終結 ③
ブクマ登録、作品評価ありがとうございます!
魔眼コレクターに止めを刺そうとしたそのとき、突如として現れた始まりの使徒グリムセリアの出現に、スレイとユキヤは背筋に冷たい物を感じながらも、絶望することも諦めることもなくただ真っ直ぐと見据えている。
いつでもかかってこい!、そうスレイとユキヤが思いながら剣と刀の切っ先グリムセリアに向けて構え、意識の全てを向けていると、グリムセリアがソッと手を掲げて見せる。来るのかとスレイとユキヤの中に緊張が走ったが、すぐにそれが自分たちに向かっての行動ではないことがわかった。
自分たちの背後にいる魔眼コレクター、その肉体が瞬く間に修復されユキヤによって切り裂かれたはずの魔眼、その全てまでも再生していた。
「おぉ、おぉ!治った、私の魔眼が、魔眼が蘇ったぞぉおおおおお―――――――――――――――――っ!!」
魔眼コレクターが左腕の魔眼が再生されたことに歓喜の声をあげて喜んでいる。それを見たユキヤはこんなことをしてくれた始まりの使徒グリムセリアに向かって、今にでも喰って掛かろうとしていた。
「てめぇ!何てことをしやがったんだ!」
「落ち着けユキヤ。どうやらあの使徒がやったのは、コレクターの傷を治しただけじゃないみたいだ。気を付けろよ」
スレイがグリムセリアのことを警戒しながら、今にでも斬りかかろうとしていたユキヤを押えると、魔眼コレクターのことを注意するように言うと、ユキヤも我に返り、グリムセリアのことを注意しながらソッと横を見る。
すると、身体を光の粒になりながら消えかけている魔眼コレクターの姿が目に入った。
あれは神の住まう天界へと戻るときの光、つまりグリムセリアは魔眼コレクターを帰還させようとしている。そう察した二人は揃って口を開こうとしたが、それを遮るように魔眼コレクターがグリムセリアに向けて抗議の声をあげていた。
「なぜだ!なぜこの私をこの場から消し去ろうとしているのだ!答えろ!!」
それはスレイたちも聞きたいことだったため、何も言わずにその会話を聞くことにすると、魔眼コレクターに向けて冷徹な眼差しを向けたグリムセリアが、ゆっくりと口を開いた。
「そんなもの、決まっておろう。この戦いの場に貴様は邪魔だからに決まっておろう」
「邪魔……だと?この私が、邪魔だと!!愚かな、先程はその黒髪のガキの力量を計り損ねたのは認めよう!だが、私の魔眼たちが蘇った今、次こそは──」
「愚かなのは貴様の方だ!」
響き渡るグリムセリアの叱咤の声を聞き、魔眼コレクターがまるで親に叱られる幼子のようにふるえ、これには聞き手に徹していたスレイたちでさえも驚きを隠せずにいると、グリムセリアが間髪いれずに叱咤の言葉を続けていった。
「敵の力量を計り損ねた?次こそは?笑止千万!戦いの場という場に置いてその様な言葉を語ること事態、すでに貴様はこの者たちに敗北しているがまだ解らぬのか!このたわけ者めが!!」
グリムセリアによってすでに負けている、そう言われた魔眼コレクターはぐうの音が出ないまでにうちひしがれていた。まさか使徒に戦いのなんたるかを力説されるとは思わなかったスレイたちは、少しだけ複雑な想いのもと、二柱の使徒の様子を見守っているとキッとグリムセリアを睨み付けた魔眼コレクターが、魔眼の腕を掲げ衝撃波と空間を切断させる魔眼を使用した。
すぐ近くにいたスレイとユキヤは、使徒同士のいざこざに巻き込まれては叶わんと思い転移魔法を発動させ、リーフたちの側にまで下がったが、勝敗はすぐについた。
「愚か者には言葉は通じぬようだな」
