アルメイア王家との会談
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いきなりつれてこられた離宮でゾーイから紹介されたのは、なんとこの国の国王陛下と王妃殿下だった。こんな場所にいるのだからそうだろうと言うのは置いておくとして、事前になにか一言くらい言えばいいのにと思ったスレイたちだったが、今さら慌てても仕方がないので揃って膝をついて頭を垂れる。
「頭を上げて立ち上がりなさい。君たちのことは我が子より聞いておる、子の友人にそのようにされていては我が王家の面目が立たんからな」
アルメイアの国王陛下であるユーシスからそういわれてしまったら頭を上げないわけにもいかないので、スレイたちは顔を見合わせながらソッと立ち上がると、ユーシス国王陛下がスレイたちの後ろにいたセドリック殿下の姿を見て小さく微笑んだ。
「そちらに居られるのはセドリック皇子殿下ですな、お顔が幼い頃のクライヴ陛下とそっくりだからすぐにわかりました」
「ちちうえを知ってるのですか?」
「えぇ。知っていますとも、幼き頃はマルグリット魔法国の学園で魔法や魔術を学んでいましたからな。一時期はそちらの王室で世話になりましてな。クライヴ陛下とはその時以来の友人ですよ」
セドリック殿下は今まで知らなかった父の話を興味深そうに聞いていたが、ゾーイが咳払いをしてユーシス陛下を嗜めると凛とした姿勢で椅子に座っていたたしか──名前は、セレスティアだったはずだ──セレスティア王妃がくすりと笑っていた。
ユーシス陛下も一度咳払いをしてから今度はヴァルミリアの方を見る。
「そちらはヴァルミリアさまですね」
「えぇ。初めまして……ですね。レオンとオリヴィアの子孫よ」
「お初にお目にかかります。勇者レオン、そして聖女オリヴィアが末裔ユーシス・アルメイアです」
「聖竜ヴァルミリア、そしてこの子は私の娘のヴァルマリアです」
ヴァルミリアがユーシスに挨拶をするようにとヴァルマリアに言うが、ヴァルミリアは先程ゾーイと会ったときと全く同じように動かなくなると、じぃ~っとユーシス陛下のことを見ながら固まっている。やはりヴァルミリアの血を引いているからレオンの血筋の者になにか感じるものがあるのか、あるいはヴァルマリア自身に何かアルメイア王家、つまりは勇者レオンと聖女オリヴィア、この二人に直接的な縁があるのか……もしも後者の場合はヴァルマリアの年齢からしてあり得ないことかもしれないが、もしそうだとするとヴァルマリアに隠されたちょっとした謎が解けることになる。
そうスレイが一人であれこれ考えていると、ヴァルマリアがユーシス陛下の側に歩み寄った。
「おじさんからも、おねえちゃんから感じたのと同じ物を感じる……なんで?」
やはり何かあるかも知れないが、そもそもゾーイのことをお姉ちゃんと呼ぶのだろうか……やはりそうなのかもしれないがここは敢えて聞かなかったことにする。面倒ごとに自ら首を突っ込んだりしては身体がいくつ有っても持たないってもんだ。
「申し訳ありませんが、子供たちは別室にお願いします。夜も遅いですし子供たちがいつ寝てしまうかもわかりませんからね」
「そうですな。おい、誰かこの子達を別の部屋へ」
「わたしも行くわ。この子、あまり知らない人がいると眠れないから」
アニエスがスーシーとヴァルマリアを抱き上げ、セドリック殿下はメイドの一人が手を繋いで案内で別室に連れていかれる。残されたスレイたちはユーシス陛下たちの方へと視線を戻すと、セレスティア王妃が立ち上がろうとしていたユーシス陛下を支えていた。
「ユーシス陛下、あまり無理をなさらぬように」
「すまぬなセレスティア。このような身体になってしまいお前には迷惑をかける」
「それは言わぬ約束です。それに愛する夫を支えるのが妻の役目、陛下はもっと私に甘えてもよいのです!さぁどうぞ!」
