東方大陸へと続く道・海路編
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旅が始まってからすでに一ヶ月が過ぎようとしていた今、陸路を終えて今スレイたちは船の上で過ごしていた。旅は順調に進んでおり、あと数日で目的地であるアルメイア王国の港町にたどり着き、そこからはアルメイア王国の迎えの馬車に乗って王都に向かうことになっている。
髪を揺らし頬を撫でる潮の香りのする風、海の上を進んでいくときに聞こえる波の音、近くに陸地が有るのか空の上高くにいるのはカモメに似た鳥、海の旅っていいな~っと、どこか現実逃避をしながらスレイは魔道銃の引き金を連続で引き絞った。
さて、今この状況を有り大抵の言葉で表すならな至極簡単、簡潔に説明すると海賊に襲われています。それはなぜかって?決まっているこの船だ。
少しだけ余計な話をしよう。旅をはじめてから今までにスレイたちが船の旅を経験したのは今回を合わせて三回目となる。ただしライア、ラピス、は今回がはじめて、アニエスは奴隷時代に一度だけ乗っている。
まぁ、それはおいておいて、スレイたちは今回の船旅で乗っている船は王族の船、つまりは物凄い金がかかっているとっても高価な船だ。
船の船体は高級なエルダートレンドの幹を使い、金で装飾が施されている。凝っているのは外装だけではない、内部の装飾も金であしらわれ、使われている家具も高級品ベッドもふかふかと、何から何まで高級品で揃えられた船など、海賊から見れば金のなる木、鴨がネギしょってきたと、いろいろと言いたいことはあるが、もうねぇ海賊からしたら獲物が向こうからやって来たって思うだろうね。
そんなわけでこの護衛の旅が始まってから約一ヶ月、魔物以外の襲撃者が来たのは今回が初めてで、久しぶりの戦いだ。ついでだからテオドールに対人戦の戦い方でも指導もしようとしていた。
時は少し遡り、王族の護衛も終わり休憩に入ったスレイは、いつもにようにテオドールの剣の練習に付き合っていた。
ここは王族用の船の甲板ではなく、護衛船兼冒険者、及び魔法師団のための船の甲板の上だ。そこで木剣を握ったスレイが、全身を滅多打ちにされて肩で息をして倒れているテオドールを見下ろすようにな形で立っていた。
「テオドール、確かまだ立ち会い以外で対人戦はしたことがないんだよな?」
「はっ、はい……」
「ふむ。じゃあ、ボクだけがやるのも変な癖が着きそうだし。あっ、せっかくだからリーフたちも呼んでみんなでやってみるか」
今の時間ならユフィたちも休憩に入っているので、コールでこちらみんなを呼び寄せることにした。
「ごめんよみんな、休憩中だったの呼び寄せちゃって」
「いえいえ、あちらの船の上にいてはあまり動けないですから、こちらでしたら存分に運動不足解消できます」
「……ん、最近食べ過ぎだからちょうどいい」
「ライアさまではありませんが、わたくしもあちらの船のお食事が美味しいですから、つい食べ過ぎてしまいまして」
王族の保有している船は三隻、うち一隻が王族専用の高級船、そして残りの二隻はと言うと前にスレイたちの乗っていたのと同じ船でこちらに大多数の冒険者が乗っているが、スレイたちのメインは王族護衛なのでこうして用のないとき以外にはこちらにいるため、食事や就寝もこちらだ。
しかし、なんで女性と言うにはこんなにも体型維持をしたがるのだろうか?スレイとしてはもう少しくらいは肉付きがよくなってもいい気がするのだが、これを言ったら確実にスレイは海に落とされる気がしたので口には出さなかった。
「じゃあ、せっかく三人いるし、ビルとハワードも一緒にやらないか?」
「えっ!?いや、僕たちはちょっと……」
「あ……いや、俺弓なんでここじゃ危ないですし」
「なにいってるんだよビルお前、短刀持ってるだろ?ハワード、お前もせっかく姉さんが相手してくれるって言ってるんだから相手してもらえよ。ってことで二人もお願いします!」
「「嫌だぁあぁあぁああああ―――――――――っ!!」」
突然スレイから手合わせをしようと誘われたハワードとビルは、ここ数日のテオドールのやられっぷりを見ているので、そんな人の仲間なら自分たちもああなるのではと恐怖し、叫びながら逃げ出そうとした。だが、そんな二人の気持ちも露知らず、テオドールが満面の笑みで二人を引きずっていくのだった。
組み合わせとしてはリーフとハワード、ライアとテオドール、ラピスとビルという組み合わせになった。結果的に言うとリーフとラピスは優しいのでそんなに厳しくはしなかったため二人とも泣いて喜んだ。ただしライアは全力だった。
「へぇ~、スレイが教えるのは知ってたけど、リーフも上手いのね。ラピスも」