スレイたちの目の前では、消えかかっていた魔眼コレクターの身体を貫き、身体の中にあったコアを握りつぶしているグリムセリアの姿であった。
「愚かなことよの。人という劣等なる種から我ら使徒という崇高なるあのお仕えするにたる、誉れ高き栄誉ある資格を得たと言うのに」
「なっ、なにを……す、する……きさま、……」
「貴様のような使徒をあのお方の元へと向かわせてしまえば、キッとあのお方の機嫌を損ねることとなってしまう。ならばそうなる前に、貴様という害悪をこの世から消し去ってくれよう」
主のためとならば簡単に仲間である使徒を切り捨てる。その考え方は人のそれに似かよっているようにも思えるが、それとはどこか違う、狂喜のような物をスレイたちに感じさせてくる。そして、魔眼コレクターはこのときになってようやく、自分は怒らせてはいけない者を怒らせてしまったのだと、遅まきながら実感した。
ギリッとグリムセリアの手の中にある魔眼コレクターのコアが割れ、命を失うまでのカウントダウンが始まり魔眼コレクターの焦りがピークに達した。
「やっ、やめて……くれ!あっ、あ、やま……る。だか……ら、ゆるして……」
「謝るのなら、我に手をあげるまえにその言葉を伝えるべきであったな。愚かな人の子よ」
「し……死に、たく………な────」
必死に懇願する魔眼コレクターのその願いを聞き入れることなく、グリムセリアは無慈悲にコアを握り潰した。最後の最後で魔眼コレクターは自分が犯してきたその報いを、しっかりと受けて消えていったのかもしれない、そう思いながらスレイは、魔眼コレクターに人生を狂わされてきたライアの方を見た。
ライアはギリッと拳を強く握りしめながら、光の粒となって消えていく魔眼コレクターのことを見つめていたのだった。
「さて、邪魔者はいなくなったところで、我らの戦いを始めようではないか」
スレイとユキヤは、チラリと自分たちの横に目を向ける。そこのいるリーフライア、そしてレティシアのことを見ると、三人とも戦う準備は出来ていると言わんばかりの表情をしていた。
「リーフ、ライア。わかってると思うけど、二人をそこから出すつもりはないからな」
「お前もだからなレティシア」
スレイとユキヤが三人に向かってそう告げると、三人はどうしてなのかという顔をしながら二人に訪ねる。
「なぜです!自分たちが共に戦えばあの使徒を倒せるはずです」
「……ん。私も戦う、だから──」
「ダメだ。あいつの相手の指名はボクたち二人だ。ご指名とあらば逃げるわけにはいかないし、得物を失った二人を戦わす訳には行かないだろ」
至極当然のことを言われてリーフとライアは押し黙った。実を言うと、リーフの翡翠は手の届く範囲に転がってはいるのだが、あの巨大な質量に押し潰され潰され、刀身も歯こぼれに刀身の歪み、一目で打ち直ししなければならないと分かるものだった。
「旦那さまよ。お主も妾に同じ言葉を投げ掛けるのかえ?」
「たりめぇだろ。言っておくが、あいつ張ってるそれを破ろうなんて思うなよ」
「なぜじゃ。妾とて魔法使いの端くれ、このような結界など──」
「破れねぇよ。ふざけてはいたが、あいつが自分の女を守るために作った魔道具だ。簡単に破れるはずもねぇ」
そう答えるユキヤの横顔を見ながらレティシアは小さな息を吐いてからソッと告げる。
「好いた女子が傷つくのを嫌うが、自分はいくら傷ついても構わんとは男とは度しがたい生き物じゃの」
「男なんて大体そんなもんだ」
「それは旦那さまも、と言うことか?」
「たりめぇだ、だからそこにいろ。もう俺の目の前で命が消えるのをみたくない」
短くそう告げたユキヤは、スレイの横に並び立つ。二人の準備が出来たのを見たグリムセリアは、その手に一振りの剣を作り出し構えていた。
