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二人の名前、そして帰郷

宣言通り本日二話目の投稿です。


 死霊山にてスレイとユフィが謎の二人組との戦いを始めた頃、西方大陸で二人の帰りを待っていた母ジュリアは、いくら何度も遅すぎると憤慨し、色々あってついに我慢の限界が来た。


「もう我慢ならないわ!フリードさん!ミーニャちゃん!私、今から行ってあの子たちを迎えに行ってくるわ!」


 クレイアルラの診療所から我が家に戻ったジュリアは、夫のフリードの娘のミーニャの姿を見るやいなや開口一番にそう宣言した。

 高らかに告げられたフリードはというと、スレイが帰ってきたらやる予定のパーティーの飾り付けの真っ只中だった。そのため手には飾り花などが握られたまま固まってしまった。


「待って待ってッ!?えっ、どういうこと!?」


 あまりにも突然のことで言葉の意味を理解するのに時間がかかってしまった。

 しばらくしてようやく意味が理解できたフリードがそう返答した頃、ジュリアは愛用の杖を片手に家を出ていこうとする直前だった。


「止めないでしょうだいフリードさん!これも母親の努めなの、私はあの子を健全な息子に育てなくちゃならないの!」

「いや、なにどういうこと!?言ってる意味がマジで解らねぇんだけど!?」

「いいから離してフリードさん!私は行くの!行かなきゃいけないのよ!」

「それはわかったから!一回ストップ、落ちついて事情を説明してから行って!でないとミーニャが泣いちゃってるから!?」


 有無を言わさずに家を出ようとするジュリア、それを後ろから羽交い締めにして押し止めるフリードは、とりあえず事情を知りたいとなだめようとしていた。

 しかし、怒り狂ったようなジュリアとそれを必死になって止めているフリード、そんな二人のやり取りを見ていたミーニャは両親が喧嘩をしていると思って今にも泣きそうになっていた。

