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創造の使徒

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 再び時は遡り、リーフとライアが誰かを助けに行った後、ユフィとノクトは空から襲ってくる使徒の分体を、魔法で撃ち落としすべてを倒し終えた二人はリーフたちの方に向かおうとしたが、住民の避難活動を行っていた魔法師団と冒険者の要請を受けて、まだ避難を終えていない場所に向かうことなった。

 二人のことが心配ではあったが、もしも使徒と交戦することになったとしても、あの二人がそう簡単に殺られるなど想像はできないとは思ったが、今は二人よりも救助を求めている人を優先することにした。

 ユフィたちが向かった場所は、初めの攻撃された学園の土地からかなり遠くの場所ではあったが、吹き飛ばされた瓦礫が上空から降り注いだらしく、建っている建物には大きな穴が開いていたり、屋根が丸ごと吹き飛んでいたりもした。

 道には遠くから吹き飛ばされてきたらしい巨大な建物の残骸などがクレーターを作っていた。被害がどれ程なのかは定かではないが、魔法師団の方には今のところ死者の報告は来ていないらしい。だが、それもでかなりの負傷者を出しているのが、目の前の惨劇から見てとれる。


 いつ使徒の襲撃が起こるかわからない中、魔法師団員と冒険者の面々が怪我人のための治療場を設け、治療が必要な怪我人の治療を行っていたが、いかんせん怪我人の数がかなり多く、ユフィとノクトを含めても治癒の魔法が使える魔法使いの数が、たったの十人ほどしかいなかった。

 このままでは手遅れになってしまうかもしれないと思ったユフィは、すぐにヒーリング・シェルを放ち、周りを飛びながらヒールの魔法を放つことで簡単な応急処置をおこなった。


「これでかすり傷程度の怪我なら治せます、みなさん!重症な怪我人を優先的に治療をお願いします!」


 ユフィが冒険者の方々に指示を出しながら治療を行っていると、全身が血だらけの女性が治療を行っていた魔法師団の人のいる場所に駆け寄ってきた。


「誰か、この子の治療をお願いします!血が……血が止まらないんです!」


 女性の腕に抱かれている子供は、来ている服さえも、もとから赤かったのではないかと思うほど真っ赤に染まっていた。遠目から見ていたユフィがすぐにでも治療に行きたいと思ったが、今は手が離せないので他の人に任せておこうとした。

 すぐに手の空いていた魔法師団の一人が女性の子供を治療しようと駆け寄ったが、子供の傷の深さを見てすぐに絶望した顔になった。


「すみません……こんな深手、私の治癒魔法じゃどうしようも」

「そんな!何とかしてください!!お願い………お願い……しますから……娘を………!」


 母親の嗚咽混じりの声を聞いて、いてもたってもいられなくなったユフィは、今診ていた患者の治療を終えるとすぐに泣き叫んでいる女性の方に向かった。


「変わってください」

「無理だ!助けられるはずが──」

「静かにして!」


 ユフィは女性の腕に抱かれている女の子の診察を始める。まずは血が止まらない理由と、もしも体内に異物があった場合に備えて身体に魔力を浸透させて身体の中の様子を確認する。

 出血の箇所は脇腹に開いた刺し傷と、なにかに押し潰されたかのように両足の骨も砕けている。

 多分だが、女性が女の子の腹部に刺さっていたもの抜いてしまったせいで、いくつもの血管が切れて出血が止まらなくなっているのだ。このままでは、この女の子がいつ出血死、もしくは出血性のショック死のどちらかが起こるかもしれない恐れがあった。

 すぐに治療の目処をつけたユフィは、自分一人では時間がかかりすぎると思いそばで他の患者の治療をしていたノクトに声をかける。


「ノクトちゃん!そっちが終わったら手伝って、私一人じゃ間に合わないの!」

「分かりました、四分……いいえ、二分だけ待ってください!」


 ノクトの助けが来るまでの間に、何とかして欠陥を繋げておかなければならない。治療を始めようとしたその時、この女の子の母親である女性が心配そうな顔でユフィのことを見ているので、ユフィは笑顔を向けながら母親に声をかける。


「大丈夫ですよ。娘さんは私たちが助けますから、お母さんはこの娘の手を握って話しかけてあげてください」

「はい……はい、よろしく、お願い……します」


 ユフィに言われて母親が娘の手を取り何度も名前を呼びながら語りかけている。この親子のことをなんとしてでも助けたい、ユフィは自分にできることを全力でやって助けよう。

 そう思いながら今までに身に付けた技術の粋をすべて使い、女の子に向かって治癒魔法を行っているが、ユフィは周りで見ていた魔法師団の治癒術師が驚くほどの早さで、出欠箇所の治療を行っていた。


「速い………なんなのこの子、たった数秒でこんな」


 そんな声を聞きながらもユフィの手は止まらない、少しでも早く、そして少しでも慎重に治療をしているユフィだったが、心の中で早くはノクトに来てほしいと思っていた。


 その理由は、先程から他の患者のためにヒーリング・シェルを飛ばし続け、治療の遅れている患者にはより高位の治癒魔法をかけ続けている。その数はすでに二十個ほどのヒーリング・シェルが上位の治癒魔法を使っているため、ノクトが来てくれなければ魔力が足りなくなってしまう。