「待ってくれるとは思いませんでしたね」
「最後の会話を邪魔するほど、我は無粋ではない」
「はっ、最後な訳ぇねだろ?俺たちはてめぇを殺して生きて帰る」
「やれるものならばやってみよ」
静かに息を整えるスレイとユキヤ、目の前にいるのは正しく強者。生物としても剣士としても格上の存在である始まりの使徒グリムセリアを目の前に、二人は生半可な戦いでは命を落とすことは明白、ならば出せる力の全てをこの一撃に乗せて奴を打ち倒すしかない。
だが、何度も言うように二人ともすでに限界を越えている。たった一撃で合ったとしても、それを放つための力も残っているかさえ怪しいところだが、そんな状態を悟らせないためにあえて気丈に振る舞いながら構える。
スレイは脚を肩幅に開くと腰を少し落とし、上半身を少し回して半身にながら黒い剣を肩に担ぐように構え、白い剣は正眼の位置で構えている。ユキヤは脚を大きく開きながら腰を落とし、鞘に収まった刀を腰の位置で構え柄に手をかけた状態で構えている。
グリムセリアが二人に向かって口を開いた。
「ふむ、貴様らすでに肉体が限界を迎えておるな」
「はっ、だったらなんだってんだよ。お優しい使徒さまはそんな俺たちを見逃してくれるってのか?」
「減らず口を。だか黒髪の貴様はすでに刀に添えている手が震えてしまっては、居合いもまともに出来ぬのではないか?」
ユキヤは刀に添えている右手を見ると、確かに手が震えていた。
武術の使徒セファルバーゼとの長きにわたる戦いと負傷、そして先程の魔眼コレクターとの戦いでの長時間の高速移動に技の使用のせいで、溜まりに溜まった疲労がこうして現れたのだと察したユキヤは手をきつく握りしめながらきつく奥歯を噛み締める。
「白髪の貴様は……なんだそれは、身体を覆っているのはウェルナーシュの刻印か。懐かしい代物を使っているものだな」
「そうですか。それで、いったい何がいいたいんですか?」
「いやなに、そんなものを使わなければ身体を動かせないらしいな」
「あら、わかっちゃいました?これがないと指一本まともに動かせないですよね」
笑って誤魔化しているスレイだが、本当はそんなのんきに構えてられる状況ではない。今までの戦いの疲労に、幾度となく身体の再生を行ってきたせいで治癒能力も落ちてきており、身体のいたるところに細かい傷が残っている。
この様子では、腕の再生などの大きいものはもう出来そうにない。
「楽しい戦いが出来ると思ったが、これは拍子抜けもいいところかもしれないな」
「楽しいかどうかはさておき、手負いの獣ほど恐ろしいものはないって言いますからね」
「手負いだからって油断してると、怪我だけじゃ済まねぇかも知れねぇぞ?」
「はっ、よく吠えるな。ならばその威勢の良さ、戯言ではないことを証明して見せろ!」
グリムセリアの言葉を聞いて、スレイとユキヤは必ずこの剣を奴に届かせる。そう心に決めながら身体中に闘気を纏わせ、睨み合っている。
勝負は一瞬、始めに動いたのはユキヤからだった。
「行くぞ!──居合いの型 閃華!」
踏み込むと同時に凄まじい速度の一閃が放たれる。だが、
「いい速さだが、一撃の速度を追い求め過ぎて一撃の重さが足りんな」
ガシャンっとガラスが砕けるような音と共にユキヤの刀の刀身が砕け散ると、ユキヤ自身も吹き飛ばされた。
「ガハッ」
ユキヤが切りかかったあの一瞬、首を狙って放たれた最速の一閃に対してグリムセリアは正確に、同じ場所に打ち込むことで刀を切り、返した刃で斬り伏せたが、スレイはその事に動揺することもなく突っ込んでいった。
