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迷宮に入る前のあれやこれ

 レクスディナの号令のもと集まったスレイたちだったが、そこで魔法学園の教師らしからぬ服装をしていた──言っておいてあれだが、魔法使いらしい服装ってなんなんだろう?──ために、他の教師たちから陰口を叩かれる結果となってしまった。


「前々から魔法使いらしくはないと思っていたが、まさか剣を差して来るとは……アルファスタ先生は魔法使いとしての矜持は持っていらっしゃらないようだ」

「学園長が一目をおいておられるとお聞きしたが、これはとうとう耄碌されたかもしれませんな」

「いやはや全くその通りですな。それに実戦魔法訓練とかいうあの授業を拝見なさいましたか?生徒たちに魔法を使わせずにいったい魔法の何を教えるというのでしょうね?」

「そうですな。やはり冒険者上がりの教えなど野蛮で仕方がない」


 そう言っているのは前々からスレイたちの実戦魔法訓練の教室について、あまりいい印象を持っていないらしいという噂をよく聞く教師の一団だ。


 たまに学園ですれ違ったときに挨拶をすると見下したような視線を向けてきていたし、噂はよく聞いていたので知っていたのだが本人たちがここにいるのに堂々と陰口を言うとは、いささか敬意をもってしまった。


 そもそも冒険者上がりなのは認めるが、あの教え方は詠唱途中に接近されたときに、己の身を守れるようにという理由で接近戦を教えていただけで、そんなことを言われる筋合いはない!そう心の中で怒っていると、隣で同じように話を聞いていたクレイアルラがそっと耳打ちをしてきた。


「彼らは人族絶対主義者の貴族のようです。あまりかかわり合いのならぬようにしなさい」

「………分かりましたけど、言わせていていいんですか先生?」

「私、ルラ先生の悪口をいうの許せません!」

「ユフィ、怒ってくれるのはうれしいのですが、貴族と事を構えて良いことはありません。ですので取り合わない方が良いです。わかりましたね、特にスレイ!」

「わかってますって。ボクだって貴族に目をつけられるのだけは勘弁してほしいですから」


 そのせいで今までどれだけひどい目にあってきたか、思い出しただけで気が滅入ってしまいそうになったスレイは大きなため息をついていると、レクスディナが生徒たちを集めて組分けを発表し、そこを担当する教師と冒険者も一緒に発表されることとなった。



「それじゃあ、今日から一週間君たちと一緒にダンジョン探査に動向する、スレイ・アルファスタだ。一週間一緒に頑張りましょう」


 初日ということでダンジョンにはいる前に挨拶をしようと思ったので、続々と他の組が出発をはじめているなかでスレイとユフィ、それにクレイアルラの組だけは少しだけその場に残って話し合いをすることにした。


