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氷の大地へ

 スレイがヴァルミリアに刀匠バズールの居場所を訪ねると、空間収納を開いて中からなに丸めた紙のようなものを取り出した。

 いったい何を取り出したのだろうとスレイが覗き込んでいると、ヴァルミリアはそれを机の上に広げる。どうやら取り出したのは地図のようだが、かなり古い地図のようで所々破れていたりしていた。

 すると、ヴァルミリアが地図の上に指をおいた。

 そこは北方大陸の、ちょうどマルグリット魔法国の位置であった。


「今まであなたたちがいた北方大陸よりさらに北へ行った場所に、一年を通して雪と氷の世界に閉ざされた氷結の大陸があるのは知っていますね」

「それって。氷澪大陸ですよね。もちろん知ってはいますが………まさかそこにいるんですか?」

「えぇ。最後に会ったもう数百年も前のことですし、旅の途中で彼から聞いた大まかな場所しか知りませんが、移住をしたとも考えられませんので今もそこにいると思います」


 スレイの問いかけにヴァルミリアがそう答えたのを聞いて、スレイはマジかよと思いながら、件の氷澪大陸について思い出した。


 五大大陸に属さない小さな大陸で行くためには北方大陸の北にある港町、アーレシア真王国の港町から約三日ほどの場所にある。そこは一年を通して外気がマイナスを大きく下回り、いるだけで肺が凍ってしまうほどの寒さの場所で、ほぼ毎日のように雪が降り続ける氷土の大陸といわれている。


 話を聞く限りでは人が住めるような環境ではないかもしれないが、ちゃんと人は暮らしている、様々な種族が暮らしており、もちろん人間も暮らしてはいるが数はかなり少ないと聞く。

 種族としては極寒の大陸の環境に適応した獣人が多い。

 さらに、特徴があるとするとそこで暮らしている獣人の平均身長がいように高く、ついでにそこにいる魔物も大きいのだと言うことだった。

 正確に言うと、通常だと子供の大きさくらいしかないゴブリンが成人男性並のサイズになっていたりする。

 これは突然変異や亜種、変異個体等ではなく、これく関しては地球で科学的に証明されていることだが、ここは異世界なので法則に名前があるとは思えないし、その法則の名前を知らないので名前は書かない。


 しかし、まさかそのような場所にドワーフの集落があるとは全くもって予想だにしなかった。すると、話を聞いていたフリードがうねるようにしながらこんなことを言い出した。


「あの場所にドワーフの集落がねぇ。寒いは、魔物はデケェは、息するだけで肺が氷かけるは、寒くて死にかけるは、全くもっていい思い出がねぇ場所だったな」

「父さん、その口ぶりだと氷澪大陸に行ったことがあるんだ」

「昔ルリックスのじいさんに修行の一貫として、ルクレイツアの奴と一緒に連れてかれたことがあってな」

「ルリックスのおじいさん、そんなスパルタだったんだ」


 今では考えられないが、現役時代は鬼神の二つ名で呼ばれていたらしいルリックスおじいさん、その直弟子であるフリードの言葉なので事実なのだろう。


「それにオレだけじゃなくて、ママ──じゃなかった、ジュリアさんとマリー、それにルラも行ったことあったな………ってか、オレとジュリアさんが出会い恋に落ちた場所でもあるな」

「へぇ~、そうなんだ………ん?」


 なるほど、つまりはアルファスタ夫妻が結ばれる切っ掛けとなった場所か、っと親ののろけ話になりそうなのでどうでも良さそうに適当に答えていたスレイだったが、先程のフリードの発言の中で気になる単語が出てきたことに気づきバッとフリードのことを見る。


「なになに父さん?母さんのことママなんて呼んでるのぉ~?わぁ~、いつまで経ってもラブラブのご様子で息子としてはちょっと複雑な気分ですねぇ?」

「茶化すんじゃねぇよ!仕方ねぇだろ!ジュリアさんが、リーシャとミーニャからはお母さんって呼ばれてるから、エルとアーニャにはママとパパって呼んでもらいたいって言うから、早い内からこう呼び会おうって言うから」

「なんだ、乗り気じゃないのか………これは母さんに報告だな」


 スレイが母ジュリアに対しての告げ口を決定しようとしたとき、フリードがこんなことを言い出した。


「………まっ、まぁ、オレとしてはジュリアさんからパパって呼ばれるのは新鮮でだな。こぉ~、ちょっと恥ずかしくて、言われる度にむず痒いんだがそこがまたいいんだよ」

「ごめん。心底どうでもいい」


 最後の最後でのろけてきたフリードに冷たい目を向けたスレイは、ヴァルミリアの方に向き直り話を大きく脱線しただけでなく、無視してしまったことを謝罪してからお礼の言葉を口にした。


