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ランクアップ試験とバカな子供

 ラピスとアニエスに腕輪を渡してからさらに一ヶ月が経った。

 その間に、スレイは両親にラピスとアニエスのことを報告し、アニエスの唯一の肉親──後から聞いた話なのだが、どうもアニエスの家族は生きているらしいが村ごと奴隷商に捕まったので行方不明らしい──のスーシーに婚約の報告をしたり、後は前々から約束していたセドリック王子のおもてなしをしたりした。


 セドリック王子のおもてなしには地球のお菓子を作ったり、未だに空間収納に収まっているドラゴンの肉の料理を振る舞っると、お菓子を気に入ったらしく帰りに付き添いのメイドさんに今日のお菓子のレシピを書いて渡しておいたので、今ごろは美味しいお菓子を食べているだろう。

 さて、この一ヶ月の内容はこれくらいにして、ここからは今日のことだ。


 今日はスレイたちが冒険者ギルドのランクアップ試験を受ける日なのだ。

 そのため冒険者ではないアニエスは家でお留守番だが、行けない代わりにとアニエスが特製のお弁当を持たせてくれた。

 ランクアップ試験を受けるに当たってスレイたちは一つ困ったことがあった。それは試験の内容が分からないと言ったことだ。

 今までスレイたちがランクアップ試験を受けたことは一回だけ、それも事情があったために少し変則的な試験だった。そのあとに襲ってきたAランクの魔物を討伐した結果、スレイとユフィは一気にCランクになりそのあとに迷惑料としてランクを上げてもらったので、実質には試験を受けたかといわれると微妙なところだ。


 そんなわけで、今日初めてランクアップ試験を受けることになったスレイは、会場となっている近くの街で受付を済ましていた。なぜ、別の街で受けるかと言うと首都にあるギルドは試験を行えるような広い場所がなく、毎回試験を行うときは別の街のギルドと合同で行っているそうだ。

 ついでに事情を説明して受付のお姉さんに試験の説明を受けてみると──どうせ説明を聞くなら一人でいいだろうと話し合い、始めてくる場所なのでいい依頼はないかを確認してくると言っていた──どうやらみんなで自分のランクよりも上の相手と戦い、その相手、この場合は試験官から合格を言い渡されればそれで合格らしい。これもついでに教えてもらったのだが、各ギルドで試験の内容は違うらしい。そんな話を聞いていると、後ろから誰かに声をかけられた。


「おいおい、その年であんた試験は初めてなのかよ?ダッセェ~」


 そんな声をかけられたスレイが振り返ると、いかにもヤンチャしていますと言った具合の少年が立っていた。具体的に言うと指にはドクロをあしらった指輪にネックレス、こしには無意味なチェーンや耳にもピアスを付けていたが、どう見てもスレイよりも歳は下だろう。

 見たところ十代前半のようだが、大方十三か十四くらいだろうなっと思ったが、少年がスレイの方に卑下た笑みを浮かべながら近寄ってくる。


「お前だよおっさん、その年でDランク試験って才能ねぇんだったらさっさと辞めちまえよ」


 おっさんと言われてスレイくんこめかみに青筋が浮かんだ。

 スレイはまだおっさんと呼ばれる歳でもないのだが、この子供はいったい何をいってるんだろうと思ったが、理由はどうせこの髪のせいだろうなと思った。

 そしてたからかのこれから自分がCランクの試験を受けることを語りだし──ここで受付の女性が少年を止めようとしたが、スレイがそれを止める──、それに比べてお前はどうだなどと、聞いてもいないことを声高らかに語っているのを黙って聞いていた。


「どうだ、ここはおっさんのような落ちこぼれの来ていい場所じゃないんだよ、さっさと辞めて田舎にでも帰れよ」


 どうやら話しは終わったらしいので、今度はスレイの方から言わしてもらうことにした。


「ねぇ君、いくつか言わしてもらいたいんだけど、まずボクはおっさんじゃないよ?今年で十七になるから、おっさん呼びはやめようか?」

「はっ?嘘こいてんじゃねぇよおっさん、そんな歳で白髪頭何ておかしいだろ?」

「生れつきなの、子供のときの写真見る?髪真っ白だからさぁ、あともう一つなんだけど君さぁ歳上には敬語を使うってお母さんから教わらなかったのかな?」

「俺は俺よりも弱い奴には敬語は使わねぇよバァ~カ」


 そろそろキレてもいいですかと、口角を釣り上げて端を痙攣させたかのようにピクピクさせたスレイ、その表情と漏れ出る殺気から何かを察したらしいお姉さんが涙眼で首を高速に横に降った。

