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ダンジョンでの教鞭

 あれから、準備の整った生徒たちを引き連れてダンジョンの入り口に入ったと同時に、スレイたちは足元から浮かび上がった魔方陣がスレイたちを包みこむと、次の瞬間にはダンジョン内に転移させられた。


 一瞬の光に目をくらませられたがすぐに目が治ったスレイたちは、自分たちの周囲の光景を見ていた。周りには丁重な石作りの床に、地球で言うところのローマの遺跡のような作りだ。

 ここがそんな危険とは無縁な観光名所ならばさぞ良かったであろうが、ここはそうではなかった。

 周りから漂ってくる独特な雰囲気、人工的に作られたキャンドルから作られたエルライト鉱石の微かな灯りによって照らされる壁、歴史的にも古い遺跡型のダンジョンだからなのだろうか、微かに香るカビの臭い。そして、魔物が跋扈する場所特有の肌を指すような殺気、かつて潜ったことのあるダンジョンは天然の洞窟が自然に作られた物だったが、漂ってくる雰囲気には似通った物があった。


 久しぶりにやって来たダンジョンであり、はじめて生きたダンジョンにやって来て、前のようにイレギュラーなことも起きるはずもない安全な──ダンジョン事態危険なのだが、スレイはそこら辺の感覚が麻痺しているため──ことに喜びを感じながら、スレイはそう言えばと疑問に思ったことを口にした。


「そう言えばと、なんでいきなりこんな場所に飛ばされたんだ?」


 そもそもいきなり転移するとは聞いていない。ってか、さっきの転移の術式使えばずっと考えていた新しい魔法が出来そうなっと、半分以上は今のことと関係ないことを考えていると、ヒラヒラと何かが落ちてきたのを見てそれを掴むと、どうやら手紙のようだった。

 二つ折りにされたそれを開いて読んでみて、簡単に説明すると以下のようなないようだった。


 ──転移場所は完全にランダムになっており、一週間メンバーと力を合わせて生き残れ。ただし他のグループと合流することも可能、もしも命の危険を感じたらスレイ先生を頼れ、ドラゴンくらいならなんとかしてもらえるはずだから──


 そんな内容が手紙に書かれていたのだが、なぜ最後の最後で他力本願なのだろう?ってかソロでドラゴン討伐は無理………かどうかと聞かれればダンジョンのフロアを一つ灰塵に帰していいのなら殺りようはある。


 そもそもこのダンジョンでどうやってドラゴンを出すというのだろうか?完全に生徒を殺す気でいるとしか思えないその台詞に、スレイは呆れながらこの手紙は見なかったことに燃やしてしまおうと思い、小さな炎を使って消し炭にしておいた。


「よし、みんなちょっと学園長のイタズラで変なところに飛ばされたけど、一週間この場所で生きていくことになります。さしあたって始めに言っておくことがある。これから君たちの食料だけど、ダンジョンで自分で採るように」

「「「「ちょっと待って!それどういうこと!何にも聞いていないんですけど!?」」」」


 驚愕している生徒たちのプラス、ホーソンたちも一緒に叫んでいました。そりゃそうだ、言ってないもの………なんて言えたら絶対にみんなキレるだろうなっとスレイは済ました顔でそう思ったが、そんなに叫ぶと魔物がよってくるぞと心の中で叫びながらシールドとサイレンスの魔法で声を遮断する。

 みんながあらかた叫び終わってなのでスレイは、なんでそうなったのかの理由をみんなに──主に生徒たちに──わからせるべく説明をする。


「つまり、このガキどものせいで俺たちも巻き添えを食ったって訳か」

「えぇ、まぁそうなんですけど、もう少し言葉には気を付けましょうよメルクーリさん。一応この子たちが護衛対象なんですから」

「だけどスレイ、こいつらのせいでメイたちのくそ不味い飯を食うはめに──」

「ファイヤ・アロー!」

「ウォーター・エッジ!」

「─────フンッ!」

「ぬぅおおおおおお―――――――――――っ!?」


 失言をしたメルクーリにポーラから炎の矢が、ベラロナからは水の刃が、メイリーンから短剣からの一閃がそれぞれメルクーリを襲った。ただし、失言をしたメルクーリが全面的に悪いのでホーソンは止めようとはしない、ついでにスレイも完全に無視した。