「それじゃあみんな、一人づつ自己紹介と得意な魔法を言ってください」


 スレイは目の前にいる四人の生徒を見る。

 男女二人づつのパーティーでその中にはクレイアルラの授業に出ている生徒もいる。そこにスレイと側に冒険者のパーティーも控えている。

 最初は誰から名乗りをあげるかと思ったら、銀髪の女子生徒がスッと手をあげて自己紹介を始める。


「マナ・ウィンターフィール。得意な魔法は身体強化と炎魔法。それと最近メイスも使います」


 そう言って掲げているのはメイス状ので他にも腕には小さめのスモールシールドが付けられている。

 この子はクレイアルラの授業をしっかりと受けて、それを実戦に取り入れようとしているその姿勢は評価する。

 だが、ローブの下は普通の服を着ているだけという点は減点だ。

 不足の事態に備えるために革鎧の一つでも身に付けておかなければならない。


「よしそれじゃあ次──」


 それから残りの生徒たちの名前を確認し、名前と得意な魔法は以下のとおり。

 茶髪の男子生徒がアストンで、炎の魔法が得意。

 赤髪の男子生徒がトロンで、風と土の魔法が得意。

 ブロンドの女子生徒がリアスで、氷の魔法が得意であり、彼女はマナと同じくクレイアルラの教室に出ているためスレイとも顔見知りだ。

 リアスは槍状の杖を持ってきていたがこちらも鎧を着ていなかった。


「それじゃあ、最後に確認だけど一週間分の食料とか、ダンジョン内で必要な物とかはちゃんと持ってきているんだよね?」

「えっ?そう言うのって学園が用意するもんなんじゃねぇの?」


 そう言ったのはアストンだった。

 それに続くようにマナ、リアス、トロンの三人も同じようなことを話だし、逆に何を持ってきたのかと聞くと着替えだけだという。

 それを聞いてマジかと思ったスレイは、まだ出発のしていなかったユフィとクレイアルラの方を見ると、ちょうど二人と視線が合い三人はなにも言わずに無言で集合した。


「問題が発生しましたね。あの子達、着替えはかろうじて持ってきているようですがテントもなければ寝袋もないようです」

「必要な物を今から買いに行かせるわけにはいかないですよ~」


 そう言うのには理由がある。

 なんでも安全の面から一時間にはダンジョンの門を一度閉じるらしく、あと三十分くらいしか時間がないのだ。

 クレイアルラが大きなため息を一つ付くと、ここにいない人物に向けての不平不満を口にし始めた。


「どうせ師匠の悪巧みでしょうね。先に行った方々も同じようなことに気がつくはずですが………どうしたものでしょうかね」

「………先生、出現する魔物のリストを確認したんですけど、食料面はなんとかなりそうですよ」

「えっ………本当に?」


 スレイがそう言っているので、いったい何を食べるというのだろうか、そう思ったユフィとクレイアルラがリストを確認してみるが、オーソドックスな魔物であるスライムやゴブリン、それにオークにウルフ、他にはウォンバットにレッドベアー等々………いったいこの中のどこに食べられる魔物がいると言うのだろうか?

 二人が眉を潜めながらスレイの顔を見る。


「スレイくん、この中に書いてある魔物の中でいったいどの魔物が食べられるのか、私とルラ先生にも教えてもらってもいいかな?」

「えっ、これとか、こいつとか、こいつも以外と食べられるよ」


 そう言いながら指を指していった魔物の名前がこちら。

 マンティコア、アイアン・ホッパー、ロック・アント、ファイヤ・リザード、アイスウルフ、他にはゴブリンにオーク等の名前にも指を指した。


「待ちなさいスレイ、あなたゴブリンやオークを食べたことがあるんですか?」

「有りますよ。ただ、口にいれた瞬間に臭みも酷いし味もこの世の物とは思えないほど不味いですけどね………無いよりはマシですよ?」


 スレイの顔から血の気が失せる。

 どうやらその時のことを思い出したらしい。

 いったいいつそんな肉を食べたのか、小さい頃から今までずっといるユフィとクレイアルラが一度よく思い出してみた。

 するとあることを思い出した。


「もしかして、ルクレイツア先生と一緒に死霊山に行ったときに?」

「うん。酒に酔った師匠が、ゴブリンを食べてみたいとか言い出しやがりましてね。もう夕食作ったっていうのに、もう夜だっていうのに何が悲しくてゴブリンなんか狩りに行かなきゃならねぇんだよ!っと心の中で叫びながら狩りましてね、森の一部を凪ぎはらってね、それとオークも一緒に狩って料理しましたよ。そしたら不味いだのなんだの文句をいい腐りやがって、その時はじめて師匠に殺意を沸きましてね朝まで斬り合いですよ。いや~すごかったなあのときは、怒りでどれだけ血が出ても戦えましたし──」

「もういい!もう良いですから!戻ってきて来てくださいスレイ!」

「お願いスレイくん!時間無いから、もう分かったからそんな生々しい恨み節と流血沙汰を嬉々とした笑みを浮かべながら話さないで!?スッゴい怖いから!?」


 目元にだけ影が射し暗く笑いながら過去の体験を語っているスレイ。

 その姿はまさに恐怖でしかなかったが、そんな気が更々ないスレイにはいったいユフィたちは何を言っているのか分からなかった。


「まぁ、ゴブリンとオークはさておき、他の魔物でしたら無理をすればなんとか食べられそうですね」

「そうですね。虫って食べられるって聞きますから、食べても大丈夫なはずですけど………問題は他にも有りますからね」

「テントはさすがに無理ですけど、カンテラやロープ、あと普通のナイフくらいならボクの貸し出しますよ。何かったときのために予備でいくつか持ってるんで」


 実際には全部スレイの手作りの物で、腕を再生させてから訓練を禁止されていた時に暇で暇でしょうがなかったため、旅で使えそうなカンテラや、旅で使えそうな調理器具なんかを無限に量産した。

