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やるべきこと

以前言った通り、次回より次の章に進ませていただきます

 五体の使徒との戦いから一月が経っていた。


 簡単な被害報告をすると、まずは民間人への被害はそれなりにあったが魔法師団や多くの冒険者たちの尽力によって幸いなことにも負傷者だけで死者は存在しなかった。ただしそれは、あくまでも一般市民に限ったことで、冒険者や魔法師団の中にはそれなりに死者も出ていた。


 今回の戦いでは、魔法師団に囚われていた魔眼コレクターを始め多くの犯罪者と国の在り方に不満をもっていた一部の貴族、そして亜人に対する不満を募らせていた人類史上主義者の多くを筆頭に、数多くの人たちが使徒の分体になり命を落としたようだ。


 次に街への被害だが、こちらはさすがは魔法使いの国と言ったところか、壊れた建物をすべて魔導師たちが錬金術を使って修復していった。こういうのは魔法使いの国特有のやり方なんだろうなっと、みんなそう思っていたのだが、たった三日で元の暮らしに戻れとは誰も思っていなかっただろうがやはり簡単にはもに後とは進んではくれない。

 未だに都市機能の一部は麻痺し、食料なども使徒の被害がなかった遠くの地より取り寄せられ、かつての賑わいを取り戻したのもごく数日前からであった。



 そんなこんなで一月が過ぎていったのだが、あの戦いの最後に倒れてしまったスレイとユキヤはどうなったかというと……


「傷の経過も良さそうですから、今日から剣を握っても構いません。ただし腕の包帯はあと一週間は巻いていて下さい」

「ありがとうございます先生」


 ここはスレイたちの家の一室。

 あの戦いの後、一時は生死の境をさ迷った二人だったが、どうにか持ち直し今ではそろってこの家の居候になっている。

 今日は傷の経過を診るためにやって来たクレイアルラが二人の診察をしていた。

 診察を終えて脱いでいたシャツを着直しているスレイの横で、クレイアルラが同じようにシャツを脱いでいたユキヤの診察をしていた。


「あなたの方も傷の治りも良いですから、もう私の検診も必要なさそうですね」

「助かった。感謝している」


 同じように服を着直したユキヤがクレイアルラにぶっきらぼうにお礼をいっていると、少しだけスレイから殺気の威圧を受けたが、すぐにそれを解かれた。


「治療も終わりましたし、私はこれで帰ります……それに、可愛らしいお迎えが来ているようですよ」


 クレイアルラがそう言いながらがちゃりと部屋の扉を少し開けると、そこには赤い髪の幼い女の子いた。

 扉を開けたクレイアルラが女の子に向けて笑いかけそのままその場を後にすると、突然扉を開けられたのに驚いた女の子は、扉の影に隠れるように立ち、そこからこちらの様子をうかがっている。そんな女の子の様子を見たスレイが、隣のユキヤに向かって視線を向ける。


「エンジュ、入るなら入ってこい」

「はい。エンジュはわかりましたとお伝えします、とうさま」


 ユキヤの事をとうさまと呼んだ女の子エンジュは、ユキヤの元にまで走って行くと目の前でジャンプ、そのまま腕に抱っこされてとってもご満足のご様子。


 エンジュはユキヤの子供、ではあるのだが実子ではない。実子だった場合、ユキヤはいったい幾つのときにアカネかレティシア……エンジュの髪色からして母親はレティシアになるが、二人ともまだ十代後半でエンジュが五六歳くらい、簡単にいうとまずい事案になる。だが、こう言うのはあれだがエンジュは人ではない。


 エンジュとユキヤ、二人の姿を眺めていたスレイは小さな声で呟いた。


「こうしてみると、この子が魔剣だなんて誰も思わないだろうな」


 あの戦いの後、ユキヤたちから聞いた話だが、グリムセリアとの戦いの最後でユキヤが使っていたあの剣は、かつて魔王リュークが使っていたという魔剣ルナ・ティルカだ。

 なぜユキヤがそんな物を持っていたかというと、単に魔剣に、そして次代の魔王に選ばれたからだという。


 伝説やおとぎ話では勇者レオンとの戦いのあと魔剣は、誰にも手が出せない地へと封じられたと語り継がれていたが、実際には代々魔王リュークの子孫が人目につかない小さな島で密かに守り続け、次代の魔剣の担い手が現れるのを待っていたそうだ。

 その子孫というのがユキヤの仲間の一人のレティシアだとか。


 そんな魔剣だが、どうして人の肉体を得たかというと、ユキヤや長年魔剣を守り続けてきたレティシア、そして神であるアストライアにも解らないと、匙を投げてしまったらしい。


