東方大陸へと続く道・陸路編
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アニエスとスーシーが生き別れた父親マーカスと再開してからはや数日が経った。マーカスと再会した日に、アニエスからユフィたちにも父を紹介したいと言われその日はスレイの家に泊まったが、次の日にはマーカスは家を出て宿屋で暮らしていた。
初めはスレイたちの家に居候してもいいと言う話も出ていたが、娘たちの世話になるのは気が引けるという理由で、次の日には冒険者ギルドに登録して薬草取や荷物運びなどの依頼で、少しずつではあったが始めにスレイに立て替えられた食事代を返済してきたが、それは丁寧にお引きとり願った。
その理由はマーカスか東方大陸へと帰るための資金にしてほしかったからだ。
アニエスは北方大陸に残ることにはなったが、スーシーは両親のいる東方大陸へと帰ることになったが、アニエスも母親にも会いたがっているので、一度みんなで二人のお母さんにも挨拶するため東方大陸へと旅に出ることになった。
マルグリット魔法国に帰ってきてから十日ばかり、ジャルナのせいで依頼を次から次へと斡旋され帰ってきたばかりだというのになかなか休まらない日々をすごし、ようやく斡旋された依頼をすべて終わらせ二日の休みを取ることができたスレイたちだったが、その二日もある理由から忙しく過ぎていってしまった。
その日の夜夕食を終えて明日のために早めに休もうと考えていたスレイは、一度部屋に戻って風呂に入るために着替えを取りに行くと、そこでばったりと入浴を終えたノクトとライアとあった。
「……ねぇスレイ。次の旅にはアニエスとスーを連れていっても大丈夫なの?」
「あぁ。アニエスとスーをお母さんに会わしてあげたいし。なにがあっても二人を守るからさ」
「お兄さんならそれは出来るかもしれませんが……依頼の方はどうするんですか?」
依頼というにはレクスディナから頼まれた指名依頼、その内容は東方大陸へと出向き勇者の末裔が築き上げてきたアルメイア王国に出向き、聖剣によって見出だされたという新しい勇者、その誕生を祝して開かれるパーティー、それにレクスディナの代理としてクライヴ陛下、王族と共に出席するようにと言う依頼だった。
そしてアニエスとスーシーの母親のいる村はアルメイア王国の近くにあるらしいので、これを気に一緒に行くことになった。
あの戦いの時レクスディナは始まりの使徒グリムセリアからある呪いを受けていた。それはこの地から出ることが出来なくなる呪いで、もしも一歩でもこの街を出ると死んでしまう呪いだ。
そんなときに起きられてきた招待状を受け急遽代理を立てることになったらしいが、なぜスレイに?という質問が出る。初めはアドモア学部長が行く予定にだったが高齢であり長旅は出来ないと言われ、その代わりになる人を探しているときにクライヴ陛下からスレイが指名されたのだ。
スレイなら何かあったときにすぐに対処できる可能性があったからだ。
国王陛下からの指名なら仕方がないと割りきり、スレイはレクスディナにこの依頼を受ける旨を伝え、受ける代わりにその旅にアニエスとスーシー、それにマーカスの同行を条件に出し何とか許しを得た。
ついでにもう一つ東方大陸へと移動する船旅の間、王族の警護も依頼の中には織り込まれていた。重要人物の護衛は冒険者なら高ランクの冒険者なら当たり前だが、問題はそこではなかった。
「異世界から呼ばれた勇者……お兄さんとユフィお姉さん、それユキヤさんと同じ」
そう、聖剣に選ばれたという勇者は異世界、つばりは別の世界から来たという事実だ。それが出来る者はこの世界にだた一柱、つまり使徒たちを産み出し今もこの場ではない場所で世界を破壊しようと目論んでいる神だ。
「……本当だとすると、それはあいつらと戦うことになる」
異世界から勇者を呼ぶ、そんなことが出来るのは神しかいない。
つまりアルメイア王国には使徒がいる可能性が高いが、そんなところで戦う力を持たないアニエスとスーシーを連れていっていいものなのか、一度はみんなで話し合い行くことを決めたが、本当にそれでいいのかノクトとライアは未だに踏ん切りがつかないでいた。