「リーフお姉さんは冒険者になる前は騎士団にいましたから。ラピスさんは、あれって教えてるんですかね?」
三人の視線の先では、リーフがハワードに向けて槍の指南をしていた。そしてラピスはと言うと、ビルの攻撃をいなし動きを見せているようだ。
「見取り稽古と言うんですかね。ラピスさんのは」
「それに比べて、ライアは完全に遊んでるわね」
「ふふふっ、新しいガントレットがそんなに気に入ったみたいですね」
ライアの手には真新しいガントレットが輝いていた。
つい数日前に氷澪大陸のアイリーンから受け取ったライアのガントレット、緋色の鉱石が埋め込まれたそれは見る人が見れば優れた逸品だと分かる。
そして、リーフの手にも新しい盾が装着されその手には新しく打ち直された翡翠が、ラピスの手にも姉の形見の短剣の他にもう一本、仄かに蒼みがかった刀身の短剣が握られている。
三人とも新しい武器の試しをしているように思えるアニエスは、ふとリーフとテオドールの戦いを見ているスレイ、その腰に下がっている魔力刀を見ていた。
「ねぇ。スレイの剣ってまだ出来てないのよね」
「一度完成はしたらしいんですけど、バズールさんが違うって打ち直しているらしいんです」
「ふぅ~ん。ところでユフィ、あんたはさっきからなにしてるのよ?」
アニエスは先程から一人で何かをしているようユフィに訪ねる。
「いやね、さっきから変な船が近づいてきたからオールで偵察してたんだけど~。ノクトちゃんもアニエスちゃんもこれってどう思う?」
「どうってあんた……」
「ユフィお姉さん、これはどうみても……」
ユフィが差し出したプレートには髑髏の旗が掲げられ、甲板にはカットラスを腰に下げた海の荒くれたちの姿が写し出されていた。ノクトとアニエスがお互いの顔を見合わせながら、頷き合いながら一斉に声をあげた。
「どうみても海賊ですいね!?」
「どうみても海賊でしょ!?」
「あはは~、やっぱりそうだよね~」
緊急事態の知らせは、なんともグダグダな状況で知らされることとなった。
それから、もしも、もしもただ海賊の仮装をしただけのおふざけ集団だった場合のために、こちらに向かってくる船に使者を送り──当たり前だがスレイ──、返答を期待したが結局海賊で王族の船の積み荷と国王の身柄を所望、っというわけでやっちゃっていいとトラヴィスからコールで言われたスレイ。
だが一人で全員を相手にするのも骨なので、ゲートでリーフたちとテオドールの幼なじみ三人組とその他数人の冒険者、そして念のためにトラヴィスとスペンサーを呼び出しみんなで仲良く海賊退治と相成りました。
ちなみにユフィは陛下の護衛のためのシールド・シェルの関係上あまり離れられずに、そして船という限られた場所でさらには大人数による乱戦と言うことで接近戦のできないノクト、この二名は船でお留守番だ。
「しかしさぁ、毎度毎度のことだけど世界には賊が多い気がするんだよ」
「そうですね。盗賊になるということはそれはだけ統治が悪いと聞きます」
スレイは魔道銃の銃身で海賊の顎を殴って昏倒させ、もう片方の魔道銃で後ろから迫ってきていた海賊の頭を打抜き──ただしゴム弾──、海賊がきれいに空中一回転を披露させて倒した。
リーフは海賊の剣を左手の甲で受け止めるが、実際は盾と一体型の手甲なのだ。なぜこのような形にしたのかと言うと、なんでも技を放つときに盾を持っているとどうしても片手で技を出すことになるが、フリードから教わった技は剣を両手で出す必要があり、そのためにこうして手甲型の盾にしたそうだ。
武器の説明はこれくらいにして、スレイとリーフは苦戦を強いられていたテオドールたちの元に走ってくと、スレイは魔道銃で、リーフは拳で海賊を殴り飛ばした。
「テオドール!ハワード!ビル!人と戦うときは迷うな!その一瞬が命取りだぞ!」
「三人とも人と戦うのなら目をそらさずにいなさい!」
二人が言えるのはそれだけだ。
あとは命と命のやり取りをするという覚悟、それがあればいいが、心配していたスレイだったが、テオドールたちすぐに動き一世に海賊たちを倒していった。
スレイとリーフは安心しながら殴り飛ばしていると、ライアとラピスが走ってきた。
「スレイさま!リーフさま!お話の途中申し訳ありませんが、この海賊船の船長と言うお方が出てきました」
「うん。わかったけど……それはボクじゃなくておじいちゃんかスペンサーさんの言おうよ」
「……それがね、一番強いの出せって騒いでるよ」
「それなら出発前にさんざん人のことけなしてマウント取ってきた奴は?」
「そう言えばいましたね」
