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悪夢の到来

 ジュリアとマリーのダブル出産からもうすぐ二ヶ月が経とうとしていた。

 初めの頃は屋敷で三人もの赤ちゃんが産まれたことに大いに忙しくした。


 まずはジュリアが産んだ双子だが、女の子が後から産まれたので姉、男の子の方が先に産まれたので弟となった。

 この双子の姉弟の名前は前から決めていた通り、姉の方をアーニャ、弟の方をエルとなった。

 フリードとジュリアの子供は二人のどちらかの髪の色が現れていた。スレイとリーシャがジュリアの白髪、ミーニャがフリードの金髪だったが、アーニャとエルは二人の色が混ざったようなシルバーブロンドの髪だった。


 アーニャは産まれた時からあまり泣かない子だった。

 始め産まれた時に産声をあげなかったのは内心ひやりとさせられたとはクレイアルラは語ったが、ヒヤヒヤさせられるどころの話じゃないだろうっと、スレイたちは大声で叫びたい気持ちになった。


 エルはと言うとアーニャとは真逆で、産まれたと同時に大声で泣きまくった。

 お腹が減ると泣く、オムツが湿ると泣く、それはもう大声で泣きわめく。赤ちゃんの意識伝達方法として泣くのは当たり前だが、もう火山の大噴火のような勢いで泣くのでジュリアは大変だと言っていた。


 最後にトーマスだが、こちらはいたって普通の赤ちゃんだった……何てことはなくトーマスは産まれた時から闘気を使いこなしていた。


 始めてそれが発覚したのはゴードンがパーシーと一緒にトーマスのことをあやしていたときのこと、トーマスがゴードンの指を掴むとそのままへし折ったと同時に叫ばれた絶叫に屋敷中が驚きに彩られたのは言うまでもなかった。


 その日の内にスレイとリーフ、それにアシリアが屋敷に呼ばれフリードと共にトーマスの闘気について調べたところ、産まれたばかりとは思えないほどの闘気を持ち、ちょっとした弾みで闘気を使ってしまうようだ。

 そこでスレイとユフィ、クレイアルラの三人が共同で開発した闘気を押さえる効果を付与した産着──素材にはスレイが変身スーツ作るときに使用した金属繊維を使用した──のお陰でなんとかなった。


 アーニャとエル、そして一緒の日に産まれたトーマスの三人の赤ちゃんは、産まれたそのときより、アルファスタ家の新たなお姉ちゃんとなったリーシャと、メルレイク家の新たなお兄ちゃんになったパーシー、そして、おにいちゃんの妹弟ならわたしもお姉ちゃん、と言う謎理論を言い出したヴァルマリア、さらにはスレイたちが遊びに行くときに一緒に着いてくるスーシー、その四人によって毎日可愛がられた。

 だが、この三人の赤ちゃんを可愛がったのはこの四人だけ出はなかった。さらにアルファスタ家の使用人ももちろんのこと、街の住人も大喜び、三日ほどお祭り騒ぎになったと後でフリードから聞かされた。


 ここまでがこの一ヶ月の出来事なのだが、その間、暇なときには中央大陸に出向きアーニャたちの世話をしていたユフィたち、そこでアーニャたちのお陰でユフィたちの中に母性と言う感情が芽生え始めたのか、夜のお誘いが頻発してきた──ちゃんと避妊薬は飲んでた──ので、しばらくスレイはげっそりとしていた。


 それでも前のときよりはマシだったので、スレイはなんにも言わなかった。そもそも、下手に断りでもしたら後で何をされるかわかったもんじゃない。



 さて、ここで話は変わり少し学園のことになるのだが、季節はめぐって七の月の二十日、この日は学園の夏期休暇が始まった。

 夏期休暇中は学園で成績下位の者たちを集めて補習があるが、スレイとユフィには全く関係がないので夏期休暇中は暇になった。


 ………訳もなく、夏期休暇は一ヶ月半もの長期の休暇になるのだが、その半ばで毎年の恒例行事となっている新入生たちのためのダンジョン実習が行われる。


 ダンジョンは学園が保有する物で、なんでも人工的に作られたダンジョンらしく生徒の実地訓練を行うために解放されているらしいが、スレイからしたら、なんでそんな良い物があるのにあんなバカが育つんだ?っと前にあったバカたちのことを思い出していた。


 まぁ、それは良いとして、そのダンジョン実習には生徒たちだけでなく教師も引率に付いていくのだが、なぜかそのメンバーにスレイとユフィも選ばれてしまった。

 決まってしまったことなので仕方が、スレイとユフィの二人だけでは不安だったので、ノクトたちに頼み込んで冒険者として参加してもらった。



 そんなわけでそのそれまでの間は暇になったので、前にいろいろあって遊びにいけなかったヴァーチェア王国首都リプルのカジノに遊びに行こうと言うことになった。


「わたくしは、とっても意外だと思いましたね」


 そうポツリと呟いたのはラピスだった。

 現在スレイたちは乗り合い馬車、ではなく、地竜と呼ばれる亜種の竜種が引いている乗り合い竜車を使ってリプルの街に向かっている。今回は小旅行と言う建前なのでゲートは使わないつもりだ。