「なるべく早く会わしてあげたいからね。知ってる?スー、たまに母親を恋しがって泣いてるんだって……ようやくわかった母親の居場所を知って、少しでも安心させたいんだよ」
もしも杞憂で済むのならそれでいい、使徒が現れてもスレイがどうにかする。そう二人にもう一度その意思を伝えると、やっぱり無駄だったと思っていた。
「やっぱりお兄さんの説得は無理でしたね」
「……ん。それに、アニエスの気持ちはわかるから」
「そう、ですね」
ノクトは国に両親はいるが二年間もの間両親と会ってない、ライアは産まれてすぐに親に捨てられ親代わりのシスターももうこの世にはいない。
家族に会えない辛さや失う辛さを知っている。だからこそアニエスとスーシーの気持ちも分かっている。
「じゃあ、明日もあるから早く休みなよ?」
「……むぅ~、しばらく出来ないから今夜はいっぱいヤろうと思ってたのに」
「いや、ライアさん。明日は時間厳守ですからやめておきましょうよ。寝過ごしちゃったら一大事ですから」
「そうそう。ノクトの言う通りだ」
残念そうにしているライア、まさかとは思うけど風呂で襲われないだろうなと、少しだけあり得そうなことだったのでスレイは警戒しながら入浴を済ませた。
次の日、王城にはスレイの祖父のトラヴィスや、あの戦いで出世したらしいスペンサー率いる魔法師団の面々、そして今回の旅の護衛として雇われたらしい多くの冒険者たちが集まっていた。
「パパ!おねえちゃん!ひとがいっぱいなの!」
「そうだな、スー。はぐれないようにパパの手をしっかり握っているんだぞ?」
「うん!」
親子の微笑ましいやり取りを横目にスレイたちは集まっている冒険者たちのことを見る。
これだけいるなら誰か知っている顔がいないか探してみると、馴染みのあるホーソンたちのパーティーを見つけた。
彼らには使徒襲撃の際にいろいろと助けてもらい、あのあとろくにお礼を言う暇もなかったのでちょうど良かったと思いながら近づこうとしたとき、反対側から元気のいい声が聞こえてくる。
「ししょ~!しぃ~しょ~!」
なんだか聞き覚えのある声を聞いてスレイが振り向くと、背中に大きな大剣を背負った少年が大きくてを降って走ってきていた。
「あの子って、前にみんなで旅行したときに馬車の護衛をしてた子だよね?」
「えぇ。確かスレイ殿に弟子入りした」
ユフィとリーフが思い出すように話し合っているのを聞いていると、スレイの前で急ブレーキをかけて止まった少年と対面する。
「久しぶりだなテオドール。元気そうで良かったよ」
「お久しぶりですスレイ師匠!不肖、スレイ師匠の一番弟子のテオドール!また師匠にお会いできてメッチャうれしいです!」
「いや、だから君を弟子にした覚えは……まぁいいか」
どうせなにを言っても無駄だろうと思っていると、今度はユフィたちの方を見ながら頭を下げる。
「姉さん方も、お久しぶりです!」
こういうのはなんだが、姉さんやめてほしいとユフィたちは思っていると、テオドールが走ってきた方から二人の少年が続いて走ってきた。
「テオ!俺たちを置いてくなよ!」
「あぁ~、遅いぞお前ら?」
「いや、僕たちが遅いんじゃなくてお前が早いんだよ!そんなデカイ剣持って何でそんな早いんだよ!」
「師匠の教えで毎日五時間は走って足腰を鍛えてるからな!」
確かに足腰を鍛えろとは言ったが毎日五時間も走れとは言っていない。ってか、それって依頼はどうやってこなしているんだ?依頼を受けるときに馬車や馬を使わずに移動するとかか?と、スレイは考えてるとなんだか突き刺さるような視線があったが、どうせいつものことなので無視していると、クライヴ陛下からの演説の後出発となった。
護衛をする魔法師団と冒険者には馬車馬が宛がわれたが、狭いところに押し込まれるには嫌だし、何かあったときにすぐに動けるようにとスレイたちは歩いていた。
出発するときアニエスたちをどうするかと言うことになり、トラヴィスが使っている馬車が空いていたのでそこに厄介になってもらった。三人の扱いはどうなるのかと思ったが、一応護衛対象にいれてもらった。
今回の経路を簡単に説明すると、まずは陸路を馬車で一週間かけて港のある街まで移動しそこで冒険者たちの半分はお別れらしい。その後船に乗ってアルメイア王国まで護衛し、冒険者たちの仕事は終わり。帰りは魔法師団のゲートを開いて帰ってくると言うことらしい。