「喰らえ!闇聖の閃激!!」
スレイが白い剣に闇聖の炎を纏った一閃を放ったが、空を舞う純白の刃の欠片がスレイの目に映った。それは聖竜ヴァルミリアの牙から打たれた剣だった。
「いい一撃だが、まだまだ荒削りすぎるな」
「─────ッ!まだだ!!」
大きく腕を引戻し、闇聖の炎を纏わした黒い剣を垂直に構えると、身体の回転の力を利用して一気に引き伸ばした。
「──闇聖の突激!!」
スレイが至近距離からの突き技を放ったが、それを剣で受け止めるグリムセリア。このまま闇聖の炎の熱で焼き払おうとしたが、突如スレイの剣に無数の亀裂が走りそして砕け散った。
「甘いな」
「ぐがっ!」
剣を砕かれたスレイは、グリムセリアの一撃を何とか砕けた剣で受け止めたが、その威力を受け止めるだけの体力は残されてはおらず吹き飛ばされてしまった。
スレイとユキヤは肩で息をしながら折れた剣と刀を構える。
「こいつは、いよいよ不味いかもな」
「あぁ。そうだな」
目の前にいる最大の敵を前にもうなす術がない。
そんな二人をシールド越しで見ていたリーフ、ライア、レティシアの三人はなにも出来ないことに苛立ちを募らせ、ついでには強行手段をとっていた。
「……この結界、固すぎる」
竜麟を纏った拳でシールドを殴り続けていたライアだったが、亀裂の一つも付けられないこの状況に苦言を言っていると、隣にたっていたリーフが身体の中の闘気全てを剣へと貯めていた。
「さすがスレイ殿と言ったところですが、こんなもので自分たちを止められると思わないことです!」
「よく言ったのぉリーフよ!」
その声は少し離れた場所に逝いたレティシアの物だった。ライアがそちらを見るとリーフと同じように剣を構えたレティシアが揃って剣を振り下ろす。
「「──ぅおおおおおおおお―――――――――――――――――っ!!」」
リーフとレティシアの雄叫びとと共に剣を振り下ろしスレイの結界を破壊した。
グリムセリアの剣を受けて倒れているスレイとユキヤ、そんな二人に止めを指すべく剣を構えていたグリムセリアだったが突然起こった爆発に気をとられそちらを見ると、爆炎と共に中から二つの影が飛び出した。
「やぁああああ――――――――――ッ!」
「うぉおおおお――――――――――ッ!」
煙の中から飛び出したリーフとレティシアの二人だった。
「させません!──蒼翼一刀・改!!」
「やらせんぞ!」
先に仕掛けたのはリーフとレティシアだった。上段から放たれる最速の一閃と水平に構えられた剣から放たれる魔法と一体化した突きがグリムセリアを襲ったのだが
「技としてはまぁまぁだが、そちらの突きギリギリ及第点だな」
「そっ、そんな!?」
「バカなっ!」
リーフの最速の切り下ろしを剣で、レティシアの魔力を乗せた突きを人差し指一本でで受け止めたグリムセリア、ここまでの力の差を見せつけられた二人であったが、ここで終わってたまるか!そんな意思のもとリーフとレティシアはグリムセリアに向けて剣を振り下ろした。
「やるぞリーフ!」
「言われなくとも!」
一斉に動いた二人は自分一人の剣では負けてしまったとしても二人同時にならばと考え、始めにリーフが闘気を纏った剣で切上げるとグリムセリアはそれを剣で押し返し、崩れたところを斬りかかろうとしたその瞬間をレティシアが斬りかかると、意表を着いたその一撃にグリムセリアは後ろに飛んでかわす。
「このまま押しきるぞ!」
「えぇ!」
同時に斬りかかろうと走り出した二人に呆れたような声でグリムセリアが呟いた。
「あまり我をなめるなよ」
