特別編──聖なる夜に
メリークリスマス!っと言うわけでクリスマスのお話を書いたのですが、ほとんど家族旅行がメインとなります。
このお話は今よりも少し未来のお話であり、昨年投稿しました『ちょっと未来のクリスマス』の一年後の設定になります。
登場人物としては現在までに登場している主要人物の他に数人のメインキャラと、主人公たちの子供が出てきている完全に未来のお話となっております。
去年の特別編をまだ読んでいない方、あるいはネタバレが嫌な方は読まないことをおすすめいたします。
それでも良いと言う方はどうぞお楽しみください。
季節は年の瀬の十二の月、北方大陸の魔法国家マルグリット魔法国に住むアルファスタ家とタチバナ家は、せっかくの年の瀬でSランク冒険者として多忙な日々を送っていただけでなく、少し前にもちょっとした大事件に巻き込まれていたりしたり、今年の始めに産まれた子供たちもちょっとした旅行に出ても良い程に成長し、多忙だったスレイとユキヤが揃って長期の休みを取れたこともあり、少し速めの年末の休みにかこつけて久しぶりの家族旅行に行こうと言うことに相成りました。
そして今回の旅行の行き先と言うのは、数年前にバン・アルファスタが家族をホッポリだして遊びに行ったまま帰ってこなかった南方大陸のリゾート地として改築された島、トロピカル・アイランドだった。
季節は十二の月で西方大陸や中央大陸では真冬真っ盛りのこの季節に、ここまでの暑い日差しを受けられるのは南方大陸の特権だろう。
空は清々しいほど晴れ渡った青空に燦々と輝きを放つ太陽が一つ、そして照りつける太陽の熱を受けて焼けるように暑くなっている真っ白な砂浜、耳に届くのは穏やかな波の音。
目の前に広がる大海原には水着の男女が楽しくはしゃぐ。そうここはビーチ!まさにここは南国の楽園!………っといいたいのだが、なぜかビーチには人っ子一人おらず閑古鳥が泣いている始末、そして砂浜には真っ白なビーチにはまったくもって似つかわしくない二人の青年が、これまた常夏のリゾートにはふさわしくない黒のロングコートと黒い羽織りを身に付け、その腰には剣と刀を刺していた。
「ねぇユキヤくん。ボクたちってさぁ、日頃の激務とあのクソ女神の無茶振りで酷使した身体を癒すためと、せっかくの年末でお互い子供も成長して旅行に行けるようになったから、嫁たちの家族を連れてこのトロピカル・アイランドにバカンスに来てるはずだったよねぇ?」
「そうだな」
「じゃあさぁ、なんでボクたちはいつもの格好で剣と刀を腰に刺して、誰もいない砂浜にいるんだろうね?おかしくないかな?」
「そうだな」
「お前、もうそうだなとしかいってないけど大丈夫か?」
「そうだな」
ユキヤくんはもはや何を言ってもただ一言、そうだなっとしか言えないゴーレムにでもなってしまうほどに今の状況に絶望しているらしい。もちろんそれはスレイも一緒で、ほんとうならば今頃は愛する妻たちの水着姿を拝み、かわいい子供たちと砂浜で砂遊びをしたり、昼間っからお酒を飲みながら日光浴をしたり、普段は着ないようなアロハシャツのようなものを着たりと、色々と考えていたのだがなぜこうなったのか?
