びをしていたゴードンに訊ねる。
「構わんぞ」
「おっし、そんじゃ負けた方は今晩酒場でおごりな」
「おもしれぇ乗った」
そんな感じで泳ぎ始めた二人だった。二人が泳ぎ始めたせいで波を立った、これで寝ているにはいささか波が高すぎる。
「起きようか」
「そうだね」
十分に寝たので起きあがった二人は、昼食を作るついでに未だに怒り続けているクレイアルラから、母親を助けることにした。
⚔⚔⚔
空が赤らんで来た時間、十分に遊んだ面々は川の中から上がり始めた。
「フリードさん、私たち先に着替えてきますから片付けお願いしますね」
「あぁ、任せてくれ」
フリードを筆頭にテーブルに上に置かれた皿やコップ等を一纏めにし始める。
「スレイ、後頼むぞ」
「はいはい」
手を降りながら空間収納を発動し、その中に全てをしまった。
「お前の空間収納の中、広そうだな……いったいどれだけ入れれるんだ?」
「さぁ?調べたことないからわからないよ」
空間収納は魔力量に比例し大きくなるが、あまり気にしたことがないので調べたことはないが、それでもこれくらいの物を入れても問題ないくらいには広い。それどころか別の空間を作ることも出来るのだ。
「……でも、今度中の整理はしないとな」
何が入っているかを知るためにそうしようと思っていたスレイはそう呟いた。
「おいスレイ、さっさと着替えて帰るぞぉ~」
「あ、はぁ~い、今行くぅ~」
返事を返したスレイは少し小走りで走りながら駆け寄った。
⚔⚔⚔
さて、ユフィの一言によって始まり、それから何日もかけて行われた水着騒動だったが、スレイはこれで終わった……そう思っていたのだが……
「スレイくんお願いね」
「頼んだよ」
「よろしくね」
川遊びから帰ってきた次の日、朝早くから村の人々が押し寄せあれよあれよという間に自分のほしい水着を頼み去っていった。
昨日の疲れから早朝の練習を二人とも取り止め、惰眠を貪っていたスレイだったが、いつも起きる時間になってたたき起こされこうして大量のデザイン画を乗せられていた。
まだ寝起きと言うこともあり思考が追い付いておらず、思考が停止したままたたずんで数秒、ようやく事態を飲み込んだスレイは一言だけ。
「え、なにこれ?」
ようやく終わったと思っていたこの騒動は、まだまだ続くようだった。
今回は水着会でしたが、どうでしたでしょうか。当分は今回のような話を書くつもりですので、何かこんな話が読みたいなどの要望がありましたらお聞かせください。




