巨大な化け物
お久しぶりです。前回の投稿からから一週間、ちょっと書き直しをしてたため遅れてしまいました。
黒と白の二振りの剣を握り直したスレイは、ユフィたちの顔を見ながらもう一度コレクターと戦うべく居場所を探るが、どこにもいないことに気がついたスレイたちは、コレクターがどこから襲撃を仕掛けてきてもいいように周りを警戒しながら背中を会わせるように立った。
「……どこ、あいつはどこに行ったの!」
全身に竜麟を纏い、竜眼によって視覚を広げ極限にまで感覚を研ぎ澄ましたライアが、鬼気迫る勢いで策敵を行っているが全く見つからない。それはスレイたちも同じだ、スレイとユフィ、そしてノクトの三人は直線的に索敵魔法を発動させ、魔眼コレクターの行方を探しているのだがどこにもいない。
リーフとラピスも闘気を使って強化された身体能力を使い、策敵を行っているが全く見つからない。まるで存在そのものが無かったかのように今までそこにいたはずのコレクターの気配が見つからない。
「嘘でしょ?いくら気配を消すのがうまくたって見つけられる自信があったのに」
「それだけあいつの気配遮断がうまいってことだろ」
「でも、それでもおかしすぎます!魔力もなにも感じないなんて!」
突如として姿を消していて探知魔法にも探査魔法にも、魔力などを使わない気配を探るすべでも引っ掛からないとなると、れはかなりの異常なことだった。
このままあのコレクターを取り逃がしてしまったら、そう考えるとスレイたちの顔には焦りが見えている。
どこだ!どこにいる!!スレイが剣を握る手に力を込めると、再びスレイの耳元に誰かの声が聞こえてきた。
──あいつは気配を消して地面の中にいるわ。すぐに教会に向かって!今ならまだ間に合うわ!!
そんな声を聞いた瞬間にスレイは踵を返しながら全身に闘気と魔力、そして竜力によって身体強化を行うと勢いよく地面を蹴って走り出した。
「「「「「────ッ!?」」」」」
突然のスレイの疾走に驚きの声をあげたユフィたちだったが、スレイの向かっている場所を見てラピスがスレイの後ろを追いながら訪ねる。
「スレイさま!なぜ教会へ向かわれるのですか!」
「声が聞こえたんだ。あいつは今、魔眼の力で気配を消しながら地面を通って教会に向かってるんだ!」
スレイが走りながら大きな声で叫ぶと、後ろで魔眼コレクターが現れた時のために待機していたユフィたちも走り出した。
「……間に合う?」
「分からない。もしかしたらっ!」
戦っていたのは教会のすぐ側、先に動いていた魔眼コレクターはもうすでに中にいるかもしれない。
そんな不安を胸に抱きながら、スレイがコネクトによって教会にシールドを張っているアラクネに、即座にシールドを解除し警護対象である少女や、教会にいる人々の安全確保を優先する命令した。
今回、この村の警護に着けていたアラクネたちは要人警護用にカスタマイズされた物だ。敵の拘束用の鋼鉄製のネットやワイヤーの射出に加えて、麻痺毒の付いた毒針に即死でなければ治癒も行えるように最上位の治癒魔法も使えるように設計しているが、それでもスレイは心配だった。
「ボクが様子を見てくる。みんなはここで待ってて」
「わかったよ。でもなにかあったらすぐに行くから」
その言葉に頷くだけで返したスレイはユフィたちを周りに残して一人で教会の敷地内に入る。すると扉が開き教会の中からこの村で衛兵をしていたおじさんが出てきた。
実はスレイが村に戻ってきたときに、村の村長宛に国王陛下からの書状を預かっていた。そこにはこの村で起こるであろうことと、スレイたちに全面的に協力する旨などがかかれていたらしく、村長と衛兵のおじさんそれに狙われている子供の親代わりのシスターだけが事情を知っている。
一応村の人々が寝静まりスレイのアラクネの結界で音が聞こえていないとは思うが、もしものときは村長にすべてお任せという算段で話は進んでいた。そんな事情を知りもしもの時のために教会の護衛についてもらっていた衛兵のおじさんが駆け寄ってくる。
「どうした、そんなに血相を変えて」
「今すぐ扉を開けてください!中に事件の首謀者がいます!」
おじさんは一瞬何を言っているのかわからないといった顔をしている。
今は一時も無駄に出来ない状況なので、スレイはおじさんを押し退けて教会のなかに入るとその後を追っておじさんも着いてくる。
「子供のいるのはどこですか!」
「そっ、そこの部屋だ。中にはシア以外の子供とシスターリシアも一緒にいるはずだ。何かあったら声をあげるはずだが」
シアと言うのは狙われている子供の名前だ。そして他の子たちと一緒の部屋にいるのならもしここに魔眼コレクターが現れたら騒がしくなっているはずだが、今はそんな気配もない。もしかしたら、そうスレイが思っていると再び誰かの声が聞こえてきた。
──大丈夫、まだあいつは来てないよ。
その声を信じたスレイは小さな部屋の中で剣を使うのは危ないので、鞘に納めると魔道銃をホルスターから抜いて部屋をノックする。