そしてなぜスレイとユキヤと同じSランク冒険者のフリードや騎士団所属のアルフォンソ、ほかにも色々と実力者が揃っているのになぜなのかとスレイはどこまでも広がっている青空を見上げながらそう思っているのであった。
なぜこうなってしまってるかと言うと、時は今から数時間ほど前にまで遡る。
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その日の明け方近く南方大陸の港町から二日ほどの船の旅を終えたスレイたちは、続々と船を降りていく他の乗客の波に乗りながら船着き場に降り立った。
簡単に今回のメンバーの説明をすると、まずは当たり前だがスレイのアルファスタ家とユキヤのタチバナ家で総勢二十名と親族をあわせて総勢四十人を越える大所帯で、ほかにも後十人程来る予定なのだが身分的な理由と仕事の関係でこちらについてから、スレイたちのゲートで呼び寄せることになっている。
まぁそれは置いておいて、船を降りたスレイたちは地球でのハワイに付いた旅行客が受けるような──まぁ、行ったことはないが──歓迎と、鮮やかな花で作ったレイを首にかけられた。
入国審査を終えた後、事前に予約していたホテルにチェックインするためにスレイと、着いてからもう待ちきれないといったご様子のレイネシアが、そしてみんなの荷物を預かった父親組の数人と、後からの合流組をゲートを使って迎えに行ったノクトたちが抜け、ユフィたちはそのまま船着き場のエントランスで先に行ったみんなの帰りを待っていた。
「いやぁ~、たった二日の船旅だったけど結構楽しかったねぇ~」
「さすがは世界一と称される超巨大豪華客船アウステル号、噂通りの素晴らしい船旅でしたね」
「船内も泊まったお部屋もとても広くて、とても優雅な船旅だったわ~」
「そうね。なにせ高級レストラン並の食事だけじゃなく、船内には高級店から安価なブティックなんかが立ち並んで、高級エステが無料サービス受けれるなんて夢みたいでした」
「それに~、歌姫サンドラ・パークスのコンサートにぃ~、舞姫マレーナ・イルヴィスの舞台。思い出しただけでも涙がでるわ~」
「あたし、こんな楽しいこと産まれて始めてよ」
「あぁ、いけません………このような贅沢を知ってしまうなどなんと罪深きことなのでしょうか」
「っとかなんとか言いつつあなたもかなり楽しんでいましたよね?………っとか言いつつあたしも後三日くらkあの豪華さを味わったら同じ気持ちになってたわね」
などと楽しそうに話しているのは上からジュリア、クレイアルラ、ルル、アニエスの母クロエ、マリー、ライアの母ルリア、ノクトの母ノーラ、そして最後にラーレの身元引き受け人兼母親代理のエンネアなのだが、母親全員が全員初めて体験した豪華な船旅の余韻にどっぷりと浸っていた。
「ふふふっ、お母さんたちあんなに嬉しそう。やっぱり誘ってよかった~。ねぇ~ジークちゃ~ん」
そういいながら笑っているユフィは、自分の腕に中でおしゃぶり咥えながらスヤスヤと寝息を立てている白髪の赤ん坊に笑いかける。この子は今年の始めに産まれたスレイとユフィの念願の最初の子供で、地球での英雄の名前を貰ったジーク・アルファスタだ。
眠る我が子を腕に抱きながら微笑んでいると、そんなユフィに後ろから赤ん坊の鳴き声と共に声をかけてくる人物がいる。
「うわぁ~、ユフィ~助けてぇ~!リヒトが全然泣きやんでくれないんだけど!?」
「ふにゃあああああああああ~~~~~~~~~~~~~~~!!」
「ソフィアちゃん。もうお母さんなんだからちゃんとしなさい!」
泣きじゃくり腕のなかで手足をバタバタとさせながら暴れ回っている短いプラチナブロンドの髪の赤ん坊と、そんな暴れまわる赤ん坊をどうにか落とさないために必死のソフィアは、どうあやしても何をやっても泣きやんでくれない我が子に涙目であった。
