ドワーフの集落
スレイは偶然助けたドワーフの女性を──途中で名前を聞くとアイリーンというらしい──連れて、ユフィたちのいる場所に戻ると、どうして食材ハントに行ったのにこんな幼い女の子をハントして帰ってくるのかと、割りと本気で殺気だったユフィたちから詰め寄られる結果となった。
ついでに完全に自分たちよりも幼い女の子──見た目は、だが──だったため、この中で最年少組のノクトとライアからはとてつもなく冷たい視線を向けられることになったが、誰もこんな山奥で人攫いの真似事のようなことをしていないとスレイがツッコミを入れ、誰が子供だ!っとアイリーンが叫びが雪山の中に響き渡った。
そのお陰でなんとか事情を説明する機会を与えてもらったスレイは、改めてみんなにアイリーンと出会った経緯をしっかりと説明するのであった。
その後どうにか釈明を聞き入れてもらったことで事なきを得たスレイは、夕食の準備に取りかかろうとしたときアイリーンから先に血抜きと内蔵の処理をしたレインディアから毛皮と角を剥ぎ取りを行いたいと言われ、スレイが空間収納からレディアントと熊を取り出すと、暇をしていたユフィが熊の解体作業を行ってくれることになったので、ユフィに肉の準備を任せてスレイは他の準備を始める。
作業を進めながらユフィとアイリーンが話し合っていた。
「へぇ~、それじゃあアイリーンさんはここに鉱石を取りに来てたんですか」
「まぁそうだな。ダンジョンは質の良い鉱石がよく採れるからなここにもよく来るんだよ。そんでその途中でこのレインディアを見つけちゃったって訳だ」
「でも、得物がハンマーでよく戦おうと思いましたね?」
「まぁ危険かもとは思ったが、こんな珍しい魔物だ。あの時殺らなきゃ他のやつらに取られちまうからな。一応こんななりだが、そんじゃそこらの魔物だったら一捻りで倒せるんだぜ」
たしかにあんなに大きなハンマーを振り回せるんだからここに一人でいてもおかしくないかと、ユフィはそう思っていた。だがミスリルの体毛で覆われたレインディアには自慢の戦鎚も意味をなさなかったらしく、実際にスレイが助けなければ今頃が死体として転がっている可能性があったっとアイリーンが語った。
そして、ユフィはアイリーンを助けた当人の方へと視線を向けると、先程から土魔法と錬金術を併用してなにかを作っていたりするのだが………
「………ところスレイくんは、さっきから一人でなにを真剣に作ってるの?」
先ほどから作っては崩してを繰り返しているせいで、スレイの脇には小さな土の丘が出来上がってしまっているではないか。
「ん~。土鍋。やっぱり、みんなで鍋を食べるなら土鍋がいいかなって思って作ってるんだけど………あっ、そうそうリーフ。アイリーンさんの分もいるから米は少し多目に用意しておいてね」
「それはいいのですが、いったい何を作るつもりなのですか?」
「冬の夜にぴったりな鍋料理。みんな食べたことないだろうけど楽しみにしてろよ?スッゴく美味しいからさ。っと、ようやく出来たな」
今までポトフやブイヤベースなどの鍋で作る料理は出したことはあるが、土鍋を使った鍋料理は出したことがないのでみんな驚くだろうと、一人でニコニコと微笑みながら鍋を確認しているスレイだった。
ちなみに料理を手伝うために言われた食材を用意していたリーフと、細々としたものを準備していたノクトたちは、スレイがこれから作ろうとしているものが分からずに期待半分、不安半分といった具合で見守っている。
すると、解体を終えたアイリーンが料理をしようとしているスレイの手元を見ながら、感慨深そうにうねりながら
「はぁ~、お前男だってのに料理に手慣れてて、うちの旦那にも見習ってもらいてぇなこりゃ」
「「「「「「はぁ!?旦那っ!?」」」」」」
スレイたちが一斉に叫ぶと、ピシャリと空気が一瞬にして凍りついたような錯覚を受ける。作業を続けていたユフィさえも一度その手を止めて物凄い発言をしたアイリーンのことを見る。