「感謝されることではありませんよ。今回、あの国で使徒が暴れたのはかつての私たちが力不足だったため、むしろあなたには謝らなければなりません」

「そんなことは………いいえ、なんでもありません。………それよりもですね」


 こういうときは下手に言葉を言わない方がいい、そう思いながらスレイは後ろの扉を見ながらそちらに向かって声をかける。


「───みんな、盗み聞きはよくないと思いますよ」


 そう声をかけると、扉を開けてユフィたちが入ってくるとみんなを代表してユフィがスレイの目の前に来ると、一度ヴァルミリアに挨拶をしてからスレイの方に向き直った。


「お話は終わったみたいだねぇ~………でっ、もう行ける?」

「あぁ。バズールさまの居場所も教えてもらえたけど………場所についてちょっと問題があってね」


 スレイはヴァルミリアから聞いたバズールたちドワーフの居場所をユフィたちに伝えると、これから向かわなければならないのが極寒の大地と聞いて、あからさまにノクトとライアの表情が曇り、嫌そうな顔をしている。それもそうだろう、ノクトは元々暖かい地域出身で、ライアは竜の血が混じった種族である竜人のため寒いところが物凄く苦手なのだ。

 そんな二人からしたら、極寒の大地に行こうとするなどまさに拷問と変わらない苦痛なのだが、二人ともそこに行かなければならないことは分かっているので、我慢していくつもりではあるが、やはり苦手な場所に行こうなどとはしたくないので、あまり気が進まないらしい。

 それを知っているスレイたちは、あることを提案した。


「ノクトもライアも、寒いところがにがてなんだしアニエスと北方大陸で待っててもいいんだぞ?」


 少し申し訳ないとも思っているが、これから向かうのは極寒の大地、そんじゃそこらの寒さとは訳が違う場所なので、そんなところに行って二人になにかがあったらいけないと思ったのだが、当のノクトとライアは、なに言ってるの?見たいな顔をしていた。


「いえ、一緒に行きますよ、ねっライアさん?」

「……ん。だって、私たちがいないとスレイが問題連れてきたときに対処できない」


 その言い方にスレイは一瞬ムカッとしたが、ユフィとリーフ、それにラピスがクスリと笑っているのを見て、みんな同じことを思っているんだなっと思うと、なんだか毒気の抜かれたスレイは、もういいです、好きにしちゃってという気持ちになっていると、ポンッと肩を叩かれスレイがそちらを見ると、なにやらニヤッと口元に笑みを浮かべているフリードだった。


「お前、愛されてんな~」

「うるさいよ……ねぇ父さん、母さんに頼んでボクたちを氷澪大陸に送ってもらってもいいかな?」

「あぁ。ならジュリアさんに話してくるか、ちょっとそこで待ってろよ」


 部屋を出ていくフリードを見送ったスレイたち、するとヴァルミリアがスレイの手を取ってジッと見つめだす。


「ヴァルミリアさま。いったいどうかしましたか?」

「あなた、ウェルナーシュから刻印を受け取っていますよね?それを見せてください」


 スレイは仕方なく右手の手袋を外し、手に巻いていた包帯を外して手の甲を見せる。そこは竜の頭と翼の模様の刻印が刻まれていた。

 戦いの後、身体を覆っていた刻印は手の甲のこれを残して消えていった。


「ウェルナーシュ。あなたスレイに何をさせたいのですか、このように中途半端な刻印などを与えて?」

『そういうなヴァルミリア。この小僧にはお前の因子が入ってておるから、我の刻印をこのような形でしか与えれなかったのだ』

「では、いったい何をしたいのか、それを教えてください」

『決まっておろう。貴様らが我を封じ込めた場所からその地に戻るために、その小僧に時空を斬らせるためだ』


 勝手に話が進んでいくが、そもそもウェルナーシュのその話をスレイは聞かされていない。ついでに、ユフィたちからも、なに、どういうことなのかしっかり説明しなさい、そう訴えかけてくるが、もう一度言っておこう、なにも聞かされておりませんと。


「あの頃に比べれば確かに影響は少なそうですが、まだあなたを出すわけにはいきません。もしもスレイの身体を無理やり使った場合は、その刻印を消しますからね」

『はっ、頭の固い女だ……小僧の同意をなしに事を起こすつもりはない』

「あのさぁ、どうい云々の前にボクが空間を斬るって、そんなこと出来るわけないじゃないか」


 スレイは黒い剣を見ながらそう言う。当たり前だが、そんな特殊な技が出来るようなら、使徒との戦いに使える技を作っている。


「えぇ。分かっていますよ。この者が言っているのは、あなたがあの彼を手に入れたらの話をです」


 ヴァルミリアの最後の言葉はスレイたちへは届かなかった。何を言ったのかを聞こうとスレイが口を開こうとしたが、そこでフリードが扉を開けながら入ってきた。


「おい、スレイ、ジュリアさんがゲート開いてくれるって。用意できたら下に降りてこい」

「あっ……わかった!すぐ行くから!」


 まだ幼いエルとアーニャのためにもジュリアを待たせる訳にも行かないので、スレイたちはヴァルミリアに簡単な挨拶をして下へ降りていこうとしたが、ヴァルミリアはスレイのことを呼び止める。


