皇子来訪
アルメイア王国に滞在するために用意された屋敷に帰ってきたスレイたちは、それから大まかに何があったかなどを話した後、スレイはクライヴ陛下から先程の報酬をもらうことになったが、報酬というよりも一週間後に行われるパーティー用の服を新調するための支度金をもらうことになった。
なんでも勇者様方をお披露目という名目で開かれるパーティーだが、今日と同じ服での出席はダメなのかと聞いたところ、同じ服を着ていくには論外と言われた。貴族や王族の集まる場所ではダメらしいので仕方がなく買いに行くことになった。
「それでスレイ、パーティーに誰を連れていくのかはもう決めておるのか?」
「えっと、全員を連れていくつもりだったんですが、いけなかったでしょうか」
「ダメではないが、連れていくのは二人までにしておけ、控えめに言ってもお前の連れは美姫揃いだ。貴族の中にはあの手この手使って手中に納めようとするやからも出てくるかもしれんからな」
だとすると誰を連れていくかを真剣に考えなければいけないな、そう思いながらスレイはここはやはり年長者ということでユフィかリーフが適任だろうが、こればっかりはみんなと話し合わなければいけない。だがこういうのは失礼かもしれないが他のみんなのドレス姿も見てみたかった。
ユフィ、ノクト、リーフのドレス姿は見たことがあるがもう一度みたいし、普段はスカート等履かないライアのドレス姿や、普段は清楚な服装のラピスが大人っぽい色のドレスを着たり、普段は大人ぶろうとしているアニエスにちょっと子供っぽいドレスを着せて見るのもいいかもしれない。
そんな煩悩の塊のような想像をしていると、クライヴ陛下から冷ややかな目を向けられていた。
「申し訳ありません」
「若いということはいいことではあるが、嫌われるようなことはするなよ」
「はい。そこら辺のことは重々承知しております」
「ならばよい。もう下がってよいぞ」
「はい。失礼いたします」
クライヴ陛下に頭を下げたスレイは、今の話をみんなにするために探していると談話室のような場所でみんな仲良くお茶を飲んでいた。そこに顔を出すと、足音で来ることが気付いたのかアニエスが空いているティーカップを掲げて見せる。
「いいところに来たわねスレイ。フルーツティーだけど、あんたも飲む?」
「出来ればコーヒーが良いけど……たまにはいいか。もらうよアニエス」
アニエスはスレイの分のカップにお茶を注ぎソーサと一緒に前に置くと、スレイはまずは香りを楽しんでから一口飲んでみたが、やはり紅茶はあまり好きではないがアニエスの淹れたお茶は美味しいと感じたが、そう何杯も飲みたいとは思えない。
「あぁ~、みんなちょっと聞いてもらいたいんだけど、みんなで行こうって話してたパーティーちょっと行けなくなりそうだから」
どういうこと?ユフィたちが首をかしげながらそう聞いてきたので、スレイは先程のクライヴ陛下との話をみんなにすると、そんなことが起きるくらいなら行かなくていいかも、っと言ってくれたが結局二人までになら行けると言うことで誰が行くかという話になったところ
「……ご飯、一杯食べれるなら行くけど」
「出るとは思うけど、たぶん軽食くらいだぞそれとお酒くらいならあるかもしれない」
「……ん。じゃあ行かない面倒がおきそうだし」
「それって、ライアさんの魔眼の未来視ですか?」
「……さぁ、どうでしょう?」
ものスッゴい不吉なことを言い残したライア、それを聞いてノクトとラピスが参加を拒否したので残ったユフィたち三人は、どうするかと話し合いまずはスレイの第一婦人の予定と言うことで一人目はユフィが、そしてもい一人は誰にするかと言うことになったところで、マーカスとスーシーがやって来るとすぐにスーシーがアニエスのところに駆けよる。
「おねえちゃん!あのねセドリックくんがパーティーつれれてってくれるの!いっしょにいこ~!」
っと、スーシーが嬉しそうにアニエスに報告してきたため、強制的にアニエスもパーティーの出席メンバーに組み込まれた。これで決まったのは良かったが、マーカスが申し訳なさそうにしている。
「スレイ君、ユフィさん。スーシーがご迷惑をかけてしまい申し訳ない」
「いえいえ~、これくらい大丈夫ですからそれにスレイくんもいますし何かあっても対処くらいなら出来ます」
「ちょっと待ちなさいユフィ、あんたなにかが起こる前提で話をしてないかしら?」
「う~ん?なんのことかなアニエスちゃん?」
「とぼけんじゃないわよ!ラピスもノクトもなにか……あんたたらもなに目をそらしてんのよ!」
アニエスが近くにいたノクトとラピスの方を見ると、二人とも揃ってそっぽを向いて視線を会わせよとしてくれないため、プッツンきたアニエスが二人に向かって叫びかける。
