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新しい命

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 この街にやって来てからもうすぐ二ヶ月が過ぎようとしていた。

 始めにクレイアルラから頼まれた期間の半分が過ぎていたが、もうじきジュリアとマリーの出産が間近であることと、出産後の赤ちゃんの経過を見るためにもうしばらくは村の方に付きっきりになるかも知れないと言われている。

 ちなみに、今ジュリアは九ヶ月を過ぎ、マリーはもう臨月に差し掛かっている。

 なので長期の仕事を引き受けることとができなくなったクレイアルラだが、最近ではマリーの出産が近いため授業のほとんどをスレイとユフィに任せっきりになっている。


「と、言うわけで自身のオリジナルの魔法を作るのに必要になるのは、既存の魔法を組み換えさせそれを越えることのできる発想の転換が必要になりますが、これはちょっと違うから注意するように」


 スレイが黒板にファイヤー・ボールの術式を描き、そこに威力を増すべく風魔法の術式を加える。


「このように既存の魔法の威力を上げて組み上げる魔法は改変魔法と言い、オリジナル魔法とは別なので注意してください」

「先生、簡単にオリジナル魔法を作る方法って無いんですか?」

「そうだなぁ、簡単なのは教えを受けている師匠の魔法を受け継ぐことや、貴族の家で一族が受け継いでいる魔法を改良する方法だね」


 スレイがそう言うと生徒たちが関心の声をあげるが、そこでスレイは待ったをかけた。


「ただし、この方法はあまりオススメしない」


 再びスレイが黒板に魔法の術式を書きながら話を続ける。


「魔法を引き継ぐと言うことは、その魔法の歴史を引き継ぐくことになる」

「えっと、それはどう言うことなんですか?」

「例えばっと、ここに書いた術式はボクのオリジナル魔法の一部だけど、これを見ただけで何かはわかるか?」


 スレイがそう尋ねるが、全員首をかしげている。


「今見てもらった通り、人の魔法を引き継ぐとその人以上の知識が必要になるんだ。だから威力を上げようとして逆に下がったり、発動することも出来なくなることがある」


 話を聞いて生徒たちが顔をしかめたのを見て、ここら辺でもう言いかと思ったスレイは次に進むためにユフィと入れ替わる。


「それじゃあみんな、これから前回の授業でお話しした通り、練習場に移動して私とスレイ先生のオリジナル魔法を見せますけど、私たちの魔法が威力が強すぎて危ないから、決して結界の中には入らないようにね~」


 この日は生徒たちにオリジナルの魔法を開発するための講義をおこなっている。

 オリジナルの魔法を教えるとなると、最初に自分たちの魔法を見せておいた方が良いとクレイアルラに言われていたので、説明が終わったら魔法を見せるために練習場に移動する。




 スレイとユフィは生徒たちと練習場に移動すると、設置されている魔方陣を展開する。

 念のためだが生徒たちも二人の後ろに移動させて、さらにスレイとユフィがシールドを多重展開した。


「シールド、これでいいかな?」

「うぅ~ん……ちょっと足りなさそうだしこの子たちも使おっか」


 ユフィのシールドシェルとガンナーシェル・シールドモードを出したので、ついでにスレイのソードシェル・シールドモードを発動させて準備は完了だ。


「これくらいでいいかな?」

「たぶんね~。後はみんなにシールドを張らせようよ」


 二人のオリジナル魔法は基本的に使徒や魔物との戦いを想定して作ったため危ない。町一つ吹き飛ばせと言われれば出来るほどだ。


「先生~。結界があるのにシールドまで張るなんて無駄なんじゃないですか?」

「念のためだよ~、もしも結界が破れたときのために張ってるだけだけど、それがなくて怪我しちゃったらイヤでしょ?それに、ここに結界破ったことのある人がいるから」


 ユフィが自慢げにスレイの方に目を向けると、スレイはササッと視線を横に向けていた。

 生徒たちは、この人マジか!?っと言う顔をした。そしてミーニャは少し前に耳のああのときのことを思い出しながら半笑いプラス目から光を喪失させていた。

 あれは仕方のないこと、不可抗力だと声を大にして言いたかったが、それに待ったをかけるようにユフィが前に出る。


「それじゃあ始めるよぉ~!」


 ユフィが生徒たちに向けてそう言うと同時に、生徒たちが一斉にシールドを数枚重ね発動しただけでなくこっそりと身体強化で身体を硬質化させていた。

 さらにミーニャにいたっては、シールドの後ろの自分の前にゲートを発動して爆風やら何やらを逃がすつもりらしい。

 妹にここまでしないといけない危険人物という認識を持たれているのかと、ショックを受けているスレイを優しく慰めたユフィは、先にやるね、っと言ってから杖を取り出すと練習場に常設されている的に向かって照準を合わせる。


