勇者一行、そしてアルメイア王国王子
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アルメイア王国の謁見の間にて、スレイはようやく異世界より召喚されたという勇者たちと対面したことになるが、まさか召喚されたというのが勇者一人ではなく複数の異世界人が呼び出されていたとは……これにはクライヴ陛下も知らなかったのか驚いた顔をしている中で、スレイはあることが気になりただ一人眉を潜めていた。
いったい今の声はなんだったんだ?そのことを考えて眉間に皺を寄せていたスレイは、勇者の仲間の一人が前にでることに気がつき顔をあげたと同時に胸元を掴まれ引き寄せた。
「えぇっと……どうしたのでしょうか?」
「どうしたもこうしたもねぇよ。てめぇ、俺にガン飛ばしてやがっただろ?あ゛ぁ?」
そうドスの効いた声──全然恐くないが──を聞いて一瞬どういうことだっと思ったが、どうやら考え事をしていたスレイの顔がまるで威嚇しているかのように見えたのだろう。
そんなことをしたつもりもなく全くの誤解なのだが、どうするかと思いながら一目クライヴ陛下の方を見ると謝れと視線で言ってきたので素直に謝ることにした。
「いいえ。決してそのようなつもりはありません。不愉快な思いをさせてしまったのならば謝罪いたします」
考え事をしていたせいで目付きが悪かったかもしれない。
完全なとばっちりだが、考え事をしていた自分も悪いと思い少しだけ反省しているスレイだが、見た目は完全に不良でピアスもしていれば髪も染めているのか色を抜いているのかは不明だが茶髪、しかも肌も焼いているため余計に厳つく見える少年は掴んでいる手を離してくれない。
まぁ、こんなものよりももっとすごいやつを知っているスレイからしたら子犬がじゃれてくるような物なので気にしないどころか、落ち着かせるために笑顔で対応したことが余計に気にくわなかったのか少年がもう一度吠える。
「ヘラヘラしやがって!」
少年がスレイを自分の方に引き寄せると、拳を振り上げて殴ろうとした。いきなりの暴行に勇者たちの中の少女たちから小さな悲鳴が上がるなか、別の少年が拳を振り上げた少年の腕をつかんで止めていた。
「おい!タツヤ何してるんだ!」
「うるせぇ!俺がなにしようがお前には関係ねぇだろ!!」
「───うぐっ!?」
止めに入った少年を突き飛ばした大柄な少年はもう一度拳を振り上げて来るのを見てスレイは、これ受け止めたりと下手なことしない方がいいんだろうな~、そう思った。
スレイはこの少年の腕が砕けないように強化などもしずに、とってもゆっくり振り抜かれる拳を甘んじて受ける。、少年は殴ると同時に胸ぐらを掴んでいた手を離したので、ここは転んでおくかと思い転んで見せる。
「────ッ!?」
大袈裟に倒れてから立ち上がろうとすると少年が近づいてきたかと思うと、いかにもと言った顔をしながらこちらを見下ろしていた。
「ハハハハッ!ザマァねぇ、なッ!」
「グハッ!?」
大声をあげながら続けざまに腹部を一回蹴ってくる。
別に痛くもないがそれなりにいたがっているフリをしてうずくまる。こんな分かりやすい演技でも、していないと怪しまれる。
しかし、一発と言って二発になってるな~っと考えながら、次に蹴りが来たらやり返してみるか?と考えていると、先程突き飛ばされた少年が大声を出して叫ぶ。
「いい加減にしろタツヤ!そこまでする必要はないだろ!!」
薄目を開けて声のした方を見てみるとなんだか美少女数人に支えられている少年がそこにいた。
「けっ、良いところだったってのに、邪魔すんじゃねぇよ優等生のお坊っちゃんがよぉ?」
「なんだその言い方は!オレたちはこの人たちを守るためにここに来たんだぞ!それを、それをお前はなんで傷つけたんだ!」
恥ずかしげもなくよく言えるな、そんな感想を思い浮かべながらスレイは横目でクライヴ陛下たちの方を見てみると、なんとも平然とした顔をしていた。