 傷を塞いでいき、もう少しで切れていた血管のほとんどを繋ぎ終えよとしたその時、いよいよ体内の魔力の残量が心持たなくなってきた。お願い、ノクトちゃん!そうユフィが願ったとき。


「ユフィお姉さん!お待たせしました!」

「──ノクトちゃん!血管はすべて繋ぎ終わってるから、後は傷口をふさいであげて。私は補助するから残りの治療をお願い」

「分かりました!」


 ユフィ入れ替わるようにノクトが腹部の刺し傷の治療を行う。ノクトの補佐を行っているユフィは、今のノクトでは難しいところがあった場合にのみ手をだし、他はノクトに一任して見守っていると、数分後、少女の傷は完全に塞がっていた。

 これで後は脚の骨を治癒魔法で簡単に繋げて、添え木をするだけのかんたんな物でしかなかったが全ての治療を終えたとき、ユフィとノクトは疲れてその場にへたりこんでしまった。


「娘さんはもう大丈夫です」

「本当……なんですね……娘は、本当に」

「はい……ですが、多くの血を流しているので娘さんが目を覚ましたら、この増血剤を飲ましてあげてください」

「ありがとう、ございます………ありがとうございます……」


 ノクトから増血剤の入った小瓶を受け取った母親は、自分の腕の中で小さな寝息をたてている娘のことを抱き締めながら、自分の娘を助けてくれたユフィとノクトに向かって嗚咽を漏らしながら何度もお礼を言っている。

 母親の嗚咽混じりの感謝の言葉を聞きながら、ユフィとノクトはなんとも言えない達成感を感じながら、疲れと極限にまで消耗しきった魔力を回復させるために、ポーションを飲もうとしたその時、上空から凄まじく異様な気配を感じたユフィとノクトが揃って上を見上げた。

 立ち上る黒煙が曇る空の上にからこちらを見下ろしているそれは、白い翼を背中に生やし黒い燕尾服のような服に、ピエロの仮面を被った奇術師のような風貌の男がそこにいたのだ。いいや、それは少しだけ語弊があった。

 なぜならば、その男は人間ではない、身の毛のよだつほどの凶悪な気配に背中から生えた白い翼、あれは確実に使徒だと、ユフィとノクトには確信に近いものがあった。全身に冷や汗を流しながらユフィとノクトは側に置いていた杖に手を伸ばした。

 二人は生唾を飲みながらゆっくりと身体に残った魔力を集め始める。消耗しきったこの状況で使徒との戦いが乗り切れるのかどうかわからなかったが、やれることだけのことはやろう、そうしたらいつかはリーフとライアが来てくれるかもしれないと、二人は自分に向かって語りかけることで自分のことを奮い立たせる。


「みんなここから逃げて!」


 ユフィがそう叫ぶと、治療を行っているが団員の警護を行っていた団員が、上空に居る使徒の存在に気がつくと住民の護衛を差し置いて杖を構えて魔法による攻撃を仕掛けようとしていた。


「ダメ!攻撃しないでください!!」


 あの使徒がどんな存在なのか分からないため、いきなり攻撃するには不味いと思ったノクトが止めようとしたそのとき、魔法師団の魔法が一斉に魔法を発動させて攻撃した。

 炎、風、水、氷、土、無数の属性の魔法の攻撃が使徒目掛けて飛んでいった。そして、発動された魔法がすべて使徒に当たったかと思うと、使徒が身体を光の粒にしながら地面に向かって落下していった。その光景に、ユフィとノクトは異様なものを見るような目を向ける。

 あの使徒を攻撃した魔法は、どれも初級の魔法でしかなくゴブリンを倒せるかどうかも怪しい。それなのに使徒を倒したと言うことはどういうことなのだろう。まさかあの使徒はそれほどまでに力の弱い使徒だったのかと、ユフィとノクトがそう思っていると、ノクトの持つ結晶から現れたアストレイアが叫んだ。


『ユフィ!ノクト!今すぐに真上にシールドを張りなさい!』


 そう言われて二人が即座に真上にシールドを展開すると、上空からすさまじい爆音が響いた。なにかがシールドの上で爆発して、シールドがいつまで持つかも分からないため今度ユフィが叫んだ。


「ここは私たちが引き受けますから、あなたたちは避難を優先させて!」

「しっ、しかし我々がここで逃げるわけには──」

「違うでしょ!あなたたちの仕事は、この人たちを安全なところまで連れていくこと!さっきみたいにいきなり攻撃したからこうなってるってわかってるの!!」


 ユフィに強く言われた魔法師団員たちは、悔しそうに奥歯を強く噛み締めながらゲートを開いて、怪我の治療が終わっていない人には手を貸しながら避難を開始させていた。

 それを見たユフィはノクトと協力して爆発を防いでいると、しばらくして爆発が終わったので二人は警戒しながらシールドを解くと、ユフィが空間収納からアタック・シェルとシールド・シェル、そしてガンナー・シェルを空中に浮かべ、両腕にガントレットを装着し武装を整える。