今、アイリーンはいったいなんと言った?旦那?旦那ってっとあれか、この幼い外見のドワーフは結婚していると?それをわかったと同時に、マジですか?っと言う顔をしながらアイリーンのことを見ているのだった。
「ビックリした。んだよ、あたしは大人だぞ?結婚も出産も経験済みだぞ?」
「……うそ。そんな小さな体で出産出来るの?」
「小さいは余計だ。ってかドワーフの女なんてなんてみんなあたしくらいだ。ってか、あたしが小さいんじゃなくて、お前らの方がでかいんだっての」
言われて思い出したがドワーフの男性もたしかに小さい、っというかみんな小柄なのが特徴だったなともいないながらも、小さな子供にしか見えないが、これを言ってしまえば戦鎚で殴られるかもしれないので黙っている。
「あぁ~、ライア。ちょっと葉野菜ぶつ切りにしておいてくれない?」
「……ん。仕上げもやってもいいのよ?」
「ダメですよ。前にちょっとシチューをライアさんに任したら、なんだかよくわからないげてもの料理にしたあげく、アニエスさんがどうなったかおぼえてないんですか?」
あれは酷かった。シチューの仕上げをライアに任したノクトが、少し目を放したらヤバイ生き物にでもなってしまったのかと錯覚するほどの物になってしまい、食べちゃいけないとおもいながらも、もしかしたらと思い、ためしに臭いを嗅いでみたアニエスが鼻を押さえてのたうち回ってしまったほどだ。
「ライア殿、もう少し我慢しましょう。でないと前のアニエス殿の弐の前になりますから」
「……あのときのことは、本当に申し訳ありませんでした」
ライアが珍しく頭を下げた。かなり反省していたのだろう、ならばもうなにも言わない。
そんなみんなを横目に、スレイは即興で作った土鍋に水と昆布を入れて煮込んでいると、解体を終えたユフィが鍋を覗き込みながらお玉ですくって一口飲んでみる。
「あぁ~、懐かしいお味。味付けどうするの?」
「この出汁をベースに醤油と酒で味付けします。それであとは煮込んで終わりだな」
「手伝うことある?」
「今はないけど、できればお酒も出しておいてくれる?」
「はいはぁ~い。みんなもお酒飲むよね?」
「はい。いただきます」
「わたくしもご相伴におあずかりまします」
ユフィが問いかけるとリーフとラピスが答える。ラピスも一応十五歳という設定なのでお酒は飲んでも大丈夫な歳だ。そんなわけでスレイも合わせて五人とアイリーンの分も合わせて用意を始めるユフィは、せっかくのお鍋なのだからお酒もあれにしようか、そうなるとやっぱり飲み方もあれの方がいいかもしれないと、スレイではないがユフィもちょこっとだけ変わった飲み方をするのもいいかもしれない、そうおもいながら準備を始める。
一時間後、夕食の時間となると一つの鍋を前にみんなが顔を突き合わせて座っている。ちらりと顔をあげるとみんなまだかまだかとスレイの方を見ているので、蓋を開けてなかを見せる。
「よし、食べてもいいけど熱いから気を付けてね」
スレイがそういうと、ユフィがみんなの皿に野菜と肉、それに汁をよそって取り分けていき、先によそってもらったライアがスレイの忠告も聞かずにいきなり口に入れる。
「……あふ、あふぃ」
「あぁ~!ライアさんお水です!」
「……んぐんぐっ、ありがとうノクト」
「だから熱いって言っただろ?アイリーンさんも遠慮せずに食べてください。追加の肉もありますから」
「野菜も、少ないですけどありますからね」
「あぁ。おいしくいただいてるよ。しっかし旨いねこれ、酒がほしくなるわ」
やっぱり小さくてもドワーフ、お酒が欲しいと言われると思ってユフィに用意してもらっておいて正解だった。
すると、ユフィが用意しておいた小さなコップをアイリーンに渡すと、そこに鍋で暖めていたお酒を注いだ。
「なんだこの酒?暖かいがワインやエールとも違うみたいだな」
「まぁまぁいいから飲んで見てください。寒いときにはぴったりだと思いますから」
「ふぅ~ん。おっ、こいつはうまいな。こんなちっこいのじゃなくてもっとでかいのでくれよ」
「そういうと思ってコップも用意してますから。あっ、ノクトちゃんとライアちゃんはジュースで我慢ね」
