休みを経て、そして吹雪の山へ
始めにジュリアに送り届けてもらった街を出てからすでに六日、予定ではこの半分ほどで目的の町についてもおかしくないのだが、未だにスレイたち一行は吹雪が吹き荒れる道かもわからない雪道を歩いている。そのあいだに幾度となく魔物に襲われることが何度もあった。もちろん、それは今この時もれいがいではなかった。
雪によってかなり悪い視界の中、スレイたちは慣れぬ場所での魔物との戦いに悪戦苦闘しながらもなんとか魔物をたおしてきたが、それも今回ばかりは無事でいられるかどうか……
魔物の数は約二十ほど、はじめはスノーマンと呼ばれる雪で出来た身体を持つ魔物で、分かりやすく説明すると巨大な雪だるまのような魔物と戦っていたのだが、その途中で戦闘の音を聞き付けてやってきたシルバー・ウルフの群れが団体で押し寄せてきたのだ。
二挺も魔道銃を構えたスレイはシルバー・ウルフの群れの中に走りながら、接近して魔物を魔道銃で倒していたが、やはり慣れない雪道での戦い、たまに雪で足を取られてうまく動けず顔をしかめていると、一匹のシルバー・ウルフが鋭い爪を振り上げながら飛びかかってくる。
雪で足をとられたせいで素早く動けないスレイは、とっさに膝を折って身を屈めると、低い位置からシルバー・ウルフの身体を蹴りあげ、そして魔道銃で魔物の頭を撃ち抜くと、こと切れた狼は力なくスレイの上へと乗り掛かってきた。
降り注いでくる血の雨が一瞬にして凍り付き氷の粒となって降ってきたが、とっさに目をつむり顔を手で覆ったことで事なきを得たが、つぎに身体の上にのし掛かってきた狼のしたいの重さに思わず呻き声をあげてしまったが、早く起き上がらないと危ないと思っていると、魔物を盾で凪ぎ払ったリーフが駆け寄ってくる。
「スレイ殿!平気ですか!」
「あぁ。平気だよ。全く、雪が降ったら仕事してなかった父さんと母さんの気持ちが、今ならよくわかる気がしてならない。あとそろそろこれどかして、血が凍って死ぬほど冷たい」
「わかりました」
リーフが狼の死体を持ち上げるとパキパキっと氷の割れる音が聞こえ、ついでにペリペリっとコートの革からも変な音が聞こえてきたが、こちらはドラゴンの革なので問題ない。
死骸を退かしてもらう、どうにか起き上がったスレイは周りの様子を確認すると、辺りにいた魔物はすべて倒したたようで血の臭いに誘われてやってくるが、幸いなことにもこの吹雪のおかげで匂いを嗅ぎ付けてくる魔物はいないようだ。
魔道銃をホルスターに納めたスレイはリーフの手を借りて立ち上がると、ユフィたちのいるところにまで歩いていった。
「大丈夫だった~?」
「あぁ。そっちも平気そうで良かった」
スレイはユフィに怪我も無さそうなことに安心し、同じようにこちらを見ているノクト、ライア、ラピスにも外傷は見受けられなかったので安心していると、お腹を押さえたライアがユフィの側にやってくると
「……ねぇ、お腹すいたしそろそろお昼にしない?」
ライアに言われてみんなもお腹が空いたなと思っていた。マップ機能を使って道を確認しながら歩いていたユフィは、最近取り付けることに成功した時計機能を使って時間を確認すると、午後一時を少し過ぎたところなのでお腹が空いてもおかしくない時間ではあった。
「うぅ~ん。時間はいいんだけど多分あと一時間位で目的地の町につくと思うから、そこで暖かい物でも食べよっか」
「それはよいかもしれませんね。正直、手持ちの食料ではライアさまのお腹を満たすだけの量がありませんからね」
実は旅に出るに当たって食料は多目に買い込んで約一週間分だが、予想以上にライアが食べた。前まで旅をしていたときはこんなに大幅な時間ロスはなかったので計算が狂ってしまった。
なので仕方がなく、途中で襲ってきた魔物の肉を食べたりもしてみたが、ここらの魔物の肉は不味かった。どう不味かったかと言うと、脂っぽかったり筋張っていたりと食べられた物ではなかったが、焼いたので責任を取ってスレイがすべて食べきり、胃もたれを起こしたのは内緒で。
