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終わったあとの出来事

始めに謝罪を、以前投稿した話に誤って先の話を投稿してしまいました。

お読みいただいていました皆様には、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。

 まずは、魔眼コレクターの事件の結末からお話ししよう。

 戦いが終わったあと、動けないスレイの代わりにユフィがトラヴィスたちを呼びに行きコレクターは拘束され、その身柄は魔法師団の預かりとなった。取り調べやら今までに回収したと思われる魔眼を取り返すために未だに拘束が続いているらしい。


 その報告を受けていたスレイはボォ~っとしながら聞いていると、対面するように座っているトラヴィスが咳払いを一つしてから苦言を告げた。


「それでスレイ、お主聞いておるのか?」

「ん~聞いてるよ~」

「だったら真面目に聞けよ!女とイチャ付きながらって、見せつけてるのか?見せつけてるんだろお前!?」


 そう叫び散らしているのはスペンサーだった。

 スペンサーが怒っている理由であるスレイは今、アニエスの膝に頭を乗せて横になる。いわば膝枕の格好で二人の話を聞いていた。

 なぜこのような格好で話を聞くことになったかと言うと、魔眼コレクターとの戦いの際に使った闇聖の炎の反動がいまだに回復していないからだ。


 闇の業火と光の聖は、本来ならば混ざることができない相反する二つの炎だ。それを混ぜ合わせ安定させるため、身体の中に残っていた全魔力と闘気を使い斬り、それでも足りなかったため生命を維持するのに必要な分の魔力まで注いでしまったのだ。


 そのため、事件解決から数日経った今でもその時の虚脱感が抜けきらず、気を抜いてしまうと倒れてしまいそうになるのだ。

 それでなぜアニエスが膝枕をしているかと言うと、ただ単にちょうど横になったときにちょうど良い高さ眠りやすかったからだ。暇なときにしてもらっていたのだが、周りで話を聞いていたみんなから嫉妬の眼差しを受けているので、そろそろやめておくことにしたいがいかんせん身体が言うことを聞いてくれないので、もう少し待ってもらう。


「怒らないでくださいよ~。未だに身体が言うことを聞かないんですから」

「相反する二つの炎を合わせての一撃か、全くわしの孫はとんでもない無茶をしおる」

「ほっといて~、よっと!」


 まだダルい身体に鞭を打って起き上がったスレイをみんなは心配したが、大丈夫と一言声をかけてからトラヴィスとスペンサーの方を見ながら話しかける。


「それで、あの件はどうなったんですか?」

「そうじゃな、その件も含めてこれから説明しよう」


 あの件と言うのは魔眼コレクターから出てきた物についてのことだ。


 あの戦いのとき、スレイが切り落としたコレクターの腕はトラヴィスたちによって回収され、そこに埋め込まれていた魔眼は全て取り除かれることになったのだが、その中で一つの魔眼だけは必ず潰してもらうようにお願いした。


『なんでじゃスレイ?魔眼であっても証拠の一つじゃ潰すわけにいかん』

『………約束したんだよ。全員を返してあげるって。だからさ、お願いだよおじいちゃん』

『はぁ……かわいい孫の頼みじゃどれを潰せばよい?』

『そこの魔眼、赤い目のやつ』


 トラヴィスにはどういう意図があってそのことかはわからなかったが、スレイの頼みということで街に帰り魔眼が取り除かれたのちに潰されることが決まった。


 これはトラヴィスから聞かされた話なのだが、魔眼を潰したと同時に溢れんばかりの死体が出現したそうだ。その話を聞いたとき、ライアが死体の確認をしたいと言い出し、そこでコレクターによって殺された家族の遺体を見つけることができたそうだ。

 他に見つかった遺体については、国王陛下の呼び掛けによりギルドを通して魔眼コレクターの捕縛が伝えられ、回収された遺体を家族の元へと送り返されることが決まったが、街ごと滅ぼされたりかなり昔に亡くなった人の遺体に関しては、すでに引き取り手がこの世にいない遺体についてはこの国に埋葬されることが決まった。