グリムセリアが剣を横に凪ぐと吹き荒れる剣圧が二人を襲う。二人は咄嗟に剣を横に構えて剣圧を受け止めようとしたが、思いの外威力が強すぎたせいで二人は揃って投げ飛ばされた。
邪魔者の二人がいなくなったところでグリムセリアがスレイとユキヤに止めを刺すべく踵を返そうとしたその時、なにかが陥没するような音を耳にして振り返った。
「……よくも」
竜人の脚力を最大限にまで行かしたライアは地面を蹴り空中に飛び上がると、空中で回転しながらグリムセリアに向けて蹴りと放った。腕でガードをするグリムセリア、すると蹴りを受け止めたと同時に強い衝撃波が突き抜けたが、グリムセリアはそれを全く意を返さない。
自分の最大限の力を乗せた蹴りを意図も容易く受け止められたことにライアは悔しそうに顔をしか目ながらも、身を翻しながら地面に手を突きバネのように反動をつけながらもう一度、今度は連続で蹴りを放ったがグリムセリアには全く効いていないことをわかっているライアだったが、休むも与えずに攻撃を加え続けていると拳を放ったときグリムセリアがライアの腕をを掴む。
「鬱陶しい」
力を込めて一度ライアを持ち上げ上に放り投げ落ちてきたところで頭をつかみ地面に叩きつけた。
「──かはっ」
「動きに無駄が多い──むっ」
「……へへへっ、逃がさないよ」
頭を掴んでいた手を放したグリムセリアだったがライアが今度はその腕をガッシリと掴み、にがさないべく以前習った手と足を使った組技で固定すると尻尾を使って剣を叩き落とした。
「……リーフ、今!」
「感謝しますライア殿!──秘技・蒼波華月・偽!」
なんとしてもこの一撃は決めて見せる。
そう自分に言い聞かせながらリーフが剣を振るおうとしたその時
「無駄だ」
「「─────っ!?」」
リーフが横からグリムセリアに斬りかかったが、剣を受け止めると同時に腕に描かれた炎の入れ墨から蒼白い炎が二人を焼くと、腕を固定してたライアの拘束が緩まったところでグリムセリアが拘束から抜け出しライアを殴り付ける。
「おとなしく寝ていろ」
「うっ」
「ライア殿!このっ──煌刃連双撃!」
「甘い」
「がはっ」
斬りかかった瞬間に合わせられ拳を受けたリーフはその場に倒れる。
二人が倒されたところで目を覚ましたスレイは、グリムセリアの前に倒れているリーフとライアの姿を見て思わず叫んだ。
「リーフ!ライア!このっ!」
砕けた剣を投げ捨てて空間収納から柄だけの魔力刀・弐式を取り出すと、魔力で作った刃でグリムセリアに斬りかかったがそれと同時になにかがスレイの元に投げられる。
「─────────ッ!」
投げられたのは意識を失ったリーフとライアだった。スレイは握っていた魔力刀を離して二人を受け止めるとグリムセリアが目の前に現れた。
「お前ならそうすると思ったぞ」
「なに───うぐっ!?」
竜翼と尻尾を出現させて二人を守るように背中を向けるとグリムセリアはスレイを蹴り飛ばした。強い力で蹴られ骨の軋む音を聞きながら地面を転がったスレイは、竜の治癒能力で軋んだ骨が治ったのを確認してから二人の容体を確認する。
二人とも軽度の火傷をおっているだけで呼吸も安定している。ホッと安心しているスレイは、ハッとしてそちらを見ると、グリムセリアが蒼い炎を放とうとしていた。
「消え失せろ」
「くっ!──ソード・シェル!シールドモード!」
空間収納から取り出したソード・シェルでシールドを発動させたスレイだったが、これでは防げないことを知っている。スレイは気を失っているリーフとライアを守るように抱き抱えた次の瞬間、グリムセリアの青い炎に氷の矢が直撃し辺りを水蒸気の霧が包み込んだ。
「誰だ?」
助かった、そう思いながら二人を抱えて少し離れたところに運ぶ。
