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戦う理由 ②

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 突如、目の前に現れたユキヤは前と変わっていた。

 まずは今まで付けていた仮面がなくなり、素顔のままで目の前に現れたことだ。次に服装だが、今までは物語などに出てくる暗殺者が来ているような黒装束だったが、今は黒いシャツにズボン、それにこの辺りの物ではないと一目で分かる着物の羽織のようなコートを身に纏っていた。

 そんなユキヤの突然の登場にスレイたちが驚いていると、刀を持ち上げ顔の横で垂直に構えたユキヤは、その切っ先をフリューレアにむけながら走り出す。


「消えろ使徒!」


 傷の再生のために動けないでいるフリューレアに向かいユキヤが技を放とうとする。確実にその命を奪うために振るわれるユキヤの刀、それを止めるべくユフィたちが魔法と技を使おうとしたそのとき、ユキヤの道を塞ぐかのように叫び声が響いた。


「やめろ!──紫電ノ一閃!」


 紫電の雷がラピスに切りかかろうとしていたユキヤを襲った。

 一瞬早く攻撃の手をやめ後退をしたユキヤそしてユフィたちの視線が一斉に向き、雷撃を放った者の方へと視線を向ける。みんなの視線が集まったその場所には、白い剣に雷撃を纏わせたスレイがそこにいた。


「おいヒロ、てめぇなんで邪魔しやがる?……まさかとは思うが、使徒でも女は斬れないなんてアホなことを言い出す、なんてことはねぇよな?」

「違うよ、ボクだって女の人を斬ることくらいは出来るよ………ただユキヤ、ボクの女にちょっかいをかけるのはやめてくれないかな?いくら君でも刻み殺すぞ?」

「てめぇの女だ~?………チッ、マジで言ってやがんのかよ」


 どうやらユキヤは魔眼を使ってスレイの言っていることが本当かどうかを調べたらしく、真実を言っているスレイのことを睨み付けながらも、その目を見て大きく肩を落としながら大きなため息を一つついた。


「あぁ、そうだった、お前はそういうやつだったってことをすっかり忘れちまってたよ。まぁいい、俺の目的は別の使徒だ」

「悪いなユキヤ、わがままを聞いてくれて」

「うっせぇよ。それとこれ飲んどけ」


 ユキヤはスレイに向かってなにかを投げ渡した。それを受け取ったスレイが手の中を見ると、どうやらポーションの入った瓶で、しかもかなり高級で最高品質のポーションののようだった。


「いつかのポーションの礼だ」

「ありがとうユキヤ」


 スレイからもお礼を告げるとユキヤは一回舌打ちをならしてそっぽを向いた。こいつは昔ッから変わらないな、そうスレイが思っていると、傷の再生が終わったフリューレアがスレイたちにむけて殺気を放つ。


「あなたち、呑気に話をしているところ悪いのだけど、私のことを忘れている、なんて事はないわよね?」


 凄まじい殺気にユフィたちも応戦するべく身構えようとしたが、それをさせないようにスレイが牽制する。


「悪いけど、ラピスの相手はボク一人にやらしてもらってもいいかな?」


 突然のスレイのお願いにユフィたちは呆気に取られてしまった。なぜなら、今まで破られたところを見たことのないスレイの竜燐が、フリューレアの攻撃によっていとも簡単に切り裂かれてしまったからだ。

 それなのにスレイが一人で戦おうとしていることにノクトとライアが怒りを露にする。


「お兄さん、そんなこと言ってないでみんなで向かえばラピスさんを押さえることが出来るはずです!」

「……そうだよスレイ。私たちも戦うから」

「こればっかりはダメだ」


 なぜここまでスレイは一人で戦うことに固執しているのか、それについて全く検討のつかないユフィたちが困った顔をしていると、その顔を見たスレイがみんなにむけて補足するかのように話し出した。


「前にラピスと約束したんだ。ラピスが記憶が戻って悪いことをしたらボクが止めるって。だから今回だけはボクにやらせてくれ」


 スレイのその言葉を聞いて、ユフィたちはスレイに任せるようと思ったと同時に、やっぱりスレイはこう言うことをよく運んでくるな~っと思ってしまい、それと同時に、スレイにとってはそれが当たり前で、それと同時にこれがスレイの魅力なんだなっと、改めてスレイに惚れ直していた。

