共闘
ブクマ登録ありがとうございます!
様々な姿をした使徒と人間の背丈を優に越える巨大な使徒、そして圧倒的なまでの数による暴力を目の前にして絶望を与えられたユフィとノクト。
そんな二人の目の前に突如として現れたアカネは、かつて敵として戦っていた時とはどこか違うとユフィはそう思っていた。
言葉ではうまく説明できないが、たった数度、片手で数えられるくらいしか顔を合わせてはいなかったがそれでも今までに感じていた雰囲気とはまた違った様子のアカネを見て、少しだけ困惑しるユフィだった。そんなユフィの様子を見て、アカネが語りかけてくる。
「ちょっとユフィ、それにそこの娘も、ボォーッとしてないで戦いなさいよ?相手は殺す気で来てるんだから油断してると命がないわよ!」
「そんなこと、言われなくても分かってるよ!……でも、どうしてあなたが私たちのことを助けてくれるのか?それにユキヤ──クロガネも、どうしてここに来ているのか、それを教えてくれるかな?」
「別に、それを教えるのは構わないんだけど……今はこの雑魚を片付けてからにしましょうよ。でないと落ち着いて話も出来そうにないしね!」
振り返り様になにかを投げたアカネ、ユフィとノクトが視線でそれを追うと使徒の頭に黒い苦無が頭に突き刺さっていた。ちなみにノクトは苦無など見たことがないため、特殊な形をしたナイフかなにかだろうと思っていたが、日本の知識を持っているユフィは一瞬にして日本人の魂を呼び起こされ、瞳がキラキラとさせながらアカネのことを見ていた。
多分、いいや絶対この場にスレイもいたら、一瞬にして童心を呼び起こされ戦いそっちのけでアカネに積めよって行く自信があった。
「アカネ!それって苦無!?もしかして手裏剣とかも持ってたりするの!?っていうかアカネって忍者なの、くの一さんだったの?忍法とか使えちゃったりするのかな!?」
一瞬にしていろいろと質問是するユフィを見てアカネが口元をひきつらせ、そんなユフィのすぐ隣にまで下がっていたノクトは、今までに見たことのないユフィの豹変に驚いていた。
「えぇええええええ!?お姉さんがお兄さんみたいになってる!?」
「ごめんねノクトちゃん、ユフィお姉さんは今はこの世界の住人でも心は地球の心を持ってるの。だからね、目の前にリアルくの一がいたら、興奮しずにはいられない生き物なのよ」
「あの、キリッとしたキメ顔をしながら行ってるところ申し訳ないんですけど、全く意味が分からないです。とりあえず、お兄さんみたいってことで良いですいね?」
ユフィが自分の中のジャパニーズソウルについてノクトに語っているが、そんなノクトにはユフィの気持ちが分からず、真顔で少し低いトーンでそう返された。
年下の女の子、それも嫁仲間からの若干軽蔑されたかのような眼を向けられて、ユフィは素直に頭を下げて謝りました。
「ちょっとあんたたち!私一人に戦わせないでよ!苦無も焙烙火矢もそんなに持ち歩ける訳じゃないのよ!」
ちなみにその間、アカネは一人で使徒を倒していた。空から近づいてくる使徒に向かって苦無を投げ、向かってくる使徒には小太刀で切り伏せ、焙烙玉を投げて使徒を吹き飛ばしたりしていたが、使い捨てることを前提の武器なので空間収納が付与された袋にかなりの数がいれてあるが、それでも増殖を繰り返す使徒相手にいつまでも持つかは分からない。
「ごめんねアカネ。私の魔力もいくらかは回復したし、一気に吹き飛ばすからもう少し待ってて!」
空間収納から杖を取り出して構えるユフィ。いくらかは回復してきているとはいえ、一度は空になりかけていた魔力だ。ここら一帯の使徒をまとめて吹き飛ばすための魔力を練るには、それなりに時間がかかってしまう。
それをアカネがわかってくれるかは分からないユフィだったが、アカネが小太刀を振るって使徒の首を落とし、逆手に握った苦無を使徒に突き付けながら、一瞬だけユフィの方に振り返ったアカネはユフィに向かって声をかける。
「そんなには持たないわよ?」
「お姉さんの準備が出来るまではわたしがアカネさんの援護します!」
「そう、ならお願いするわね。まずは使徒たちの動きを止めて!」
「はい!──アイス・ソーン・バインド!」
ノクトが向かってきた使徒の一団に氷の茨で使徒の身体を絡めとり動きを止めると、そこに向かって飛び込んでいったアカネが一瞬にして使徒の首を切り裂いていった。
そこに、上空から黒い影が差しアカネが顔をあげると、恐竜のような顔をした巨大な使徒がその巨大な鰓を開きながら迫ってくる。
アカネは手持ちの焙烙玉をすべて使ってあの使徒の頭を吹き飛ばせないか、そう思いながら袋に手をかけようとしたそのとき、突如として恐竜の頭が吹き飛んだ。