リヒトは我がアルファスタ家の次男坊で名前の以来は光を意味する言葉だったりもするが、はじめはソフィアの祖先のレオンにあやかり獅子座の星のレグルスにしようとしたが、言いずらいのと名前が厳ついとのことで却下された。
そんなリヒトだが、どうも今日はご機嫌斜めのようでいつもならソフィアの腕のなかでぐっすり……とまではいかないがそれなりに大人しい子がどうして?と、ソフィアとユフィが思っていると
「その子、初めて来た場所だから落ち着かないんじゃない。赤ちゃんはそういうのにも敏感だから、子守唄でも歌ってあげたら?」
「そうだね。ありがとうアカネ、ちょっとノクトのところ行ってくるよ」
なんでもノクトはシスター見習いの頃に聖歌隊に入っていた経験があるらしく、子供たちを寝かせるときによくその歌声を聞かせている。
「ねぇねぇアカネ。ユウキくんは?」
「ユウキならレンカのところ、降りるときにしがみついてそのまま。ついでにニーナもよ」
アカネが指差す方には二人の赤ん坊を腕に抱いているユキヤと、その隣ではニコニコとしているレティシアと申し訳なさそうにしているミーニャがいたりもする。
ちなみにユウキとニーナは誰かと言うとアカネとレティシアの子供のことだが、名前の響きからもわかる通りユウキがユキヤとアカネの間の子供で、ニーナがユキヤとレティシアとの子供だ。
二人とも母親の特徴をよく受け継いでおり将来は有望だとは、父ユキヤの台詞であった。
「子供がかわいいのはわかるんだけど、最近のレンカの顔、少しだらしなさ過ぎちゃって」
「あははっ、わかるわかる。うちのスレイくんも子供たちの前じゃ似たようなものだしねぇ~」
「ふぅ~ん。まぁ父親が育児に積極的なのが唯一の救いよね。ご近所の旦那さんなんて育児には全く手伝いをしなかったのに、お宅は良いわねぇ~なんて毎回言われるし」
「うちもだよぉ~。」
ユフィとアカネがフフフっと自分の旦那たちの話題で盛り上がっていると、後ろから一人の女性が話しかけてくる。
「お二人とも何やら楽しそうですね」
「あなたも加わるリーフ?旦那の自慢話?」
「良いですね。ではご一緒させていただきましょうか、セレナも眠っていますから」
そう言ってリーフも腰を下ろすとそのうでの中にはリーフよりもいくぶんか薄い緑色の髪の赤ちゃんが眠っている。
この子がアルファスタ家の長女でスレイとリーフの娘のセレナ、産まれたのが夜空に綺麗な月の輝く時間だったため月のように美しい輝く娘になってほしいと願ったからだ。
リーフも合流して三人で旦那ののろけ話しや子供たちのことについて話していると、この旅行での最年少組であるエル、アーニャ、トーマスの仲良し三人組と、その後ろから両手で抱えなければ持てないほど大きな本を抱き締めている深い緑色の髪の男の子がヨチヨチと歩き、さらにその後ろにはお兄ちゃんお姉ちゃんたちを引き連れてやって来た。
「おねーちゃん!ごほんよんで~!」
「これも~」
「おままごとしよぉ~!」
「たんけんたいごっこする~!」
やって来たエル、アーニャ、レオの三人と深い緑色の髪の男の子アルスティア──フリードとクレイアルラの息子でスレイにとっては異母兄弟だ──がユフィたちを取り囲むと、後ろから付いてきたパーシーとロア、それにミーニャとヴァルマリアのスーシーが小さくごめんッと手を合わせていた。
「エルくんとアルスくんのごほんは良いけど、探検隊ごっことおままごとはダメだよ。もうすぐスレイお兄ちゃんたちが戻ってくるしここはお家じゃないんだからね?」
「はぁ~い!」
「トーマスちゃんもそれで良い?」
「いいよぉ~!」
「よし!それじゃあアルスくんとエルくんのご本はユフィお姉ちゃんとアカネお姉ちゃんが読んであげるね?」
「待ちなさいよ。なんで私が………っと言いたいけど別にいいわよかして?」
そう言いながらアカネがアルスティアから本と受け取って題名を読み上げる。