「じゃあ、時間も惜しいしそろそろ出発しようか」
「そうですね」
再び雪が降り続ける道を歩いていくスレイたちが目的の町にたどり着いたのは、それから二時間が経った時であった。
町についたスレイたちは始めに食事どころに行き遅めの昼食を食べ終わると、目的のドワーフが営む家具屋に向かう班と、この町に来る途中で倒した魔物の買い取りを行ってもらうためにギルドに向かう班、そしていつでも旅に出れるように食料を半月分と薬を買いに行く三つの班に別れる。
「じゃあ、ボクが素材を売りにいってくるよ。所見ギルドは何が起こって何が飛んでくるかわからないからさ。いやぁ~。ここでは何が飛んでくるのかなぁ~、それともなにか理不尽な言いがかりつけられるのかな~」
スレイは暗い目をしながら今回飛んでくるかもしれない物を口にしだし、それを見ていたユフィたちがちょっとだけ引いてしまったのは言うまでもなかった。
「お兄さん、よっぽど今までのことがトラウマなんですね」
「……ん。確かテーブルとか人とかいろいろ飛んできたりしたんだよね」
「では、ギルドはスレイ殿にお任せして、ラピス殿、私たちも家具屋へ行きましょうか」
「えぇ、ではみなさま後程」
「じゃあ、私たちも行こっか」
ここで一度別れて目的の場所に向かうためにスレイたちは別々の場所に歩き出すのだった。
その後、素材の売買、情報の仕入れ、食料と薬の買い出しを終えたスレイたちは今晩泊まる宿の食事場のテーブルについて、食事をしながら仕入れてきたことについて話をすることになった。
「ボクの方はいつも通り、難癖つけてきた冒険者たちを煽って襲ってきたから、手心加えずにぶちのめしたらギルマスに怒られたけど、悪いのあっちだから全然平気だったし帰るときも闇討ちしてきたから、徹底的に痛め付けて吊るしてきた」
「あのぉ~、わたしじゃないですがお兄さんからもなにやら黒いオーラが駄々漏れなんですが……」
隣に座っていたノクトとラピスが椅子を移動させて横にずれる。いったい何があったのか、ユフィたちに聞く勇気はなかったのでその話題はこれで終わりにした。
「次はわたくしたちですが、はっきり言って今度の旅は大変です」
「今度は山登りだそうです」
リーフとラピス曰く、ドワーフの集落というのはは山の麓の中に有るらしい。なんでも良質な鉄のとれる山の中に集落を作り、そこで武器を打っているらしいのだが、なぜその山から鉱石が無くなっていないのだろう?
二人の話ではドワーフがその山の麓に集落を作って千年ほど、普通ならその鉱山からとれる鉄はなくなっていてもおかしくないだろうに、そう思いながらスレイはハッとあることを思い出した。
「ちょっと確認なんだけど、その山ってもしかして氷零山脈のことじゃないよね?」
「やはり、スレイ殿には気づかれてしまいましたか」
氷零山脈と聞いてユフィは、そう言うことかぁ~、っと呟きながらうなずきまだ分かっていないらしいノクト、ラピス、ライアのさんは、スレイたちに向かって説明してと視線を投げ掛けてきた。
「氷零山脈、言うなれば死霊山と同じで強力な魔物の住み家なんだよね~」
「しかも内部はダンジョンだから、鉱石も取り放題ってことなのかもしれないけど、好き好んで暮らすような場所ではなけど」
ここに一年間死霊山で暮らしていた男がいるが、それはおいておくとして肝心の場所と言うのはどこなのかと聞くと、リーフが氷零山脈までの地図を広げる。
「ここがダンジョンも入り口です。そして、この付近ということまではわかったのですが、それ以外は教えていただけませんでした」
「そこまでわかれば探しようはあるさ……でも、場所は問題だよなぁ~」
「ですよね。私の剣も歯こぼれが起きていますし、スレイ殿の剣に至ってはもう折れてしまっていますからね」
実は今日の戦いでスレイが魔道銃を使ったのには理由があった。それは前の街で襲ってきた奴らを脅すために剣に聖闇の炎を纏った結果、剣の限界が来た。