揃って海賊を蹴り飛ばしたライアとラピスがビシッとある一点に指を指し、魔道銃と拳で海賊を殴ったスレイとリーフがそちらを見ると、頭を抱えて海賊たちに蹴られまくっている大柄の男だった。
「たっ、助けて──」
あれが件のマウントを取ってきた冒険者だが、なんだろうあれ?ただ強がっていただけなのか、無様にも見下していたはずの相手に助けを求め、無惨にも海賊たちに蹴られて気絶したにも関わらず海賊たちの蹴りは続いた。
あれを見過ごすのはさすがにかわいそうだったので魔道銃を撃って倒した。
そんなわけでスレイは、襲ってくる冒険者をまるで埃を払うかのように投げ捨てている男の場所にいくと、男の顔が歪んだ。
「お前がこいつらの大将か、俺は東の海の王 キャプテン レクソンだ!貴様の名前も聞いておこう!さぁ貴様も大声でその名を名乗るがよい!」
「Aランク冒険者。スレイ・アルファスタ」
「ほぉAランク。ならば冒険者としての二つ名の一つでも有るだろう。それを名のれ!」
「………幻楼です。幻楼のスレイ」
「そうか!幻楼のスレイ!ならば全力で相手をさせてもらうぞ!」
「頼むからその二つ名で呼ばないでください」
なんだかこういうタイプの相手は苦手だな、そう思いながらスレイはレクソンの剣をみる。片刃に反りのある映画とかでよく見る海賊が使っているのと同じような剣だ。他の海賊たちと同じであまり手入れをされていないようにも見えるが、あれはそう見せるように加工されているだけだ。
腰に下げている魔力刀では役不足なので、やりあうなら魔道銃で戦うのが懸命だと思った。
「魔道具か。お前みたいに強いやつが魔法使いとはいささか残念だな。腰の剣は飾りのか?」
「本物ですけど、あなたと戦うにはいささか心持たないだけですから」
「いいじゃねぇか斬り合おうぜ!」
「うわぁ~やだこいつ、フィンさんと同じでタイプの人だ~、めんどくせぇ」
こういうやからはやらなきゃしつこい。倒しても後からも来る気がするので、スレイは近くで落ちていたカットラスを拾い上げると、魔力と闘気を流し剣を強化すると同時にグローブ越しで錬金術を常時発動させた。
これなら数回打ち合う程度は持ってくれるはずだ。
「この剣借りますね」
「おう、使え使え!」
「行きますよ──さぁ、お前の罪を購え!」
「行くぜ幻楼のスレイ!」
二人は同時に地面を蹴りそして斬り結ぶ、闘気と闘気のぶつかり合い衝撃が広がる。これにより下っぱ海賊と冒険者たちに戦いが中断され二人の戦いに目を向ける。
一撃一撃、刃と刃が重なりあうごとに吹き上げる風と鳴り響く轟音、その二つから凄まじい勝負が起きていると思いみんなが二人の戦いに見いっているが、その中でリーフたちは別の意見を持っていた。
「……スレイ、押されてる気がする」
「気がするのではございませんライアさま。これはどうみても」
「えぇ。スレイ殿劣性ですね」
リーフ、ライア、ラピスの三人はスレイが負けるなど微塵も考えていなかったが、こうなってくると分からなくなる。そもそも今のスレイは本気が出せない。
今スレイが使っているのはどこにでもあるような鉄で打たれたカットラスだ。本気を出した瞬間に剣が崩壊し、戦闘終了それで終わりだ。
「おい、お前たち。今の話は本当なのか!」
突然の声に三人が振り替えるとそこには血相を変えたトラヴィスとスペンサーがいた。
「スペンサーさま……えぇ。本当でございます。現状、スレイさまが押されています」
「くっ、トラヴィス隊長、ここは我々であいつを打ち倒しましょう」
「うむ。仕方があるまい。君たちも手伝ってくれんか?」
「お祖父様。スペンサー殿もその必要はございません」
「なぜだ!現にアルファスタは押されてると言っていたではないか!」
「えぇ。言いました。ですが問題はありません」
「……ん。どうせスレイが勝つから」
ライアが自信満々にスレイの勝利宣言をすると同時に甲高い金属音が聞こえる。スペンサーとトラヴィスが一斉にそちらを見ると、半ばから折れた剣を握るレクソンに二振りの剣を突きつけるスレイの姿があった。
海賊たちの主であるレクソンが投降したことにより、他の海賊たちも大人しく投稿してくれた。このあと海賊船の船底に収容され、東方大陸に着いたら引き渡すことになるだろうとのことだ。
そしてスレイに負けたあの男は、なんとも清々しい顔をしながら船室にいるそうだと、トラヴィスから聞いている。
「スレイ、お主どうやってあの男の剣を折ったんじゃ?」
「どうって……前にボクの闘気の質が上がったって話しはしたよね?」
「あぁ。そうじゃったな」
「剣を打ち合うごとにボクの闘気を少しずつ流して折ったってわけ」
言うのは簡単だが、少し間違えるとこちらの剣が折れてしまっただろう。
早く剣が完成しないかなっと、スレイはそう思っていたのだった。




