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探し人はだれ?

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 スレイは目の前で起きていることを見ながら少しだけ唖然とさせられていた。

 先程スレイは確かに自分のことを付けてきた獣人の男にご飯を奢ると約束した。かなりお腹を空かせていたようなので、理由を話してくれるならいくらでも食べて言いとも付け加えていた。

 この男と同じ獣人のアニエスもそれなりに食べるので、かなり食べるんだろうとは想像していた……想像はしていたんだけど、さすがにこれはちょっと想像外だったよ……いや、マジで


 次々に運ばれて来る料理の乗った皿、そして運ばれて来る度に片っ端から食べていくのは一人の獣人の男は、まるで餌に群がる飢えた獣、人に対してそういう表現はいささか問題かもしれないが、そう表現していいほどの勢いで料理を食べていた。周りにいるお客さんからは不思議なものを見るような目を向けられていると、その席に一緒にいるスレイにはどこか不思議そうな表情を向けられるのだった。

 ひきつった顔で頼んだコーヒーを飲んでいるスレイは、この店の料理をすべて食べつくしそうな勢いで食べ続けている男をみながら、手持ちのお金足りるかな?っと財布の中身を確認したが、幸いにも白金貨が残っていたので支払いは大丈夫そうだ。


「んぐっ、すまない。路銀が尽きてもう二週間も……まともに、飯を食べてなかったから……本当に、ありがとう」

「いえ、出来れば食べ終わってから話してください。それまではボクも待ってますから」


 なんだか食べるのに必死すぎて話をしてもらうのが気が引けてくるのだ。

 しばらくしてようやく食べ終わった男とようやくまともに話が出来るようになったが、男はどこか緊張したスレイは食後のコーヒーを進めてみたが、男は首を横に降ったのでこのまま本題に入らせてもらうことにした。


「それじゃあ、なんでボクをつけていたのかを話してください」

「………その話をする前に教えてくれ、きみと一緒にいたあの獣人の女の子のことを聞かせてくれないか?」


 なんでいきなりアニエスのことを聞きたがる?まさか、この男の狙いはアニエス?っとここまで考えたスレイはまさか……とある一つの可能性が頭をよぎったが、証拠が無さすぎるので判別が出来ないので想像だけで本当のことを話して、もしかしたらこの男はアニエスのストーカーだった場合も考えられる。なら、少し話をして情報を引き出してからにした方がいい。


「彼女のことですか……なぜそれを話さなければならないのでしょうか?」

「頼む、とても大事なことなんだ!そっ、それとあの娘と一緒に小さい……六歳ぐらうの女の子もいたはずなんだ!名前はスーシー、知っているなら教えてくれ!!」


 ドンッとテーブルを叩いて立ち上がった男、揉め事かと少し騒がしくなった店内になんでもないことを知らせるために男を座らせながら、スレイはこの男がアニエスだけでなくスーシーのここと、それも名前まで知っていることに警戒を強める。

 スーシーはまだ小さいから外に出るときは屋敷の使用人かジュディス、もしくはアシリアと一緒に出掛けている。もしも変な不審者がいたらスレイたちにも話は来るが、そんな話は一度として聞かされていないが、調べれば簡単にわかることだ。

 だが、それが調べたわけではなくスレイが今考えていることが正しいのなら……と、そういう考えが頭に中によぎったスレイだが、結論付けるには証拠が全くない上に男の顔は完全に犬だ。さすがのスレイも顔の判別が不可能でまったく分からないが、この左目の魔眼を使えばこの男が嘘をいっているかどうかある程度の判別は可能だ。


「質問をしているのはこっちなんですけど……なんで彼女の妹の名前を知ってるのか、それも聞かせてもらえないでしょうか?場合によっては憲兵に差し出すこともあり得ますから、言葉は選んでくださいね?」

「……それは脅しか?」

「いえ、ただボクはボクの家族に手を出そうとする奴は許さないだけです。もしも彼女とその妹に付きまとってるというのならボクは許しませんけど、あなたは危害を加えるために二人のことを調べてるんですか?」

