魔眼コレクター
その日の夜。村の全ての住人が寝静まったその時、教会の敷地内に一人の男が立っていた。手には目玉をあしらったような不気味な杖が握られ、やや腰の曲がったところを見る限りどうやらその男は老人のようだ。
老人は杖を付きゆっくりと協会の中へと足を進めて行く。老人が協会の扉の前に立つと真っ白な長い髭を撫でながら不気味に口許を歪めると、まるで愛おしい我が子にふれるかのように己の握る杖、その先端にあしらわれた目を撫でる。
「ふぉふぉふぉ、ここじゃここじゃ。ここにおる娘がわしのかわいい魔眼を持っておる。すぐに取り返してやるでな、待っておるのじゃぞわしのいとおしい魔眼よ」
老人が教会の扉に手を伸ばしたそのとき、老人の手にバチッと電流のような物が走り咄嗟に手を引いた老人は眉を潜めながら教会の側から離れるために大きく後ろに飛んだ。
「なんじゃこれは!この村の住人は全てのわしの魔眼の支配下におるはず!?」
もう一度老人が手を伸ばすとまたしてもパチッと、スパークを走らせながらその行路を遮る。
「これは、結界か?じゃがなぜ、なぜ支配下におる人間がこんな物を仕掛けれるはずもない!……ならばいったい誰じゃ!誰がこんなものを仕掛けたんじゃ!!」
老人が怒りの声をあげている最中、その背後より誰かが近付いてくるのに気付かないでいる。
突如、老人を照らしあげるように背後から光が照らされた。
「なっ、なんなんじゃ!?」
突然の光に驚きの声をあげる老人が顔を覆って叫ぶ。
眩しさから逃れるように手で目元を隠して光の射す方をみると、光源の近くに誰かが立っていることに気が付いた。
老人が眉を潜めながら目を凝らすと、光が段々と弱くなり人影の集団の中から声がかけられた。
「こんばんわおじいさん。こんな夜更けにそんな大声で叫ばれると教会の中で眠っている子供たちが目覚めてしまいますよ?せっかくグッスリと眠っているのに」
そんなのんきな声に老人の怒りは浸透する。
段々と光が収まっていき、光にくらんだ目もようやくもとに戻っていく。そうしてようやく視認することのできた彼らの姿を見て再び老人がさけんだ。
「なんじゃ貴様ら………この村の住人ではないな?」
数日前よりこの村に潜入していた老人は、ある程度の村人の顔は把握していたが、その中に彼らの顔はなかった。
「そうか、今日の竜車に乗っておった観光客、じゃが何故じゃ?魔眼は発動しておるならば支配下におけるにも拘らず、なぜ支配されるのじゃ!」
老人の怒りの言葉を聞いた集団の中から、最初に喋ったのとは別の人物がなにか驚いたように言い出した。
「へぇ〜魔法じゃなくて魔眼だったんだ」
「そうだったんですか」
驚きながらもどこか安心したような声を聞き再び怒りを爆発させる老人。
「何なんじゃ……なんなのじゃ貴様らはぁああああああっ!!」
「なにか………なにかか、そうですね」
なんなのだ、そう聞かれた時の答えは一つ、老人に問いかけられた集団の中で一人の少年が前へと出る。するとまるで舞台の主役が現れたかのように雲の隙間から月の光が指し、白髪の少年スレイを照らした。
前へと出たスレイは口元をニヤリとつり上げると、待ってましたと言わんばかりにあの台詞を口にした。
「通りすがりの冒険者だ。覚えておけ」
一度は言ってみたい台詞をリアルに言えて大満足のスレイ。だがその横ではユフィがシラケためをスレイに向けているのだった。
「はぁ……まったく」
呆れたようなため息を一つ付いたユフィは、無駄だとわかっていながらも一応これだけは言っておくことにした。
「ねぇスレイくん、こんなシリアスにならないといけない場合に仮面のヒーローのネタを突っ込まなくなっていいんじゃないかな~?」
その一言にスレイはそっと顔を横にした。
「それに犯罪者に覚えておいてもらってもねぇ~」
「いいじゃん、あんな場面、一生に一度しかないかもしれないんだから一度くらい言わしてよ」
ユフィもオタク気質だからわかっている。