グリムセリアは自分に氷の矢を放った人物を探していると、背後から気配と共に声が聞こえてくる。
「こっちじゃ!」
横に切り裂こうとしたレティシアだったが、蒼い炎によって剣の刀身が融解し振るった剣が空を切る。
「バレバレだ。死ね」
振り返り様にグリムセリアが、手刀でレティシアを切り裂こうとしたそのとき、
「やらせるか!──我の名の元に顕現せよ!魔剣 ルナ・ティルカ!」
突如ユキヤの手の中に現れた漆黒の刀身に黄金と深紅の装飾が施された剣が現れると、両の手で剣の柄を握るとグリムセリアの前にまで走り込む。
「──斬激の型 桜華・春嵐」
螺旋を描くように振るわれたユキヤの剣から風の嵐が吹き荒れグリムセリアを空中へと押し上げる。
「なに!?」
「まだだ──斬激の型 焔ノ太刀・陽炎!」
ユキヤの剣に闘気の輝きが集まるとまるで炎のように揺らめきながら二閃、一撃目を上からの切り下ろしそして二撃目での切り下ろしだったが、そのあまりの速度二より周りにじゃまるで一撃の切り上げのように移った。ユキヤの技によりグリムセリアの腕がずるりと落ちる。そこに追撃をしようとしたユキヤだったが、グリムセリアは後ろに下がりながら蹴り飛ばした。
「──っ!?はははっ、ようやくうしろに下がりやがったか」
剣を地面に刺しながらなんとか吹き飛ばされずにすんだユキヤが不適に笑うと、グリムセリアが忌々しそうにユキヤの剣をにらむ。
「魔剣か。これはまた、懐かしいものを」
グリムセリアの腕が瞬時に生えその腕を確認しながら、片膝を付いて倒れているユキヤを見据えると、今度は上空より声が響く。
「『風よ 切り裂け!』」
「『水よ 切り裂け!』」
上空から降り注いだのは風と水の鎌、グリムセリアは上空に向けて蒼い炎を放つと、急激に熱したことによる水蒸気爆発が吹き荒れる。
間一髪でシールドを張ったスレイたちは、揃って顔をあげると、そこには光で作られら王冠とマント、そして半透明の翼を背に開いたクレイアルラ、そしてミーニャの姿であった。
「ほぉ、今度は精霊使いか」
精霊という単語を聞いてスレイたちが二人のことを見ていると、今度は膨大な魔力の流れを感じると、クレイアルラがグリムセリアに向かって
「『あら。よそ見をしていていいのですか?』」
「なんだと?──むっ」
クレイアルラのその言葉でなにかを感じ取ったグリムセリアは、遥か遠くから魔力が集まっていることに気がついた。
「いくよノクトちゃん!──アイシング・ドラゴラム・インフェルノ!」
「はい!お姉さん!!──レイジング・イーグル!」
氷の竜の顋、そして光の鷹の羽ばたきを蒼い炎で打ち倒したグリムセリアは、爆発の煙に紛れて誰かが近づいてくることを感じ拳を振るったが、そこには誰もいないが視線の先でなにかが光ったかと思うと、自分の腕になに細い物が巻き付いたかと思うと急に身体の動きが阻害されたグリムセリアは、爆炎が晴れたところでようやく自分の動きを阻害するものの招待を知ることができた。
「うむ。動けぬな。ただの鉄の糸と侮っていたが……これはアダマンタイトか」
「半分正解、アダマンタイトに柔軟性の高い金属を混ぜた特殊合金で取り敢えず私はこう名付けているわ──綱糸・縛鎖──ってね。わかってると思うけど、これには私の闘気を流して鋭さを増しているわ。だから動かない方が──っ!?」
「動かぬ方がなにかな?」
アカネの持つ綱糸による捕縛を受けて身動きを封じられたかに思ったが、グリムセリアは炎で綱糸を焼き斬ったのだ。アカネが小太刀を構えて用としたところグリムセリア再びなにかに気づきそちらを見ると同時に眼にも止まらぬ高速の斬激がグリムセリアを襲った。
