氷零山脈
すみません。色々あって遅くなりました
北方大陸 マルグリット魔法国を出てからそろそろ一ヶ月がが経過しようしていた。その間にスレイたちはドワーフの住むと言われている氷零山脈にたどり着き、今では山脈の集落の場所を目指して移動している。
氷零山脈に向かうに当たって問題だったのは足場の悪い雪道で死霊山と同じレベルの魔物との戦闘だが、この問題についてはどうにか解決策が見つけ、どうにか氷零山脈までの旅の中でその戦いの技術を体得することの出来たことは大いに役だったのだ。
それはどんな技術かと言うと、雪道の中で雪に足をとられずに走ることを可能にする方法であった。
やることはいたって簡単、靴の裏に魔力や闘気を纏わせることによて雪の上を走ることができる。これによって魔物との戦いにも足をとられ戦闘に支障をきたすことはないが、やはり死霊山クラスの魔物との戦いともなるとそれなりに苦戦を強いられることが多かった。
吹き荒れる雪の中現れたのは、氷の彫刻のような姿をしたアイス・ゴーレムと呼称されている種の魔物だった。スレイたちが対峙したアイス・ゴーレムは鈍器のように固くそして重い氷の柱を振るうと、剣を握ったリーフが盾で受け止めるとガチガチと音をならしながら拮抗している。
「今ですライア殿!」
「……ん。任された!──ファイヤー・ナックル!」
リーフの背後から走ってきたライアが炎を纏った拳を振り抜くと、表面を溶かしながらもゴーレムを殴り飛ばした。岩肌にぶつかった衝撃でバラバラになって砕け散り、氷の身体の中にあったコアが露出したと同時にラピスが短剣で斬りとばした。
「ふぅ………これでは売ってもあまりお金になりませんね」
「仕方がありませんよ」
いましがた砕け散ったコアを回収しながらラピスが小さく呟いている横で、ライアは先程戦った魔物のことを思い出しながら首をかしげる。
「……ねぇユフィ。どうして氷で出来てるゴーレムが動くのか知ってる?」
「うぅ~ん。私の作ってるゴーレムとは違うからね~。なんとも言えないけどスレイくんは知ってるんじゃないかな?」
なんだか戦闘は終了、みたいな空気が流れているなかスレイは一瞬だけみんなに視線を向ける。
「ボクも金属のゴーレムしか作ったことないから、そんなに詳しくないから知らないよ。ってかこいつは人が作ったゴーレムじゃなくて、自然界で生れたて魔物だからね。ちなみにボクが今撃ち抜いている魔物もそうだからさぁ、すこしは手伝ってくんない?」
ドンドンドンッと魔道銃の銃弾を向かってくるブリザード・ロックと呼ばれる氷のブレスを吐く石の魔物、いかにもファンタジーの生物を撃ち砕いていた。
今まで無機物のような魔物とは初めて戦ったが、実際にこの魔物は岩の外皮を持っているだけで中には肉などもしっかりとついている。あのゴーレムと銘打った魔物はただ単に形がゴーレムに似ているからというだけなので、特に深い意味はないと思っている。
「よし。こいつで終わりかな?」
最後の一体を撃ち終わったスレイは、ちょうど空になったマガジンを空間収納に落とし入れるように納めると、代えのマガジンを取り出して銃に込め直してからホルスターに納めると、そのままプレートを持って道を確認していたノクトに話しかける。
「ノクト、道はこっちであってるんだよな?」
「はい。リーフお姉さんから頂いた地図の場所ももうすぐだと思います」
「ってことは、もうすぐダンジョンに入るってことだよな……うぅ~ん。いやな予感がする」
スレイは今までに入ったダンジョンでは余り………いいや、かなりの確率でひどい目にあい続けてきたためここでもなにか起こるのではないか、そう思いながらもダンジョンのある場所に向かって行くのだった。
ダンジョンは二種類あると言うのは前に話した通りだ。
一つは魔物が掘った穴や魔物の巣穴になり時間をかけてダンジョン化した物、そしてもう一つは少し前に仕事で入った学園のダンジョンのように人の作った遺跡がダンジョンかする二種類があるのだが、この山脈のダンジョンと言うのは後者だったらしい。
ダンジョンの入り口から中に入ると、そこにあったのは凝った作りのされら立派な石柱と、入り口の周りには石の門のアーチがあった。
「……遺跡型のダンジョン、ちょっと前にひどい目に遭ったばっかりだよね?」