見ず知らずのスレイよりもこの村の住人であるおじさんの方がいいので扉の影になるような場所に立って──ちょっと怪しいような気がするが──向こうからの応答を待っていると、扉が小さく開きそこから妙齢の女性が現れる。
「ダンカンさん。戦いは終わったのですか?」
「まだだ。それよりもリシア、子供たち起こしてここから逃げろ!」
「なんですって────ッ!?何の音!?」
それを聞いたリシアが驚きの声をあげたそのときビシビシっと、木が割れるような音が響いた。
「二人とも下がっててください!」
その音を聞いて血相を変えたスレイは扉の前にいた二人のことを押し退け──ついでにシールドを張って二人の安全を守ってから──中に入ると、ベッドの寝かされた子供たちの頭上に空中で停滞したナイフ、さらに魔眼を持つ少女シアの口元を押さえその小さな首もとにナイフの刃を当てたコレクターの姿を見た。
「ん~~~~~~!ん~~~~~~~~~~~!」
「動く出ない!一歩でも動いてみぃ、ここにいる子供たちの命はないぞぃ!」
「─────────ッ!!このクソ野郎がッ!!」
子供を人質にした魔眼コレクターにスレイは怒りを露にする。
そんなスレイを見据えながら魔眼コレクターが窓の方へと歩み寄る。その際もスレイは魔道銃の銃口を向けようとしたが、シアを盾に取られて慌てて射線上から銃口を外す。
窓際まで下がったコレクターが肘で窓ガラスを割った。
ガシャンっと大きな音をたてて割れたガラスが窓の向こうに落ちる。
その音を聞き部屋の外にいるシスターリシアが子供たちの名前を叫んでいるのが聞こえてくる。
「ふぉふぉふぉっ、追ってくる出ないぞ」
「ん~~~~~~~~~~~!!」
ギリッと奥歯を噛み締めたスレイ、外にはユフィたちがいる。もしもここで逃がしてもユフィたちが取り押さえるかもしれないが、それよりも問題なのが子供たちの眼前に設置されたナイフだ。
あのナイフを停滞させているのは間違いなく魔法ではないという確信があった。
これはすべてあの腕の中にある無数の魔眼のうちの一つの力だろう。だとすると、コレクターがあの窓から外に出て魔眼の有効範囲からナイフが外れ、そのとき一斉にナイフが落下し子供たちの頭に突き刺さる。
どうする?
必死にそう考えていたスレイだったが、視界の先でうごめくものを見てまだ練習中で本番ではまd試したことのないやり方を試してみるか、そう思いながら時間を稼ぐために口を開いた。
「逃げるのかコレクター………まだ、ボクのこの眼を奪ってもいないのに?」
「奪う?何をいっておるのじゃ!その魔眼も、この小娘の魔眼もすべて、そうすべてはこのわしの魔眼だったのじゃ!それをお主らがわしから奪ったのじゃ!!」
「何を訳の分からないことを、あなたが今までにやって来たのはただの殺人だ。多くの人の人生を狂わせた。あんたに殺されて、今も彷徨う人たちに無念をあんたは分かっているのか!」
「殺人?多くの人の狂わせた?死んだ者の無念じゃと?何をいっておる、そんなものよりも大事な大事な魔眼を奪われたわしの方が可愛そうじゃわい!」
先程から何度も言葉をかわして分かってきた。
この魔眼コレクターという人物は根本的なところからおかしい。
魔眼に魅せられて全てを狂わしたこの老人は、自分こそが被害者であり他の人に何をしようが、例え殺したとしても何も思わないどころか、自分の行いを正当化している狂った人間なのだ。
「やはりあんたは、ここで捕まえなければならないみたいだな」
「捕まえるじゃと?忘れおったのか小僧、わしには人質がおるんじゃぞ!下手な真似をしたらどうなるか、忘れたわけではあるまいな」
「えぇ。もちろん解っていますよ。ですので、この子たちの方から来てもらうことにしましたよ」
魔眼コレクターがスレイの言っている意味をわからずに顔をしかめた瞬間、コレクターの視界の端でなにか黒い小さな物がうごめくのを見た。
それは小さな金属製の蜘蛛。
それがまるで、よっ!っとでも言っているかのように足の一本を上げると、腕の中にいたはずのシアが一瞬にして消えた。
「んなっ!?」
あまりにも唐突の出来事に魔眼コレクターが眼を見開いてスレイの方を見ると、そこには人質としていた子供たちと先程まで自分の腕の中にいたはずのシアがそこにいた。
「なぁ!?なんじゃ、今のは何が起こったのじゃ!?」
「さぁ、どうしてでしょうねッ!!」
地面を蹴って走り出したスレイが魔眼コレクターの目の前にまで接近し、コレクターの目の前で体を屈めると低位置からコレクターの足を払った。
「ぬぉっ!?」
天地が逆転し空中で倒れかかるコレクター、そこにスレイは少ない体の回転を利用して低空から拳を打とうとしたそのとき、コレクターの腕にある魔眼の一つが輝くと同時にまた誰かの声が聞こえてきた。
──体を硬化させたんだ!そのままだと拳が砕かれるぞ!!