どうやらフリだと気づいているらしくなにも言わない姿勢を貫いていた。
「はっ、調子乗った奴を絞めて何がわりぃんだ?戦えねぇ雑魚が調子のったらこうなる、いい図じゃねぇかよ?」
「おまえ!!」
おうおう、なんとも清々しいまでの正義感溢れる好青年と、なんとも清々しいまでのクズだこと。
腹部を押さえながら痛がるフリをし続けていたスレイは、もう少しこのままでいた方がいいかもな、そんなことを考えていると、デボラ皇女がパン!っ手を叩くと言い合いをしていた二人が静かになった。
「勇者様がた、申し訳ありませんがお静かに。代理の方もそれで大丈夫でしょうか?」
「はい、これは私が招いたこと、誠に申し訳ありませんでした」
「けっ、おいてめぇ、次はねぇからなそこんところは覚えておけよ」
スレイが下手に出ているのをいいことにいいように言った少年、それにその取り巻きだろう少年と少女が、鎧を着た兵士の制止を無視してどこかへと行ってしまった。
あの少年がどこかへと行くと、スペンサーがスレイの元にやって来て肩を貸してくれる。そのまま支えられながら陛下たちの方へと歩く最中、スペンサーが小さな声で耳打ちしてきた。
「お前、なんで簡単に殴られたんだ。お前なら取り押さえるのも簡単だろ?」
「下手にやり返したり反抗したら調子に乗るタイプですから、やられておけば酷くはなりませんよ」
「だが、あの勇者様の仲間が強化を施していたら、それだけの怪我ではすまなかったんだぞ」
「そのときはその時ですが、代理という立場で他の国の方に怪我をさせていますからねぇ、何かしらの見返りはもらえそうですしねぇ」
悪いことを企んでいるような顔をしながらそう伝えてから、肩を貸してくれているスペンサーにもういいと断りをいれたスレイに声をかけてくる人物がいた。
「あっ、あの」
振り替えると先ほどあの暴力少年を止めようとしてくれた少年だった。
「あの、オレの仲間が申し訳ありませんでした」
「いえ。あなた方を見ていたボクの方に非がありましたし、怪我もなにもしていませんから」
「良かった。あっ、オレは佐伯 劉鷹っていいます。一応ここにいるみなさんからは勇者って言われています」
何となくだがこの少年がそうなんじゃないかとは思っていたが、案の定というよりも思った通りだった。
どうやら聖剣は持っていないようだがラノベなどでよく見る、絵に書いたような爽やかイケメン勇者がそこにいたのだ。
そう考えていると劉鷹が手を差し出してきたが、スレイはその手を握らずにソッと胸に手を当てながら頭を下げる。
「これは、馴れ馴れしい態度をとってしまい申し訳ありませんでした。私は、レクスディナ・アロアクロークの代理スレイ・アルファスタです。先程のタツヤ様への非礼に続き謝罪させていただきます」
「そんな、頭を上げてください、オレなんてただの高校生なんですからかしこまらないでください!」
こればかりは例え勇者の言葉だとしても頭を上げることは出来ない。そう思っていると、その事を察してくれたクライヴ陛下が間に入ってくれた。
「デボラ皇女、済まないがスレイを一度治療を受けさせていただけないだろうか?」
そういうと劉鷹もなにかを察したような顔をした。
「構いません。誰かこの方を治療院につれていってあげなさい」
「はっ!」
兵士の一人が前に出るとスレイを案内してくるためにやってきた。
「もうしわけありません陛下」
「構わぬ。速く行ってこい」
「スレイや、きちんと見てもらってくるのじゃぞ?」
トラヴィスが頭を殴られたスレイのことを心配しているフリをしながら一枚の紙を手渡してきた。これはなにかをやらせるつもりだな、そう思いながら兵士の後ろを歩いてく。
場所は代わり治療院に案内されたスレイは中で簡単な治療を受けながら、隣のベッドの上で痛々しく包帯を巻かれた兵士たちの姿を見ていた。
面倒ごとの予感がするので聞かない方がいいと思いながらもついつい聞いてしまった。