 ついでにナイフはソードシェルを作るために自分で作り、ロープは予備でいくつか持っていた物だ。

 さすがにテントの予備は持っている訳がないので貸し出しは出来なかった。


「「快くお借り致します」」


 ユフィとクレイアルラがスレイに頭を下げて、ついでになにか武器も貸してほしいと言われたので、スレイは予備の武器も──と、言っても前に大量に買い漁った鉄の剣や、槍に斧等も持ってきていた──渡しておいた。



 自分の受け持つ生徒たちのところに戻ったスレイは、武器の持っていない生徒に初心者でも扱いやすい槍を渡そうと思ったが、迷宮内は狭いので槍は使えないだろうと思い剣を渡した。


「先生、オレ剣なんて握ったこと無いで~す!」

「俺もないぞ。ってか剣なんて必要ないだろ?俺たちには魔法があるんだからさ!」

「いいから持っていなさい。自衛のためだから。それとダンジョン内では魔物の解体もしてもらうつもりだ。今から配るナイフを──」

「はぁ!?なんでんな事までしなくちゃならねぇんだよ!そんなのそこの冒険者にでもさせりゃあいいだろ!」


 そう言ったのはアストンだったが、他の子たちも多少はその意見に賛成のようだった。

 ちょいと待とうかアストンくん。そんなことを血の気の多い冒険者さんたちの目の前で言わないで!?そうスレイが心の中で思いながら、横目でチラッと冒険者さん方の方を見ると、こめかみに見事な青筋をたててらっしゃいました。


 ちなみにこの人たちとスレイは顔見知りで、男女五人のパーティーでリーダーで斧使いのホーソン、ナイフ使いのメルクーリと短剣使いのメイリーンの双子の兄妹、それに回復魔法が得意な魔法使いのポーラと同じく魔法使いで猫の獣人のベラロナ、若干女性の比率が高い気がするがまぁ気にしないでおこう。


 で、普段は大人しいみなさんなのだが、珍しいことに怒ってらっしゃる。

 特に普段は聖女のような笑みを浮かべているポーラさんが、おっとり顔の後ろで悪魔を呼び出したほどに………やばい、マジで幻視できるよ。


「待て待て、君たちの中には魔法師団を目指している子はいないのか?」


 そう聞くとアストンとマナ、それにリアスの三人が手を上げた。

 どうやらトロンは別の仕事をしたいらしいが、今はそんなことはどうでもいいとして、スレイは手を上げた三人のことを見ながら話を始めた。


「魔法師団では魔物の解体も行うことがある。ここで多少なりともその知識を持つことは悪いことじゃないはずだが?………それにもう一つ、君たちにとってとてもいいお知らせがあります」

「なんですか、いいお知らせって?」

「ここで自分で狩った魔物の所有権は狩った人の物、つまり魔物を狩ればコアや素材が手に入る。それを売ればお金が手に入る。つまり遊ぶお金が手に入るということだ!」


 ババン!っと音が鳴るかのような幻聴の後、生徒たちの背後で落雷が鳴り響いた、かのような幻想が見える。

 学生と言うのは常に金欠、さらには夏休みというお金が消えていきやすいこの時期にまさかの臨時収入──とは言えゴブリンやオークではたかが知れているかもしれないが──、それを聞いて目の色を変えた生徒たちは一斉に差し出されたナイフを手に取った。


「よっしゃ!やるぞおらぁあああ―――――――――――――――――っ!!」

「「「おぉおおおおおおお――――――――――――――――――――――っ!!」」」


 やる気を出してくれたのはうれしいが、ちょっと騒がしくないかこいつら?そう思いながら拳を突き上げて雄叫びをあげている生徒たちを見ながらそう思っているスレイは、この子たちにいったいどのタイミングで今日からの一週間、魔物の解体だけじゃなく、魔物そのものを食べなくちゃならないって言わなければならないんだろうなっと、あまり考えたくはないことを考えながらスレイは未だに半切れのポーラ、ベラロナ、メイリーンの女性冒険者三人娘に頭を下げながらお詫びのお菓子を差し入れして、ホーソンとメルクーリには前に買ったお酒をお詫びに渡して機嫌を取った。

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