「題名は………えぇっと、古代魔法文明について……………ちょっと待ってこれって学術論文じゃない?アルスくん今何歳?」
「さんさぁ~い!」
「アカネ殿、世の中には天才って本当にいるですよ。それにスレイ殿とルラお義母様とジュリアお義母様からの魔法の英才教育を施されて、今ではマルグリット魔法学園の学生レベルの知識量なんです」
「改めてになるけど、あんたらのなんて家族よ」
「アカネ殿もその家族の一員ですけど」
リーフが鈴の音のような笑い声を溢しながらアカネが受け取った本を受け取り、それをユフィに渡すと代わりにエルの持っていた物語の本を渡すと、魔法の論文よりもこっちに興味のある子供たちがアカネの前に集まり、ユフィの膝の上にはアルスティアが座って興味津々に話を聞いている。
リーフはと言うとセレナとジークを両腕に抱き抱えながら、幼い弟と妹の面倒を見ていたはずのパーシーたちから話を聞いていた。
曰くみんな待ち時間が暇で、せっかく着いたのにこんなところで待ってるのはイヤだとエルたちが騒ぎだし、手に負えなくなったのでお姉ちゃんたちにどうにかしてもらおうということになったらしい。
「そうでしたか。ですが、一度は面倒を見るといったのですからみな最後まで責任を取るように。特にロアとパーシー、あなたたちは人々を守る騎士を目指している身です。気を引き締めなさい」
「はい」
「わかりました姉さま」
元騎士として二人の姉として厳しいかもしれないが少し強い口調で注意したリーフに、少しシュンとしているパーシーとロア、この二人は今ロークレア王国の騎士学園に通っており三回生のパーシーは今年学園を卒業し、騎士見習いとして騎士団に入団することが決まっている。
「リーシャとマリア、それにスーも同じですよ。わかっていますね?」
「リーフ姉ごめんね」
「ごめんなさい」
「ん。ごめん」
リーシャとヴァルマリアそれにスーシーの三人が揃って頭を下げている。
この二人は今はまだ中央大陸で暮らしているがリーシャは来年にはマルグリット魔法国に入学が決まり、スーシーも親元を離れてアルメイアの王立学園に留学することになっている。そしてヴァルマリアは両親と共にいろんな世界に旅立つことが決まっており、仲良し三人組が気軽に揃うことのできる最後の一年だ。
最後の思いでの時間にこんなことを言いたくはないが成長するに連れて必要になる責任の重さ、それを教えるためには仕方ないとリーフは思いながら全員しっかりとその言葉を受け止めてくれたのを見るて安心する一方で、かなりの時間が経っているにも関わらず一向に戻ってくる気配を見せないスレイたちに、リーフが一抹の不安を感じずにはいられなかった。
「ノクト殿たちは入国審査があるとしても、スレイ殿たちが遅いのは………まさかとは思いますが、きっと違いますよねセレナ、ジーク?」
自分の子供たちに同意を求めるように言葉を投げ掛けたリーフだったが、あいにくとジークもセレナも深い眠りに着いており答えは帰ってこなかったのだが、そんなリーフの不安はまさかの形で当たることとなった。
「みんな!ちょっと大変なことになった!!」
っとスレイが叫ぶようにゲートから飛び出してきたのを見てリーフは、やっぱりそうなのかと、スレイの巻き込まれ体質が発揮していることに小さなため息を溢すのであった。
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スレイがみんなに話すと同時にアルメイア王国からはアルメイア国王夫妻を、ドランドラからは帝母娘とその護衛であり側付き時宗と朱鷺芽を呼びに行き、ちょうど戻ってきたノクトたちに簡単な事情を説明した後、宿泊予定の連れて宿っと言うよりも高級ホテルに赴き、荷物を置いた後スレイを始め各家族の代表者一名が説明を聞くために出掛けることになった。