いや、正確には真横から殴り飛ばされ、その巨大な身体を廃墟となりかけた街の中に横たえようとしたと同時に光の粒となって消えた。
「がっはははははっ!さすがの化け物でも、このオレの鍛え抜かれ肉体の前には手も足も出ないようだなあ!」
太陽の光を反射させキラッと光った総髪の頭に、ここまで来る間にも使徒と戦っていたのだろうボロボロになっている道着を着て、そこから見えるのは長年鍛え抜かれたであろう立派な筋肉を携えた肢体、その姿は紛れもなくユフィの叔父であるマルスだった。
こう言うのはなんだが、あの人が世界のために神様と戦った方が良いんじゃないかと、その姿を見ていたユフィとノクト、そして結晶の中から外の様子を見ていたアストライアが心の中でそう思っていたのだった。
「なにあのガチムチ、強化もなにもしていない素手の拳で使徒を殴り飛ばして、あまつさえそれを倒すってどういうことなの!?この国の人間て化け物かなにかなの!?」
アカネの渾身のツッコミが炸裂した。
こういうにはなんだが、マルスは確かに人外の領域に足を踏み入れてしまっていると思っているユフィは、そっと目を剃らして魔力を練ることに集中している。ついでにノクトも大暴れしているマルスから目を剃らして、近づいてきた使徒に魔法を放っている。
するとなにやらマルスが来た方が騒がしいと思ったユフィたちがそっちを見ると、またしても見たことのある人が使徒を殴り飛ばしていた。
「はっはははは!こんなときにしか存分に殺り合えないんだ、おめぇら!全力で相手してやんな!」
「「「「「「ハッ!」」」」」」
そこには向こうで恐竜の姿をした使徒を殴って倒しているマルスと同じ胴着を着た一団だった。使徒を殴るとその場所が吹き飛んだり、蹴りを当てると使徒の身体がくの時に折れ曲がって吹き飛び、魔力や闘気を手に集めて弾のように──あの有名なバトル漫画で、亀の名前がついた武術を使う戦闘民俗が出るアレ──して放ったりたたかっているその一団を指揮しているには祖母のアシリアだ。
なんか、ユフィの親類がここに大集合しているなと思った中、使徒を小太刀で切っていたアカネがもう疲れたと思いながらも、一応はツッコミを入れておいた。
「ねぇ、この国って魔法使いの国なんじゃないの?なんで武闘家集団がいるのよ」
もうアカネの精神衛生上の都合で、そろそろ終わらせてあげようと思ったユフィは、ようやく練り上がった魔力を元に魔方陣を構築していった。
「アカネ!ノクトちゃん!あと、お婆ちゃんたちも一気にここら辺焼き払うから、シールド張ってでも身を守ってね!」
ユフィがそういうと、アシリアたちは自分でシールドを張れる者たちが集まり、多重のシールドによって身を守り、アカネはノクトの側にまで戻ってシールドの中に入れてもらった。マルスは………自分でどうにかするだろうと思って誰も何も言わなかったので、ユフィはそのまま魔法を発動させる。
「行くよ!──ブルーフレア・インフェルノ・バースト!!」
ユフィの放った蒼炎の爆発が創造の使徒の作り出した使徒の軍団を焼き払った。一瞬にして焼け野はらへと変わり、爆ったその場所を見て、ユフィは燃え続ける炎を消すためにアクア・レインを放って鎮火活動をしからみんなの方を見ると、今日一番のドン引き顔をされた。
「ユフィ、あんたマジで吹き飛ばしたわね。しかも人がいるのになんの躊躇いもなく」
「えぇ~。叔父さんならあれくらいの爆発じゃ死なないって。現にあそこでピンピンしてるもん」
そう言ってユフィが指を指した先では、上半身の道着を破り捨てて煤ボコりを払っているマルスがそこにいた。
あの人は本当に人間なのだろうかと、本気で思ってしまったユフィたちであった。
「まぁ、そんなことはさておき、お婆ちゃん、それに叔父さんもありがとうね」
「気にしなくていいわよ、てめぇら!次に行くよさっさとしな!」
「「「「「「押忍ッ!!」」」」」」
全員が返事をすると一瞬でその場から消えていった。もうあの人たちなんなんだろう、そう思いながらユフィたちは振り替える。
「ねぇ、隠れてないで出てきたらどうなの?」
「おや、君たちは僕の気配に気付いていたのか。いやはや、恐れ入ったよ」
何もない場所からピエロの仮面に燕尾服、そしてシルクハットにステッキを握った創造の使徒が姿を表すと、ユフィたちは各々の武器を構えて攻撃をしようとしたが、そこで霊体のアストライアが現れて、ユフィたちのことを御した。
どうして止めるのかとユフィたちが思ったが、アストライアのか持ち出す雰囲気から心配はいらないと思い、それに従うように武器を下ろした。
『あなた、すでに神気を使い尽くしてしまっていますね?』
神気とは神々の気で、力の源でもある力だ。それはもちろん、神に造られた使徒でさえも持っており、この世界に現界する際に使われているコアは、神気の結晶体であり肉体を作り出すための核としても使われているとアストライアから聞いている。
