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鍛冶屋の一家

作品評価ありがとうございました。

 案内されたバズールの工房は家のある場所とは違う洞窟の方にあった。その理由としてはやはり空気の関係だろうか、なんでも工房のある場所の近くには風邪ので入り口があり、鍛治仕事では火を使わなければならないので黒煙などを外に送り出せるように魔法で空気の入れ換えがスムーズに出来るようになっているらしい。

 ついでに言っておくとこの山のどうくつは大きく分けて三つの区画がある。一つは当たり前だが住居区画、次にドワーフたちの仕事場である作業区画、そして最後に農作物を育てる栽培区画と、大まかに分けるとこうなっているらしい。しかし、これは集落と言うよりももはや一つの村なのではないだろうか、そんなツッコミは言いかけたが口に出すことはせずにただ飲み込んだ。

 まぁ、そんなどうでもいいことは置いておいて、今、スレイたちはバズールの工房に来ていた。工房は広かったが七人も入ると手狭だったので、武具が必要のないユフィとノクト、そしてライアの三人は集落を見て回ると言ったので、アイリーンに案内してもらった。

 残された四人は、手元に保管していた武器をすべてバズールに見せる。

 刀身が砕かれた黒い剣、刀身を半ばから二つに斬られた白い剣、刃が欠け刀身が歪んだ翡翠、そして二つに折れた二振りの短剣、それを順番に確認していったバズールは、ラピスの短剣を作業台に戻してスレイたちの方へと向き直ると、スレイの前に白い剣を掲げて見せる。


「まさか、わしの最高傑作であるこの剣をこうも見事に切り捨てられるとは思っておらんかったの」

「それについては……申し訳ないとしか言えません」

「まぁ、それも七百年前のわしじゃ。ならばそれを越える剣を打てばいいだけじゃからの。じゃがこやつは別じゃ、全くもって論外じゃ」


 そう言いながらバズールはスレイの黒い剣、ウィルナーシュと繋がった剣をスレイの前に掲げて見せる。


「はっきり言ってこの剣は、今のお前には合っておらん」

「いったいどういうことですか?」

「そのままの意味じゃ。さっきお前はこの剣がグリムセリアに砕かれたといったが、それは大きな間違いじゃ。この剣はお前の闘気を受け止めきれずに砕けた。そうじゃなウィルナーシュ」

『はっ、久しぶりだなバズール。よもやこの剣が我と繋がっておることに気付くとは、いささか驚いちまったじゃないか』

「たわけが、こんな禍々しい力、お前以外に見たことはない」


 あまり驚くでもなくウィルナーシュと話をしているバズールだったが、スレイたちにはそんなことよりも今のバズールの発言の中で、とても気になっていることがあった。


「あの、どういうことでしょうか、スレイさまの闘気に剣が耐えれなかったとは?」

「そのままの通りじゃが、言うよりもやった方が分かりやすいの。………スレイの坊主、そこにある剣にお前の闘気を流して強化して見せろ。もちろん戦いの時と同じようにじゃ」


 どういうことなのかは全くわからないが、言われるがままスレイは作業台の近くに置かれていた刀身の幅が広い剣を握り、言われるがまま黒い剣を使っているときと同じ感覚で闘気を流すと、一瞬闘気の光が輝いたかと思うと急激に光が消えそして刀身がボロボロと崩れ落ちていった。


「んなっ──!?」


 今までこんなことが起きたことがなかった現象に、スレイだけではなくリーフとラピスさえも言葉をなくしていた。どうして剣が崩れてしまったのか、そんな疑問の答えをバズールが説明してくれた。


「それは闘気に武器が耐えれないときに起こる現象じゃよ。なにか思い当たる節はないかね?」

「そんな……今までこんなこと──」


 思い返してみてスレイはあることを思い出した。それは、この黒い剣にも比毛を取らない質のミスリルで打たれた剣、それを壊してしまったことがあった。

 今のバズールの話が本当だとするなら、あれは闇聖の炎に耐えられなかったのではなく、技を放つときに纏っている闘気に耐えられなかった、そう言うことならばあのときの現象にも説明がついた。


「どうやら思い当たる節があったようじゃな」

「はい」

「そうか……剣をみる限りではこうなったのはつい最近じゃろうな。度重なる使徒との戦いを経て成長し、お前の中の闘気の質が今までよりも洗礼され過ぎ、闘気を纏う度にそのダメージを剣に蓄積し続けてきたはずじゃが、ウィルナーシュがそれを守っていたんじゃろ?」