ちなみいメンバーはスレイ、ユキヤ、フリード、アルフォンソにライアの父のミカエラと朱鷺眼の祖父の時宗、そして面白そうだからと言うことでソフィアの父でアルメイア王国国王のユーシス──変装のために帽子にサングラスにアロハシャツと観光者スタイル──を引き連れてこの街の統括者の屋敷へと向かった。
「皆さま、本日は我が領地にお越しくださり誠に感謝しております。そしてアルファスタさま、タチバナさまに置かれましては以前大変お世話になりまして」
深々と頭を下げるのは自分でも言っている通りこの島を管理する領主で、名前はラッセル・アイランド、爵位は侯爵でスレイたちよりも上に立場にいる人なのだ。
こうされてしまうとさすがに気が引けてしまうスレイたちは慌てて頭を上げるように頼んでいる横で、フリードがスレイに小さな声で耳打ちしてくる。
「そういやぁスレイ、お前どうやってここの船のチケット手に入れて高級ホテルの予約をしてたんだ?たしかあの船もホテルも予約が一年先まで埋まってるって有名な場所じゃなかったか?」
「前に一週間だけ船の護衛の依頼を受けて、たまたま襲ってきた海賊退治したら気に入られて度々依頼を受けてて、それでが伝手で去年の内に予約入れてもらってた」
「なるほど、そう言うことだったのか。しかし今回もかなり面倒なことに巻き込まれているみたいですが、一体何があったのですか?」
そう言っているアルフォンソは、事前にスレイから簡単にしか説明を受けておらずこの島で大変なことが起きているとしか知らない。
なのでみんながラッセルの方を身ながら話しの続きを待っていると、意を決したような面持ちのラッセルも小さく頭を上げて話し始める。
「最近、この近くの海域を根城にしている海賊が島への積み荷を運ぶ船を襲っておりまして、私どもとしても早急に海賊を退治するべく幾人もの護衛を雇ってはいたのですが、全くこうかは見られるどころかますます海賊を増長させる結果となっていました」
「海賊ですか、たしかに厄介ですね」
「えぇ、ですが事態はそれだけでは終わらず非常に不味い事態になってしまいして」
「不味い事態ですか?」
「今から十日ほど前になります。例のごとく海賊たちが船を襲いました。がその船の積み荷には大量の魔石とコアが積まれていました」
この島はリゾート地である一方でお土産用に様々な魔道具がここで作られている。簡単に説明すると魔石仕掛けのスノードームなんかが例に上がる。
そんなことは今は置いておくとして、問題は魔石とコアの行方はどうなったのか………聞くまでもないことだろうが一応聞いてみた。
「ちょうど血の臭いを嗅ぎ付けたタイラント・シードラゴンが全て補職してしまい、大量の魔石を取り込み強化種になっています」
思っていた通りの返答が帰ってきたためスレイたちは手で顔を覆って、みんなそれぞれ違う方向を見てうねっていた。
「まさかタイラント・シードラゴンとは………なぜこの海域にあれはもっと深い海域の竜のはず」
「地底火山の噴火、たしかここから数百キロの地点で地底火山が噴火したはずです。それから逃げてきたのではありませんか?」
「だとすると早々に退治するのが良いんだが………」
フリード、アルフォンソ、ミカエラ、ユーシス、時宗の視線がまっすぐスレイとユキヤに突き刺さる。二人が横目で五人のことを見る。
「ちょっと待とうか父さん。もちろん父さんたちも来るんだよね?」
「悪いなスレイ、レンカくん。オレは陸地専門で海は無理だ」
「ごめんねスレイ君。私は魔物との戦いでは足を引っ張ってしまうから」
「僕はそもそも争い後とが苦手だから」
「私も右に同じだね」
「私は歳のせいか身体が」
「いや、時宗殿は嘘ですよね?昨日船の護衛に稽古を付けてましたよね!?」
おおっぴらにそして大胆に嘘を付く時宗にユキヤが食いかかるが見んなどこ吹く風、全く気にしないといった様子でスレイとユキヤに笑顔で行ってらっしゃいっと言っている。