「それじゃあよぉ~っく見てるんだよ~。テンペスター・ユピテルノ!」


 ユフィの放った暴風雨の竜巻は的を撃ち抜き後ろの障壁を揺らしていた。

 魔法が消えたのを見たユフィは、そっと杖を下ろすと、シールドの中で見ていた生徒たちの方に向き直ると、説明を始める。


「これが私のオリジナル魔法で、風魔法の最上位の暴風をベースに水魔法と雷魔法を掛け合わせたのがあの魔法なんだよぉ~。それじゃあ次はスレイ先生、よろしくね~!」

「はいはい、分かりましたよ。それじゃあみんな威力は抑えて使うけど、かなりの威力だから衝撃だけ伝わるかもしれないから気を付けてね」


 スレイはいつものように手を掲げると、開かれた手の平に自身の使える魔法の中で最大の一撃を放てる魔法の魔方陣を展開し、小型の光の球体が形作られた。


「それじゃあいくよ。イルミネイテッド・ヘリオース!」


 放たれた光の一撃は的を膨大な熱で消し飛ばし、さらにその後ろの障壁を揺らし爆発したところでスレイは強制的にヘリオースの魔力を消し去ると、遅れて爆風が吹き荒れる。

 爆風は練習場の一帯を揺らし背後にいた生徒たちが悲鳴を上げているなかを、スレイとユフィは平然としながら暴風が吹き止むのをまっていた。

 しばらくして風が収まったのを確認したスレイは、生徒たちの方を向いて魔法の説明を始めた。


「今のがボクのオリジナル魔法だ。原理を簡単に説明すると、光の魔力を重力魔法で圧縮することによって出来る膨大な熱を放つ、まぁより簡単に言うと超高温の熱の光を放ったってだけだね」


 正確に説明するらば光の収縮によって出来る疑似太陽のエネルギーを放つと言った方が良いのだが、生徒たちの目から精気がキレイさっぱり抜け落ちてしまったので、そう説明した。


「よし!それじゃあ一度教室に戻ってオリジナル魔法の魔方陣を考えてみよう。しばらくは教室での講義になるが魔法の完成した子から練習場に移動して魔法の練習だからな」


 そうして生徒たちを再び教室に戻して、それぞれのオリジナル魔法の開発に着手させたところで今日の授業は終わりを迎えた。



 授業の終わった後は、いつものように買い物をして家に帰るのだがこの日はそれをせずに帰った。

 その理由は、買い物をしようと店を覗いていたら、近所に住んでいる奥さんが家の前に変な人がいると教えてくれたからだ。

 なので買い物はあきらめて、走って帰ることにした。


「それにしても、変な人って誰だろうね~」

「さぁ、またユフィの叔父さんじゃない?今度はボクじゃなくてユフィと戦いに来たとか?」

「イヤだよぉ~、私マルス叔父さんに会いたくなぁ~い」


 ユフィはマルス叔父さんとの相性が災厄らしい。と言うよりも、つい最近話を聞かない系のイケメンに言い寄られてぶちギレたこともあるように、ユフィは人に話を聞かずに自分のことを優先する自己中は苦手だ。

 なので脳筋で人の話を全く聞かない系のマルス叔父さんも、少しだけ苦手意識があるのだ。

 本気で悩んでいるらしいユフィを横目に苦笑いをしていたスレイは、もうすぐ家だと思視線を奥の方に向けると、確かにご近所さんの言う通り誰かがいるのだが、その姿を見ておや?っと思った。


「あれって、もしかしなくても父さんじゃない?」

「えぇ~。あっ、本当だ」


 そう家の前でいったり来たりしているのはまさしくフリードだった。だが、なんで中央大陸にいるはずのフリードがこの街にいるのだろうか、そんな疑問を胸に仕舞いながらスレイとユフィはフリードに近づいた。


