氷澪大陸へ
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ゲートを出たスレイたちはみんな心の中でこう思った。寒い!っと。
話には聞いていて、冬の装備で来たにも関わらず全く効いていないどころか、着ている服に雪が張り付き、体温で溶けたかと思うと一瞬で氷結し凍る。そんなことが起きているせいで、露出している顔が物凄い痛いと感じてしまう。
なので、スレイたちは大急ぎで街に入る手続きを終え、凍えた身体を暖めるために宿屋に走った。
宿屋にたどり着くとユフィたちは、失った体温を取り戻すべく暖炉の火に当たりに行ってしまったため、仕方なく震える身体に鞭を打ってカウンターにまで行く。
「すっ、すみません。一人部屋と二人部屋、それと三人部屋を一室ずつ貸してください……それとなにか暖まれる飲み物を六人分お願いします」
「はいはい。あんたらもしかしなくてもこの大陸は初めてだろ。全くそんな格好でよく生きてこの街にたどり着いたもんだい」
そう言いながら出迎えてくれたのは大きな巨体の白熊の女性は、スレイに宿代を合わせた金額を提示してきた。
財布を取り出しながら、なんともこの場所に適した獣人なんだろうと、少しばかり羨ましい気持ちになりながら女将のことを見ながらお金を出したスレイは、少し遅れながらも先程の女将の質問に対して答える。
「知り合いの魔法でこの街の近くに送ってもらいまして………すみませんが、後出来ればコートなんかが売っている場所も教えてくれませんか?」
「宿を出てすぐそこにあるが、あんたらの場合は冒険者用の店があるからそっちに行きな。防寒ようの防具やらが買えるはずだよ」
「………よくわかりましたね、ボクたちが冒険者だって」
「伊達に宿屋の女将をやってる訳じゃないからね。あんたらの立ち振舞いや身のこなしが普通のそれとは違ったからすぐにわかるさ……それに、ここは五大大陸から流れてくる訳ありも多いからね、多少は人を見分ける目が無けりゃ女将は勤まんないのさ」
なんだか納得するような説明をされてスレイはうなずきながら話を聞いていると、急に身体が冷えてブルッっと震えたのを見て、女将はスレイにも暖炉の火に当たってくるように言い、その言葉に甘えさせてもらったスレイはユフィたちの後ろから火に当たっている。
「お部屋とれた~?」
「うん、それと暖かい飲み物頼んだからそれ飲んで服着替えたら、この大陸で使える装備買いに武器屋行こう。さすがにこの格好でこの大陸を歩くのは自殺行為みたいだから」
ユフィたちに向かってそう話していると、熊の女将が暖かいミルクを持ってきてくれた。
「はいよ。ホットミルク六杯で銅貨三枚ね。それと部屋の鍵だよ。部屋は二階と三階に別れてるから気を付けなよ」
鍵を受け取りみんなのミルク代を支払おうと財布を漁りながら、ちょっと値が張るなと思いながらも、値段分の銅貨を取り出して女将に支払いスレイたちはゆっくりと飲み干していった。
宿の部屋に入ったスレイは雪で濡れたコートを魔法で乾かしながら、片手で空間収納を開き、厚手のシャツとズボンに裏地と首元に死霊山の魔物の毛皮のファーをあしらったロングコート、それにいつも通り錬金術の魔方陣を描いたグローブを取り出して着替え始める。
「おっ、結構いい感じだな……冬用のコートも念のために作っておいた良かったけど……絶対寒いんだろうな~」
別に寒いのがにがてなどと言うわけではない。だが、この大陸の寒さは例外だ。いくら鍛えていようが全く関係ない、寒いものは寒い、そして死ぬほどキツいのだ。
この後に武器屋に向かう寒さ対策のために魔道具を作っておこうと思ったスレイは、女性の身支度は時間がかかるものなので時間が有るだろうと思いながら、空間収納から炎と風の魔石、それに金属塊を取り出す。取り出した魔石を確認しながら、人数分を作るには量が足りないと思い探してみたが魔石が足りないので、一番この魔道具が必要であろう二人の分を作ることにした。
錬金術を使って魔石を混ぜてから宝石のように加工し、金属塊を一気に錬金術で首に掛けるためのチェーンと石を埋め込むための台座を形成したが、この場所で金属のチェーンは不味いと思いすぐに紐に替える。台座に魔法回路を描き、特殊インクを塗って完成した。
一度使ってみておかしいところがなかったので、これでいいと思ったスレイは時間もいい頃合いなのでみんなと待ち合わせている宿の食堂に向かうと、そこにユフィたちの姿はなかったので、お茶を飲みながらみんなのことを待っていると、しばらくしてユフィたちがやって来た。