かって一晩、リーフとの手会わせでかなり馴染んでくれた剣だったが、スレイの魔力を受け止めきれるまでの業物ではなかった。
刀身が半ばから溶け出し慌てて止めたときにはもう半分溶けてしまい、鞘に納めることが出来なかったので、今腰に下げているのは剣ではなく魔力刀・弐式だったりする。
リーフの方も似たような理由で、翡翠を使っていた頃と同じ感覚で使い続けたせいか、剣がリーフの技に持たなかったらしい。
「そう言えば、ラピスさんの短剣はどうなんですか?」
「やはり、こちらは限界のようですね」
やはりラピスの短剣もボロボロだがもう一本、ラピスの姉である創造の使徒の形見である短剣は無事だが、短剣二刀流は出来ない。
前衛担当の三人が武器を無くしたので、この町で新しい武器を買い換える必要があるがあった。
「ラピスの短剣だけどボクの買った短剣でよければあげるよ。使ってないからまだ刃こぼれひとつ起こしてないし、ラピスの使ってた短剣と同じ長さだから」
「それでは、ありがたく使わせていただきます」
ラピスは受け取った短剣の握り具合や、重さなどを確かめてみると前に使っていた物よりも良いかもしれないと思いながら、スレイにお礼を言いながら腰のベルトに下げる。
「……じゃあ、あとはスレイとリーフの剣だけど」
「ボクはいいよ。魔力刀もあるから当分はこれで」
「私は明日一度武器屋を覗かしてもらいますので、出発はどうしましょうか?」
「そうだな……せっかくだし、明日一日休んで次の日に出発しようか」
明日は休み。それを聞いたユフィたちの目──特にライア──が怪しく光ると、スレイはなんだかいやぁ~な予感がしてきて、ついでに言うとなにやら背筋に冷たい汗が流れ出てくる。なぜみんなの眼は獲物を見つけた肉食獣のようなのだろう、なぜライアは竜眼を出しているのだろう。
これではまるでヘビに睨まれたカエルではないかと思ったスレイは、なぜだか分からないがとっても喉が乾きゴクリと生唾を飲むと、するりとノクトの小さな手がスレイの手に重ねられ、驚いたスレイがそちらを見ると、ノクトが潤んだ瞳で見上げていた。
「えぇっと……どうかしたんですかノクトさん?」
「ねぇお兄さん。どうしてわたしたちがこの宿を選んだか。その理由を知っていますか?」
「いや、知らないけど───っ!?」
突然手の甲にすぅ~っと撫でられたブルッと身体を震わせたスレイは、反射的にそちらへと視線を向けると妖艶な笑みを浮かべたラピスが小さな笑みを浮かべながら見上げていた。
「実はですね。こちらの宿、この町ではカップルがこぞってやってくる有名な宿だそうですよ」
「あぁ~。だから男女ずれが多いんだ……えっ、ちょいまち、ここってもしかして連れ込み宿なんすか?通りでこの宿入るときに人が見るわけだ!」
実は、この宿に入る前に男から嫉妬の入り交じった視線を向けられる、そう思ってはいたがそんな理由からだったとは思わなかった。
みなさんお食事は終わっているご様子、つまりあとは入浴を済ませて事を済ませるだけ。
「……アニエスがいないのは申し訳ないけど、ヤろっか」
「すみません自分も我慢してたのですが」
「じゃあお食事も終わったことだし、お部屋。行こっか」
みんなが立ち上がると同時に、腕を捕まれていたスレイも立ち上がるのだが、なんだがみんなの気配がかなり怖いと思ったスレイ。
「あっ、あの……さすがに疲れたから今日はその……」
「大丈夫ですよスレイさま。こちらの宿の女将のお話ではあちらがお元気になるお薬が売られておりましたので、すでにご用意しておりますから」
「マジっすか?」
「お兄さん、ここで女の子に恥をかかせないでください!」
「そうだぞぉ~。ノクトちゃんの言う通りぃ~。っと言うわけで、お部屋に向かってレッゴォ~!」
「「「「オォ~!」」」」
みんなが仲良く声を合わせてスレイを引っ張っていく。ここは覚悟を決めよう、そう心のなかで観念したスレイは、次の朝なかなか起き上がれなかったっとだけ言っておこう。
その後、スレイたちは一日休息を取り目的の氷零山脈へと旅に出たのだった。