あんな完璧なやり取り、そうそう狙ってできることではないのだから、言えるチャンスがあったらユフィもきっと言っていたのでスレイの気持ちも大いに理解できた。
そのことを踏まえて考えた末、ユフィは建前上は起こっているふりをしながら……
「もぉ~仕方ないなぁ~。今回だけだからね~」
っと、スレイとユフィが全く緊張感のない会話をしている横で、老人がさらに怒りの声を上げた。
「貴様ら、ワシのことを無視して楽しいか!?」
顔を真っ赤にして叫ぶ老人を前にライアがいつもの眠そうな目でありながら、その奥に憎しみの炎を宿しながら小さくつぶやいた。
「……ねぇ、ノクト。あのお爺さん興奮しすぎて死んじゃうんじゃないかな?」
「えっ、死んでほしくはないんですか?」
これは意外だと思ったノクトが尋ねるとライアは小さく頭を振った。
「……死んでほしい、でも殺るなら私のこの手で殺りたい」
「ライアさん……えぇ。必ず、倒しましょう」
復讐に燃えるライアの瞳を見たノクトはもう何も言わない。この戦いに必ず勝ち、ライアからこんな表情を二度とさせたくないと思っていた。
「貴様ら、もう許さぬ。魔眼を返してもらえばそれで良かったが、この村の住人をすべて皆殺しにしてくれるわ!」
殺気の籠もった言葉にノクトたちがたじろぐ中、スレイが殺気を放って押し返す。
「あなたのことを、少し調べさせてもらった」
「なんのことを言っておるんじゃ?」
「この国だけでなくいろんなところで同じことをしていたみたいですね。状況から見ても、精神操作の魔法によって人を操っての犯行だとばかり思っていたけど、まさか魔眼を使っていたとは流石に読めなかったな」
「魔法なんぞ目ではない、わしの魔眼こそ至高のもの!なるほど、それを知ってわしの魔眼の洗脳を受けなかったのか、合点がいったわい」
意気揚々に語りだす老人。
精神操作の対策をしていたからそれが魔眼の効果を打ち消した、そう確信したように次の手を考えている老人だったが、それをあざ笑うかのようにスレイが話を続ける。
「いくら魔法とは違うといっても魔眼の精神操作も対策も、そして解き方は同じだ。ボクたち同様、この村の人達の洗脳はゴーレムを使ってコッソリと解いておきましたので悪しからず」
スレイは空間収納の中から蜘蛛型のゴーレムであるアラクネを取り出す。
前にヴァーチェアの騎士団を洗脳を解いたあと、もしも今回と似た状況に直面した時に一瞬で解けるようにするべく、アラクネ全てにディスペルを付与しておいたのがこんなところで役に立った。
ついでにこれもアラクネに新しく付与したのだが、アラクネのボディーを風景に同化させるために幻影の魔法もしっかりと付与しており、今も全ての民家に四体づつ張り付かせ何重ものシールドとサイレンスの魔法で結界を張り、スレイが命令を出さない限り決して解除されることはない。
「だから何だと言うんじゃ!そんなもの、またかけ直せばいいことじゃ!」
どのみち何をやっても無駄なのだが、いったところで意味がないと悟ったスレイは、静かにこの老人の罪について説明を始めた。
「今回と同じように魔眼を狙った犯罪をこのマルグリット魔法国で三十六件、隣国であるヴァーチェア王国で十八件。こっちで調べただけでも過去五十年の間にこれだけの犯罪を起こしてますね」
「そして二十年前のロークレア騎士国でも同様の事件を十七件起こしています。この事から考えるにこの二大陸以外でも同じ犯罪を犯している。違いますか?」
「それがなんじゃというのだ!わしのこの辛さと比べたらそんなもの可愛いものじゃろうが!」
詫びるでもなく罵倒を始める老人を前にしてスレイとリーフがギリッと奥歯を噛みしめる。
調べただけでも数百、もしかすると千をも超える人が一夜にして消えている。自分の欲望を叶えるために消していい人の命などない、もしもほんの少しでも悔いる心が有ったのならばと思ったがそれすらない。
最後の線を踏み抜いたこの老人にもはや慈悲はいらないと、キレたスレイとリーフが剣を抜こうとしたときそれをユフィとラピスが止める。
「お二人とも、落ち着いてくださいまし」