 その中にはライアの家族の遺体も含まれていた。


「ライアさんの家族のご遺体はここに埋葬されることになった」

「……ん。ありがとう」


 トラヴィスから差し出された一枚の紙を受け取ったライアは、それを胸に抱いて嬉しそうに微笑んでいる。


「今度、みんなでお墓参りに行きましょうねライアさん」

「……ん。みんなのことを紹介したいから」


 ライアのその言葉を聞いてスレイたちは微笑みながらうなずいた。日にちは改めることになるかもしれないが、みんなで必ず行こうと頷き合っていると、目の前に座るトラヴィスが咳払いをした。


「して、今回のお主たちの報酬についてなのじゃが……ヴァーチェア王国側から、スレイに男爵の爵位を──」

「ごめんおじいちゃん。今すぐにでもお断りの手紙をしたためなければならないので、今日はもう帰ってもらっても良いかな?」


 スレイはトラヴィスとスペンサーを立たせて玄関まで連れていこうとしたが、それよりも先にライアが止めに入った。


「……大丈夫だよ、スレイ。視てきたけど、爵位はもらわなくても良いから」

「何で分かったのじゃ?」


 ヴァーチェア側から、今回の件でスレイに貴族位の拝命の打診が上がったが、今回は多額の謝礼をすることにしたと言う話をしてようと思ったが、なぜそれが当てられたのか気になった。


「……さっきも言ったけど視てきたから」

「そっか~、ならもういい~。はぁ~い、おじいちゃんたちを離してあげてねぇ~」

「おじいさま、お茶菓子をお持ちしますから座って待っててください」

「スペンサーさんも、お茶を淹れ直してきますから」


 立たされていたトラヴィスとスペンサーがリーフとノクトに座らされて、新しいお茶とお茶菓子が目の前に用意されたが、それよりもまずは聞きたいことがあった、


「のぉ、ライアちゃんや、見てきたとはいったいどう言うことなんじゃね?」

「……私の未来視の魔眼の力で、スレイの爵位の件がなかったことになる未来を視たから」

「ちょっと待て、お前の魔眼は人の死を視る物だと聞いていたが………?」


 ちゃんと報告はしていなかったが、あの戦いの後ライアの魔眼は変わった………いや、正確には本来在るべき能力へと戻ったと言った方が正しい。

 これはスレイとユフィ、そしてノクトの三人で立てた仮説でしかないが、もともとライアの死視の魔眼の副次効果である未来予知、アレこそがライアの魔眼の本来の能力だったのではない。ならば、なぜ人の死を視ることができるのか、それは魔眼コレクターによって家族を殺される未来を視て、大事な人を無くしたくない、そんなライアの人の強い思いが力が改編されてしまったのではないか。そして元凶となったコレクターを倒したことで魔眼の力が元に戻ったのではないか、という仮説を立てそれをみんなにも話していた。


「ふむ、想いによる力の改編のぉ……にわかには信じられぬが、確かにそれならば辻褄はあうのぉ」

「まぁ、どれもボクたちが立てた仮説だしね」

「そうじゃが、実際には何があったのかは分からぬしの………さて、そろそろいこうかの」

「はい」

「ではスレイ、今度は謝礼を持ってくるからの」

「謝礼はいいけど、爵位の拝命だけはやめてよ」


 帰っていくトラヴィスとスペンサーをその場で見送ったスレイは、疲れたのでもう一度アニエスの膝の上に寝転がると、アニエスに叩かれてしまった。


 あれからさらに数日、完全復帰を果たしたスレイはライアたちと共にトラヴィスから教えてもらった集合墓地に来ていた。


「……お母さん。みんな来たよ」


 ライアは真新しい墓の前で腰を下ろすとそのお墓に手に持っていた花束を添える。そんなライアの後ろでは、一緒に来ていたスレイたちも持ってきていたお花と、それと一緒に持ってきたお供え物を供えると、スレイたちは揃ってお墓の前で手を合わせ、一通りそれを終えるとライアはお墓の下で眠っている家族に向かって、家族と離れていた間のことを事細かく話し始めた。