「ごめんね~なかなかいいお洋服が見つからなくって」
「いいよ。それよりも、外に出る前にノクトとライアにこれつけてみてよ」
スレイは二人に先程作った魔道具を取り出して二人の前に見せると、なんだかユフィたちの顔がどこか申し訳なさそうにしていると、ユフィが自分の首にかかっているペンダントを掲げて見せる。そのペンダントは、スレイが先程作った物によく似ており、それを見てようやくあんな顔をされた理由を察しました。
「えっと、それってボクの分もあったりしますか?」
「はい。こちらにありますよ」
「うん。どうもありがとうラピスさん」
「えぇ~っと、せっかく作ってくれたのにごめんなさいスレイくん」
「いいよいいよ。ボクは材料がなくて二人分しか出来なかったから、ユフィが作ってくれて助かったよ」
もちろん今のスレイの言葉は本心からの言葉だったのだが、みんなはそれでも申し訳なさそうにしているが、気にしないでいいと伝えてはいる。
「まぁ、それじゃあ武器屋行ってついでギルドでなにか依頼を受けつくか」
「ギルドと言えば、ラピス殿のギルドカードの再発行どうなったんですか?」
「ご安心くださいリーフさま。この通りジャルナさまより新たなカードを再発行してもらいました」
そう言ってラピスが懐から取り出した財布の中から新しくなったギルドカードを取り出してリーフに見せるときに、財布の中から二つ折りにされた紙を落としそれを拾ったライアが広げてみたが、まだ書いてあることが読めなかったらしく側にいたノクトのコートの袖を引いて呼ぶと、拾ったそれをノクトに見せる。
「……ねぇノクト、これって何が書いてあるの?」
「えぇっと、『この貸しは後でしっかり返してもらうからね、ちゃんと覚えておきなよ。ジャルナ』……これってラピスのですよね?なんで宛名がお兄さん宛なんですか?」
どういうこと?っと思いながらスレイはノクトの持っている紙を見せてもらうと、確かに宛名がラピスではなくスレイになっていた。
「前々から思ってたんだけど、ジャルナさんってスレイくんのこと、便利屋さんかなにかと勘違いしてるんじゃないかなって思うんだけど違うのかな?」
「ユフィさま、それは前々からずっとそうだと思います。それにしても、そのお手紙わたくしジャルナさまからお預かりした覚えが無いのですが……いったい、いつの間にわたくしのお財布の中に入れられたのでしょうか」
たまにジャルナが恐ろしく思えてしまうスレイたちだった。
それから、結局魔道具を使ったところで完全には防げそうになかった。ちなみに、この大陸の街を覆う結界には一つ他の街にはない機能が備わっている。
それは、外の寒波からも守ってくれている訳なのだが、ただでさえ外はマイナス気温のこの大陸で多少の気温変化等微々たるもの、結界の中にいても普通に気温は零度近く、風は結界で防げるが雪までは防げないので街の中には雪が降り続けている。
そんななんとか町中を歩いて、先程宿屋の女将に教えてもらった武器屋に来ていた。
「ふむ……よさそうな剣はいくつか有りますが、やはりこちらでは金属製の鎧は余り有りませんね」
「こんだけ寒かったら外で手入れとかも出来なさそうだし……今回は革鎧にしておきなよ」
「えぇ。そうさせていただきます」
リーフが鎧の置いてあるスペースに行くのを見送ったスレイは、壁に飾られている剣を眺めながら自分に合いそうな剣を選んでいるのだが、やはり黒と白の剣以上にしっくり来る物はなく、買うのを止めようかとも思ったが腰に剣がないと調子がでないため、一本でも良いのがないかと探していると
「……ねぇスレイ、毛皮のマント。スレイのサイズが分からないからこっち来て見てよ」
「ん~。了解……おっ、これってもしかして」
ライアに呼ばれていたのにも関わらず、スレイは捨て値で放置されていた剣の中で一本気になる剣を見つけて手に取る。それをみて、呼びに来たライアはムスッとしながら、手に握った剣をマジマジと見ているスレイに向かって苦言を進呈した。
「……スレイ、ちゃんと聞いてるの?」
「ごめんよライア。ちょっと待ってて」
握った剣をソッと鞘から抜いてみる。鞘から抜かれた刀身は鈍色でとても剣らしい色だったが、金属を扱っているスレイにはこの剣の凄さがすぐに分かった。
「お兄さん、ライアさんがむくれちゃってますから、いい加減にしてあげてくださいよ」
「いったい何をそんなに真剣に見ていらっしゃるんですか?」
そう言って今度はノクトとラピスまでやって来たので、スレイは見ていた剣をノクトに差し出した。