「そうそう頭がプッツンしちゃってたらいいことなもないよ」
「ユフィ、ラピス」
「えぇ……はい。確かに、その通り、ですね」
二人のおかげで冷静を取り戻したスレイとリーフは手にかけていた剣の柄を放した。
「おじいさん。最初に言っておきますけどここから逃げようとしても無駄ですよ」
「どういうことじゃね?」
「すでにこの村を覆うように転移魔法を阻害する結界を構築してありますから、大人しくしていてくださいね」
ユフィがここからは逃げられない旨を伝えると、冷静になったスレイが懐から一枚の紙を取り出してそれを老人に見せつける。
「魔眼コレクター、生死を問わずあなたを拘束します」
「生死を問わずか……本当に良いのかね?」
「えぇ。もちろんこれはマグルグリット魔法国より正式に依頼されたものですので、宣言通りにさせてもらいますよ」
依頼書を懐に仕舞い魔道銃を取り出すと銃口を老人に向けた。
「大人しく投降するか、ボクたちに斬られるかどうか選んでください」
スレイが武器を構えたと同時にユフィたちも武器を構えて牽制していると、目の前の老人改め魔眼コレクターが狂ったように笑い出す。
「ふぉふぉふぉ、そうかそうかわしを殺してでも捕まえるか、そうか………ならば、貴様らはここで始末させてもらうぞ!!」
老人改めて魔眼コレクターは左目に手をかける。すると左目の色が変わった。
「魔眼!」
「そうじゃ!」
人を支配下に置く魔眼、発動条件などはわからないがしっかりと魔眼への対策をしているスレイは、懐からスタングレネードを一つ取り出すと、口でピンを引き抜いてから魔眼コレクターへと投げる。
「みんな目を閉じて!」
ユフィが叫ぶとみんなが目を守るべく顔を覆った。それと同時にグレネードが弾けて、激しい閃光がほとばしる………はずだった。
「どういうことだ?」
いくらアラクネが量産したものと言っても、地球のものとは違い火薬は使っていないので不発など起こるはずもない。
目を開けたスレイが爆発せずに形を留めているグレネードを見て不審に思いながら、魔眼コレクターの方を見る。
魔眼は発動しているのに支配される感覚も、操られている感覚もない。いったいあの魔眼は何なのかと考えていると、突如何かを悟ったライアが叫んだ。
「……スレイ!前に向かって撃って!」
「えっ!?」
「……いいから早く!」
言われるがまま、魔眼コレクターに狙いを定めながらズドンズドン!スレイが両手に握った魔道銃のトリガーを引き絞る。
真っ直ぐと放たれた弾丸が途中で動きを止めてコロコロと地面に落ちる。
「弾丸が止まった?」
「なんだ、あれはッ!」
どういう原理化はわからないが、それを見極めるためにスレイは魔道銃の銃弾を連続で打ち出しているが、同じように打ち出された銃弾が途中で勢いを失って地面を転がった。
それを見てノクトとラピスが叫ぶ。
「なんなのですかあれは!?」
「見えないシールドのようなものではないでしょうか?ですが突然動きを止める理由がどうにも」
「そんなことよりも不味いぞ、近付いてくる!」
こんなところで動きを止められるのは不味いと思ったスレイが叫ぶと、みんなが一斉に左右に別れて避ける。
見えないシールドをかわすと、スレイが黒い剣を抜き放ち炎と紫電を纏わせ、リーフの翡翠に闘気の輝きを煌めかせ、ライアが拳に紅蓮の炎を揺らめかせる。
「実弾がだめなら!」
「これならばッ!」
「……喰らえ」
横に飛びながらスレイが炎と雷をまとった剣を振り抜き、リーフが連続で空中を切りさき、ライアが炎を纏った拳を突き出した。
「──雷鳴・赤雷ノ一閃!」
「──飛翔閃・乱舞!」
「──紅蓮爆炎激・嵐」
スレイの赤き雷撃の一閃とリーフの闘気の斬激、そしてライアの拳から放たれた紅蓮の嵐が魔眼コレクターに向けて放たれる。
遅いくる攻撃を前にして魔眼コレクターは動けない……いいや、この場合は違った。
敢えて動かなかったのだ。
「効かぬわ、そんな物!」
魔眼コレクターが手を掲げると同時に技が飛来……するとたしかにあたったと思った攻撃は、魔眼コレクターから大きく逸れかき消された。