『あぁ、その通りだぜ。剣がなくなれば我はそちらをみれなくなるからな』

「いったいいつから耐えられなくなっていたんだ?」

『そんなもの覚えちゃいない。だがそこの使徒の娘を助けるときに使った技、あれを放ったときにもういつ折れてもおかしくはなかったんだが、まさかグリムセリアとの戦いで砕けるとは思ってもみなかったがな』

「そんな大事なことはは先に言えよ!ウィルナーシュ!!」

「そう怒るでない。坊主、お前の闘気と魔力は後に詳しく調べるからの」


 黒い剣を置き次にリーフの翡翠を掲げたバズールはリーフの方を見ながら話し始める。


「リーフの小娘、お前のこの剣は緑洸石を使用して打たれておるが、ここにはその鉱石がない。したがって打ち直すに辺り別の金属を入れることになるがそれでも構わんか」

「はい。その事は重々承知しています。ですが、今まで共に戦ってきた翡翠の魂は、例え姿形が変わってしまったところでなくなりません」

「いい答えじゃ。分かっておると言うのならば、わしはこれ以上なにも言わぬが、リーフの小娘。この翡翠とか言う剣にも坊主の剣と同じ兆候が見られるんじゃが、なにか自分でも気付いていることはないかの?」

「そう言われてみれば、こちらに来て翡翠の代わりになる剣を買ったのですが、すぐに歯こぼれを起こしてしまいまして……翡翠を握る前はそんなことなかったのですが」


 騎士だったころならば使っていればそれなりに歯こぼれは起きた。だがここ最近、とくにコレクターとの戦いを終えた辺りから顕著に現れてきたのだ。


「決まりみたいだな。ついでだ、ラピスの小娘も闘気を図ってやる」

「わたくしもですか?」

「ついでじゃ。他にパーティーの中に闘気を使うものがいたら一緒に見てやろう」

「ライア殿ですね」


 そんなわけでスレイがコールでユフィに連絡を取り、ライアに戻ってきてもらったところ、ライアと一緒にユフィとノクトもついてきた。なんでも一通り見て回っちゃったから一緒についてきたらしいが、やはり少し手狭だと思っていた。

 場所を外へと出たスレイたちは、バズールが持ってきた鉱石をスレイたちに手渡した。なんの鉱石だろうと思ったスレイがそれをよく見てみると、すぐにそれがなにかわかった。


「これって、アダマンタイトだよな。だけど天然物にしては色がきれいすぎる……いや、まさか人工的に作られた物ですか?」

「ほぉ。見ただけで分かるとは」

「当たり前ですよ……しかしアダマンタイトの人工精製、しかもこんなに綺麗に作れるって……」


 ぶつぶつとなにか独り言を呟きだしたスレイ、その顔は以前祖父から頼まれ後とをしていた時と同じだった。一度こうなってしまうと考えが纏まるまでずっと没頭してしまうので、パンパンっとユフィが手を叩いてスレイを現実へと引き戻した。


「はい、スレイくんそれは後でゆっくりやって」

「あっはい。すみませんでした」

「はっはっは、坊主も女の尻にしかれている口か。いかんぞ、男なら女には強気でいかんとな!」


 自信満々に言うバズールだったが、スレイからするとアイリーンのような孫娘がいる時点てその可能性は無いだろうと思っていると、別の工房から一人の少年が現れた。


「何いってるんですかお爺さん、父さんから聞いてますよ。お婆さんが生きてた頃はしょっちゅう怒られてたって」

「むっ、クルファ、何しておるんじゃこんなところで?」

「なにって、そこ魔法使いの娘たちの杖の調整しろっていってきたのお爺さんじゃないか」

「そうじゃったの。っと、坊主たちに紹介せんとな。こやつはわしの孫のクルファで、アイリーンの旦那じゃ」

「紹介に預かりましたアイリーンの夫のクルファです。こんななりだけど、ドワーフの血は入ってるから君たちよりも年上だからね」


 こんななりと言うのは、クルファというドワーフはまるで人間の子供のような背格好をしていた。


「……バズールと違うね?」

「僕は父が人とドワーフのクオーターで、母はドワーフなんだけど、どうやら人のが強く出ちゃったらしいんだ」

「ほれ、無駄話はそれくらいにしてはよう作業に移らんか」

「はいはい。それじゃあ僕の工房に案内するよ。隣の工房だからそっちが早く終わったら来てね」


 ユフィとノクトがクルファの工房へと向かい、残されたスレイたちは手に持った人工アダマンタイトの欠片を手に集まっていた。


「坊主、アダマンタイトの特性を知っておるかの?」

「魔力との親和性の高いミスリルと同じで、アダマンタイトと闘気との親和性の高い金属です」

「その通り、今からお前たちにはアダマンタイトにありったけの闘気を流してもらう」

「……それが闘気を図るやりかたなの?」

「このアダマンタイトは手作りの品でな、普通のよりも脆く出来ておる」


 そんな鉱石に闘気を流したところでどうなるのだろう、そう思いながらもスレイたちはアダマンタイトに闘気を流すと、始めにスレイ、次にリーフとラピス、最後に時間はかかったがライアもアダマンタイトを破壊することが出来た。