「そのせつは、わたくしの身内が皆さまにご迷惑をお掛けしてしまい申し訳ありませんでした」
未だにあのときの使徒の襲撃の件に対して思うところのあるラピスは、みんなに向かって頭を下げているが、みんな今さらそんなことを気にしているわけもないので、謝るのはやめて欲しかった。
スレイはそんなラピスのことを横目にダンジョンの入り口の中を眺めている。作りはしっかりしており、なにより少し中に入れば雪に風は防げる。魔物が来るかもしれないがそれはいつものことなので問題はないだろうが問題は食料だった。
「今日はここで休もっか。人が来る気配もないし魔物は………使徒に比べてば弱いからみんなの実力なら大丈夫」
「その大丈夫の基準がわたしとしてはとっても不安なんですけど………」
「……ん。ノクトに賛成。ところでスレイは剣なんか抜いてどうするつもりなの?」
「食料探してくる。ここなら食べれる魔物がいると思うから、ちょっと行って狩りに行ってくる」
「それじゃあ私たちもついてこうか?」
「いいよ、その代わりテントと魔物避けの結界なんかをお願いしてもいいかな?」
「りょうかぁ~い。ノクトちゃんとラピスちゃん、結界張るから手伝ってねぇ~」
「分かりました。ユフィお姉さん」
「えぇ。すぐにお手伝いいたしますね」
この場をユフィたちに任せたスレイは、近場を探索して食料になりそうな魔物を探すためにダンジョンの奥へと向かっていった。
今までダンジョンに入ると録でもないことにしか会わなかったスレイだったが、このダンジョンではそのルール、というよりもアルファスタ家の厄介ごとに巻き込まれるという体質が効いていないのか、逆にめちゃくちゃ着いてると、声高々に叫びたくなってしまっている。
そう叫びたくなった理由というのは、ダンジョンの奥に入って早々にアルミラージュの巣が見つかり、さらにブリザードベアーと呼ばれる氷の腕を持つ熊型の魔物を見つけた。アルミラージュはさることながら、ブリザードベアーはこの大陸に着いて始めに泊まった町の宿屋で食べており、脂が乗っていて美味しかったのが記憶に新しい。しかもかなりの大物だ。これだけあれば今夜の夕食と明日の朝食分は確保できた。
あとはここで出来る解体を終わらせてみんなのところに帰って、この肉を調理するだけなのだが、久々の大物、しかも新鮮な肉、いったいどうやって調理してやろうか。スレイは手持ちの調味料のリストを頭の中に思い浮かべながら考える。
「やっぱり、野菜と一緒に煮込むか?それとも前にユキヤから譲ってもらった味噌と醤油があるし、だがここは昆布であっさりとした出汁を取って……いや、ここはロックバードの骨を煮詰めて鶏ガラのスープもいいか……いや捨てがたい。うむ、他にはなにか……」
実は、この大陸に来てからずっと雪を見るたびに鍋が食べたくなっていたスレイ、旅の間は硬い肉しかないウルフや、ゴーレムなど鍋に適した新鮮な肉を見つけられずにいたため、こうして熊肉を手に入れて鍋が食べたい欲求が爆発してしまった。
そんな感じて頭の中で色とりどりの鍋を思い浮かべていたスレイは、手早く熊の血抜きや内蔵の処理をしてしまおう、そう思いながら解体用のナイフを取り出したその時、スレイはダンジョンの奥からなにかが崩れる音と、小さいが人の悲鳴のような声が聞こえてきた。
「……見捨てれるわけはないよな」
空間収納に熊とナイフを仕舞い、声のする方へと走っていく。
音のする方へと向かって言ったスレイはだんだんと大きくなる破壊音を聞き、もうすぐだと思いながら角を曲がりそして、後ろに飛びながら転移で少し前にいた場所にまで戻った。
「あれは、女の子と……たしかアイアン・レインディアか?でも色が違うし亜種か?」
ロック・レインディア。体から生える角と毛の一本一本が硬い鋼鉄のような繊維で、体毛を溶かせば良質な鉄がとれると言われている人型のトナカイに似た魔物だが、どうも体毛の色がおかしい。
図鑑で書いてあったあの魔物の色は鈍色だったはずだが、目の前にいるのは白銀色だった。
それ以上に不思議なのは、こんな場所になぜ全身鎧を幼い女の子が身の丈を超す戦鎚を持って戦っているのか、いやこのダンジョンは古代の遺跡だ。入り口は複数用意されているのでどこからか入ってきたのだとは思う。