「なんのことですかラピスさん?」

「みなさまがギャンブルに興味が有ると言うことですよ」

「冒険者なんてそんなもんだって、稼いで使って散財して、その日を楽しく生きようって感じだからさ」

「そんなこと言ってるわりに、スレイ殿は余り冒険者らしいお金の使い方をしてはいませんよね?」

「それはまぁ、師匠を反面教師にしているところが大きいかな?」

「そう言えばルクレイツア先生って、お酒とギャンブルで問題起こしまくってたもんね」

「いったいどんな師匠なのよそいつ?」

「今の話で察してください」


 そんな話をしているスレイたちは、かれこれ一週間ほど竜車に揺られているのだが、これが馬車の場合はさらに二週間はかかっていた。

 その間にも竜車は魔物や盗賊の襲撃を受けた。通常の竜種ならば魔物を威圧できるほどの力を持っているが、この地竜という魔物は見た目が竜で、完全にトカゲで大人しい魔物だ。なので基本的に弱い、まぁ、そうでなければ人の手で育てられるはずもない──ヴァルマリアは例外──のだ。

 普段ならば戦いに参戦するところだが、今回はみんな休暇中と言うことで竜車の御者が雇っていた護衛に任せていたが、盗賊が来たときはさすがに手を貸しそのほとんどをスレイたちが討伐した。

 ……までは良かったのだが


「師匠!もう少しで休憩地点です!また手合わせをお願いします!!」


 っと竜車の中にいたスレイたちの元にやって来たのは、短い赤毛の少年だった。赤毛の少年が入ってきたのを見たスレイは、小さく息を吐いてから少年の方に向き直った。


「テオドール、何度も言ってるけど師匠はやめてくれ。手合わせなら後でやってあげるから」

「やった!ありがとう師匠!」


 テオドールと呼ばれた赤毛の少年が嬉しそうに走り去っていった。っと言うか、竜車の横を平行して走らせていた馬の上に乗って走っていった。

 テオドールはこの竜車を護衛していた冒険者の一人なのだが、スレイが盗賊を一人で倒したのを見て感銘を受けたらしく、パーティーを組んでいる子たち──なんでもテオドールの幼馴染で、田舎から一緒に出てきたらしい少年二人──が引く勢いでスレイに弟子入りを申し込んで来たのだが、弟子をとる気はないスレイはもちろんお断りしたのだがしつこく師匠呼びを続けているのだ。


「……スレイ、いい加減あの子を弟子にしたら?」

「イヤだって、ボクの剣技よりもリーフの方が合ってるとおもうよ?」

「いえいえ、私よりもラピス殿の方が良いと思いますよ?」

「いえいえ、わたくしよりもノクトさまの方が良いかと思います」

「ちょっと待ってください、わたし剣なんて使えませんよ!?」

「何でみんなそんなに押し付け合ってるのよ。いいじゃない、弟子取りくらい」


 素朴なアニエスの質問に対してスレイとリーフ、そしてラピスはそっと目を反らした。


「………取らないんじゃなくて、取れないって言った方が良いんだよな」

「……リーフ、説明お願い」

「テオドール殿の剣、みなさんも見たと思いますが大剣を使っていましたよね。私たちとは戦い方が決定的に違いすぎるので」


 スレイもリーフも使っているのは剣、ラピスに至っては短剣の二刀流だ。なので大剣を使った戦い方など教えれるはずもない、なので弟子には取れないのが正しいのだ。


「そう言えばお兄さん、前に大剣を使ってませんでしたっけ?」

「大剣………あぁ、大剣型の魔力刀のこと?あれを使ったって言って良いのかどうか怪しいけど、ただ振り回してただけだよ?」


 これからテオドールことをどうしようかと悩んでいると、竜車が急に止まり御者の人の声が聞こえてきた。


「休憩地であるこの村への滞在は一時間となっております。定刻までにはお乗りください!」


 と声をかけてきたので、久しぶりに地面に降りたスレイたちは簡単に食事でもっと思ったが、そんなスレイの元に早速テオドールと、幼馴染の少年二人──確か、茶髪の弓使いがビル、金髪の槍使いがハワードだったはずだ──が申し訳なさそうにしながらがやって来た。


「師匠!早速稽古つけてください!」

「………わかったよ。その代わり、村の人たちに迷惑がかかるから外でやろう」


 そう言ってスレイテオドールが村の外に行くとユフィたちに言うと、それならば竜車の中でも食べれる物を買っておくと、ユフィとノクト、それにライアとラピスが買い出しに行ってくれた。