 フリードに言われてハッとしたジュリアは、部屋の隅でこちらの様子を見ていたミーニャの両目に涙が溜まっていることに気づいた。


「ミーニャちゃん……ごめんなさい、お母さんどうかしてたわ」

「おかあさん………おこってない?」

「怒ってないわ。ごめんね」


 フリードの拘束を解かれてミーニャの側に歩み寄ったジュリアは、不安そうな娘を安心させるためにそっと抱きしめた。

 ギュッと抱き合うジュリアとミーニャを見て、大丈夫そうだと安心したフリードは、なんであんな事になったのかと考えていた。


「良かった、ジュリアはどうにか落ち着いたみたいですね」

「ウォッ!?ルラ!?おまっ、いつの間に」

「勝手に入ってきたのは謝りますが、そこまで驚く必要はありませんよね?」


 これは心外だと思ったクレイアルラだったが、勝手に入ってきた自分も悪いと思っていたのでこれ以上は何も言わないでいた。

 ちなみにクレイアルラがこの家にやってきた理由は、マリーにブチギレて診療所を飛び出してきてしまったジュリアを説得に来たのだ。


「マリーのやつにも困ったもんだな」

「娘のためと言うのはわかりますが、やりすぎるのもよくありあせんよ」

「だよな……んで、外でスタンバってるバカ二人はなんなんだ?」


 うんうんと頷いたフリードは表情を一転、呆れたように引きつった顔で玄関先に立っている二人を指差した。


「あらぁ~、バカなんてぇ~酷いじゃない」

「まったくだ。誰がバカだ」

「テメェらだよ。似たものバカ夫婦!」


 ピクピクと目元を引きつらせながら眼の前にいるバカ夫婦、マリーとゴードンの二人にビシッと指を指した。


「ってかさぁ、そもそも何だその格好!なんでいつもの格好にガントレッド!」

「えぇ~だってぇ~、現役の服ぅ~、着れないんだものぉ~」


 あらあらと言っているマリーの格好はいつもの服にエプロンと、完全にそこらにいる普通の主婦だ。

 それがガントレット付けただけで死の山に登るなど言語道断だが、マリーの実力をシッているフリードからするとギリギリ許容の範囲内だ。


「マリーはまだいい……だがなぁその横の一般人!なんでお前も行く気になってんだ!?」

「もちろんだ。うちの娘を拐かす小僧を斬り殺しに行く」

「辞めとけよ、斬り殺す云々の前にお前があそこに行ったらショック死するわ」


 斧を片手に当たり前だとほざいているゴードンを真面目に諭しにかかるフリードは、自分でも珍しくツッコミを炸裂させながら頭を抑える。


「こいつら、マジでいい加減にしとけよな………取り敢えず押さえつけとくか」


 ゴードンは良いとしてマリーは手加減できる場合ではない、マジでやるしかないかと思っているとフリードの背後から聞こえてくる母娘の会話に耳を疑った。


「いい、ミーニャちゃん。お母さんはこれからお兄ちゃんを迎えに行ってくるから、お父さんたちと大人しく待ってるのよ」

「はい!」

「それじゃあ行ってくるわね」

「いやいやちょいと待ちましょうかジュリアさん!?」


 まさかの言葉にフリードがさらにツッコミを入れた。


「いやいや、いかない流れじゃないの!?」

「心配なのよ。かれこれもう三時間くらいでしょ?流石に遅すぎるわ!」

「いや、修行の意味!おいルラ、止めてくれ!!」

「私を巻き込まないでください。もう知りません」

「うぅ~わぁ~、なんで暗く淀んだ目、どんだけ疲れてんの?」


 診療所からここまでマリーに振り回されたジュリアを引き止めたクレイアルラは、目からハイライトが消え失せ疲れた表情をしていた。


「フリードさん。邪魔するなら強硬手段を取るわよ?」

「いや、ジュリアさん?マジな顔しないで……」

「フリードぉ~覚悟しなさぁ~い」

「おい、やめろマリー!こっちは素手だぞッ!?」

「フリード、邪魔するならぶっ潰すぞ!」

「やってみろよ、この悪人面!返り討ちにしてやっから!」


 ジュリア、マリー、ゴードンの三人に凄まれるフリードは、素手でジュリアの魔法を防ぎ、素手でマリーの拳を受け流し、素手でゴードンを殴り飛ばした。

 村の人たちはフリードたちの大立ち回りを陰ながら見守っていた。

 なぜかって?あんなところに飛び込んで死にたくはないからだ。ちなみに、この喧嘩を止められるであろう唯一のエルフは、ボケェ~っと空を見上げながらこんなことを呟いた。


「はぁ~、空が青いですね」


 全力で現実逃避しながらスレイとユフィが速く帰ってこないかと思っているのであった。


 ⚔⚔⚔


 突如襲ってきた仮面の二人組との戦いを制したスレイとユフィは、拘束した二人の処遇をどうするかを決めあぐねていた。


「実害はないし、そもそも標的が師匠なら問題なからこのまま開放でいいんじゃない?」

「私も異議なしなんだけど、なんだかあの男の子の方が突っかかってきそうだけど……あっ、ねぇ一つ聞きたかったんだけど、なんであの子にあんなに突っかかったの?」

「えっ?」

「だってスレイくん、初対面の人とあんなに険悪になること無いよね?」


 言われてみて自分でも不思議だった。

 あのときはその場の乗りかなにかに感化されてやり合ったのではないかとも思ったが、よくよく思い返してみてもただあの少年のことは心底気に入らないのだ。


「うぅ~ん……自分でもよくわからないんだけど、なんだか無性に苛ついた」

「男の子ってよくわからないよね~」

「勝手に言ってて……さて、そちらのお二人さん。そろそろ体の痺れは取れてきたと思うけど気分はどうかな?」


 スレイが後ろを振り返ると仮面の二人組が顔を上げた。


「クソが、最悪の気分だ」

「あぁ。それは良かった。こっちは清々しい気分だよ」

「ちょっとスレイくん、またなんかおかしなことになってるよ!?」

「おっと、これは失礼しました」


 本当に今日のスレイはどうなっているのだろうか、不安になるほど様子がおかしいと感じてしまったユフィは、まさかこれが修行の成果なのかと疑ってしまった。

 そんなユフィの視線をかいくぐったスレイは、少年の前に歩み寄ると目線を合わせるように片膝を突いた。


「さて、ボクたちは君たち二人がやったことに関して目を瞑るが、開放するにあたっていくつか確認したいことがある」

「交換条件ってわけか、なんだ?」

「誰が君たちに師匠、ルクレイツアを殺せと依頼した」

「残念だがこっちも契約でね、答えられねぇ……それにいったところで───」


 最後の方、風が吹き少年の声がよく聞き取れなかったが、これ以上この話については聞き出せそうにはなさそうだったのでこれで終わりにする。


「じゃあ次、君たちはルクレイツアを殺すことをまだ諦めないのか?」

「標的の行方が掴めないならこれ以上追うつもりはないわ。安心なさい」

「それは良かった。あの人、子供だからって容赦も加減しないから、中途半端の突っかかったら殺されるぞ」


 ルクレイツアのことを語るにあたって段々とスレイの両目からハイライトが消えていく。

 あの師に師事を受けて約五年以上、あの冷血漢は女子供であろうとも容赦という物はない。

 もしもルクレイツアは冒険者をやっていなければ今頃裏の世界で働くか、犯罪者として手配されてもおかしくないだろうとは、スレイだけでなく長い付き合いであるはずのフリードたちのセリフである。