 教会を出て、今までいた村が滅びたこと、女将さんと出会ってワーカーとして働きだしたこと、仕事を失敗し続けてなかなかお金を稼げなかったこと、みんなと出会ったこと、冒険者になったこと、初めて冒険者として仕事をしたこと、初めて恋を知ったこと、新しい家族が出来たこと、初めてみんなで過ごした夜のこと、楽しかったことや悲しかったことをライアは話せることを全て話した。

 途中、なんだか生々しい夜の事情を話し出そうとしたライアをスレイは止めようとしたが、逆にユフィたちによって止められることとなり、スレイは一人解せぬ、という顔をしてみんなのことを睨んだが、せっかくのお墓参りに怒ってはいけない、そう思ってスレイは我慢して話を聞いていると、ライアがみんなのことを紹介し始めた。


「……みんなにも紹介するね。まずは旦那さまのスレイだよ。かっこよくて、強くて大好きな人、ちょっと子供っぽいところにあって、厄介ごとをつれてくる人」

「ちょっと待とうかライアさん。なんだか人のことをけなしにかかっている気がするんですが!?」


 たまらずスレイがツッコミを入れると、ついにやっちゃったかとみんなが顔を覆ってしまっていると、その様子を見ていたライアが小さく笑うと、話の続きをし始めた。


「……大変だけど、みんなのことを思って行動してくれるとっても優しい人だよ」


 綻ぶような笑みを見たスレイは怒りを通り越して、まんざらでもないような顔をしていた。


「……次はユフィ、スレイの最初の奥さんで、魔法使いで、武術の先生で、料理が得意で、私よりもおっぱいがあってうらやましいことこの上ない」

「ちょっとライアちゃん!お胸の話なんてしなくて良いでしょ!?」

「ま、まぁユフィ殿落ち着いて」


 ユフィさん、自衛のために持ってきていた予備の杖を取り出し──いつもの杖は道具屋でメンテナンスに出している──、ライアを小突こうとしていたのをリーフに止められる。


「……いつもの私たちのことを心配してくれるとっても優しい人」


 ユフィはライアからのその評価を受けてまんざらではない様子をしていた。


「……それで次はノクトだけど、私におちょくられていつも怒るし、おっぱい小さいのを気にしてるし、スレイも小さいって文句を言ってる」

「お兄さん!それってどういうことですか!わたしのお胸じゃ不満なんですか!!」

「言ってない言ってない!ボク、ノクトの胸大好きですから!?」


 なんかとんでもないことを口走っている気がしたが、これくらいのことを言わなければノクトに殺されると恐怖したからだ。


「……私の初めての友だち。とっても大切な子」


 ライアからの突然の告白を聞いてほほを赤らめたノクトがふっと横を向いた。


「ライアさん。次からはもっと分かりやすいデレ方してください。思わずお兄さんを殺しちゃうところでした」

「ノクトさんや、あなた一応シスター見習いだったんだよね?神聖なる墓地で殺しはいけないとお兄さんは思うんですけど、そこのところはどう思っているんですか!?」


 いましがたかわいい奥さんに殺されそうになったスレイは、ノクトに叫びながらツッコミをいれる。


「……次はリーフ。私に文字を教えてくれた先生、戦いのときはずっと前に出てみんなを守ってくれる。それとおっぱいがみんなの中で一番大きくて、いつかもぎ取りたい」

「やめてくださいよ!」

「……でもみんなの中でずっと誰かを気にしてくれる、とても優しいお姉ちゃん」

「ぅん!仕方ありませんね、今回は許してあげます」


 リーフは抜きかけていた剣を鞘に納めてライアを刀身で叩くのは止めておいた。


「……次にラピスは、私たちよりも押しが強い。それに結構ムッツリさん」

「あら、わたくしのことをそのように思っておられたのですか?」

「……いつも誰かを思ってくれる優しい子」