 残念だ、これで許しが出たら最大級の殺気ので威圧をしてやろうと、密かに考えていたスレイだったがダメと言われたらやれないので、自分のランクを教えてあげようかそう思っていたらさらに後ろから声が聞こえてきた。


「スレイくん、何してるの~?」

「話を聞くだけなのはずなのに、また面倒ごとに巻き込まれてるんですか?」


 やって来たのユフィとノクトだった。どうやらいつまで経っても来ないスレイのことを不振に思い見に来たら、あからさまに年下と思しき少年と口論をしていた──実際は少年から一方的に貶されてただけ──のを見て、心配になって来たらしいのだが、少年はニヤリと下品な笑みを浮かべながらスレイを指差した。


「おいおっさん、その女寄越せよ。どうせ満足に相手できてねぇんだろ?俺が思う存分満足させてやっからさ」


 ユフィとノクトの目から光が消え、代わりに怒りの色が浮かんでいった。スレイくんもう一度受付のお姉さんのことを見ながら、殺っても構いませんか?っと訪ねると、お姉さんは涙目になりながら、ダメです!殺すのはダメです!っと必死で止める。

 まぁ、殺すのは冗談だが少し現実を知らせてあげようとギルドカードを見せる。


「ねぇ確か今Dランクなんだよね?」

「あぁそうだぜ!」

「実はさぁボクBランクの冒険者で、今日Aランク試験を受けにきたんだ」

「はぁ?嘘こいてんじゃ……ねぇ……ぞ……?」


 スレイは少年に自分のギルドカードを見せると固まった。

 さてさて、ここでさっきまで少年が言っていた話をよぉ~く思い出してみよう。この少年は自分よりも下の相手の言うことは聞かない、つまり自分よりも上であるスレイのことを散々バカにしてきた。

 まぁここまではこの年頃の少年ならしかたない、そう思って寛大に済ませてあげようと思ったが、ユフィとノクトを寄越せ発言は寛容出来ない。少しだけ殺気を放ちながら少年を睨むと、ヒィッと小さな悲鳴をあげる。


「ねぇねぇ、確認なんだけどさぁ自分よりも下の子がいたらいじめてもいいのかな?」

「い、いいえ」

「じゃあさぁ、自分よりも下の子が女の子を連れてたらその子を奪ってもいいのかな?」

「だっ、ダメです!」

「君がやってたことってそれと同じだからね?今度同じことをしてたら痛い目に遭うと思えよ?」

「はっ、はい!すみませんでしたぁぁあああああ――――――っ!!」


 泣き叫びながら走り去っていく少年、あれくらい脅かしとけば同じことをすることもないだろうと思ったスレイは、フンっ息を吐いてから周りから視線を感じて、なんだなんだと思っているといきなり拍手喝采を浴びることとなった。


「いや、兄ちゃんあんたよく言ってくれたよ!あのガキには俺らも困らされてたんだよ!」

「俺らもたまに説教すりんだが全く効き目なくてなぁ、いやぁ~アンちゃんの説教を聞いて逃げ出すあのガキの姿を見て、胸ん中がスッキリしたぜ!」

「おい白髪のアンちゃん、試験終わったらいいな。礼に一杯奢ってやっからさ」


 なんだかものすごく感謝されてしまったが、あの少年はそこまで嫌われてたんだなっと想いながら、ユフィたちに試験の内容を説明していると、ふとあることを思い出してみんなに聞いてみる。


「なぁ。みんなさぁボクのこと始めて会ったとき幾つくらいに見えた?」

「………わたしは、お兄さんのこと幽霊だと思ってました」

「まぁ。ノクトは仕方ないよな。うん。だって、初めて会ったのって死霊山だしまだ小さい子供だったから」


 その話に興味を持ったのかライアとラピスがスレイとノクトに詳しい話を聞いて来て、詳しい話を聞いたことのなかったユフィとリーフもその話しに興味を示したが、長くるから帰ったらと言って話を戻す。


「私は、同じくらいか年上だと思いましたね。一瞬だけですが髪の色で老人かとも思いましたが、声も若いですし………それに抱き締められたときにその、思いの外逞しかったですし」