「ハァアアア―――――――ッ!」
「ほぉ、これは神気の力、お前は使徒か?」
「えぇ。ですが今は一人の人間です!」
煙を利用して近づいたラピスが、姉の形見となった短剣を使って斬りかかっていたが、振り上げられたその腕をグリムセリア掴んだ。
「そうかならば容赦はせぬ」
「きゃあっ!?」
「──っ!?」
グリムセリアがラピスをアカネの元に投げ飛ばすと、飛んできたラピスを受け止めたアカネが二人揃って地面に倒れる。
そこに青い炎を放とうとしたところ、ほど同時にグリムセリアに無数の剣戟と魔法が放たれる。さすがのグリムセリアもそのすべてを受け止めることは不可能だったため、当たる瞬間に上空へと飛び立ちそして少し離れたところで降り立った。
「いったい今さらなんなのだ、貴様らは?」
そこには今までグリムセリアと戦っていたスレイとユキヤたちだけではなく、ユフィ、ノクト、ラピス、そしてアカネにクレイアルラ、ミーニャ、総勢十一人もの手練れが集まっていた。
「あなたはこう言うのを無粋だとして嫌うかもしれませんが、次はボクたちみんなが相手をします」
全員とは言わないがスレイとユキヤ、それにリーフたちはすでに満身創痍のこの状況でどうかこのまま引いてくれそう思いながらグリムセリアを睨んでいる。
「ハッタリだな」
「─────ッ!……えぇ。確かに今のはハッタリですが、時間稼ぎだけはできましたよ」
真上へと手を掲げているスレイ。それを見たグリムセリアが真上へと視線を向けると、そこには燦々と輝くもう一つの太陽があった。
「イルミネイテッド・ヘリオース。簡単にいうと、太陽の光を集めた一撃です。どうします?これの一撃とあなたの炎、どっちが上か勝負しますか?」
「はっはっは、それは楽しそうだが……これは次の機会に取っておこう」
突如炎を解いたグリムセリアにスレイたちは警戒を強くする。
「残念だが、あのお方から天界への帰還の指示が出た。楽しみは次に取っておこう」
グリムセリアの身体が光だし、一瞬にしてその場から消えていった。
グリムセリアが立ち去ったことにより、張り積めていた緊張の糸が斬れたのかみんなその場にへたりこんだ。
「はぁ~、良かったぁ~帰ってくれて」
「本当ですよ。お兄さんがハッタリを噛ましたときにはビックリしましたよ」
「ですがスレイ殿らしいと言えばらしいのですよ」
「……でも危なかった」
「グリムセリアさまの意思ではないようでしたが」
ユフィたちが肩を寄せあって話し合っていると、すぐ近くでなにかが崩れ落ちる音が聞こえた。全員がそちらを見ると、スレイとユキヤが倒れていた。
「スレイくん!」
「レンカ!」
すぐにユフィとアカネが倒れた二人の元に駆け寄り、起き上がらせようとしたときにユフィの手にベッタリと手に真っ赤な血がついていた。
「ノクトちゃん!こっちに来て手伝って!!速く!」
「はっ、はい!」
すぐにユフィとノクトによる治療が始まった。
「レティシア!お願い、レンカを!」
「やってはみるが、妾の治癒魔法では……」
「変わりなさい」
苦い顔をしながらユキヤの治療をしようとした、レティシアに声をかけるクレイアルラ。
「これは……ミーニャ!こっちに来て手伝いなさい」
「でっ、でも、お兄ちゃんが!」
「スレイはあの二人に任せなさい!ミーニャ、あなたの力がなければあの子が死にます。早くしなさい」
「……わかり、ました」
ユフィとノクト、そしてクレイアルラとミーニャによる治療が始まった。
取り敢えず、今回の使徒との戦いはこれで一区切り、次回は一度後日談?的な話を一話挟みまして次の章に進みます。