なぜだかユフィの働き具合がいつも以上に多い気がする。その姿にあっけに取られているノクトたちが、どういうことですか?とスレイに目で訴えかけてきたので、スレイもわからないと答えながらユフィに問いかける。
「ユフィもしっかり食べなよ?明日も歩かなくちゃいけないんだから」
「ちゃんと食べてるよ~。それに、久々にこんな美味しいお鍋食べれてうれしいから、それで、〆は雑炊できまりだよね?」
「あぁ。って、今思い出したけどユフィ、鍋をするといつもこんな感じだったっけ」
今さらだが、ユフィがまだミユだった頃からなぜか鍋を食べるときにやたらとスレイを招き、今のようにお皿によそったりしているので今さらか、そう思いながら鍋を前に嬉しそうに頬笑むユフィを見ながら、小さく笑いながらそっと酒の入ったおちょこを傾け、そしていり口の外で多少緩やかに降っている雪を見ながら
「はぁ。雪見酒ってのもなかなか風情があって乙な物だね」
せっかくなら着物を着て何てのもいいが、あいにく着物なんてものを持っているはずもなく風情だけを楽しみながらお酒を飲んでいると、そんなスレイの呟きを聞いていたユフィが
「もぉ~スレイくん、そんなこと言ってるとなんだかじじくさいよ~?」
「ですが、良いものですね雪を見ながらこうして飲むお酒というのも」
「えぇ。確かになんと言いますか絵も言えぬ気分になりますね」
っと、ユフィには不評だったがリーフとラピスにはいい評価を受けたらしく、ちょっとだけいい気分でお酒を飲んでいると、ライアがスレイの名前を読んだ。
「……ねぇスレイ、お肉なくなった次入れて」
「ちょっとライアさん!お肉だけじゃなくてお野菜も食べましょうよ!」
「はいはい。すぐに入れるからちょっと待ってて」
結局、なんやかんやでいつもの夕食の光景になってしまうが、スレイとユフィは久しぶりの故郷の味に下づつ身を打ちながら夕食を進めていくのだった。
次の日朝早くからアイリーンの案内で雪道を歩いているスレイたちだが、みんなの目は信じられないものを見るような目をアイリーンに向けている。その理由はというと……
「なぁ、アイリーンさん昨日酒めっちゃのんでなかったか?」
「うん、一升瓶を丸々二本を一人で飲んじゃってたはずだよ」
「それでどうしたあんなにあのお方はお元気なのですか……」
昨日多少なりとも飲んだスレイたち、明日のためにと少ししか飲んでなかったのですでに酒は抜けきっているのだが、一升瓶を二本も飲んだら次の日には死んでる気がするが、さすがはドワーフと言ったところか……
「あんたら、もうすぐ集落の入り口に入るから、おしゃべりはその辺にしておきなよ」
なんだかアイリーンが修学旅行の引率の先生みたいだなっと、スレイとユフィがおもいながらついていくと、しばらく雪道を歩いているうちに小さな洞穴のような場所だった。こんな場所言われなければ気付かずに通りすぎてしまうような場所だった。
しかし、地図でかかれてあった場所とかなり違うような気がするが、地図上のことだししかたがないか、そう割りきってスレイたちは魔石式のカンテラを片手に、アイリーンのあとに続いて薄暗い洞穴のなかを進んでいく。
「なんだか、こう暗くてジメッとした場所だとレイスの一体でも出てきそうだな」
「ちょ、やめてください。レイスの相手は出来ませんからね」
「……レイスはいや、殴れないから倒せない」
スレイの呟きに対して魔法が使えないリーフとライアから苦言が進呈される。レイスは聖属性の魔法ではなければ倒せないので、闘気しか使えない二人からすれば相性が災厄のあいてだろう。
しかし、レイスが人の体内に入ればもう助からないので、守護のアミュレット無しで殴るようなことはしないで欲しいとスレイたちは思っていると、視界の先で光が見えてきたのでようやくたどり着いたのか、そう思っていると、先を歩いていたアイリーンが入り口の前で立ち止まりスレイたちの方に振り返りながらこう言った。
「さてお前ら、ここがあたしたちドワーフの集落だ。気がねなくはいっておいで!」
長かった旅の目的地、ドワーフの集落へとようやくたどり着いたのだった。