 あの子を見るたびに思えてくるそんな疑問について何度か考えることはあったが、結局その理由が分かるわけはないので考えるだけ無駄だと思った。


「ユキヤ、それにエンジュちゃんも、下でお茶でも飲まないか?」


 スレイは二人を連れて下に降りると、そのままリビングに向かった。

 リビングではみんなが午後のお茶をしながら話し込んでおり、その中にラピスはいないがその代わりにミーニャの姿があった。

 すると今までユキヤの腕に抱き抱えられていたエンジュは、アカネの姿を見つけてジャンプ、そしてそのままアカネの膝の上によじ登って腰を据えた。


「エンジュ、レンカ父さまとスレイおじさんの邪魔しなかった?」

「はい。エンジュはお利口にしていました。スズネかあさま」

「そうかそうか、ほれエンジュ、クッキーじゃぞお食べ」

「ありがとうございます、レティシアかあさま」


 やはり母親には叶わないんだろうなっと思いながら、スレイはアカネに言われたおじさんという言葉に少しだけショックを受けた。それを察したのか、ユフィとリーフが慰めてくれる。


「まぁまぁ、いつか言われことなんだから我慢しなきゃ」

「そうですよ。子供がお友だちを連れてきたらそう呼ばれるのですから」


 二人の言う通りなのでそうだなっと思いながら、それを分からせてくれた二人にお礼を言っているとガチャリと部屋の扉を開けてラピスが入って、扉の前に立っていたスレイとぶつかった。


「あら、申し訳ありませんスレイさま」

「いやこっちこそごめん。……それで、例のあれもう終わったの?」

「えぇ。アストライアさま曰く、最後の調整も終わったとのことです」

「そっか、それは良かったね」


 ラピスの言う最後の調整とは、ラピス自身の調整と言うことだ。

 あの戦いの後、ラピスはアストライアの取り込んだと言う、創造の使徒の力を使ってラピスの肉体を人の肉体に近いものへと作り替えた。そのため、今のラピスは人と代わらず、年を取って人と同じ寿命をもった。


 その話を聞いていたミーニャは、スレイたちのことを見ながら話しかける。


「じゃあ、準備が出来たらみんないよいよ行っちゃうんだね」


 ミーニャが寂しそうにしながらそういうと、なにかを察しているノクト、ライア、アニエス、ラピスの四人がミーニャに声を描ける。


「ミーニャちゃん、お兄さんとユフィお姉さんの通信機のお陰でいつでもお話しできますから、諦めなくても大丈夫です」

「……ん。だからミーニャ、そんな顔しないで頑張れ!」

「あいつ、スレイと同じ朴念仁みたいだから、もっと自分から押しなさい」

「そうですミーニャさま!恋する乙女は押しが命なんですから、どんどん攻めていきましょう!」


 小さな声で話し合う四人に励まされているミーニャは、チラチラとユキヤのことを見ていた。それはもう、まるで恋する乙女のような……いや実際に年頃の乙女だが。

 ちょっと待とうかミーニャ、お兄ちゃんなにも知らない、詳しくお話ししてくれないかな?っと、笑顔で問いただそうとしたところ、ユフィとリーフに止められる。


「まぁまぁミーニャちゃんもお年頃なんだから」

「兄としては、陰ながら見守るのがいい兄と言うものだと私は思います」


 ぐぬぬぬっと、スレイがうねりながら仕方ない、そう思いながら心の中で件の人物を睨み付けていた。


「おい、お前らなに話してんだ?」

「なんでもないよ……さて、ちょうどいい機会だし、これからについて話し合おうか」


 スレイがテーブルについてみんなの顔を見ると、戦いに参加できないアニエス、そして学園の関係で遠くには行くことの出来ないミーニャは、みんなのためにお茶を淹れ直して来ると言ってその場を離れた。


「まずはボクたちがしなくちゃならないのは、戦いで壊れた武器の修理だね」

「みな、見事に壊しおったからのぉ」

「無事なのはお二人の杖とアカネ殿の小太刀でしたね」

「そして、わたくしのこの短剣だけでございますね」


 そういいながらラピスは、腰に下げられていた短剣にソッと触れると、なにかを思うように見つめていた。

 ラピスを思い、自身の命を削り最後には妹を使い消えていった創造の使徒、ラピスだけでなくスレイやその場にいなかったリーフ、ライアはその使徒に一目でいいから会って見たかった。

 会ってお礼を言いたかったと思っていたが、すでにいなくなった人物にいくらそう思ってももう遅いのだが……


 新しい剣や鎧を手に入れるためにも、スレイたちはこれからある場所に向かうことを決めていた。


「あんたたちが会いに行こうとしてるのって、伝説のドワーフの刀匠バズールだったっけ?おとぎ話で勇者レオンの聖剣を作ったっていう」

「でも、ドワーフの寿命って二百年くらいだって聞いたけど生きてるのかな?」


 そう訪ねてきたのは、お茶を淹れ直すために席を立っていたアニエスと、その手伝いをしていたミーニャからだった。二人がみんなの前にお茶のカップを並べて席に戻ったのを見計らってスレイが答える。