「先生、私たちも料理出来ない」

「飢え死にだけはイヤです~」

「安心して、料理は先生がしてあげるから。これでも剣術と家事は得意中の得意なんだからな」

「あんたなんで学園講師なんてやってんだよ?」

「講師は手伝い。本職冒険者って、マナとリアスは講義中の雑談で話したことあったよね?」


 たまに授業中にせがまれて冒険者の仕事について話したことがあるが、実際には冒険者としての経歴で言えばクレイアルラの方が上なので、みんなこぞって聞きたがる。


「まぁ、そんな訳なので早速ここに一匹の魔物が来てるので、早速戦闘に入るぞ。トロンとアストンはボクの後ろに下がって」

「私たちはどうするんです~?」

「リアスはマナと二人で向かってくる魔物と戦ってみな。後ろからアドバイスはしてあげるしさ」


 その言葉にリアスとマナは驚きのあまり目を見開く。ついでにホーソンたちもスレイの提案に絶句している様子だったが、すぐにもとに戻ったホーソンがスレイを呼び寄せる。


「大丈夫なのか?あんな成人間近のガキで、しかも今までまともに戦ったことのない素人にいきなり魔物討伐なんて無理じゃねぇのか?」

「大丈夫ですよ。ボクなんて十歳で魔物の討伐をしましましたから、それにあの子たちをそんなの弱く鍛えていたつもりはありませんよ」


 そうこうしている間に魔物が目と鼻の先に来ていることに、スレイと冒険者たちは気づいていた。


「何かあったときはボクが責任をとりますよ」


 とれる責任だったら何でもする。そう思いながらスレイはマナとリアスの二人を前に出すと、しばらくして曲がり角から現れたのは一匹のゴブリンだった。

 見たところ武器はなにも持っていないが、それでもあの鋭い爪はそれだけでも凶器になるが今のこの子たちならば、初めての相手にはちょうどいいだろうと思った。


「よし、ファーストアタックはマナとリアスが魔法で攻撃、そのあとは好きなようにやってみ」

「先生適当すぎ」

「実戦は慣れが重要だ。ほらほら、ゴブリンもこっちを視認して向かってきたぞ」


 ゴブリンが初めての獲物を見つけて走り出す。

 それを見たマナとリアスはメイスと槍をゴブリンに向けて魔法を放った、


「ファイヤー・アロー!」

「アイス・ランス!」


 炎の矢と氷の槍が真っ直ぐゴブリンに向かって飛んでいく。後ろで控えていたトロンとアストンは二人の使った無詠唱魔法が気になったらしいが、スレイの関心は別であったがまだこのときにはなにも言わない。


 向かってくる炎の矢と氷の槍を見たゴブリンは、それを難なくかわして向かっていく。その際、魔法を避けられたマナとリアスは呆然とし、そこでスレイの声を張り上げる。


「マナ!リアス!敵が来ているのに呆けるな!武器を使って応戦しろ!!」

「「はっ、はい!」」


 スレイの指示を聞いて瞬時に身体強化を施した二人は、ゴブリンを左右から挟み込むような位地に移動すると、

 マナがメイス振り上げ、リアスが槍を突き刺そうとした………のだが。


「あっ、危ない!?」

「えっ、キャァッ!?」


 リアスの放った槍をかわしたゴブリン、その槍の矛先は接近してゴブリンを殴ろうとしたマナに向かって突きつけられた。このままでは盛大フレンドリーファイヤ、同士討ちになってしまう。

 助けなければと、身を乗り出したホーソンたちがマナを助けるために走り出そうとしたが、それをスレイが手を上げて止めるのでホーソンはスレイを睨み付けた瞬間、ガキィーンっと金属同士でぶつかり合う音が響いた。

 ホーソンたちが顔をあげると、マナが腕につけた盾で槍を受け止めているところだった。とっさにマナが盾で槍を受け止めたのだろうとわかり、ホーソンたちから安堵の息が漏れた。


「マナ!リアス!同時にやろうとするな!マナは盾で守りつつ接近してメイスで一撃を当てろ!リアスは後方から隙を見て仕留めろ!」

「「はい!」」


 返事をしたマナとリアスが動いた。

 まずはマナが後ろに下がったゴブリンに向かって飛び込むと、鋭い爪でマナを切りつけようとするゴブリンだったが、それを盾で受け止めそして弾き返す。腕を弾かれて大きく空いたゴブリンの胴体に向かって、マナは渾身のフルスイングをかました。


「ヤァアアア――――――――――――っ!」


 振り抜かれたメイスがゴブリンの胴体を的確に打抜き、ふらついたところに今度はゴブリンの頭に向けて、真上からメイスを振り下ろされる。


「グギャァアアアア!?」

「やぁああああっ!!」


 マナがメイスでゴブリンを殴り飛ばすと、吹き飛んだところ目掛けてリアスが槍でゴブリンの喉元を突き刺し、壁にゴブリンを押し付けるとそのままゴブリンが息絶えるまで力を抜かない。

 痛みによって悶え苦しむゴブリンは、リアスを殺すべく爪を向けるが距離があるせいで届かない。しばらくして動かなくなったゴブリンを見てリアスはゆっくりと槍を引き抜いた。