「そっ、それはならぬ!お客人の前だぞ!?それにまだあの子も子供だ、次の子は早すぎる」
アルメイア王家のなか睦まじい夫婦の一幕……っと言うよりもどこかで似たようなことを見たようなやり取りを前にスレイたちは複雑な気持ちになっている横で、ゾーイはげっそりとした顔をしていた。
「両親のイチャ付いてるところみるのマジでやだ」
その気持ちは痛いほどよくわかるスレイは、今にでもゾーイとその気持ちを分かち合いたかったが国王陛下のいる手前そんなことは出来なかった。
「父上も母上も、せっかくスレイとユフィを連れてきたってのにイチャついてばっかりなら帰ってもらうけど、それでもいいの?」
「おぉ!すまんすまん」
ユーシスは一度仕切り直すべく咳払いをしてからセレスティア王妃にソファーまで連れていってもらうと、そこに腰を下ろしその隣にセレスティア王妃とゾーイも腰を下ろすと今度は向かいのソファーにスレイたちを座るように言った。
ここは断る理由もないのでソファーに座ると、やはり王族の使うソファー、座り心地が格別だった。
「スレイ・アルファスタくん。そしてユフィ・メルレイクさん。お二人のことはゾーイ、そしてクライヴから聞いている。キミたちが今までに戦ってきた相手についてもね」
「それは……陛下からお聞きになられたのですか?」
「それもあるが、私たち王家には語られることのない真の歴史が伝えられている。キミたちやキミの友人のことについてもある程度は分かっているつもりだ」
「友人とは誰のことでしょうか?」
「とぼけなくてよい。魔王のことだ」
ユキヤのことがアルメイア王家にバレていた。
スレイとユフィは顔色一つ変えてはいなかったが、心の中ではかなりの焦りを感じ二人は一度視線を会わせてから頷きあった。
ここからあの話し合いは魔眼を発動させておいた方が良いと思い、スレイは周りに気付かれないように魔眼を発動しようとしたが、左目の魔眼がうまく発動できなかった。
──なんだこれ!?魔眼がおかしい?
ユーシス陛下の魂の色を見ようとした瞬間、まるで世界にノイズがかかったかのように左目から見える色が色褪せ、まるで一昔前にモノクロテレビのように灰と黒の世界へと変わってしまい、右目では色鮮やかな世界、左目では白と黒の世界と奇妙な光景になっていた。
こんなことは今まで使っていて始めてだったが、スレイが今視ようとしているのはかつての所有者の縁者、見れなかったとしてもおかしくはないかもしれないと思い、スレイはもはや魔眼には頼れないと思い魔眼の発動を解くと世界は元の色を取り戻した。
「なぜ、魔王のことを知っているのでしょうか?」
「私とて代々聖剣を受け継いできた者の末裔だ。聖剣を担う資格を失いはしたが不思議なことに魔剣と同じ気配を感じ取ることができるのだ。まぁこれも年の功じゃな」
年の功とユーシス陛下は言っているが、もしも今の勇者も同じことができるようになったらユキヤのことを隠すことはできないと悟ったと同時に、これではブラフハッタリをかましたところで無駄だとも直感で理解しすると、ユフィがどうするの?っと視線だけを向けてきた。
そうするもこうするもなくなったこの状況で取り繕うのも意味もないので、パーティーのためにと珍しく整髪で整えていた髪をかきむしり、とりあえずいつもの髪型に戻したスレイはユーシス陛下を見ながらゆっくりと口を開いた。
「ユーシス陛下。教えてください。もしもボクの友人が魔王だったとして………もしもボクたちの敵があなた方の国に居られる勇者様を呼び出したお方だとして………それを知ってあなた方はボクたちをこの国から無事に出してくれる。その保証はしていただけますでしょうか?」
これだけでもスレイたちは魔王と繋がりがあることがバレてしまい、アルメイア王家に殺されても文句が言えない理由になってしまうのだ。