 みんなの気持ちが一つになったところで、ユフィたちが視線を会わせてから頷きあう。


「わかったよ~。スレイくんはラピスちゃんのことをお願いね。絶対に二人で戻ってきてよ?ラピスちゃん、待ってるからね」

「お兄さん!ラピスさんのことをひっぱたいてでも連れ戻してくださよ!それとラピスさん、戻ってきたら絶対にみんなでお話しますからね!」

「他の使徒と分体は我々が何とかしますから、スレイ殿はラピス殿を頼みましたからね」

「……スレイ、信じてる。ラピスのこともよろしく。絶対に助けて」

「あぁ。任された」


 踵を返して街の方へと走っていくユフィたちの期待に応えるようにスレイが告げると、話を黙って聞いていたユキヤが地面に突き刺さったままになっていた黒い剣を抜いて──地面から引き抜こうとしたときに、あまりの重さに顔をしかめてしまったユキヤ──スレイへと投げ渡した。

 その時のユキヤに顔はとても冷ややかな目をスレイにむけていた。


「お前、やっぱ変わったな。昔のお前だったらあんな恥ずかしい台詞は死んでも真顔で言えるはずなかったからな………ってか、こんな状況じゃなかったら言ったら大笑いしてたは」

「うっせぇよバカユキヤ………お前もさっさと目的の使徒とやらを倒しにいってこいよ」

「あぁ。………こんなところで死ぬなよヒロ」

「言われなくても死ぬ気は無いって」


 ユキヤが静かに飛行魔法を詠唱して飛び上がったユキヤを見送ったスレイはフリューレアと向き合った。今までずっと待ちぼうけ食らったフリューレアは、さすがにキレたといった感じでスレイのことを睨み付けていた。


「これは、長いこと私のことを無視し続けてくれましたねスレイ?」

「忘れていたわけではなかったんだけど………一応謝らしてもらうね。ごめん」


 割りと真面目にフリューレアに謝罪の言葉を告げたスレイ、しっかりと頭まで下げていたので、フリューレアとしては少しカチンと来てしまったが、どうせここで殺すのだからどうでもいいと頭のなかで思っていたと同時に、フリューレアの頭の中ではどこか複雑な心境になってしまった。


 どういうわけか、フリューレアは心の中で本当に自分がスレイやユフィたちみんなを殺したいのか、そんな疑問が頭の中を過ったが、すぐにフリューレアは自分の頭の隅に追いやり、ただ今はスレイを殺す、そのことだけを頭の中に思い浮かべるようにした。だが、それを考えようとすると、どうしても短剣を握る手が震え始めていることに気がついた。

 いったいこの感情がなんなのか、いったいなんで殺すことを考えると身体が震えるのか、この感情がいったいなんなのか、自分で自分がしたいのか、何をすることが正しいことなのか、全く分からなくなってしまった。混乱する頭を必死に押さえながらフリューレアはスレイの方に視線をむけていた。すると頭を上げたスレイとフリューレアの視線が合った。

 スレイはフリューレアの目の中にどこか悲しいものを見た、そんなことを思い悲しそうな表情をすると、それを見たフリューレアの顔から、不安などの訳の分からない感情が消え失せ今度は激しい怒りの色が一気に広がっていった。


「スレイ・アルファスタ……お前はなんなの?なんで私にそんな目を向けるの?なんであなたは私を連れ戻せると信じてるの?ユフィたちは敵であるはずの私の心配までするのよ!なんであなたは私を殺そうとしないのよ!なんで斬ろうとしないのよ……なんで戦おうとしないのよ……なんなのよあなたは」


 スレイはじっと頭を抱えながら叫び散らしているフリューレアのことを見ていた。今はこの選択が正しいと信じての行動だ。


「知らないわよ………私にはこれがなんなのか分からないわよ。なんで私はあなたの顔を見ると戦いたくないなんて思うの!なんで殺したくなんてないって思うの!なんで、あなたのことを傷つけるとこんなにも胸の奥が苦しくなるの!なんで………なんであなたは……こんな私のことを見捨てないで、助けようとしてくれるの?」

「それは、ボクと約束したらかだ。あの夜に、ボクは君と約束した。間違ったことをしたら止めるって、だからボクは君を見捨てないし、助けるんだ。だからボクはこの剣で殺したりなんかしない。ボクはなにがなんとしても君をこの手で取り戻すって決めたんだ」


 力強く、そう答えるスレイに今度こそフリューレアの心が揺れる。


「………なんなのよ、なんなのよいったい!今、私の中で渦巻いているこの感情は、この想いはなんなのよ!」

「それは、本当に君がしたいことじゃないからなんじゃないのか?君を産み出した神からの命令なんかじゃなく、自分はなにをしたいのか、何を信じたいかを君自身がの心が自分に訴えかけているんじゃないのか?」