だが、そんなでっかい戦鎚であのトナカイを潰したりしたせっかくの肉が台無しになってしまう。それだけはどうにかして阻止したいスレイは、人の獲物を取るのは気が引けたが肉のためやむ無しと頭を切り替える。
まぁ、女の子がかなり劣勢なので助けても文句は言われないはずだ。
道の角から駆け出したスレイは剣を抜きながら走り出す。
「キミ!後ろに下がれ!」
「──ッ!だめこいつに剣は!!」
そんな女の子の声を聞きながらもスレイは剣を振り抜く。
振り抜かれた刃がトナカイの首を狙って降られたが、キィーンっと甲高い音を響かせながら剣が砕け散った。トナカイは後ろから斬られたことに怒ったのか、振り向き様に手に握ったこん棒を真横に凪ぎ払ったが、スレイはこん棒に手をついて後ろに飛ぶと、女の子を庇うようにたった。
「キミ大丈夫かい?」
「いや、あんた!なんでこんなところにいるのよ!危ないでしょ?」
「なんだか、助けようとしたのに怒られてる。しかもこんな小さな女の子に……なぜだ?」
スレイが心底不思議がっているとトナカイが再びこん棒を構えて襲ってくる。女の子がスレイの背後で戦鎚を構える音が聞こえた。
「あんたそこどいて!」
「ダメ。せっかくのトナカイの肉がつぶれるから」
「そんな理由で───ッ!?」
すでにもう間に合わない、そう思ったのだろう。女の子がめをつ無っているのを見てスレイは一言大丈夫、そう告げると。
「だって、こいつもう死んでるから」
ドサッと倒れる音と共に女の子が目を開けると、今まで暴れまわっていたアイアン・レインディアが倒れているではないか、しかも目の部分になにか銀色の刺のような物が突き刺さっているかと思うと、次の瞬間にそれが浮かび上がり女の子の背後、スレイの握る剣に飛んでいくと元の一本の剣に戻ってしまった。
「もしかして魔法剣かなにか?」
「いや、刀剣型の魔道具だ。ソード・シェル・弐式っていうの……ところで、ここはキミみたいな小さな子が一人で来るような場所じゃないんだ」
「小さな子?あんた、あたしが何歳だと思うのよ?」
女の子の背丈はリーシャやスーシーと同じくらい。つまりは十代にも満たないように思えた。そう言えば、前にリーシャの誕生日にプレゼントを送ったけど、楽しんでくれたかな?なんて、余計なことを考えながら、スレイは目の前の女の子に視線を向ける。
「どうみても、十歳くらいかな?」
正直に答えるとブチッとなにかが切れるような音と一緒に、ゴゴゴゴッと何が怒れる擬音が聞こえてくるように幻想してしまったスレイは、怒れる女の子の様子を見ながら、もしかしてこんな姿でもスレイと同じくらいの年齢なのかもしれない。
もしそうだとしたら、スレイはとんでもないことをしてしまったのかもしれない。そうおもい謝ろうとしたスレイだが、それよりも先に女の子が叫んだ。
「あたしはこれでも二百八十七歳だ!もう立派な大人だ!!」
「はっ?」
スレイは驚いた。
だってどう見ても十歳以下の女の子、にもかかわらず二百八十七?ふざけてるのか、そう思ったスレイだったが、すぐにもしかしたら、とある名前がスレイの頭の中によぎった。
「キミ……いや、あなたはドワーフ族なんですか?」
「そうだよ!それとなんでこんなダンジョンに人間がいるのか教えなよ!」
急に高圧的になったドワーフの女性に向かってスレイは素直にその理由を話始めるのだった、
「ふぅ~ん。バズールのじい様にねぇ。まぁ、さっき助けてもらったからな紹介くらいはしてやってもいいが、一つだけあんたに条件があるな」
「いいですよ」
「そこに転がってるレインディアの毛皮と角を譲ってくれるならいいぜ?」
「別に要らないからいいですよ」
「えっ、いらないの!?あんたあのレインディアがなんなのか知ってるの!?ミスリルよミスリル!しかもあのミスリルがどれだけ高価なのか知ってるのかい!?天然ミスリルの五倍よ、五倍!」
「それはちょっと惜しいけど、紹介料と思えば安いですよ」
正直に言っておくと、今のスレイにはミスリルよりもトナカイの肉にしか行っていない。
「今夜は紅葉鍋……美味しそうだな~」
じゅるりとスレイは口許に滴ってきた涎を拭いながら夕飯のレシピを頭の中に思い浮かべる。
それを見てドワーフの女性は少し引いているのだった。
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