「ドワーフにもエルフみたいに種類があるんだよ」

「えっ、そうなの?」

「ふふふっ、エルフの方が有名だから知らなくても仕方ないよね~」


 ドワーフについて簡単に説明する。

 元々ドワーフという種族は千年以上の歳月を生きることの出来る種族であった。だが、ドワーフとは元来、地の底で鉄を打ち続けその生涯に幕を下ろす種族で、元々同族どうしで子供が出来ずらい種族だったことも相まって、数千年前のドワーフは今の時代よりも数が少く一時は絶滅に瀕していたという話も残っている。


「……それじゃあ、今のドワーフってなんなの?」

「昔の時代だとハーフドワーフだね。昔のドワーフが他の種族と結婚して産まれてきた子供だから」

「そうして増えていったのが今のドワーフって言われてるの」

「じゃあ、ドワーフはいなくなっちゃったの?」

「違いますよアニエス殿、昔のドワーフ、確かエルダー・ドワーフは生きています」

「……そうなの?」

「えぇ。これから会いに行こうとしているバズールさんが、エルダー・ドワーフの生き残りなんです」


 そう、数は少ないがエルダー・ドワーフはこの世界にまだ生きている。


「まぁ、居場所はわからないんだけど」


 スレイがそう言うと話を聞いていたアニエスとミーニャがずっこけ、ユフィたちもやっぱり知らないんだっと、分かっていたらしい表情で呆れていた。


「てめぇ、居場所も知らねぇってのに何でそんなに自信満々に言ってやがるんだよ」

「逆に知ってる方がすごいっての。相手は数百年単位の引きこもりだぞ?前に人前に出たのだって、勇者レオンの生きた時代なわけだし」

「でしたら、どうやって」

「大丈夫だよラピス。いるんだよ、中央大陸に勇者レオンと同じときを生きて、刀匠バズールとも面識のあるお方があの場所にさ」


 意地悪を言うようにスレイがそのお方の名前を伏せてそう言うが、面識のないアニエスとラピス、そしてアカネとレティシアの四人──エンジュはいつの間にか夢の中──以外はその人物の姿を頭に思い浮かべていた。


「ちょっと、それっていったい誰なのよ?」

「ふふふっ、そういえば、アニエスさんとラピスさんはまだお会いしていませんでしたね」

「ノクトさま、そのような意地悪はせずに教えてくださいまし」

「えぇ~、そうしましょうか。ねぇライアさん?」

「……ノクト、普段からかわれてるからどこか楽しそう」


 なんだか楽しそうにしているノクトをライアがちょっとしらけた目を向けながら見ていた。まぁ、そんな二人のことはさておき、スレイは一度咳払いをして話を続ける。


「聖竜ヴァルミリア、あの方ならなにかを知っていると思うし、手がかりくらいはきっと見つかる」

「根拠はあるんですか?」

「まぁ、この剣だ」


 そう言いながらスレイはテーブルの上に置いたのは、始まりの使徒にいって二つに両断された白い剣だった。


「ずっとこの剣を打ったのが誰か知りたくてね、そしたら柄の握り革の下に刀匠バズールの名前が掘られていたんだ」

「っと言うことは、知っている可能性が高いっと言うことですね」

「あぁ。だから心配しなくてもいいよ」


 そう言いながらみんなのことを見ているスレイだった。

 まずやることを話し合ったスレイたちは、次のことを話そうとしたがユキヤが立ち上がり、示し会わせたかのようにレティシアとエンジュを抱き抱えたアカネが立ち上がった。


「悪いが、俺たちはそろそろ行く」

「えっ!?そんな」


 急に出ていくと言い出したユキヤにミーニャが驚いた。ミーニャの反応にいささかスレイがあからさまに不機嫌になったが、すぐに表情を戻して訪ねる。


「一緒に来ると思ったけど、行かないのか?」

「あぁ。俺の刀は知り合いの刀匠に頼むつもりだ。それに他にもやることがあるからな」


 ユキヤたちは神の元からの離脱後、この世界に伝わっている勇者レオンの残した遺物を探して旅をしているそうだ。今回この街に来たのも、遺物の情報を元に遺物さがしにこの国に来たが、まさか始まりの使徒や他の使徒との戦いに巻き込まれるとは思っても見なかったらしい。

 その事を以前に聞いていたスレイは、ここで引き留めることをするわけにはいかなかった。


「そうだな。じゃあ、またな」

「あぁ。長い間世話になった」


 こうしてユキヤたちはこの街を去っていった。


 そして次の日、簡単な旅支度を整えたスレイたちは中央大陸へと向かうのだった。

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