「わたくしは、自分のことを覚えていませんから」


 一瞬だけ悲しそうな顔をするラピスだったが、すぐに笑顔に戻った。


「……最後にアニエスは、ツンデレで一番年下だけど、スレイがアニエスの尻尾が好きで、よく甘えてるからちょっと嫉妬することもある」

「ツンデレってなによ!」

「まっ、まぁ。アニエスさまも落ち着いて………ところでスレイさま、今のお話は本当ですか?」


 ラピスを筆頭に疑いの眼差しを向けられたスレイ、事実なのでそっぽを向いた。

 天然犬っ娘の尻尾に抗えるものなど、この世にいるはずなないのさ。ついでにスーシーのも、抗えるものはいないはずだ──もちろん尻尾のモフリ具合的な意味で──。


「……心がしっかりとしていて、みんなによりそって支えてくれてる。私たちの中で一番強い娘」

「ふん!誉めたって夕飯は豪華にはしないわよ」


 そう言っておきながらちゃっかり作るんだろうなっと、ここにいるみんながそう思っていると、顔をあげたライアがお墓を見て微笑んでいる。


「……もう、大丈夫だから、向こうでゆっくり休んでね」


 最後にそう言って立ち上がったライアがみんなの方を見ながら、帰ろ、っと声をかけてライアを先を行き、それに続くようにユフィたちも歩いていった。


 みんなが去っていくのを見たスレイは、もう一度だけお墓に手を合わせてからみんなの後を追って歩き始めようとしたとのとき、スレイは左目にとても鋭い痛みが走りうずくまってしまった。

 ドサッとなにかが崩れる音を聴いて一番近くにいたアニエスがすぐに駆け寄った。


「ちょ、ちょっとスレイ!?あんたまさか、まだ体調悪かったんじゃないでしょうね!?」

「いっ、いや………ちゃんと、治ってるから心配しないで………これ、魔眼が、突然発動した………だけだから」


 どうしてここで魔眼が発動したのか、目を押さえながらスレイがその事を考えていたが、そもそもここ墓地、恨み辛みが凝り固まっている……かもしれない場所だ。恨みを晴らしてくれ、的なことを訴えかけてきたのかもしれないとスレイは思ったが、そんなことはなかった。

 ガサリと誰かが葉っぱを踏んだ音が聞こえ、顔をあげるとどうやらライアが近くに来ていたらしいのだが、その視線が自分の遥か後方に向いていることに気がつき、いったいどこを見ているのかと思っていると、ライアが小さな声で話し始めた。


「……ねぇ、スレイ………あれも、その魔眼の力なの?」

「……………………………?」


 顔を上げたスレイはみんなが揃って後方を見て、どこか震えているように見えた。

 いったいなんだろうと思ったスレイが、左目を押さえながら後ろを振り向くと、ハッと息を飲むこととなった。


 真新しいお墓の前に、透き通る妙齢のシスターと小さな子供たちの姿がそこにあった。


 あれが誰なのか、スレイたちにはすぐに分かったが誰も声が出せない。

 今まで生きてきた中で、一番不思議でそして神秘的な光景に誰しもが言葉を失っていた。

 しばらく無言でその光景を眺めていると、シスターが小さく会釈し子供たちが大きく手を降ると、霞のように消えていった。


 全員は、言葉を出さずにジッとその光景を見据えていた。しばらくして誰かが小さく告げた。


「そろそろ、帰ろ」


 誰が言ったのかは分からない。そして、みんながゆっくりと歩き始めたそのとき、強い風がみんなの間を吹き抜けた。

 ──ライアのことをよろしくお願いします。

 それはスレイの耳に聞こえた幻聴だったのか、だけど、ただ一つ、これだけは言いたかった。

 ──任せてください。

 そう、心の中で返したのだった。

次回から学園迷宮の話になります。

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