「これは……大がかりな魔物の討伐か盗賊の討伐でも合ったんですか?」
「違います……これは、そのですね勇者様方との立ち会いで出た怪我人なのでが、先程出ていった方々が訓練をしているらしい………」
勇者様方と言ったが、大体はあのやんちゃしてますよオーラを放っていたあの少年たちのせいだろう、しかもあの場を後にした後も怪我人を増やすとは面倒な気とをしてくれる。
そう思っていながらこうなったのはスレイのせいでもある。治療院の方々が大急ぎで駆けずり回りこうしている間にも次々と怪我人が運ばれており、あからさまに人手が足りていない様子だった。
「特に異常もなさそうだ」
「ありがとうございます」
診察も終わったので帰ろう、かとも思ったがクライヴ陛下の依頼も終わっておらず、さらには自分が巻いた種でこんなことになっているのだと思ったスレイは、仕方ないと呟きながジャケットを脱ぎながらタイを外していると、後ろで控えていた兵士が何をしているのかと聞いてきた。
「ちょっとお手伝いするだけですよ。こう見えても治癒魔法は一通りできますからお役には立ちます」
「そ、それは助かります!こちらに来てください」
治療をしてくれた医者の案内を受でそとに出たスレイは、腕に大きな火傷をおった兵士に包帯を巻いている青年の手を止める。
「キミ、一体だれ?どうしてぼくのことを止めるんだい?」
「すみませんが、やけどの場合傷を氷で冷やしてからこの軟膏を塗ってください。でないと傷が炎症を起こしてしまいます」
「くっ………すまない、誰か氷を!」
「氷なら魔法で出せますから、そこにある布を何枚か重ねてこの氷をくるんでからしばらく押さえさせて」
スレイは魔法で小さな氷の板を作り出すと、少年が持ってきた布に氷を巻き兵士に火傷を冷やすように指示を出しながら、次に側にいた怪我人の治療を始めるのだった。
一時間ほどして治療をすべて終えたスレイたち、切り傷や刺し傷程度ならば簡単な治癒魔法ですぐに回復した。だが、スレイが始めに治療した兵士のように、魔法による怪我はすぐには回復は出来ない。なので必然的にしばらくはベッドの生活になるだろうが、治癒魔法やポーションがある世界なのでしばらくしたらすぐにでもよくはなるし、それに適切な処置さえしていれば傷跡も残らないはずだ。
治療も終えたスレイは、治療院の医師たちにお礼を言われながら側におかれた椅子に腰を下ろしながら、しばらく休憩している。ここでやることも終え、クライヴ陛下とトラヴィスからの頼まれ後ともなんとか終った。
話し合いの方もそろそろ終わるだろうから、迎えが来るまではここで待たせてもらおうと考えていると、先程の少年がスレイの側にあった椅子に座った。
「ボク、なにしに来たんだっけ」
小さく通やいていると先ほどの少年がやってくると、両手に持っていた飲み物が入ったコップ、その片方をスレイに向けてきた。
「ほら飲みなよ、うちの名産の葡萄ジュース」
「ありがとうございます」
コップを受け取ったスレイは一口飲んでみると確かに美味しい、これはリーシャとヴァルマリアへのお土産にいいかもしれないと思い、街が無事なうちに何本か買っておこうと考えながら飲んでいると、少年がスレイに話しかけてくる。
「さっきはありがとうね……ところでキミは何者なんだい?貴族には見えないし、城に出入りしている商人でもなさそうだし………それじゃあキミ、今日この城に来るっていう他国からの使者かな?」
「おや、なぜそう思われるのでしょうか?」
「まずは手に出来てる剣ダコ、普通の貴族はそんなにくっきりと出来ないしね。ならば商人かとも考えたけど、あいつらは金にならないことはしないからね。だとするとこの場所でそんな格好でいるのは使者くらいだ」
「さすがのご晴眼ですね。えぇ。その通りです。私はマルグリット魔法国より、レクスディナ・アロアクロークの代理として参りましたスレイ・アルファスタともうします。どうかお見知りおきを、アルメイア王国第一皇子殿下」