「父さん、何してるのこんなところで?」

「スレイ!ユフィちゃん!よかった、ルラの奴簡単な地図しか渡してくんなくてな、本当にここでいいのか分かんなかったんだよ!いやよかった!」

「すみませんおじさん、よく分かりませんけど、取り敢えずお家の中に入りませんか?」

「父さん、不審者扱い受けてるからね?」

「マジかよ!?って、そんなこと言ってる場合じゃねぇ!ユフィちゃん、よーく聞け、マリーが産気づいた。すぐにオレの屋敷まで来てルラを手伝ってくれ!」


 早口で言われたフリードの言葉にスレイとユフィは一瞬頭がフリーズしたが、すぐに我に帰ったユフィがフリーズに詰め寄った。


「おじさん!それ本当!お母さんは大丈夫なの!?」

「うぉ!?いや、大丈夫なんだが、予定よりも早いからもしものためにユフィちゃんと、出来ればノクトちゃんにも来てほしいらしいんだ」

「ノクトはみんなと依頼を受けに行ってるから、ボクが探してくる。ユフィは父さんと先に行ってて!」


 善は急げ、と言うよりも御産が始まっているならかなり急がないといけないのでスレイたちは大急ぎで町の門へと向かおうとした途中、ユフィがあることを思い出した。


「そういえば、アニエスちゃんどうしよう?」

「あっ、やっべ忘れてた。それとおばあちゃんたちにもこの事教えといた方がいいかも」


 慌てすぎてそこら辺のことをすっかり抜け落ちてしまったスレイたちは、一瞬だけ目を合わせると全員で頷き合うと、スレイは踵を返しながら来た道を戻り始める。


「おばあちゃんたちも連れてくから先に行ってて!」

「私はノクトちゃんたちと合流してから行くからね!」


 手短にそれだけ告げたスレイとユフィは一気に速度を上げて走っていった。


 ユフィとフリードと別れたスレイは竜翼を広げると空へと飛び上がり、前にトラヴィスから受け取った住所を確認しながら飛んでいる。


「えっと、たしかこの辺のはずなんだけど………あっ、あれか?」


 上空からなんだか道場っぽい建物を見つけたスレイが地面に降り立つと同時に、道場の壁が砕けちり中から前に襲撃してきたマリスが着ていた道着に似た服を着た男が吹っ飛んできた。

 なのでいつものように蹴りで打ち払った──ちゃんと事前に周りに人がいないことを確認済み──スレイは、穴の空いた壁の中から出てきた総髪の男のことを睨み付ける。


「おぉ!スレイじゃねぇか!修行に来たのか、入れ入れ!がっははははは!」

「いやいや違いますよ。ってぁいったいどんな修行してたら人が壁を突き破ってくるんですか?」

「がっははははは!よく有ることだ気にするな!ところで、あいつはどこに行った?」

「あぁ、それならあっちに蹴り飛ばしましたけど、ってそうじゃない!」


 本来ここに来た目的を思い出したスレイが叫んだところで、アシリアがさらに壁をぶち破りながらやって来たのだが、スレイはもうツッコミを入れるつもりはない!だってこの家族にツッコミをイチイチ入れていたら夜になってしまう。

 だけど一つだけ言わしてもらうと、その手に持っているボロ布のような人を早く下ろしてあげてくださいよ!泡吹いちゃってますからね!?っとは、口が裂けても言えないいいや、言ちゃいけない気がするのでそっと後ろを向きながら他人の振りをしかけたスレイは、イカンイカンと思考を現実に引き戻した。


「アシリアおばあちゃん!マリーおばさんが産気付いたのですぐ来てください!」

「なんだって!?こうしちゃいらんないね!マリウス!ちょっとマリーのところに行ってくるから道場のこと任せたよ!それとスレイ、あんたはジュディスも呼んできな、こういうときの人手は大い分には事欠かないからね!」

「分かってるし、そもそもアニエスを呼びに行くつもりだったからすぐ行ってくる」


 竜翼を広げてジュディスの屋敷に行こうとしたそのとき、後ろからとんでもないことを言い始めた人物がいた。


「なんだよお袋、マリーんところに行くのか?なら俺も行くぞ!久しぶりにマリーと組み手だ!」


 そんな飛んでも発言をしたのは誰だろう、もちろん脳筋と呼ばれるマルスだ。


「あんた、なに言ってんだい?」

「いやだってマリーに会いに行くんだろ?なら戦わない訳にはいかねぇだろ!あいつどんだけ腕を上げてるか今から楽しみでなんねぇよな!」


 ダメだこいつ、早くなんとかしないとあかん。

 スレイとアシリアは無言で頷き合うと、竜翼を解除し学園の仕事のためだけに着ていたローブを脱ぎ捨てる。


「やるよスレイ。かわいい孫のためだ」

「お願いします。アシリアおばあちゃん」

「おっ、お袋もスレイも何かすんのか?」


 二人は闘気で強化し両腕の筋力を底上げし、長引かせないためにも一撃で仕留めるつもりでいる。


「なんだなんだ?闘気何て纏って何すんだ?」

「えぇ、ちょっと……ねっ!」


 竜鱗と竜爪を発現させ身体の筋肉を竜人の物に変化させると、一気に地面を蹴ると一気に距離を積めたスレイはマルスの顎に拳を打ち込もうとする。マルスはニヤッと口元を吊り上げて拳を掴んできた。