 残りのリーフとアニエスはせっかくだからとスレイとテオドールの手合わせを見ようと言う話になった。


 少し開けた草原にやって来たスレイたちは、時間もそんなにないので時間を決める。


「じゃあいつも通り二十分だけね。今回は大剣を使って良いからさ」

「はい!よろしくお願いします!!」


 スレイは黒い剣を鞘後と抜くと、降った時に鞘が抜けないようにガッシリと紐で結んでから構える。それに対するようにテオドールは背中から大剣を抜いた。


「行きます!」


 テオドールが叫びながら距離を詰めるべく大剣を右の下段に構えると、わずかにからだがそちらに傾いているのを確認しながらスレイは立ち止まっていると、間合いに入った瞬間にテオドールが大剣を振り抜こうとしたが、そのときにテオドールの身体が大剣の重さに引っ張られている。

 下から振り上げられる大剣を受け止め押し返したスレイは、その場で回って後ろ蹴りでテオドールの腹部を蹴り抜いた。


「グヘッ!?」


 軽い蹴りの一撃で後ろに後退して倒れそうになるテオドールだったが、こんなのはここ数日で何度も受けたので多少なら耐えれる。


「うおぉおおおおおっ!!」


 起き上がったテオドールは真下からの袈裟斬り、それを半身になってかわしたスレイに今度は真上からの切り下ろし、これを黒い剣の刀身で受け止め、そして振り下ろされた大剣の力をその利用して受け流すと、スレイが一歩踏み込んでテオドールの腹部に黒い剣の鞘を軽く当てる。


「力みすぎ、いなされたら簡単に踏み込まれるぞ」

「─────っ!」


 スレイから離れるように後ろに下がったテオドールは、今度は突き技を放ってきたが突っ込んできたところで横にかわし、さらに足をかけて転ばしたところで切っ先を軽く触れさせる。


「突き技は隙が一番大きい、かわされた時の対策も考えること」


 一度バックステップで後ろに下がったテオドールは、後ろに下がりながら剣を真横に振るうがスレイは真上に飛ぶと動きを止めたところにスレイが着地すると、スレイの体重を支えきれずに体制を崩したテオドールは何とかしてスレイを払い除けるべく両手に力を込めるが大剣は全く動かなかった。


「…………師匠、降参しま──痛って、何するんですか師匠!?」


 テオドールは行きなり頭を殴られ、殴ってきたスレイに食いかかった。


「テオドール、一つだけ言わしてもらうけど、剣が使え無いなら拳でも握ってかかってこい!簡単に諦める奴を弟子にとる気はない!」

「そっ、そんなししょ~」

「情けない声出すな。次にやれば言い。だから今回はこれでお仕舞いな」


 スレイは踏みつけていた大剣から足をどけて、そのまま足で刀身を蹴りあげて空中で柄を受けとると、そのままテオドールに向けて返す。


「テオドール、その剣を使い続けようと思うなら一つアドバイスだ」

「はい!」

「今のままじゃ大剣に身体が合っていない。さっきの手合わせの時も剣の重さに付いていけてなかったから、まずは足腰を鍛えろ。いいな?」

「はい!ありがとうございます!!」


 テオドールが嬉しそうに頭を下げて村の方に走っていくのを見送ると、なにやらリーフとアニエスがニヤニヤした視線をスレイに向けていた。


「スレイって本当に面倒見が良いわよね~」

「そういうところがスレイ殿らしいです」

「リーフもアニエスも、いったい何が言いたいんだよ?」


 ふふふっと、リーフとアニエスが笑って話をはぐらかしてしまったので、もう良いやっとも思いながら二人の後を追って村の中に戻ると、何から人だかりが出来ているのを見つけたスレイたちは、それが気になって近寄っていく。


「すみません、ちょっと通して………おい、ライア!どうしたの!?」


 人混みを掻き分けて中に入ったスレイが見たのは、右目を押さえてうずくまるライアと、そんなライアのことを心配そうにしているユフィたちを見つけ、すぐにスレイもその中に入っていった。


「ラピス!ライアに何があったんだ!」

「スレイさま!………わかりません。急にライアさまが目を押さえてうずくまってしまいまして」

「目……もしかして魔眼か?」


 そう思ってスレイがユフィとノクトの方を見るも、二人ともわからないと言った感じで首を横に降った。


「ここにいてもらちが明かない、悪いけど旅行は中止だ。ノクトとアニエスで竜車にキャンセルを伝えてくれるかな?」

「わかりました。行きましょうアニエスさん」

「えぇ」


 二人が行ったのを見て、まずはライアを休ませよう、そう思い抱き抱えようとしたそのとき、ライアの手が伸びてスレイの手を掴んだ。


「……あいつが、来る。逃げ………なきゃ、みん……な」

「ライア?」


 スレイがライアを見ると、右目から血が流れ出ていた。やはり魔眼が発動していた、そう思ったと同時にライアの口からこんな言葉がこぼれ落ちた。


「……みん……な、死ん……じゃう……」


 その言葉を言い終えると共にライアは意識を失ったのだった。

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