コップを置いて立ち上がったスレイは胸に手を当てて頭を下げると、目の前にいる少年ではなく第一皇子殿下は一瞬大きく目を見開いてから、困った表情をしながら頬をかいた。
「なんで知ってる、何て聞かないしどうせそこにいる誰かがしゃべったんだろからね」
その通り、先ほど治療を止めたあとに兵士の人が教えてくれたのだ。
「早く頭をあげてくれよ。ぼくはそうされるのが一番嫌いなんだよ。それと、敬語もやめてくれ、これは命令だからね」
「わかりましたが、敬語はどうも取れませんのでご容赦を」
「まぁいいよ。じゃあ改めて、アルメイア王国第一皇子、ゾーイ・アルメイアだ。この国にいる間はよろしくねスレイ」
「よろしくお願いしますゾーイ陛下」
改めてゾーイのことを見るとスレイはどうも気になることがあった。まずゾーイは顔立ちが中性的でよく言えばイケメン、悪くいってしまうと女ような顔立で、それでいて背もあまり高くないので一瞬本当に男なのかと疑問を覚えてしまうような外見だった。
すると、そう思ったことに気付いたのか、ゾーイがムッとした表情でスレイのことを睨んだ。
「キミが考えていることは分かるけど、これでもぼくは男だからね。そんな目で見ないでくれよ?」
「それは失礼しました。ところで一つお聞きしてもよろしいですか?」
「あぁいいよ。なんでも聞いてくれ」
「それでは遠慮なく。勇者を異世界より召喚することを考えたのは、いったいどのようなお方なのしょうか?」
「あぁその事か。実はよく分かっていないんだよ。ルーレシア神聖国から来た聖女とかいう娘が、神のお告げだ~っとか騒いでね、異世界から勇者を呼ぶための魔方陣をおいていったんだよ」
「ルーレシア神聖国か………」
これは面倒なことになりそうだなっと思いながら、スレイは最後の一口を飲み干すと同時に使いの者がスレイを呼びに来てくれた。
「ゾーイ陛下。ボクはこれで失礼します」
「残念だな、キミとはもう少し話したかったのに……そうだスレイ!確かまだこの街に来たばかりなんだろ?せっかくだからぼくが街を案内するよ!よし決まり!じゃあ明日な!」
これは断れない奴だと思いながらスレイはゾーイに答える。
「わかりました。ではまた明日お会いいたしましょう」
ゾーイに一度頭を下げたスレイは呼びに来てくれた兵士にお礼を言ってからついていく。
まずは遅れてしまったことをクライヴ陛下に謝罪して馬車に乗ったスレイは、すぐにクライヴ陛下からかかってきた通信を繋げ話をする。
『それでスレイ、どうであった?』
「大方の事情は聞けましたが、まずはどれからお話ししましょうか?」
『デボラ皇女のことからだ』
「見た感じではありますが、こちらのことを見下るように思いました。そして、他国のお方に対してこういうのはあれですが、デボラ殿下が代理をなさるようなってからはあまりいい噂は聞けませんでした」
『だろうな、ユーシス陛下のことについてはどうだ?』
「治療院の方にお聞きしましたが、国王陛下と王妃は治療のためにと別の場所にて軟禁状態のようで、詳しくはわからないらしいのです」
「ちょっと待て、どういうことだ?治療をおこなっているなら医者が必要のはずだ、なのにその医者が容態を知らないとは」
「なんでも、デボラ皇女が呼びつける医者だそうで、治療もすべてその方が行っているそうです。他にも──」
スレイはデボラ殿下とあの場にいて何も話さずにふんぞり返って、あげくのはてには寝てたボルディア殿下について聞いた悪ぅ~い噂や評価を一通り話した。
『そうか、大義であったスレイ。後程褒美をやろう』
通信が切れるのを見てスレイは通信機を懐へと仕舞うと、今度はスペンサーが話し出した。
「アルファスタ、先程の謁見でのことだがお前いったい何をしていた?」
「何って、ちょっと物思いに更けていたら殴られただけですよ」
「………嘘は言っていないようだが、お前頼むから国際問題だけは起こすなよ」
「しませんっての」
さすがのスレイもそこまでする気はない、マジで