こちらはすでに切り札である魔眼は使えないが、それと同じくらいたよりになるもう一つの切り札である竜の直感をたよりにこの掛けに出たのだが、もしもユーシス陛下が兵を呼ぶ素振りを見せた瞬間、スレイはゾーイを人質に取ってでもみんなを連れて逃げると考えていると、ユーシス陛下が小さく首を横に降ってみせる。
「安心しなさい。私は妹とは……いいやデボラとは違うとだけ言っておこう。それで信じてもらえないのであれば呪いの魔法でもなんでもかけてくれ」
「ユーシス陛下がそうおっしゃるのであれば、ギアスの誓約をかわしましょうか」
スレイは左手をあげると掌にギアスの魔方陣を浮かび上がらせると、黙って成り行きを見ていたユフィとゾーイがぎょっとした。
「父上!何を言ってるのですか!スレイも悪ふざけは──」
「黙らぬか!──ぐほっ、ごほっ」
「父上!?」
「陛下!?」
叫ぶと同時に咳き込んだユーシス陛下にスレイたちも慌てて近付いて治療をしようとしたが、ユーシス陛下は大丈夫だと言うと外から気配を察して入ってきたメイドの一人が持って来た薬を飲んでから、しばらくして落ち着いたのを確認してから再び話し始める。
「すまぬな、この病はなかなかに治りが遅く心配をかける」
「いえ。ご病気にも関わらずボクのせいで……王妃、そして皇子殿下申し訳ありません」
スレイは頭を下げながらそう言うとユーシス陛下が頭を上げるように言うと、今度はゾーイに向き直るとまるで幼子に言い聞かせるかのように話し始めた。
「良いか、この者は覚悟を見せたのだ。敢えて自身に不利となる情報を晒すことで私が信頼に足る人物かを推し量ろうとしたのだ。ならばこちらもその覚悟に答えこちらも身を曝すことで報いねばならぬ。それがお前には分からぬか!」
「───っ!?……ごめんスレイ」
「いや……国王陛下を試すようなことをしたボクが悪いから謝らないで」
お互いに謝りあっている二人の元にユフィが歩み寄るとバンバンとスレイの背中を叩いた。
「確かに、今のはスレイくんが悪かったからゾーイくん、罰でもなんでも与えてやってください」
「えっ?いいのユフィ?それじゃあスレイ、うちに嫁いでくる?」
「うぉい!ユフィさんや、なにを言ってんの!?ってか、ゾーイさん?嫁ぐってなに、っというか誰に!?」
スレイとユフィ、それにゾーイのやり取りを見て大きく吹き出すかのように笑っているのはセレスティア王妃だった。
「ふふふっ、ご覧ください。あの子がここまで、くふふふっ、年頃の子のような笑みを」
「あぁ。見ておる……本当に嬉しそうだ……」
セレスティア王妃が笑ながらも涙を長し、ユーシス陛下が眼から溢れる涙を拭っている。
「さて、冗談はそこまでにして……国王陛下。ボクたちを呼び寄せた理由、それをお教えください」
まさか先程の魔王の話だけではないだろう、そう思いきりだしたスレイにユーシス陛下は鋭い目付きで答える。
「そうだな………スレイくん。そしてユフィさん。キミたちは七百年前の勇者と魔王の戦い、その裏で行われていた神との戦い、そして神がなんのためにこの世を滅ぼそうとしているのかを知りたくはないかね?」
七百年前の隠された歴史、なぜ世界を救済しようとした魔王リュークが世界を滅ぼそうとした悪になったのか、その理由は神であるアストライアだけではなく、その戦いを生き抜いた人たちも教えてはくれない。
なにか理由があって話さない、そう思っていたスレイもユフィはちらりとヴァルミリアの方を見るが、ヴァルミリアはただ目をつむりなにも言おうとはしてこなかった。
語られることのない真の歴史を知っている一人ならば確かに教えてもらえるのも道理だが、二人は一度お互いの顔を見合ってから同時に首をたてに降った。
「知りたくないといえば嘘になりますが……敢えて聞く気はありません。なっ、ユフィ?」
「そうだよね~。言いたくないって人たちもいますから無理に聞きたいとも思いませんし、いつかその時が来たら話してくれると思いますから」