「おっ、マリーと戦う前のウォームアップに付き合ってくれるのか!」

「そんなわけないでしょうが!」


 スレイはマルスを蹴り離れると、もう一度踏み込むとマルスが拳を降るって迎え撃ち転移魔法を使ってマルスの背後を取ると、入れ替わるようにアシリアがラッシュをする。


「お袋、そんなんじゃアップになんねぇって」

「そんなつもりはないって言ってるだろ!スレイ!!」


 アシリアが後ろに飛ぶと、空中に現れたスレイがその場で回転して空中踵蹴りという、なんと言うアクロバットな蹴りでマルスの身体を落とし、崩れたところに横からの蹴りを与えた。

 吹き飛んだマルスが道場の壁を突き破って戻っていった。


「ごめんアシリアおばあちゃん、緊急事態だったから壁破っちゃって」

「構わん構わん!どうせ直すんだ穴の一つや二つどうってことない!それよりうちのバカ息子が悪いね」

「いえ、もう前のことで慣れてるから大丈夫、しかしあれで首が折れないって化け物かよ」


 スレイは先ほどの蹴りに感触から首の骨が折れていないことは分かっていた。だが、一応気を失うことは出来たと思ったにでいいとは思うが、確実に殺す気で蹴ったのにその感触は少し怖いと思っているとアシリアがその理由を教えてくれた。


「うちのバカは闘気も魔力も持ってない代わりに骨と筋肉が異様に固くてねぇ。それに加えて人の枠を超えるほどの動体視力と身体能力…を持っていると、親の私からしても化け物に見えるときがあるね」

「特異体質って奴ですか………って、だからこんなことしてる場合じゃないんだって!早くアニエスたちを呼びに行かないと!?」

「そうだった!スレイ、ジュディスん所で待ってな、私もそっちに行くから!」

「了解!」


 スレイは走ってジュディスの屋敷に行くと、アニエスとジュディスに事情を話して慌てながら準備を始めたジュディスと、そんなジュディスのことを見て一緒に行きたいと言い出したスーシーを連れて、合流したアシリアを連れて中央大陸に戻った。


 大急ぎでゲートで中央大陸に向かい、門番に身分証と入税を投げ渡した。


「後で全員分の身分証、取りに来ますからね!」

「いやこれ、若さま!?これ白金貨、多すぎてお釣り出せません、若さまぁーーーーーーーーッ!?」


 後ろから門番の叫び声のような声が聞こえてくるが無視、スレイたちは大急ぎでアルファスタ家の屋敷に向かいセバスの案内でマリーのところに案内してもらった。

 すると、


「あぁ~。お母さ~ん、おばさ~ん!みてみて~、男の子よ~」

「うぉおおおおおお、マリー!よがっだーーーーッ、本当によがったーーーーーーッ!!」

「あらあらぁ~、あなたったら~」


 まさかの着いたと同時に産まれていたとは思わなかったスレイたち、さらにゴードンが泣きながら喜んでいるのを嬉しそうに見ているマリー、その周りではフリードやユフィたちも微笑ましそうに見守っていた。

 そんな中、スレイはなんだか疲れたなっと思いながら部屋を出ようとしたそのとき、部屋の扉が開いてクレイアルラが入ってきた。


「大変です!今度はジュリアが産気付きました!ユフィ、ノクト!もう一度お願いします!!」


 どう言うことだと思ったスレイたちは一瞬言葉を失った。


「「「「「えっ、えぇぇぇえええええええ!?」」」」」


 そんな声を叫びながらユフィとノクトが連れていかれ、いきなりのことに動揺したスレイにアシリアがミーニャ呼びに行けと指示を出し、スレイ以上に動揺していたフリードをジュディスが叩いて正気に戻しジュリアのところに行かした。



 それからはあっという間に過ぎていき、この日アルファスタ家の屋敷では三つの小さな命がこの世界に産み落とされる瞬間に立ち会ったのだった。

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