 戦いが終わった。それを理解すると同時にマナとリアスがそろって床にへたり込んでしまった。

 どうやら、緊張が解けて気が抜けてしまったのだと理解したスレイは、二人の方に近寄ると二人を立たせるためにすっと手を伸ばした。


「お疲れさま、どうだった初めての実戦は?」

「………怖かった。とっても………メイスで殴るのも」

「ゴブリンを刺した感触が………ちょっと気持ち悪いです」

「その感覚を忘れないことだよ。初めて殺した生き物の命の重さだから」


 命の重さと言われてマナとリアスはギュッと両手を握りしめていた。初めて自分の手で殺めた命、それがたとえ魔物であったとしても実際に自分の手で殺したことには代わりないのだ。もう魔物を狩りたくないと言うならばそれでもいい、だがその事を忘れてはほしくない。

 だが、まだ子供の二人にその事実は少し重いのかもしれないと思ったスレイは、もう一言だけ付け加える


「人ってのは生きていく上で生き物の命を糧にする。だからさ、あまり気にしすぎるんじゃない。ボクはただ、それを忘れるなってことだよ」

「でも、命を奪ったんですよ?」

「それを言ったら先生なんて魔物だけじゃなくて人だって殺してるぞ?盗賊だけど………まぁ、これから一週間、嫌って言うほど魔物と戦うことになるんだからさ」


 マナとリアスはこれからも魔物を手にかけなければならないことに、少し複雑そうな顔をしているのを見て、そう言えばとスレイは昔、ミーニャを初めて魔物狩りに連れてったときも同じような反応してたな、少し懐かしい気持ちになりながらスレイはナイフを一本手にとって二人の狩ったゴブリンに近づいた。


「それじゃあこっからは、魔物の解体実習だ。初めは先生がやって見せるから、次に魔物を倒したときは自分でも出来るようになろうな」


 さすがにそれは無理!っと全員が叫んだが、そんなことも分かっているので解体はホーソンたちに立ち会ってもらうように頼んであった。


「それじゃあ、まずは魔物の血抜きからだな」


 そう言いながらゴブリンの足を持ち上げたスレイは、槍に突かれた喉元から流れ出ている血を空いていた小瓶に集め始めた。


「先生、血なんて集めてどうするの?飲むの?」

「飲まないっての!………魔物に囲まれたときに適当な魔物に投げて囮にするんだよ。それなりの武器にはなるから全員一本は持っておきな」


 スレイは血で満たされたガラス瓶をみんなに手渡す。初めは気味悪がっていた生徒たちだったが、トロンとアストンがふざけてか蓋を開けようとしたので、釘を指すためにスレイは忠告をする。


「間違っても飲むなよ。それを飲んだら、半日は腹痛と嘔吐感に苦しむことになるからな。それで飲んでみようと思うなら止めはしない………ただ吐いても吐いても続く地獄の苦しみを味わうことになることだけは忠告しておくからな」


 ちなみにこれは体験談だ。

 昔、死霊山での修行中に師匠が狩ったゴブリンの血抜きをしていたときに、手元に小瓶がなかったがために皮袋の水筒に入れていた。それを知らずにスレイが水だと思い込んで飲んでしまい上記の地獄の苦しみを味わった。

 ついでに丸一日吐き続けたせいでげっそりと痩せてしまったほどだ。


 その話を聞いて アストンとトロンはそっと瓶の蓋を絞め、そして空間収納に埋没させる。まぁ、使わないに越したことがないので別にそこにしまっていてもいい。


「さて、次に魔物のコアだけど、コアは魔物にとって心臓と同じだ。だから人型の魔物の場合は人間の心臓に当たる部分に存在する」


 スレイはナイフでゴブリンの胸を切り開き、骨を折りながら胸の中を切り開いていく。さすがにその光景はグロすぎて生徒たちは目をそらそうとしたが、マナとリアスが自分の倒した魔物ということでしっかりと見ていた。

 女子二人に負けてられないとばかりに男子二人もしっかりと見ていた。


「よし、これが魔物のコアね。リアス」

「えっ、あっ!」


 スレイは切り取ったコアをリアスに渡した。


「仕留めたのはリアスだからそれはリアスの物ね。小降りだから銅貨一枚くらいにしかならないけど」

「えっと………ありがとうございます。大切にします」


 コアでそう言うことを言わないでほしいなと思いながら、スレイはコアを取り除いたゴブリンの死体に抜き取った血を流した。

 その行動を見ていたイザベラが話しかける。


「ちょっとスレイ!あなたそれ!?」

「えっ?あぁ。もちろん魔物を集めるためですよ?他の生徒にも戦わせないと」

「スレイさん!いくらなんでも無茶じゃ」

「間引きますから大丈夫です」


 スレイは笑顔で生徒たちの方を見る。


「それじゃあ、もうすぐ餌に飢えた魔物を集まってくるから、ちょっとマジで戦ってみようか、もちろんさっき戦わなかったアストンとトロンもね」


 この時、この場にいる全員は思った。


 こいつ、魔物なんかよりもよっぽど恐ろしい悪魔かなんかなんじゃないか?


 っと。

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