スレイとユフィがそう答えるとユーシス陛下はただ一言、そうかと答え笑っていた。
「二人とも、急に呼び立ててしまった詫びをしていた。なにか用意だてするがなにがよい?後程あの狼人族のアニエスさんだったね。彼女にも聞くつもりだが先に教えてほしい」
用件はアレだけだったのか、急になにか欲しい物はないかと聞かれて困っている。
「そうですね~……でしたらお屋敷で帰りを待っているみんなへ手土産にお菓子をください」
「すぐにでも用意させよう。それでスレイくん、キミはなにがいい?」
「遠慮しなくていいよスレイ。父上だったら爵位くらいならあげれるから、最近跡取りがいなくなって相続放棄された公爵家とかもあるからさ」
「それはマジで遠慮する。ってかいらん」
ゾーイの冗談にマジで返したスレイはなにかもらえるかを考えて、ひとつあることを聞いてみることにした。
「では一つお教えください」
「なんだね?」
「勇者の血を引くあなたから見て、ボクたちがやろうとしていることは無謀なのでしょうか?」
ずっと誰かに聞いてみたかった。
相手は世界を作り出した神様、それに対してスレイたちは少しだけ力の強いただに人、そんなのが神と渡り合えるのか、これからやろうとしていることはただの無謀なのか、それを誰かに答えて欲しかった。
「キミや私の先祖が戦いを挑んでいる相手は途方もなく強大な敵だ。だが、敢えて私はこう言わせておこう。それは多くの者から見れば無謀なのだろう……だが棘の道を進みそれに立ち向かおうとしているキミたちはとても勇敢だと思うよ」
「………ありがとうございます。それが聞けて良かったです」
それからユーシス陛下に呼ばれたアニエスにも先程のスレイとユフィにされたのと同じ質問をされ、アニエスはとりあえず保留にしておくと言った。
場所は変わって馬車の中、スレイたちの他にヴァルミリアとヴァルマリアも乗る馬車を用意してもらえた。乗りあわせのメンバーはどうなっているかというと、初めと同じ割り当てで馬車に乗っていたのだが………ゾーイがじぃ~っとスレイのことを見ていた。
「あのさぁゾーイ。ボクはそっちの気は無いからな?」
スレイがそう言うとユフィから肘鉄をアニエスからは足蹴を受けた。
脇腹に肘が突き刺さり蹴りは脛を蹴り抜かれ狭い馬車の中でできないが、スレイは転げりたいほど痛がりたかった。
「アニエスちゃん。もう一発蹴っちゃって」
「いいわよ。このバカを懲らしめれるなら一発と言わずに何発でも蹴ってあげるわ!」
ユフィとアニエスの眼はマジだった。
「えぇっと……なぜお二人はお怒りなのでしょうか?」
「なぜって……スレイくんもゾーイくんのこと気づいてるんでしょ?」
「なんのこと?」
再びスレイはユフィとアニエスから肘鉄と蹴りを受けて痛がっている横で、ゾーイがユフィとアニエスに向かって尋ねた。
「二人とも気付いてたの?」
「まぁね。わたし鼻が利くし」
「私はまぁ、ほとんどは感だったけどさっきの王様と王妃様の姿を見て何となくね」
スレイも何となく二人の対応で気付いたが特に言うことでもあるまいって言うか、それを知ったら面倒なことこの上ないのであえて黙っている選択しを選ばせてもらったが、ごまかすのは無理だろう。
「スレイは………なにも言わないのかい?」
「言うもなにも、隠してるんなら隠してるだけの理由があるってことでしょ?なら聞く気はない」
「とかなんとか言って単に厄介ごとはごめんってだけでしょ?」
図星を突かれたスレイは窓の外を見る。それでみんなにはバレたが、まぁ特に困らないのでそのままで行くことにした。
しばらく三人から視線という名の剣で刺されているような感覚を味わいながら馬車が止まり、セドリック殿下をお二人のところに連れて行こうと馬車を降りるとちょうどパーティーが終わったのか人々が出てきた。だが一つ気になったのはパーティーが終わるのには早すぎる気がした。