マルグリット魔法国を出てから約一週間、今日の夜にでも港町につくのだが、その途中でテオドールがこんなことを呟いた。
「ねぇ師匠。今さらなんですけどなんでこんなに時間かけて移動するんですか?ゲート使えばすぐなのに」
「本当に今さらだな……そうだな、テオドール。お金ってどうやってどうやって回ってるか知ってるか?」
「知らないです」
「例えば肉を肉屋で買うとする、肉屋は牧場から買う、牧場は家畜の餌を農家から買う、そして国はそのすべてから税金をもらう。ならその税金はどこで使う?」
話を聞いていたノクトたちの話を聞いて考え込んでいたが、みんなわからないといった様子だった。
「国の税金の使い道は多岐にわたります。私のいた国ですと国の騎士団の運営に街の治安維持などです。他には政ですね」
「リーフの言う通り、今日のこれもその一端だな。国で馬車に手配してこの大人数の食料や雇ってる冒険者の給金なんかが国から支払われるんだ。まぁ、金を使うためってことだね」
あんまり言いたくはないが、税金は使わなければいけないと聞いたことがあったが、こうして使う分には国庫が潤っているのだろうと思っていいだろう。
確か予定ではもうすぐ小川があり、そこで一度休憩にすることになっているが前で陛下の護衛をしていたスペンサーがスレイのところにやって来る。
「スレイ・アルファスタ、次で一度休憩に入る。セドリック殿下がお前の作るデザートを所望だ。簡単に出来る物でもいい、なにか用意してほしい」
「わかりました……ところでいい加減フルネームで呼ぶのやめてくださいよ」
「面倒だ」
面倒の一言で片付けられたスレイは取り敢えず簡単に出来る物、熱いし冷たいデザートをでも作ろうと思った。だが時間がかかるものが多い。ならばなにを作るのか、決まっているあれしかない。
休憩地に着くとスレイはすぐにスペンサーから依頼されたデザート作りを開始するのだった。空間収納から金属製の有るものを取り出しながら手伝いを申し出てくれたノクトに声をかける。
「ノクト、悪いんだけどポーション用の瓶何本か分けてもらってもいいかな?後出来れば氷の魔法でブロック作ってもらいたいんだけど」
「氷はいいんですけど、ポーションの瓶なんてなにに使うつもりなんですか?」
「ガラスなら何でもいいんだけどさ、セドリック殿下へ出すものだから酒の瓶は使えないからな」
「………いまいち良くはわかりませんけど、使ってないのでいいんですよね?」
ノクトが空間収納からなにも入っていないポーションの瓶を取り出した。数は十本、ガラスは少し薄いので二つを纏める必要があるかもしれない。
「うん。ノクト、氷できたらこのトレーの上にでものしておいて」
「はい。ところでなにを書いてるんですか?」
頼まれた氷を作り出したノクトはナイフで地面に書いてる魔方陣を見ながらそう訪ねる。
「物質変換の魔方陣だよ」
「それって、いつものグローブに書いてある物ですよね?」
「あぁ。でもこの場合は地面に直接書き込んだ方がいいんだよね」
ノクトに説明してからスレイは受け取った二本の瓶を置いて魔方陣に魔力を流すと、ポーションの瓶が合わさり一つの器が出来上がった。
「よし、それじゃあ氷を削ってシロップをかけて~、フルーツを乗せて完成!」
簡単に出来る冷たいデザート、氷を削ってシロップをかけるだけで完成、二本の夏の風物詩かき氷です。シロップは苺っぽい果物を使っています。
さて、これをセドリック殿下に届けるか、移動しようとそのときガシッと誰かに捕まれた。
「お前、まさかとは思うがそんな氷を削っただけの物を陛下に出す気か?」
「仕方ないでしょうが、時間と機材が全くないんですから……用意さえしてればもっと上等な物を作りますよ」
「くっ、仕形がない。だかお前、もしも不味いものを作ってたらただじゃおかないからな!」
そんなに言うならお前が作れ!っとはスレイは言わなかった。
結果として、スレイの作ったかき氷はセドリック殿下にご好評で、クライヴ陛下とイザベラ王妃もご所望だったため作り、スーシーにも作ってあげるととても喜ばれた。