「まぁ、別に君たちの意思で師匠にちょっかいを掛ける気なら止めはしない。だけど、覚悟しておけ……あの人の本気は底が知れないからな」


 その言葉を聞いた瞬間、仮面の二人の身体が震えた。

 恐怖ならではない、それはこれをかがるスレイの表情からだった。口だけは笑っているはずなのに目が死んで、言葉の端々に抑揚がまったくないからだ。

 二人どころか、ユフィにまで引かれてしまったスレイは咳払いをしてから話を続ける。


「他にも聞きたいことはあるけど、約束通り拘束は解かせてもらう」


 二人を拘束している岩の拘束具を解くために魔力を流そうとしたが、仮面の少年はそれを止める。


「解く必要ねぇよ」


 パキンッと音を立てて二人を拘束していた手枷が崩れ落ちる。どうやって外したのかと思ったが、どうやら少女があの金属の糸を使って斬ったようだ。


「それが出来るならすぐに逃げられたんじゃないのか?」

「出来たわよ、でもそこの娘が逃がしてくれないでしょうね」

「ふふっ、よくわかったね」


 仮面の少女の言う通りユフィは二人が逃げ出したときのために小型ゴーレムを配置していた。


「逃がしてくれるっていうんなら、無理にやり合う必要はねぇからな。大人しくしてたってわけだ、これでいいか」


 拘束が解け転がっていた武器を回収した二人は、そのまま山を降りようとしたがスレイがそれを呼び止めた。


「まって、もう一つ聞きたいことがあった」

「なんだ」

「君たちの名前、最後に教えてくれ」


 意外な言葉に少年たちが足を止めて振り返ると、仮面の少年がスレイを見る目が一層厳しくなった。


「なんで二度と会うことのねぇテメェに名乗らにゃならん」

「良いだろ、なんとなく君たちとはまた戦う。そんな気がするんだ」


 真っ直ぐ見据えるスレイの目に彼らは諦めたらしく素直に答えた。


「クロガネ、それが俺の名だ」

「ボクはスレイ。スレイ・アルファスタだ」

「アカネよ。覚えなくても良いけどね」

「覚えておくよ。私はユフィ・メルレイクだよ」


 仮面の少年改めクロガネとスレイが名乗り合うと、ユフィと仮面の少女も同じように名乗りあった。


「次会ったときはテメェを斬る」

「やられないよ。また倒してやる」

「次はやられないわよ」

「私も負けないわよ」


 クロガネとアカネがゲートを開くと、どこかへと消えていった。


「あいつ、闘気だけじゃなかったのか」

「剣技だけでスレイくんとタメを張ってたんだ。やるね~あのクロガネって子」

「そういうアカネって子も、まだ手札を残してるみたいだね。次も勝てそう?」

「やってみなきゃわからないかな~」


 スレイとユフィはあの二人との再戦を夢見て小さく口元を釣り上げた。次も負けない、そう心に誓いながら。


「さて、遅くなったけど帰るか」

「そだねぇ~、私も疲れちゃった」


 色々合ったが本当にここからお別れだ。

 西方大陸へ向けてゲートを開いたスレイは、最後にもう一度この場所を目に焼き付け、一年間の感謝を込めて礼をしてからゲートをくぐった。


 ゲートを抜け懐かしき故郷に帰ったスレイに目に一番に飛び込んできたのはなんとも意外な光景であった。


「ジュリアさんもマリーも!いい加減に諦めろっての!!」

「嫌よ!フリードさんこそ、諦めなさい!」

「そうよぉ~、これ以上邪魔するならぁ~、本気で行くわよぉ~」

「やめろマリー!?ちょっ、ジュリアさんも無言で強化魔法かけないで!?」

「くっ……まだ、俺は」

「お前は寝てろ、バカゴードン!!」


 ゲートを抜けた先ではなぜかフリードが一人で、ジュリアとマリーの戦っていた。

 凄まじいマリーのラッシュとジュリアの魔法援護を一人で防ぎ、ついでに合間合間で起き上がろうとするゴードンを一撃で落としてと、一人で三人を抑えるフリードの姿はボロボロだった。

 何がどうしてこうなったのか、まったく理解が追いつけないスレイは同じように固まっいたユフィの側に歩み寄る。


「ユフィ、なにこれ?」

「えっ。しらない」


 あまりのことに理解が追いつかない二人は、ただただ凄いとしか感想が思いつかなかった。

 何が凄いって、あんなに派手に立ち回って衝撃波で木々が倒れ、地面が割れても民家に被害がないのだ。

 しかし、ここまでやってクレイアルラはないも言わないのか、そんなことをスレイがつぶやくと、それを聞いたユフィが袖を引っ張ってある一角を指した。


「クレイアルラ先生!どうかあの人達を止めてくれ!」

「あぁ……いい天気ですね」

「せんせぇええええぇぇぇぇええええ―――――――っ!?」


 村止めるように言われても空を眺めて現実逃避をするクレイアルラを前にして、尊重の悲痛な叫びが木霊した。


 一年ぶりに家に帰ってきたはずなに、無性にあの殺伐とした山に帰りたくなったスレイはクレイアルラと同じように空を眺めながら一言。


「なにこのカオス」


 ッと全力で現実逃避をしたくなったのだった。

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