とりあえずパーティーに行くメンバーも決まったので、明日のうちにこの屋敷の人の案内でパーティーようの服が買える店にスレイたちの服を見に行くことになったが、スレイはなにかとっても大事なことを忘れているような気がすると、話をしている時に思っていた。
そんなスレイの不安は次の日の朝早く、ちょうど日が登るか登らないかのような時間に彼は現れた。
「やぁスレイ!ぼくが来たよ!さぁ、朝日昇る街へと遊びに行こう!」
そう、忘れていたのはこの国の第一皇子ゾーイ・アルメイアとの約束だった。
まだ日が出ていないうちから屋敷の裏の庭で剣を降っていたスレイの元に、マルグリット魔法国から連れてこられた王室の使用人の方からゾーイの来訪が知らされた。
あのあといろいろ有ったのと、さすがに王族ともなればそう簡単に遊びにこれないだろうと思っていたが、まさか本当に来るとは思っていなかった。
「あの、ゾーイ殿下。生憎ですが、まだ日が登ったばかりですから、この時間ですとまだ人は眠っていると思うのですが……」
「あ~、確かにそうかも……仕方ないからここで待たせてもらってもいいかい?」
「構いませんが、護衛の方とか、どうやってお城から抜け出してきたのとか、その服装のこととかいろいろと聞いてもいいでしょうか?」
「護衛?そんなのいないに決まってるじゃないか、ジャマだったからね」
スレイは顔を覆いながら天を仰いだ。マジかよこの王子さま、アグレッシブにもほどがあるだろうと、口に出したかったが出さずに心の奥底に飲み込んでいると、
「あぁ。いつものことだから誘拐とで騒がれることはないし、じいやには説明してあるから安心してよ」
「安心できる要素がどこにもないんですが、って、ゾーイ殿下どうかなさいました?」
「キミの剣、さっき一瞬だけ見たけどいい剣だと思ってね。見た目こそ飾り気がないようにも見えるが、ただならぬ凄みがあるし鍔の細工も見事だ。これはさぞ名のある刀匠の方が打った一振りに違いないね」
ゾーイの視線はスレイの腰のベルトに下がっている黒幻と白楼に釘付けになっていた。柄と鍔の部分しか見ていないと言うのに
「えぇ。知り合いの刀匠に打っていただいた物です」
「ふぅ~ん。ねぇちょっと見せてよ」
「いいですけど、この剣はすごく重いので持とうとはしないでくださいよ」
スレイは白楼を抜いてゾーイに見せると、ゾーイの目から小さな涙の粒が流れていくのを見た。
「ごめん、なんだか懐かしくって」
このゾーイは勇者の血を引いている。そして白楼に使われている素材は、かつて勇者と共に戦った聖竜ヴァルミリアの物、まさかとは思うが勇者レオンの血が呼び掛けているのか、そしてスレイの中にはヴァルミリアの因子があるから白楼を見せたのも、きっとヴァルミリアの因子がそうさせたんだろう。
涙をぬぐったゾーイは、スレイにお礼をいているところで執事がゾーイのためにと椅子と暖かいお茶の入ったティーポットを持ってきてくれた。
「ところでスレイ、さっきは誰と立ち会いをしてたんだい?」
「なんですか、いきなり?」
「さっき見たキミの動き、どう見ても誰かとの戦いを想定した動きをしていた。だからいったい誰との立ち会いを想定しているのかなって」
いったいゾーイ殿下はいつから稽古を見ていたのか、久しぶりに相手を想定した稽古をしていたせいで、周りの気配を無意識のうちに見過ごしてしまっていたらしい。
これはまだまだ修行不足だと思いながら、スレイはゾーイに正直に白状することにした。
「ボクの師匠です。っと言っても五年以上会っていないんですけどね」
「へぇ~。その師匠ってのキミよりも強いの?さっきも負けてたみたいだけど」
「まぁ、ボクが知るなかで師匠は最強の人の中の一人ですから、創造の中の戦いであってもそう易々と勝たせてくれるような人ではありません」
「最強ね……そんな人なら是非にも勇者様方の指南役をしてもらいたいと思ったけど、どうにか連絡はとれないのかい?」
「やめた方がいいですよ。師匠に指導されたらあの方がたの心が壊されてしまいますので」
「………ねぇ、それ冗談、だよね?」
「さぁ、どうでしょうか?」
意味深に答えて見せるスレイにゾーイは苦笑いをしていると、屋敷の窓が開いてそこから声がかけられる。
「ちょっとスレイくん、朝から何してるの~?まさか浮気~?」
「いや、してねぇよ!」
朝の挨拶もなしにいきなり浮気を疑われたスレイは、窓からこちらを見ているユフィに向かって吠えるが、ユフィはニコニコとこちらを見ているだけだ。こういうのは何だがゾーイ皇子殿下は見た目もだが、声も中々にハスキーなので声を聞いただけは間違えても無理はない。
「ユフィ、この方はこの国の第一皇子のゾーイ殿下ですよ。殿下、彼女は私の婚約者でして無礼な態度をお許しください」