「ふむ、だいたいお主らの闘気の質はわかった。後は坊主、お前は魔力持ちでもあったな」

「はい……でも魔力の方はそれほど変わってないと思いますが」

「いいから今度はミスリルを試してみぃ」


 言われるがまま渡されたミスリルに魔力を流すと、アダマンタイトのときよりも少しだけ長い時間をかけて砕けてしまった。人工ミスリルだからと言ってこうも簡単に砕けるとは、いささかおかしいような気がしたスレイだが、その違和感の理由がわからなかったため考えるのをやめてバズールの方をみると、一瞬などこか驚愕したような表情をされたあと、すぐに表情を戻したため見間違いかも知れなかった。


「調べるのはそれで終わりじゃが、なにか作るに当たって要望はあるかね」

「では、私の剣ですが鍔の意匠を以前の物と似せていただけますか?」

「それくらいお安いご用じゃ」


 他にもいくつかの要望を書き留めたバズールは、材料などを確認し始ているが何やら困っている様子だった。


「すまんが、材料の調達にしばらくかかる。完成までには一月くらいは欲しいところじゃの」

「一ヶ月……わかりました。それで料金はいくら程でしょうか?」

「金か……そうじゃな。白金貨五十枚ってところかの」

「そっ、そんなにするんですか!?」

「なんじゃ、妥当な値段じゃないかね」

「リーフ。伝説の刀匠の剣が白金貨五十枚なら安いはずだけど、さすがに手持ちじゃな」


 だが、スレイたちの手持ちでは一本分の代金しか持っていない。手持ちの分や個人の貯金や共有の貯金をすべて吐き出したところで白金貨百枚に届くかどうかも怪しい。

 こうなれば剣がすべて完成するまでの一ヶ月で金作に走らなければ無さそうだ、そう思いながらもスレイは空間収納から共有財産から引き出してきた白金貨の詰まった袋をバズールの前に差し出した。


「すみません、手持ちではこれで全部です。一ヶ月でどうにか残りの分をお支払しますから」

「何をいっておる。これで十分ではないか?」

「はい?」

「じゃから、これで十分じゃ。たく、これほどの大金で町の酒場の酒を買い占められるからの」


 呆れた。なんであんなに避けにこだわるのだろう、ミスリルもアダマンタイトも、売れば確実に一財産になるかねない高価な金属だが、先程からそこら中にあるので、もしかしたら価値が崩落しているのかもしれない。

 白金貨の詰まった袋を持っていったバズール、これでなんとか剣を打ってもらえることにはなったが、一ヶ月もこの場所にいるというのもあれだった。


「一ヶ月もドワーフの集落にいるのもあれですね………一度街に帰りますか?」

「うぅ~ん、ボクはもうちょっとこの集落にいてもいいかと思ったけど……アニエスにも会いたいしな~」

「……一月会ってないと、寂しい」

「ですが、任せっきりというわけにも行きませんからね」


 一度頼めば後は完成を待つばかり、いつでもゲートをつかえばこれるのでいつでも来ようと思えばこれる。なので帰ることも、ここに来る出来るので問題ない。


「今日にでも一度戻るか」

「そうですね。……ところでお二人はまだなのでしょうか?」

「……ん。確かに遅い」

「杖の調節でしたっけ。そんなに時間がかかる物なのですかね?」


 杖を使ったことのないスレイたちからすればわからないことなので、このままクルファの工房の方へと向かうのもいいかもしれないと思い、隣と言われたのであの工房かと思いながらそちらに向かった。


 工房の扉をノックすると、中からアイリーンが出てきた。


「おや、あんたらいらっしゃい」

「はい。ユフィとノクトの杖はまだかかりそうですか?」

「あぁ~、あの子たちはねぇ………」


 何かあったのか?そう思っていると、奥からユフィとノクトの声がする。


『ワッハッハハハァ~!さぁこい、勇者アンジェリカよ、今こそ我が暗黒の魔法で打ち倒してくれる!』

『そうはさせないぞ、わるいまじょめ!このせーけんがせーばいしてくれる!』

『アンちゃん──じゃなくて、勇者よ覚悟しなさい!』

『なんのぉ~!まけないの!』


 なんだか二人の他にもう一人幼い女の子の声が聞こえた。

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