「そんな!」
「魔力も闘気さえも、何も感じなかったぞ!?」
「……いったいどうやったの?」
着地したスレイたちは各々の放った技をかき消した魔眼コレクターの技について考える。
魔法を使った形跡も、闘気を使った感覚もなにもない、ならば一体何を使ったのか?それを知るためにも次の攻撃をと思ったスレイだったが、それよりも早く声が届く。
「みんなさん!どいてください!!」
ノクトの声が響き渡り後ろを振り返ったスレイたちは、一斉に真上に飛ぶ。
「───ドラゴライズ・シュトローム!」
「───レイジング・イーグル!」
ユフィの杖から荒れ狂う水流の龍が生まれ、ノクトの杖からは光の鷲が数体現れると三人の退いた場所を通りながら、真上から水の龍が、回り込んで背後かは光の鷲が魔眼コレクターを襲った。
「効かぬと言ったろうに!」
だが、守りについては魔眼コレクターの方が一枚上手だったらしい。
確実に視覚を付いてはなったはずの二人の魔法だったが、魔眼コレクターに近づいた瞬間に無数の穴が開いて魔力へと霧散してしまった。
「魔法もダメなんて!?」
「あはははっ、どうしましょうこれ?」
ユフィとノクトの渾身の魔法がかき消され呆然としている中、二人の背後から一つの影が走り出した。
「そこです!」
走り出したラピスは、指の間に握られていた無数のナイフを投げる。
これはスレイとユフィが製作した投げナイフ式の魔道具で、刀身には雷撃やら氷結やらいろいろと魔法が付与されている。だが敢えていうと、この投げナイフすべては使い捨てだ。
使い捨てのナイフが的確に防御の間を抜けて投げられるが、コレクターに当たる直前に勢いが消え地面に突き刺さった。
「ふぉふぉふぉ、なんじゃなんじゃ、わしを殺すとか言っておったのは口だけかの?ふぉふぉふぉ!」
高笑いをする魔眼コレクターを見て、スレイたちはムカッとさせられる中で一番腹を立てているのがライアらしく、今までで見たことのないほどの顔で怒っていた。
「どうした、来ないのならばこちらから行くぞ!───アイス・ランス!」
魔眼コレクターが杖を掲げると魔法陣が展開され、無数の氷の槍が放たれて飛んでくる。
スレイとユフィがシールドを発動させようとするよりも早くリーフが前に出る
「やらせません!」
それを見たリーフが槍の射線上に立ちはだかると、盾に備え付けられたシールドの全展開をして受け止めようとしたそのとき、氷の槍がシールドを通り抜けて背後にいたノクトを穿つべく放たれた。
「えっ?」
「ノクトさま!」
近くにいたラピスがノクトを助けるべく動いたが間に合いそうにない、誰もがノクトの死を予見したそのとき、漆黒の輝きを纏った剣を真っ直ぐ構えたスレイが現れた。
「───業火の突激!!」
氷の槍を業火の突きで蒸発させると、間一髪のところで間に合ったことに安堵の息をついたスレイは、真っ直ぐ魔眼コレクターのことを睨み付けていると、前から下がってきたリーフがノクトに声をかけた。
「申し訳ありませんノクト殿」
「だっ、大丈夫ですリーフお姉さん………それよりも、今のって」
「シールドを抜けて飛んできた、ように見えました」
「……どっちにしろ、スレイが行かなくちゃノクトは死んでた」
「止めてくださいよライアさん、そんな不吉なことを言うの!」
ライアはノクトが向かって叫びかけているのを無視して、スレイとユフィの方に視線を向ける。
「……スレイ、ユフィ、さっきのって魔法?」
「違うよ。術式に偽装はなかった。それなのにあんな風に消えて急に現れるなんておかしいよ」
「そうだな………次が来るぞ!」
スレイが叫ぶとコレクターが杖を握り魔法を放ってきた。
「今度は避けさせはせんぞ!」
今度は土の槍と風の矢が交互に飛んできたので、スレイとリーフ、そしてライアとラピスの四人で迎え撃としたが、先程のことがあったのでスレイが一歩後ろに下がりユフィとノクトの二人を守れる位置で迎撃している。やはり先程と同じように剣や盾をすり抜けてしまった。