「そんなこと、するわけないだろ!俺をなんだと──」

「だから、ボクはあなたのことを知りません、だからその言葉も信用できません」


 スレイは少しだけ圧を加えるように声のトーンを落としながら話をする。魂の色は動揺で揺らいでいる、話した方がいいのか、話さない方がいいのか迷っているのだろう。

 なのでスレイはもう一度声をかける。今度は圧をかけるのではなく優しい口調でだ。


「もう一度言いますが、ボクはあなたを信用できない。だから、教えてくださいあなたはあの二人に取って、アニエスとスーシーにとってどんな存在なのかを」


 これでは話してくれるなら御の字だが、もしも話してくれなかったらどうしようか、そう思っていると男は小さく口を開いた。


「俺は……アニエスとスーシーの父親だ」


 魂に嘘を言っている様子はないのを見て、やっぱりそうか、と心の中で呟きながら思考をリセットするためにコーヒーを飲んでいると、バンッとテーブルに勢いよく頭を押し付けたアニエスのお父さんが、スレイに土下座をする形で叫ぶ。


「頼む!あの子達のことを終えてくれ!」

「ちょ、おっ、お義父さん!?やめてください、頭をあげて」


 これ以上この場所で騒いだら追い出されかねないので落ち着いてもらい。騒ぎを聞き付けてやって来た店員に事情を説明して落ち着けるようにハーブティーを出してもらい、スレイもコーヒーのおかわりをもらって飲んでから、落ち着いたところで話をする。


「まずは、今さらにもなりますけど名乗りましょう。ボクはスレイ・アルファスタです」

「狼人族のマーカスだ。家名はない」


 お互い名前を名乗るとしばらくの間沈黙が続いた。

 前にアニエスから聞いたことがあったが、冒険者ギルドに依頼して奴隷として捕まった家族のことを探しているらしいが、まったく情報がなくその報告を受ける度に泣いていた。


「アニエスから、探しても見つからないと聞いていましたが」

「表向きは犯罪奴隷として西方大陸に売られたが、運よくその奴隷商が国の騎士団に捕まってな。妻と共に解放されたんだ」

「それで、奥さんの方はご一緒では無いんですか?」

「妻は、奴隷だった頃に足を悪くして今は東方大陸の方にいる」


 東方大陸あそこにはまだ行ったことがなかったなっと、思いながら話を聞いているとマーカスがスレイの方に話をふってきた。


「それで、きみとあの子達の関係はなんなのかを教えてもらいたい?ずいぶん娘と親しそうに歩いていたが」


 ついに来たかと、スレイはいつかはくると思っていた質問に対して、それを聞かれると一番困るんだよな、そう思いながら、ジッとこちらを睨み付けてくるマーカスから視線を外してどう答えた物かと考える。

 マーカスからすると生き別れた娘たちを死物狂いで探してここまで来たが、その娘の一人が知らないところで男と婚約して暮らしていた、しかも娘だけではなく複数の女性と婚約している男などゆるせるか?それがもしスレイの娘だったら、相手の男を一発どころかボッコボコに殴り倒しているところだ……

 はっきり言って今までがおかしかったのだ。複数の妻を取ることなど相手側の父親からすれば怒って当たり前、相手の男など殴られて当たり前、よし覚悟は決まった何発でも殴られよう。


「えぇっとですね……なんと言いますか、少し前からお嬢さんと結婚を前提にお付き合いさせていただいてまして……それで、他にも何人も一緒に暮らしておりまして」

「君からは娘以外の臭いがするからわかってるが?」

「あれ!?怒らないんですか?」

「強い男に女が集まるのは世の常だ。それに君は娘のためを考えて行動してくれたからな」

「マーカスさん………」

「それにこれは直感でしかないのだが、君からはとても優しい臭いがする。悪人とは到底思えないほどな」


 やはり親子と言うことか、初めてスーシーとあったときに言われたのと同じような台詞を言われてスレイは複雑な顔をしていた。本当にそれを言われるような人間なのかどうかスレイには自信がない、だが今だけはその言葉を受け取っておこうと、心の中でそう思ったのだった。



 それからしばらく、スレイはマーカスにアニエスとスーシーとの出会ったいきさつや、今の二人の暮らしなど話せるだけのことを時間の許す限りのことを話していた。


「そろそろ、アニエスの仕事も終わる時間か……どうしますマーカスさん。ボクと一緒にアニエスを迎えにいきますか?」

「そうしたいが……娘たちに嫌われていたりしないだろうか………あのとき守ってあげられずに、半年ものあいだ音沙汰なしだったんだ」

「アニエスもあなたのことを探していましたし、スー……いいえ、スーシーも両親に会いたがっていたと聞いています。だから胸を張って抱き締めてあげてください」

「スレイ君……ありがとう。俺たち家族は君に返しきれない恩が出来てしまったようだ」

「それはその……娘さんに手を出したってことで相殺ということで」


 軽く冗談を口にしながら会計を済ませ、その時にあまりの金額の高さにマーカスが土下座をする勢いで頭を下げたが、これくらいなら明日にでも稼げるので問題ないと伝えて二人で店を出た。