「うぇっ!?ちょ、スレイくんそれ本当なの!?私ったら、何てことをごめんなさい王子さま」
ユフィがあわてて外に出ると改めてゾーイの前に出て頭を下げる。
「改めまして、スレイ・アルファスタの婚約者のユフィ・メルレイクと申します。どうかお見知りおきを」
「ご丁寧にどうも。ぼくはゾーイ・アルメイア。スレイとはそうだな……切っても切れない深ぁ~い絆で繋がった、いわば親友のような存在さ!」
「昨日会ったばかりの知り合いです」
スレイはゾーイの渾身のボケを軽くスルーしていると、何やらぞろぞろと人が集まってくる気配を感じたスレイが、ユフィが開けっぱなしにした窓から屋敷の中を覗いてみると、クライヴ陛下とイザベラ王妃が揃ってこちらに出てきていた。
「お久しぶりですなゾーイ殿下、昨日はお会いできずこのような場での挨拶になり申し訳ない」
「その謝罪は無用ですクライヴ陛下。遅くなってしまいましたがお久しぶりでございます。イザベラ王妃も、相も変わらずお美しい」
「あら、私みたいなおばさんを誉めても何も出ませんよ?」
「んっうん!して、ゾーイ殿下、このような朝早くにどのようなよう件で?」
「実はですね、今日はぼくの大親友であるスレイと共に町へ繰り出そうと言う約束をしていまして、こんな早朝よりお邪魔した次第でございます」
「そぉ、左様なようでしたか?」
ギロリとクライヴ陛下が睨み付け、イザベラ王妃があらあら、と笑っている中でスレイはビクッと震える。忘れていたのはスレイも悪いと思っているが、そこまで睨まなくてもいいじゃないですか?そう思ていると、クライヴ陛下はスレイに向かって大きなため息を一つつくと、ゾーイの横を通りすぎスレイの肩を掴んだ。
「事情は分かりました。見たところ殿下は護衛も付けずに来ているようですので、今日は一日スレイを友人として、そして護衛として扱っていただいて結構です」
「それは助かります。よし!それじゃあ行こうか!」
「少々お待ちくださいゾーイ殿下」
いきなり手を引かれてしまったスレイと、楽しそうに外へ向かおうとしているゾーイをイザベラ王妃が待ったをかけた。
「ゾーイ殿下、スレイはまだ準備を終えていません」
「あぁ。それもそうだったね」
「スレイ、その格好を見るにあなた今まで剣を降っていたのでしょう?」
「えぇ、はい」
「でしたら先に汗を流して着替えを済ませてきなさい。それとユフィ。あなたは今日スレイと一緒に、アニエスとスーシーを連れてドレスを見に行く予定でしたね?」
「はっ、はい」
「約束としてはゾーイ陛下が先ですが、どうでしょうか、彼女たちも共に街へと向かっていただきたのですが」
「それはもう人は多い方が楽しいですから構いません」
「ありがとうございます。ではみなの準備ができるまでの間、我が国自慢の紅茶をお淹れいたしますのでどうぞこちらへ」
「それは楽しみです」
メイドの一人を呼び寄せゾーイを案内させると、スレイはイザベラ王妃に頭を下げる。
「イザベラ王妃、申し訳ありません」
「あらいいのよ。あなたにはローズを造ってくれたお礼をしなくちゃと思っていましたから」
ローズとは前に作った変身ベルトのゴーレムで、キバ◯ラのままではあれだったので名前を変えたのだ。
ついでに会話機能と簡易的な思考能力も備わっているため、好きしぎこちないかもしれないが会話も可能で、先に出来ていたキバ◯トを模した二体にも同じ機能が備わっている。
「それと、あの子のお友達になってくれたことへも感謝しているのよ」
「どう言うことでしょうか?」
「あら、あなたた知らないの?私もとはこの国でメイドをしていてね、この国の王妃とも一緒に働いて友人だったのよ」
「そうだったんですか!?えっ、それじゃあ、国王陛下とはどのような切っ掛けでご結婚なされたんですか?」
「それはね、ある日王宮にいらっしゃった陛下に見初められたのよ。それに私も陛下に一目惚れして、私片親で父の顔を知らないからなのか、昔から歳上の方にしか恋心を抱けなかったのよ。だから結婚も諦めてたのだけど、陛下と出合い交際を求められたときは天にも昇る気分だったわ」
「わかります!王妃さまのそのお気持ちよぉ~く!わかります!私もスレイくんに告白されたとき同じでしたから!」
ユフィとイザベラ王妃が恋ばなに花を咲かせていると、置いていかれたスレイとクライヴ陛下、特にクライヴ陛下は昔の自分の恥ずかしい話をされて困った様子だ。
「──まぁそんな感じで、私としてはあの子のことは赤子の頃から知っているし、それにいろいろと大変な目に合ってきたあの子が作り笑いではない笑みを浮かべているのを久方ぶりに見ましたから」
そう語っているイザベラ王妃の顔は、とても晴れやかでそしてどこか寂しさを含んでいるようにスレイとユフィは感じたのだった。