そんなわけもありスレイとユキヤは浮かれた旅衣装からいつもの冒険者スタイルへと姿を変えている。
「面倒だ、さっさと終わらせようぜヒロ」
「そうだねユキヤ」
海に蒔かれた微かな血の臭いを嗅ぎ取り海面へと姿を表したタイラント・シードラゴン。その姿を目視した二人は背中に竜と影の翼を広げると、空へと飛び上がりながら剣と太刀を鞘から抜いた。
「せっかくの旅行を台無しにしようとするてめぇは絶対に緩さねぇ」
「さぁ、断罪の時だ」
旅行を台無しにするドラゴンは絶対に許さない、反則技を使って無事ドラゴンは数分で討伐されましたとさ。
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タイラント・シードラゴンを討伐したスレイたちは島のみなさんから盛大な感謝を受け、三泊四日を予定していたこの島の滞在費はお礼ということで無償で浮けることになり、ドラゴンに旅行を台無しされたと思ったが怪我の功名とでも言うべきか、まぁそれだけはよかった。
太陽の光が降り注ぐ真っ白な砂浜にどこまでも広がる大海原、広げられたパラソルを立てたりチェアの準備をしていたりするスレイは、先に組み立てたチェアとパラソルの上で遊んでいる子供たちを見ながら小さく微笑む。
「あ~!」
「うぅ~」
「ジークもリヒトも初めての海だからな、ママたちが来たら一緒に行くぞ?ってか遅くね?」
三人がキラキラと光る海を見ながらいろんな反応をしているのを見て、スレイはホッコリとしながら準備に行ってなかなか帰ってこないみんなのことを思っていると、同じく準備をしていた男性陣が集まってきた。
「確かにジュリアさんとルラも全然来ないのは心配だよな」
「マリーもだな」
「女性は準備に時間がかかるしね。それに子供たちもいるから」
「大方、水着姿の孫娘たちに大はしゃぎしてるんじゃないかな?」
「うむ確かにそうかもしれぬな。私の孫娘も母としての自覚をもってよきかなよきかな」
「そうだね。ところでスレイ君、そろそろ撮り溜めた写真を現像したいのだがプリンターを貸してくれないかね」
「いや済まぬが私にも頼むよ」
とかんとか良いながらユーシスが孫のジークとリヒトの、時宗がひ孫のユウキの写真をプレートを使って激写している。
この二人はなかなか孫とひ孫に会うことはできない。アルメイア王国にはとある事情からスレイがあまり行きたくなく、ドランドラにはユキヤがあまり行きたくないからだったりもする。
「帰ったら送りますから、変わりにカメラお貸しします」
「助かるよ。今度は我が子とツーショットで撮りたくてね」
「私も朱鷺芽が娘をあやす姿をあやつらに見せるために」
この祖父バカ二人は止められないと思ったスレイが空間収納から取り出したカメラを二つずつ渡すと、後ろからちょんちょんっと肩を叩かれて振り返ると、フリードを初めとして同じくあまり孫に会うことの出来ないゴードン、ノクトの父トロアとミカエラ、アルフォンソにアニエスの父マーカスが揃って手を出していた。
「いやそんなにないから」
「そんあ、君は僕たちに孫の写真を撮るなと言うのかい?」
「この歳になるとね孫の成長だけが楽しみなのさ、だから私たちの楽しみを奪わないでくれ」
「なかなか会えない孫たちの姿、出来ることなら写真くらいは欲しいんだ頼むよ」
父親たちの懇願に仕方がないとおもいったスレイが試作品のカメラを貸し与えた。
「お前の空間収納、マジでなんでもあるな。よっドラ◯もん」
「誰が未来から来た耳のないネコ型ロボットだって!?」
「スレイにーちゃんそれなぁ~にぃ~?」
「にぃちゃのあたしいゴーレムなの!?」
スレイとユキヤが話しているとテチテチと手を繋いでやって来たエルとアルス、二人の目線に合わせるようにしゃがむと笑顔で笑って見せる。
「なんでもないよエル、アルス。さぁこれあげるから、トーマスくんレオくんと一緒に遊んでおいで」