 街中を歩いていると途中でギルドによることを思い出したスレイは、一度マーカスに断りをいれて冒険者ギルドに顔をだし、受付の人にジャルナを呼んでもらった。


「久しぶりじゃないかスレイ。他の娘たちの姿はないけど、その様子なら約束通り全員無事に帰ってきたみたいだねぇ?」

「お久しぶりです。ただ今日帰ってきたばかりなので今日は挨拶だけと言うことで失礼しますよ」

「なんだい、あんたに頼もうと思ってた依頼が沢山有るってのに」

「だから、お願いですから他の人に回してあげてくださいよ………」

「仕方ないねぇ……ただしこれだけは受けな。あんたらに指名の依頼だからね」


 ジャルナから渡されたのは手紙だった。差出人はレクスディナと書かれており、始まりの使徒との戦いで怪我をして入院していたと聞いたが、無事に怪我も治ったらしい。


「手紙は受けとりましたけど、今のボクたち武器がないんで討伐依頼とかだったらお断りしたいですね」

「なんだい、武器を作るために一ヶ月も空けたってのに、まだ出来てないのかい?」

「製作を依頼した武器が出来るのが一ヶ月後なんです」


 つまり一ヶ月はまともな武器がない状態での戦いとなる。スレイは闘気を必要としない魔力刀を使えば戦うことは可能だが、スレイ同様に闘気の質の上がっているリーフはどうするか……考えなければならないのは山ほどあるが、まずはみんなに依頼の内容を話す必要がある。


「それじゃあ、人を待たしてるのでボクはこれで」

「明日、武器のないあんたらにも出来る仕事を渡すから朝ギルドにきな」

「あのジャルナさん?ボクたち今日帰ってきた……はい、わかりました」


 全身からこの人に逆らってはいけない、一瞬で恐怖にもにた何かが身体の中に走ったためスレイは二つ返事で答える。この世には誰しも逆らってはいけない部類の人間は存在するのだと、スレイは改めて思い知らされたのだった。



 冒険者ギルドを出たスレイは外で魔ってもらっていたマーカスを案内して屋敷にやって来ると、ちょうど仕事を終えたアニエスが屋敷の外に出てきたところだった。


「おねえちゃん!またね~」

「おやすみスー。いい娘でね」

「はぁ~い!……あれ?このにおいって」


 スーシーが何かに気づき門から外に出てスレイを見つけるとダッシュで抱きついた。


「にぃにだ!」

「やぁスー。いつもながらナイス突進」

「えへへ~」

「スレイ。あんた帰ってたんじゃないの?」

「あぁ。帰ろうと思ったんだけど、アニエスとスーにお客さんを連れてきてね」


 スレイは後ろの通りに目を向けるとフードを深く被ったマーカスが立っていた。はじめは二人とも顔が見えずに誰だろう?そう首をかしげていたが、すぐに匂いを嗅いで目の前にいるのが誰か理解した。


「うそ……この匂い」

「えっ、えっ?」


 突然のことに戸惑っている様子の二人だったので、マーカスから何か言ってあげてそう思って視線を向けると、こちらもなにを言っていいのかわからずに固まっていたので、フードをひっぺがしてsえなかを押してあげる。


「やっ、やぁ……その、二人とも……久しぶりなだ」


 二人が口を開けたまま固まった。突然の父との再開に困惑し、そして再び会えたことへの悦びに色んな感情が溢れだしたのか、三人とも何も言えないでいた。

 しばらく黙って見つめたっている三人のなかで、一番最初に塞き止められていた感情が爆発したのはスーシーだった。



「パパ……パパァ~!」

「スーシー………スー!良かった本当に」

「ひく……ぅあああああ、うぁああああああん」


 ポロポロと涙を流すスーシーを抱き締めたマーカスの目にも涙が溜まっている。


「本当に父さん……なの?」

「あぁ。そうだよアニエス」

「父さん………父さん!」


 長い時間を経て再開した親子の姿、スレイは心の中で小さく

 ──よかったね

 そう呟いたのだった。

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