「……私はあのお方によって産み出された使徒よ。心なんてあるはずがない!」

「いいや、痛みを感じている、悲しいと感じているその想いが心なんだよ!誰も失いたくない、傷つけたくない、本当はそう想っているから苦しいんだ」

「知らない……分からない……こんな感情なんて知らない!もう消えて、消えてしまいなさい!!」


 苦しそうに頭を抱えて叫び散らすフリューレア、そんな彼女に向かって手を差忍ばそうとしたその時、フリューレアのは以後に一人の男が立ち、そしてその手をフリューレアの胸へを突き刺した。

 フリューレアが口から血を吐き出し、身体から流れ出るおびただしい量の血が地面を真っ赤に染め上げる。それを見た瞬間、スレイの頭のなかで斬れてはならない何かが切れる音が聞こえ、視界から全ての色が消えたかのような錯覚を陥った。


「────ッ!!ベクターァアアアアアアアアアアアア―――――――――――――――――――――ッ!!」


 全身から殺気を迸りながら黒い剣に聖闇の炎を纏わせたスレイは、転移魔法を使いベクターの腕を切り落とすべく黒い剣を振るおうとしたその時、ベクターがスレイの方を見ながら口元をつり上げた。


「そう吠えるんじゃありませんよスレイ・アルファスタ。べつにフリューレアを殺そうだなんて思っていないのだから」


 スレイがベクターに向かって剣を降り抜こうとしたその瞬間、胸を刺されたフリューレアの短剣がスレイの剣を受け止めていた。


「───────────ッ!!」


 スレイは驚いた。その理由は、今、目の前にいるフリューレアの目には全くの迷いが無く、まるで何もかもを飲み込んでしまう暗い闇のような瞳をしていたからだ。

 何かがおかしい、そう思ったスレイが黒い剣から聖闇の炎を消してフリューレアから距離を取るように後ろに下がった。

 距離を取ったのは半ば無意識からだった。今までの戦いの経験と、スレイの中にある竜の血が今のフリューレアには何かとてつもなく恐ろしい物を感じてしまったからだ。


 使徒ベクター、ではなく、イヴライムがフリューレアの耳元の小さく呟いた。


「さぁ、フリューレア、あなたの手でスレイ・アルファスタ殺してしまいましょう。あの男はあなたのことを拐かすあの男をその手で殺しなさい。そうすればあなたのその胸の痛みも、悲しみも全てが無くなりますよ」

「はい。イヴライム、私がスレイ・アルファスタを殺します」


 目から生気は消え失せまるで何かに操られているのではないかと思ったスレイに、突如として斬りかかってきたフリューレア。黒い剣で初激を受け止めたスレイだったが、フリューレアがもう一本の剣を使って斬りかかる。

 その一撃を空間収納から緋色の短剣を取り出して受け止める。ギリギリと二振りの短剣が火花を散らしながら、スレイは目の前にいるフリューレア、いいや、ラピスに向かってに語りかける。


「──────ッ!?やめろラピス!しっかりしろ!」

「私はあなたを殺す。大人しく私に斬られなさい」


 抑揚のない言葉と共に振るわれる二振りの短剣の斬激を緋色の短剣でさばくスレイは、ラピスの剣をさばきながら殺気のこもった鋭い視線をイヴライムに向ける。


「ベクター!ラピスに何をした!!」

「ふふふっ、簡単なことだよスレイ・アルファスタ。フリューレアに私の権能である殺意を植え付けた。今のフリューレアはお前を殺すことだけしか考えてはいない………さぁ、どうするスレイ・アルファスタ。一度愛した女から殺意を向けられるその気持ちは、なぁ教えてくれよ。どんな気持ちなのかをさぁ!」


 ギリッと奥歯を噛み締めて顔をしかめるスレイに向かってイヴライムは、最高に愉悦を感じているのか高らかに笑いながらいつかのように光の粒となって消えようとしている。

 また逃げるつもりかと思ったスレイは、ラピスの斬激をかわしたところで空間収納から黒鎖を取り出し、ラピスを絡めとると消えようとしているイヴライムのことを睨み付ける。


「ベクター!てめぇだけはボクが絶対にぶっ殺す!」

「ならばはやくフリューレアを殺すことだな。今の私は無防備だぞ?」

「お前の言う通りにするもんか!ラピスは殺さない!絶対に助けて見せる!お前は次にあったら絶対に殺す!首を洗って待ってろクソ野郎が!!」


 イヴライムが不適な笑みを浮かべて消えていった。スレイは殺気のこもった視線を向け続けていると、目の前から黒鎖の砕ける音が聞こえる。


「スレイ・アルファスタ、私はお前を殺す」

「ラピス……ボクは、お前を絶対に連れ戻すぞ」


 勝算はない、どうやったらラピスがもとに戻るかも分からない。

 だけど助ける、そう心に誓いながら、スレイは剣を構えた。

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