「うん!トーマスくん!レオくん!遊ぼっ!」
「エルにぃちゃまってぇ~!」
「あんまり遠くには行くんじゃんないぞ~」
スレイがビーチボールをエルに渡すとアルスの手を離して走っていく。トーマスと、ユーシス陛下とセレスティア王妃の息子でソフィアの年の離れた弟レオーネは、歳は離れているが友達同士だ。
一応レオーネはアルメイアの第一皇子だから心配ではあるが、国王のユーシスが孫に駄々甘な好々爺にしか見えないのでたれも王族だとはわからないだろうが………もしものときにためにパーシーとロアに側にいるように言っておいた。
「さぁってと、みんなが来る前に昼の準備でもしておこっかな~」
今日の昼食はタイラント・シードラゴンの肉での豪華なバーベキュー、念のために事前に確認を取ったところバーベキュー事態はどこのビーチでやっても良いが掃除をしなければ罰金があるらしい。
スレイが空間収納からコンロと炭火に、ドラゴン肉意外の食材の準備をしているとビーチにいる他の客の叫び声のようなものが聞こえ、スレイがそちらを見るとどうやら水着に着替えてきたユフィたちがこちらに来ていた。
身内贔屓かもしれないがユフィたちはかなりの美人揃いなのだ。それが集団でともなると誰しもが振り向いて歓喜の声をあげるほどだ。
スレイが内心でみんなの姿に見とれていると、ユフィたちがスレイの姿を見つけて駆け寄ってくる。
「スレイくん!お待たせぇ~!」
「パパぁ~!」
「すみません。準備に時間がかかってしまいした」
「おいスレイ!どうだよオレの水着、なかなか似合ってるだろ?」
「皆さまお待ちください」
「どうですか、わたしの水着似合ってますか?」
「ねぇねぇ、なんだかぼくたちすごい注目されてる気がするんだけど……」
「されてるわね。わたしたちどこか変なのなしら?」
「……ん。変じゃないから安心する」
みんなの水着姿を見れてスレイは内心で嬉しいと思っている。
「みんな似合ってるよ。さぁ、昼の準備も終わってるし遊ぼっか」
「わぁ~い!なのぉ~!」
「よしレネ、オレが泳ぎ教えてやるぞ!」
「……ラーレ、私も泳げないから教えて」
「だったらわたしが教えます!」
ラーレとノクトが泳げないみんなに泳ぎを教えると張り切っていくのを見送り、おじいちゃんたちに捕まっていた子供たちを連れて来たユフィとソフィアを連れたスレイたちも一度海で遊ぼうと思い移動する。そんななかでスレイは、ふとみんなの方を見ると父親たちも自分の奥さんを誉めちぎり、おも思いの時を過ごしていた。
「ねぇレンカどうかしら?」
「どうじゃ旦那さま、妾の水着は?セクシーじゃろ」
「あらうちかてセクシーやよ?」
「レンカさん。私も頑張って選んだんですよ?」
「水着では武器が隠せぬでござるが、洋服と言うのも良いものでござるな」
「みんな似合ってるさ。ただトキメ腰の刀は置いてこい水着脱げるぞ?それとクレハ姫はもう少し露出を押さえてくれ」
水着の端に刀を刺しているトキメとかなり際どい水着のクレハ、二人ともユキヤの嫁でクレハはドランドラの姫と言う立場のせいで一年の大半をドランドラで過ごしており、一緒にいられるのは一年で二ヶ月ほどだがこれからは一緒にいられるからとかなり大胆に攻めているらしい。
自分の嫁のことだが、これで一緒に暮らすようになったらどうなるのか、そう思うとユキヤは小さく震えているのであった。
浜辺でバーベキューをして日が暮れるまでたっぷりと遊び倒したスレイたちは、宿泊先の高級ホテルで豪華な食事を食べたあと夜の浜辺で行われている花火をホテルのテラスから見ていた。
「パパぁ~!ママぁ~!おっきなお花なの!」
「あぁ~!」
「あぁ~きゃっ!きゃきゃっ!」
「うぅ~?」
レイネシアが花火を見ながら大はしゃぎ、リヒトとセレナはパチパチとはしゃぎジークはわからないと首をかしげている。