 そしてノクトは杖を両手で構えながら霊体として顕現しているアストライアに問いかける。


「アストライアさま、あの使徒の能力はなんですか?」

『今までの力の使い方からすると、創造の使徒の可能性があります』

「創造………つまりはなにかを作り出すってことですか?」

『えぇ。生命の創造さえも唯一出来る使徒です。先程のあれも、あの者が作り出した分身です、そして──』


 アストライアが不意に言葉を区切ったのを聞いてユフィとノクトが慌てて周りを確認すると、今まで吹き荒れていた土埃の影から大小様々な影がそこにいた。

 一瞬にして現れたかのように自分たちのことを取り囲んでいる、無数の気配を感じながら、身を守るためにアタック・シェルに魔法を展開させようとしたユフィだったが、全身から急激に血からが抜けていく脱力感と激しい頭痛を感じて片膝をついて倒れる。


「クッ……こんなときに」

「ユフィお姉さん!」

「だっ、大丈夫………ちょっと魔力を使い過ぎちゃったみたい」


 魔力が空っぽの状態で無数のシェルを繋げようとしたせいで、魔力切れになる一歩手前まで陥っている。

 久しぶりの魔力切れの症状にユフィは頭を押さえながら、マジックポーションを一つ掴んで飲み干したが、ポーションの効果が効くまでには時間がかかり、すぐには魔法は使えない。

 だが、それでも頭痛は収まっているので立ち上がったユフィが拳を構える。


「ノクトちゃん、シェルの援護は出来そうにないよ」

「平気ですよお姉さん、わたしだってそれなりにやれるんですからね!」


 気丈に振る舞っているノクトだったが、使徒相手に接近戦を行うなどかなりの覚悟がいる。それはユフィも同じなのだが、ここは年上としても平然としていなければならない。


「ノクトちゃんは無理しなくていいから、いつもみたいに後ろから援護をお願いね」


 ユフィにそう言われて、ノクトは悔しそうに杖を握る手に力を込めていたが、すぐに二人が臨戦態勢を取る。

 土埃の中から現れたのは狼のような顔に白い翼を生やした使徒と、ゴリラの巨体に翼の生やした使徒の二人だった。

 現れた姿の違う二人の使徒を見てユフィは地面を蹴り前へと出る。


「はぁああああっ!!」


 先行して飛び出してきたのは狼頭の使徒、その使徒に向かってユフィは雷撃を纏った拳を顔面叩き込むと、グシャッと音を立てながら潰れ、さらにその次にやって来るゴリラの拳をかわし、懐に入ったと同時に魔力を纏わせない拳で殴ると、ゴリラの腹部に巨大な穴を開ける。


「わっ、わぁ~。ユフィお姉さん、マジスゴい」


 目を丸くして驚きを露にしたノクト。

 ユフィがやったのはインパクトの瞬間に拳に重力魔法で重さを増し、一撃の威力をあげる気とにしたのだ。今は魔力の消費を押さえる手段だ。


「ノクトちゃん!この使徒たちは、一匹一匹はとっても弱いから魔法で確実に仕留めて!」

「分かりました!──ウォーター・エッジ!」

「やぁああああッ!!」


 次々と現れる使徒を殴り飛ばして行くユフィと、魔法を使って撃ち抜いていくノクトだが、例えそれが普通の使徒よりも弱いとしても、数の暴力の前には限界が来る。


 拳を叩きつけ、蹴りを食らわしたユフィは、本格的に限界が来ていた。


「………ッ!いったい、どれだけの使徒がいるのよ!」


 悪態をつきながらも拳を振るい続けるユフィ、その後ろでノクトもまた魔力切れの恐れを感じていた。


「このままじゃ、わたしの魔力も、もう!」


 悔しそうに歯噛みするノクト。

 二人は最後まで諦めない意思のもと、手に力を入れて立ち上がろうとしたその時、自分の足元に暗い影が指したのを見て顔をあげると、そこにはいつか見た巨大な魔物と同等の大きさの魔物が複数体現れた。

 これの出現には、さすがのユフィとノクトも絶望の色が見える。


「ウソ、ですよね?」

「さすがに、これ以上はもう」


 魔力もない、助けもない、そんな絶望の前に二人の心が折れそうになる。


 ──もうダメだ


 そう思ったそのとき、


「なに絶望してるのよユフィ、そんなのあなたのキャラじゃないでしょ?」


 聞き覚えのある声を聞いてハッと振り返ったユフィのすぐ横を通りすぎ、目の前に迫っていた蟷螂の使徒を切り伏せた少女の姿を見てユフィは驚いた。


「もしかして、アカネ?」

「えぇ、久しぶりねユフィ」


 短い黒髪に目元を覆う仮面に逆手に握られた黒い小太刀、そして時代劇にでも出てきそうなくの一の衣装を見に纏ったアカネがそこにいた。

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