「お前たち、戻ってきたのか」
「陛下。殿下をこのような時間まで連れ回してしまい申し訳ありません」
「構いませんよ……それどころかいなくて正解だったかもしれないわ」
イザベラ王妃のその口ぶりを聞いて、なにやら面倒なことが起こったらしい。
「ちちうえ、ははうえ、パーティーは終わったのですか?」
「あぁ。セドリック、我は少しスレイたちと話がある。ユフィたちと先に帰っておれ」
「はい!」
「イザベラ、お前も先に帰れ」
「はい。スレイ。陛下のことを頼みますよ」
そう言ったイザベラ王妃がスレイの乗っていた馬車に乗りこみ、馬車の中からユフィたちの奇声が上がった。それに続いてセドリック殿下も馬車に乗るとその場を走り去っていくのを見送った。
その場に残されらスレイはセドリック殿下の護衛をするたに黒幻を納めたベルトを取り出し、腰に巻いていると後ろから誰かが来るのを感じて振り返ると、そこにはユキヤとクレハ、それにトキメの三人がいたが三人とも険しい表情をしていた。
「いったい何があったのか、ここで教えていただきますでしょうか?」
「あぁ。だが、語るよりもこれを見せた方がよいな」
クライヴ陛下はスカーフを外し首を見せると、スレイは驚きの声をあげる。
「それは、滅心の首輪!?……どういうことですか、なぜそれが!」
クライヴ陛下の首には鎖のような痣が浮かび上がっている。これは呪いの一種で、術者との間に結ばれた制約を破ると首に描かれた鎖が首を絞めかけられた者を殺す死の呪いだ。
「やられたよ。我を含めてあの会場の中にいたすべての参加者はこれを巻かてしまった。そこにいるドランドラの姫君とその護衛の二人とスペンサーの連れの女、それにお前たちを除いてはな」
リタが無事と言うことはスペンサーが咄嗟に対抗術式を使ったに違いないが、この魔法はディスペルでは解除できない。解除するには術者本人に解除させるか、もしくは術者を殺すしかないのだがここでスレイは一つの疑問が頭のなかに浮かんだ。
そもそもなぜ相手はこの魔法を使ったのか、この呪いは条件によっては簡単に人を殺せるのだ。そしてああのパーティーにはこの大陸中の重要人物、王族や国家の首脳が集まっているなかでこの魔法を使い万が一、死者が出れば残された国民がこのアルメイアという国に報復を求めて争が起こる。
そもそも王族の命が狙いならば魔法でもなんでも使えばいいだけ、そう考えた次の瞬間にスレイの頭の中である結論が思い浮かんだ。
「いいや、逆か………命を狙ったのではなく、人質を取ったのか?」
「あぁ。お前の考えている通りだ……戦争が起こる。それも東方大陸と世界最大の魔法国家を含めた九か国と勇者を含め、王族を人質として結成された連合国と残された四大大陸のな」
「正確にはうちの国は侵略される側の国やねけどね。偶然やったけど旦那はんたちと外におって正解やったわ」
扇子で口元を隠しながらケラケラと笑っているクレハだが、この状況で笑うなよと誰もが思った。
「まぁ、せやからの。お母様にお頼みして戦争することにしたわ。朱鷺芽、あんさんも気張りなはれよ」
「姫が争いを望むのであれば、拙者はその御前に敵将の首を献上する次第でござるよ」
どのみち戦争は回避できない、あえて戦う道を選ぶのもそれは一つの道かもしれない。
「そこで旦那はんとスレイはんにお願いがあるんやけど」
「なんでしょうか姫」
「出来ることなら、お手伝いします」
「せやったら、ユーシス殿下とセレスティア殿下、それにゾーイ殿下の誘拐とみなはんとでアルメイア王国の脱出を依頼します」
「スレイ。これは我からの依頼だ。セドリックを連れドランドラへ行きこの戦争をなんとしても止めよ。今はお前たちしかいない。頼む」
王族二人からの無理なお達しを受け、スレイとユキヤはただやるしかない、そう思ったのだった。