──なんだ、それだけのことか。
スレイが忠告の声を危機ながらも拳を振るうのを止めない。拳が振るわれる直前にスレイの拳の拳頭から竜麟が現れ覆っていった。
拳全体が竜鱗に覆われたスレイの拳がコレクターの腹部にめり込むと、ゴキッ、と生々しい音が部屋の中に響き渡った。
「───ぐぶほっ!?」
くぐもったような魔眼コレクターの短い悲鳴、そして少し遅れてコレクターが壁と窓枠を突き破って外に放り出される。
「うっし!良いの入った!」
打ち付けた拳をヒラヒラと降ったスレイは、肩に止まったアラクネに助けた子供たちにシールドを付与するように伝えると、壊された壁から外にでる。
外では腹を殴られ胃の中の物を吐き出しているコレクターの姿があった。
「へぇー。その様子でしたら、ようやくまともな一撃が入ったみたいですね」
スレイが渾身の煽り文句を披露すると、えずきながらコレクターは血走った眼をスレイに向けていた。
剣を鞘に納めたまま拳を握りしめたスレイは、肉体を硬質化の魔眼によって身体を硬化させているコレクターに向かって拳を振るい続けていた。
時折、人を殴っている音ではない音が聞こえてくるが、これは自身の身体を金属のように高質化されたコレクターを殴っているからだろうなと、どこか他人事のように考えながら殴り続けていた。
──行ける!見えざる盾はもう使えない、行けッ!!
この声を聞きながらスレイは殴り続けている。
「スレイくん!」
「ユフィ!ノクト!一気に仕留める!魔法をいつでも放てるようにして!リーフ、ライア、ラピスはボクと一緒に攻撃を頼む!」
一気に指示を伝えるとユフィたちから返事が帰ってきて、すぐに駆け出そうとしているリーフたち、このまま全員でかかれば倒せる!そう確信したそのとき殴られ続けることに痺れを切らしたコレクターが叫んだ。
「ふざけるなぁあああああああ――――――――――――――っ!!」
フワッと身体が浮かび正面から後ろへと押される感覚には覚えがあった。先ほどシールドとサンドされたあの衝撃波のような物が飛んでくる。
「みんな捕まって!」
このままではユフィたちも押し潰されてしまう、そう思ったスレイは空間収納から最近めっきり使う機会の減ってきた黒鎖を取り出し、みんなの身体に巻き付けて上空へと転移する。
「ひゃぁああああ―――――――――っ!?」
突如上空に転移したことでノクトが恐怖から叫び声が響いたが、戦いの最中なのでちょっと待っていてもらうことにした。
「ユフィ!リーフ!ライア!ラピス!盾はもう出せないもう一度転移でみんなのことを下に戻すから、全員であいつを叩くぞ!」
スレイがそう言うとユフィたちがうなずいたのだが、ただ一人、ノクトだけがフルフルと首を横に降っていた。
みんなは訴えかけてくるようなノクトと、眼を会わせないようにしている。
「頑張ってノクト、終わったらお詫びに何でも好きなもの作ってあげるから今だけは勘弁して」
「そっ、それじゃあ。わたしのお誕生日に作ってくれた、あのケーキをお願いします!」
「ガトーショコラな、了解。それとみんなにもなにか作るからそんな目、しなくていいって」
みんなの目がウルウルと訴えかけてきたので、スレイはここからさらに追加でアニエスの分も作るとなると、もう一度戦わなければならないなっとおもった。
「よし、行くぞ!」
ユフィたちみんなが首を縦に降ったのを見て、再び転移で飛んだスレイたちだったが確かにそこにいたはずのコレクターの姿がなくなっていた。
無くなっていたと言うよりも、コレクターだったはずの人間が別の何かに変わっていたのだ。スレイたちが見たのは、元の十倍ほどの大きさになり人間離れした顔付きに、腕に移植されていた目も変質しギョロッとうごめいた。その姿はもはや使徒と同様の化け物だった。
──変質の魔眼の力で自分の身体を魔物と同じように作り替えたみたいだ!
いちいち説明ありがとう、そう思ったスレイだったが、この声の主に一言だけ、どうしてもこの言葉だけは伝えておきたかった。
「こんなヤバい魔眼が有るんなら先に教えろやボケェエエエ―――――――――――――――ッ!!」
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