それを使いきっている、つまりはこの使徒はもう長くはないと言うことだろう。
「えぇ、僕の命は後少しで無くなるでしょうね。いやぁ~、君たちに負けちゃったから主様に怒られるけど、まぁ死ぬんだし関係ないか」
ユフィたちは創造の使徒の表情を見て、どういうわけかその言葉が嘘のように聞こえてしまった。どこか無理をしているような、仮面のせいで表情までは見えなかったがユフィたちはいささか疑問を胸に抱いてしまった。
『理由を聞かしてもらえないでしょうか、あなたが何を思って命を削り彼女たちと戦ったのかを』
「はははっ、そんな殊勝なもんじゃないけどさ、ただ単に僕の力じゃ君たちを倒せないから数を増やせば勝てるかなと思ったんだけど、やっぱり無理だったってだけさ」
本当に言っているのか、魂視の魔眼や真偽の魔眼を持っていないユフィたちにとっては、創造の使徒が本当のことを語っているのかは判別がつかない。
だが、どうしてもそれだけではないような気がしてならないユフィたちは、創造の使徒に向かって訪ねようとしたそのとき、使徒の身体が光の粒となって消えかかっていた。
創造の使徒が消えかかっている自分の手を見ながら小さく呟いた。
「あぁ。限界だね。そうだ、アストライア。僕のコアを君の中に取り込んでくれないかい?」
『もともと、私の神気を取り戻すためにもあなたのコアを取り込むつもりでしたが、あなたからその提案をされるとは思いませんでしたね。なにか裏でもあるのですか?それとも、彼の者の指示ですか?』
「はっはっはっ、そんなんじゃないよ。僕が力を使い尽くした時点であのお方は僕のことを見捨てているしね」
軽快そうに笑っている創造の使徒に、ユフィたちは眉を潜めた。
「フリューレアがあの男に負けた時点で見捨てられた」
「どういう意味ですか、それは?」
「そのままの意味だよ。フリューレアはもうあのお方の使徒じゃない」
フリューレア、つまりはラピスも神からは見放されたことを創造の使徒が語った。
「それに、消えるなら僕の力をあなたに与えた方がいいと思ってね」
創造の使徒は手を掲げて流れ出す神気を通して、アストライアに創造の力を渡す。
『これは!……そうですか、あなたは』
アストライアはようやく創造の使徒の目的についてなにかを言おうとしたが口をつむいた。これ以上なにかを言うつもりはなく、アストライアは創造の使徒に向かってそっとうなずきかけた。
『………分かりました、あなたの力と想い、確かに引き継ぎました』
「感謝するよアストライア──あっ、そうだそうだ。そこのピンクの髪と黒髪の娘にお願いがあるんだけど」
「えっ、私たちに!?」
「なっ、なんですか!?」
「はっはっはっ、そう身構えないでよ。僕の妹に渡しておいてもらいたい物があるんだ」
完全に消えようとしていた創造の使徒が仮面を外すと、ユフィとノクト、それにアカネがハッと息を飲んだ。
今まで、顔をすべて覆っていたせいで分からなかったが、仮面を外した創造の使徒の顔は長いまつげにパッチリと開いた瞳、そして小さく引き締まった口元を、なんとも綺麗な顔立ちの女性の姿をした使徒だった。
それだけでなくその顔立ちは、どこかラピスに似通った部分があった。
創造の使徒は手に持った仮面に神気を流すと、流麗な一本の短剣を造り出した。それを、ユフィたちの方に投げた使徒は、口元に小さな笑みを浮かべながら口を開いた。
「この世界から消え去る姉から、この世界に新しく産まれた妹への最初で最後のプレゼントだ」
ここでようやくユフィたちは、先程この使徒が語った言葉を聞いて疑念を抱いた理由がわかった。
「そっか、あなたはラピスちゃんのために………?」
ユフィの言葉に創造の使徒は小さく微笑み返した。
その顔は、どこか誇らしげで、消えようとしているのにも関わらずどこか満足したかのようなその顔を見たアストライアは、ゆっくりと創造の使徒に向かって手を差し伸ばした。
『彼の者が産み出した創造の使徒よ。あなたにも心を芽生えたのですね』
「わかんないよ。ただ、僕はあの娘のことを見捨てられなかっただけだからね。心かどうかは──」
「違います!あなたがラピスさんを思ってしたことなら、それはあなたの心に従った結果なんです」
ノクトの強い言葉を聞いて創造の使徒は自分の胸に手を当てながら目をつむった。
「そう、なのかもね……君たちに感謝するよ」
創造の使徒は微笑みながら光となって消えていった。
割れたコアから漏れ出る微かな神気、そして創造の力を取り込んだアストライアは、最後に創造の使徒が残したラピスへの想いを感じながらそっと、一筋の涙を流したのだった。