「子供たちも楽しそうだし、来てよかったな」
「うん。お料理も美味しいしお部屋も豪華だし、ベッドもフカフカだしね~」
「……ん。お酒も美味しい」
「ライアさま、お酒飲みすぎですって」
「子供が見てるんですから、もうジュースで我慢してください」
ゴクゴクッとお酒を飲み干しているライアからグラスを奪い取ったラピスと、お酒の変わりにジュースの入ったグラスを手渡したノクトに膨れている。
満天の星空に色鮮やかな花火が彩り、明るい光に照らされる愛する人たちの横顔を見ていたスレイ。そんなスレイの視線に気が付いたユフィが小さく微笑んだ。
「どうしたのスレイくん?もしかして私たちの横顔に見とれちゃった?」
「あぁ。そうかも………今年はいろんなことがあったからさ」
感傷に浸るようにこの一年に起きたことを思い返していた。
救えない命が沢山合った。
この手で奪ってきた沢山の命があった。
だけどそれ以上に守ることの出来た沢山の命があった。
沢山の幸せがあった。
新しい出会いがあった。
様々なことがあったこの一年にスレイをみてユフィたちはなにかを言おうとしたその時
「ねぇパパ!きょうはクリスマスなの!サンタさん、おうちじゃなくてもレネたちのところききてくれるの?」
雰囲気もなにもないレイネシアの言葉にスレイたちはそろって目を丸くして、そして同時に笑った。
「大丈夫さ。サンタさんは一年いい娘にしてたレイネだけじゃなくて、リヒトやセレナ、ジークのところにもちゃんと来てくれるんだぞ?」
「ほんとぉ~?」
「本当です。レネ、ママたちがあなたに嘘をついたことがありましたか?」
「ないのぉ~!でもライアママとラーレママは、たまにいじわるするのぉ~!」
「……むむっ、レネが世知辛い」
「おっ、おいレネ?確かに意地悪することもあるけど、たまに本当言うだろ?」
落ち込むライアに対して更に墓穴を掘っていくラーレに全員が笑っている。
「大丈夫だよレネちゃん。ママたちがちゃんとサンタさんにお願いしておいたからね~」
「今年、お姉ちゃんとして弟と妹たちの面倒を率先してみてくれた私たちのかわいい娘に、必ずプレゼントをおねがいしますとね」
「だから大丈夫です。さぁ、レネちゃん。もう花火も終わりましたから、いい娘でおねんねしましょ?ママが絵本を読んであげますから」
「わぁ~い!ノクトママ、レネねおひめさまのおはなしがいいの!」
レイネシアがノクトの手を引いて部屋の中に入り、ウトウトと船をこぎ始めているジークをユフィが、既に眠っているセレナをリーフが、初めての花火をみて興奮しているリヒトをソフィアがそれぞれ腕の中に抱き抱える。
「じゃあもう遅いしジークちゃんたちにおっぱいあげて寝かしてくるね~」
「セレナは……熟睡しているので後ですね」
「さぁリヒトぉ~、ママのおっぱい飲んでねんねしようね~」
っと部屋へと入っていくユフィ、リーフ、ソフィアたちの後ろ姿を見送り、それに合わせるかのようにノクトたちがそろって立ち上がった。
「さぁ~って、オレたちも風呂入って寝るかねぇ」
「このお部屋、おっきなジャグジーがあるみたいです!わたし密かに楽しみにしてました!」
「良いですわね。みんなで大きなお風呂に入るのは」
「……ん。そういうわけだから、後は任せたスレイ」
「あぁ。任されました」
テラスに残されたスレイは空間収納から取り出した有るものを身に付けると、服が一瞬で赤を基調とした物に変わり口には真っ白な付け髭が現れる。
そう今日はクリスマス!年に一度しかこない、かわいい我が子たちへと贈る最高のサプライズがここから始まるのだ。
「さぁよい子のみんな、メリークリスマス!」
次に日の朝、レイネシアを初めとした子供たちの元に赤い服のおじいさんからの素敵なプレゼントが届き、みんな喜びの声が響き渡った。
ブクマ登録、作品評価額ありがとうございます!