「ノクト、ちょっとこの剣に魔力を流してみなよ」
「………わかりましたけど、それがいったい──って、これは!?」
ノクトはスレイに言われた通り魔力を流すと、異様なまでに魔力が流れたことに驚いている。なぜなら普通の金属には魔力がそこまで流れることはない。ノクトはこの剣に使われている金属についてあることを察したノクトはもしやと思ってスレイにその金属の名前を口にした。
「もしかしなくても、この剣ってミスリルで打たれてますか」
「あぁ。剣の中に少量しか含まれてないけど、かなり質がいいよこれは」
スレイもノクトも少量しか魔力を流していなかったが、流した魔力は一瞬にして剣全体へと流れていき、それが全くのムラもなく均一に広がっているのだ。スレイの白と黒の剣も最高品質のミスリルで打たれているが、その剣に使われているミスリルよりもそれと同等か、もしくはそれ以上のミスリルが使われているのかもしれない。
それを三人に説明していると、ライアがスレイの持っている剣の置かれてあった場所、そこに書かれている値段を見ながらコテンっと首をかしげていた。
「……でもその剣、なんかおかしい」
「ライアさま。おかしいとは、いったいどうしてですか?」
「……だってそんな剣が銀貨五枚って、安すぎる気がする」
「あぁ~確かにそうですね──って!?ライアさん、字が読めたんですか!?」
「……これくらいなら読める」
心外だと言わんばかりにムスッとしたライアと、最近必死に字の勉強してるライアのことを知っており、その成果が出てきたのにちょっと感激しているノクトを他所に、スレイもライアと同じことを思っていた。
「どうして捨て値で売られてるのかはさておき、マントを見なくちゃいけないんだっけ?」
「えぇ。スレイさまがなかなかいらっしゃらないので、今ごろはユフィさまがいろいろ物色されている頃かと」
「……ユフィ、こんなときはいっぱい買うし、スレイにはでな物着せたいとか言ってたから、早く止めないと大変なことになるよ」
「ちょっとユフィを止めに行ってきます!」
手に持っていた剣をノクトに預けて、ユフィがいる場所にまで急ぐと鎧を抱えながら苦笑いをしているリーフと、男物の真っ赤な毛皮のマントを手に持ったユフィがそこにいた。
「ストップ!ユフィさん!それだけは止めて!」
「えぇ~、似合おうと思うのにぃ~。リーフさんもそう思うよね」
「いえ、自分はこちらの濃い藍色の方がいいかと思います」
そういいながら見せてくれたのは、何の魔物の毛皮かは分からないが蒼く染色された毛皮のマントで、ユフィの持つ深紅のマントとリーフの持つ蒼色のマント、この二つのうちどれが言いかと聞かれたらスレイは蒼色のマントを選ぶ自信はあったが、ここでリーフのを選んだら絶対にユフィがむくれるのも自信があった。
なのでスレイは第三の選択肢を選ぶことにした。
「ボクはやっぱりこの黒いのか………もしくはこっちの灰色のどっちかがいいんだけど、二人はどっちがいいか意見を言ってもらえるかな?」
手元にあった二つのマントをつかんで意見を聞くと、ユフィとリーフは露骨に話を剃らしてきたなっと思いながらも、二人は一斉にスレイの持つ灰色のマントを指差した。
「いつものスレイくんのマントの色に近いけど、なんかそっちの方が質が良さそうだから」
「私も、そちらの黒い方よりも作りが丁寧だと思いましたので」
あの一瞬でそんなことには気付かなかったスレイだが、二人に認めて貰えるものを選べて良かったと思いながら、これを買うことにした。
一通り武器やら防具やらを持って買い取りのカウンターへと向かうと、みんなで持ってきたものはカウンターからあふれでてしまった。
武器屋の親父さんが、カウンターに乗っている物と乗りきらずにいる物を確認していた。
「剣と短剣が二本ずつに、ブリザード・リーザードの革鎧一式にガントレット、それに毛皮のマントと手袋やマフラーが六人分……ふむ占めて金貨七十枚ってところだな」
「それじゃあこれで」
「ほぃ、毎度っと、ところでアンちゃんたちのその服、ドラゴンの革かい?」
「はい。そうですけど」
今さらだがスレイたちのコートやジャケットのすべては、以前スレイたちが狩ったブラック・ドラゴンだったりもする。
「でもさすがですね。わたしたちの装備を見ただけでドラゴンだって見抜くなんて」
「ふっ、そりゃあ長年この仕事をやってたからな。しっかしアンちゃんも嬢ちゃんたちもドワーフたちが造った物を選ぶなんて見る目あるな」
武器屋の親父さんのその一言を聞いたスレイたちの目の色が変わった。