「スレイ、左手を出しなさい」

「えっ、あっ、はい」


 言われた通りスレイは左手を出すと、ヴァルミリアは両手で包み込むように握るとまばゆい光が溢れたかと思うと、すぐに光は収まった。いったい今の光はなんだったのかと思ったスレイたち、するとラピスがみんなを代表してヴァルミリアに訊ねた。


「ヴァルミリアさま。今スレイさまに、なにをなされたのですか?」

「私の刻印をスレイに与えました。バズールの元へ訪れるときにそれを見せなさい。あれは以外に疑り深いところがありましてね、私の名を出したところで信じません」


 スレイは左手の手袋を外して、先程右手の刻印を見せたときと同じように包帯を外して確認すると、左手の甲にウェルナーシュから与えられた刻印と同じ形の刻印が刻まれていた。

 だったが左手の刻印は色が違った。ウェルナーシュの刻印は赤黒く、ヴァルミリアの刻印は白銀の輝きを放っていた。両腕に刻まれた刻印を眺めていたスレイは、ふとあることを思い出した。


「そう言えばこの刻印の使い方とか、よくわからないんですけど」


 前に一度ウェルナーシュに聞いたが、ぐわっ!やばっ!等の擬音で説明してきたあげく、最後は気合いだなんだの言ってきただけで、全く要領を得ない説明をされて終わり結局なにも使い方がわからずに終わってしまった。

 そして、何かを悟ったらしいヴァルミリアはスレイの黒い剣、正確にはウェルナーシュのことを睨み付け、大きなため息を一つ付いてから教えてくれた。


「力を使いたいときには刻印に竜力を流せば良いだけです」


 あれだけ擬音を使って説明されて訳のわからなかったことがメチャクチャ簡単だった。スレイは試しに右のウェルナーシュの刻印に竜力を流すと、確かに一瞬だけ刻印が腕一帯に広がり力も増したように思えた。


「ついでです。他のみなにも私の刻印を与えましょう」

「えっ。いいんですか?わたしたちも刻印を貰っても」

「刻印を与えるくらい造作もありませんからね」

「ですが、我らはスレイ殿やライア殿と違い竜力を持っていませんが、大丈夫なのですか?」


 リーフのその言葉でそう言えばそうだとユフィとノクトも思った。ライアと人間とは少しだけ違うラピスならば、可能かも知れないが強大な竜の力を人間であるユフィたちが受けとることが出来るのか気になった。


「確かに竜力を持たなければ力は使えませんが、あなたがなに刻印を刻むこと事態は不可能ではありません」


 そうなのかとスレイたちが納得していると、ヴァルミリアがとんでもない一言を口にした。


「そもそも、私の因子を持つスレイと交わりっていることで、あなた方にも私の因子が少なからず存在していますから、力も使おうと思えば使えますしね」


 なんかとんでもないことをカミングアウトされ、スレイたちは顔を真っ赤にさせられた。


「あの……ヴァルミリアさま?お願いですから、もう少しだけ言葉を選んで……いいや、今でもかなり遠回しな言い方だったのですが、もっと遠回しの言葉を選んで言ってもらえませんか?」

「……ん。取っても恥ずかしいから」


 少しだけ落ち着いて頬を微かに染めたままのノクトとライアがヴァルミリアにそう進言すると、当のヴァルミリアは今の言葉の何がいけなかったのか分からないように小首を傾げてしまっていた。


「よくわかりませんが、次からはそうしましょう……さて、余りまたしても申し訳ないですから、みな手を出してください」


 ユフィたちはヴァルミリアに言われた通り手を差し出すと、先程スレイにやったのと同じようにやりながらみんなの手に同じ刻印を刻んでいったのだった。


 あれからすぐに下に降りていったスレイたちはフリードとジュリアを連れて町の外に向かい、そこでジュリアによって氷澪大陸へ続くゲートが開かれることになった。


「みんな、氷澪大陸はすごく寒いから、ちゃんとコートとか着ておきなさい、特にノクトちゃんとライアちゃんは気を付けてね」

「……ん。わかってる」

「ご心配ありがとうございます」


 ジュリアがなるべく吹雪等がないらしい場所にゲートを開いてくれると言ったが、それがどれ程なのかわからないため、この場にいるときから少し厚着をしている。


「じゃあみんな気を付けてね」

「今度来るときはゆっくりしていけよ」

「わかった」


 簡単に挨拶を済ませたスレイたちは、ジュリアの開いたゲートの中へと入った。


 次にスレイたちの目の前に現れたのは一面の雪景色、そして肌を刺す鋭い冷気だった。


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