 そう言いながらリーフは熟れたリンゴのように顔を赤くした。

 こういうところが可愛いんだよなっと、スレイがリーフの頭を撫でながらそう思っていると、余計に顔を赤くしたリーフが上目使いで潤んだ瞳を向けてきた。

 こんな人目のある場所じゃなかったら思わず抱き締めてしまうところだが、人目が有るので自重しようとしたのだが、横からノクトとライアに肘でつつかれてしまった。


「……私は普通に年上だと思った」

「わたくしは自分の年齢が分かりかねますが、スレイさまは大人びていますから歳上に思えますね」


 どうやらみんなスレイのことを年上だと思っていたらしいが、さすがにおっさんとは思われていなかったことに安心したスレイにユフィが疑問を口にした。


「どうしたの急にそんなこと聞き出して、もしかして何かあったとか?」

「いや、さっきの子におっさんって言われちゃってさ、正直にショック受けたから聞いてみただけって、みなさん?なんで武器もってどこ行こうとしてんの!?」


 全員が武器を握ってこれは不味いと思ったスレイが、なんとかみんなのことをなだめて少年の命を救ったが、あのままだと本当に殺しにかかりそうだったので間に合って良かったと、スレイは心の中で安堵しながら当分この話題を持ち出すのは辞めよう、そう心に誓いを立てていた。


 しばらくしてスレイたちは大きな広場に集められていた。


「それでは、これよりランク試験を執り行う。それではまずDランクの受験者から始める!」


 そう言われて初めにDランクの試験が開始され、リーフ、ライア、ラピスの三人が試験をすることになったのだが、開始早々に全員試験官を倒して試験は簡単に終了となった。


 三人の戦いを簡単にお話しすると、リーフはいつも通り盾で相手の攻撃をいなしてから、右手に握られた翡翠の一閃によるカウンターの一撃を相手の腹部に叩き込んで終わった。いつもの鮮やかな闘い方にスレイたちは下を巻いた。


 次にライアの闘いなのだが、一言で言うとズルかった。

 何がズルいかと言うと開始早々にライアが竜翼を顕現させ上空に逃げると、上をとったライアがそのまま上から滑空して拳で殴ったり蹴ったり、尻尾で叩きつけたりして倒したのだが、見てて完全にズルいなと思いながらも試験官は倒したので合格には違いなのだが、見ててズルくない?そんな感想しか出てこなかった。


 次にラピスなのだが、ラピスの闘い方は流麗の一言に尽きた。なぜならばラピスの動きは、まるでバレリーナがステージの上で踊るように、美しくそして綺麗だった。


 三人の試験が終わったところでお昼ご飯になったので、スレイたちはアニエスの作ってくれたお弁当を食べながら先程の戦いについて話し合っていた。


「ライアさん、ズルはいけないと思いますよ。戦いを見ていたお兄さんとユフィお姉さんが、うわぁ~って顔をしていましたよ?」

「……ん。翼は私の身体の一部、だから問題はない………はず」

「ライアさま、自身が無いのでしたら言わない方が良かったのではないしょうか?」

「……むぅ………みんな、意地悪」


 ぷぅ~っと頬を膨らませたライアがポロポロと目元から涙を溢し出したので、スレイはライアを優しく抱き締めながらポンポンっと頭を撫でながらラピスに話しかける。


「まぁまぁノクトもラピスも、ライアが拗ねちゃったかっから。それに竜翼はボクも使うかもしれないんだし、ダメだったら審判が止めるはずだから大丈夫だろ?」

「そうだよ~、でも上から攻めるのはちょっと見ててアレだったけどね」

「……むぅ~ユフィのバカぁ~」


 またしても泣いてしまったが、スレイもあの闘い方はアレだと思っているのでどうにもいい言葉が思い付かないため、それ以上に何も言えなかった。


 昼食を食べ終えて今度はCランクの試験なのだが、今回はノクトとあの逃げ出した少年──どうやらあの後に戻ってきたなんとか試験には間に合ったらしい──だけらしいのだが、結果だけ言うとノクトは勝負に負けたが、試験は力を見るだけなので負けても何も問題はない。


「うぅ~、負けちゃいました」


 今回はノクトとの相性の悪い近接戦闘型の試験官との闘いになり、杖術で応戦はしたが試験時間ギリギリまで粘って負け、と言うよりも引き分けで終わった。


「まぁ、仕方ないってノクトちゃんの仇はお姉さんがとってあげるから!」

「お願いします!」


 固い握手を交わしている二人だが、そもそもノクトを倒した冒険者とはランクが違うので戦うことは出来ないだろうとは、誰もツッコミを入れなかった。


 ちなみにあの少年も試験には合格していた。

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