「スレイ殿!」
「任せろ!」
空間転移を使い魔法の前に飛ぶと剣で切り裂くと、振り向き様に魔道銃のトリガーを引き絞るとライアとラピスの前に飛来した魔法を撃ち抜いた。
「……スレイ、ありがとう」
「申し訳ありません」
「大丈夫!それよりも斬り込む、ここはみんなに任せるから」
「……スレイ!私も行く!」
「……分かった。ノクト、ライアに補助魔法をかけてあげて」
「はい!」
「ライア、危ないと思ったら引くぞ」
「……ん。了解」
魔法を迎撃しながらライアが頷いたのを見てからスレイはユフィの方に視線を向けると、まるで了解していると言わんばかりに杖に魔方陣を展開させており、その横では既にパワーブースとアクセルを発動し終えていらノクト、そして前衛から戻ってきたラピスがリーフの守りを突破してきた攻撃を打ち落とす役目を担ってくれた。
「行くぞ!」
「……ん!」
スレイとライアが走り出した瞬間、ユフィが魔方陣の組み上げられた杖を掲げて魔法の名前を叫んだ。
「援護するよ───シルバー・ミスト!」
ユフィの杖から放たれたのは霧だ。霧の魔法は村全体を覆い隠し全ての視界を奪った。
「ふぉふぉふぉ!なんじゃこの霧は、視界を自ら塞いでしまっては意味がなかろう!無意味じゃ、全くの無意味じゃ!ただの霧だけでわしの魔眼を封じたと思い込んでおるのか!」
魔眼コレクターが自身の周りに見えない盾を召喚した。これによって自分の周りだけはなにがあっても安全だ、そう錯覚していた。
「悪いな、ボクたちにとっても視覚なんてのは無くても構わないんだよ」
「……ん。ようやくお前を捉えた。家族の仇、ここで必ず討つ!」
全身に竜燐を纏ったスレイとライアがすぐ側まで接近していた。スレイの黒い剣が漆黒の輝きを放ちながら振るわれ、ライアのガントレットがメラメラと炎を燃やしながら振り抜かれる。
「ぐおぉ!?」
魔眼コレクターが咄嗟に身体強化を発動させたのか、済んでのところでスレイとライアの攻撃をかわしたが、二人はそれでは止まらない。
「………逃さない」
逃げようとする度にライアが接近し炎を纏った拳と蹴りを繰りだし、スレイもそれに続くように業火の炎を纏った剣で切りつける。二人の攻撃は済んでのところでかわされ続けている。
ことごとくかわされ続ける剣戟と拳にスレイはおかしいと感じる。いくら魔法で身体を強化しているとはいえ、老人である魔眼コレクターがここまで攻撃を交わすとは思えない。
なにか別の力でも使ってるのでも使っているのではないか、そう思えるほどに違和感があった。
「ぬぅッ、甘いわ!」
「グッ!?」
「……うっ!?」
再び見えないシールドのようなものが発動しスレイとライアを押しのけると、魔眼コレクターはユフィの張った霧の中へと隠れようする。
「ほぉふぉっふぉ!」
「……にげ、るな!」
「ライア、飛べっ!」
スレイの声に反応したライアが両足を強化して地面を蹴り抜くと真上に飛び、それに続くようにスレイも飛ぶと空中に闘気の足場を作りそれを蹴り抜いて霧の中へと飛び込んだ。
「隠れても無駄だっ!──業火の閃激!!」
霧の水分を蒸発させながら斜め上からの切り下ろし、それに勘づいた魔眼コレクターが再び避けたが完全に撒いたと思っていただけに、行動が遅れた魔眼コレクターはローブの先が斬られ業火の炎が燃え移った。
「ぬぉ!」
魔眼コレクターが燃え始めたローブの袖を破ったとき、スレイの視線は魔眼コレクターから外れローブの下にあった腕、その腕に合った無数の眼がギョロリと動き眼と眼があった。
「────ッ!?」
気味が悪くなったスレイが追撃を諦めて後ろに下がると、同じく後ろに下がったライアが横に並び立った。
「なんだあの眼は──ッ!グアァアアアアアッ!?」
「……スレイ!どうしたの!?」
突然の左目を押さえながらうずくまったスレイを見てライアが叫ぶと、ポタポタとスレイの指の間を伝って滴り落ちる赤い雫を見て、ライアは思った。
スレイの魔眼が何かを伝えようとしているんだ、っと




