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覚悟を決めるとき

 ラピスとアニエスから突然の告白をされてから二週間が経った。

 あれからアニエスが一緒に暮らすようになったのだが、一日の大半をカークランド家でメイド、と言うよりも花嫁修行の一環として働いているらしい。

 そのため、最近では家事の腕がメキメキと上がって来ており、ついでに言っておくとカークランド家のメイドたちのお陰なのか、はたまた恋をしているからないが、たった数日で大人の色気をかもちだしてきた気がする。


 ラピスの方はアニエスと違い今まで通りなのだが、今までは必要以上に接触してくることがなかったのだが、スレイがソファーで本を読んでいるとさりげなく隣に座ったり、約束通り夜のデートに行くとまたしてもさりげなく腕を組んできたり指を絡めてきたりと、まるで恋人にしているようなことをやってくる。


 そんなことを続けて二週間、あんなに綺麗な二人から迫られているというのだ。

 正直に言って二人の好意を知りつつそれを受けているので、精神的にかなり疲れてきたスレイはこの日、ある人にこの数日のことを相談することにした。


「そんなわけでして、先生。なにかボクにいい解決策がないか教えていただけませんでしょうか?」


 この日スレイは学園の仕事が終わったあとに、クレイアルラをカフェに誘って──ユフィにはクレイアルラに相談があるからと先に帰ってもらった──相談をしているのだが、相談されたクレイアルラはというと出されたお茶を一口飲んでから口を開いた。


「とりあえず、もう付き合えばいいのではないでしょうか?そもそも、恋愛経験の乏しい私に相談する方が間違っていると言うことだけは教えておきます」

「それもそうですけど、ボクの何倍も生きておられるんですから、なにかいい解決策を知っているかと思ったんですよ」

「まぁ、そういう修羅場は何度か見たことはありますが、私の知っている場合はその方の奥さまが大反対していましたからね。あなたの場合とは違うんですよ」


 確かにあまり一夫多妻の夫婦を見かけることは少ない。前に知り合った冒険者夫婦や、たまにそう言う夫婦を見かけることもある。あと、多分だがユキヤもアカネとレティシアもそう言う関係だとは思うが、やはり一夫多妻は難しいのかもしれないな。


 話しは逸れたが、そもそもどうにかして二人のアプローチを止めさせたい、そう言う話なのだがクレイアルラはもはや面倒くそうに聞いていると、もうどうでもいいように答える。


「正直に言いますが、これはスレイ、あなたの心にしたがった方がいいと思います。ラピスにしろアニエスにしろ、あなたがどう思っているかが重要なんです。もしも二人のことを嫌いならばちゃんとそのことを伝えて、もしもそれ以外の感情を抱いているのであれば、それを彼女たちに伝えてみるのがいいと思います」

「先生………いや、でもですね。前にも話した通りラピスは記憶がないんですよ?もしも記憶が戻ったとき、ラピスに大切な人がいたら……」

「そのときはそのときです。大切なのは今の気持ちです!分かったのなら、早くその気持ちを伝えなさい」


 背中を押されたスレイは、クレイアルラに一言お礼を言ってからカフェを出ると、ゆっくりと頭の中で自分の思いを考えながら歩いていく。


 家に帰ったスレイは、先に帰っていたユフィからみんながまだ帰って来ていないことを聞くと、そっかと答えてソファーに腰を下ろして心を落ち着かせるために本を読んでいると、ユフィが読んでいた本を取り上げて座っていたスレイの上に座ったユフィは、至近距離でスレイのことを見つめていた。


「先生と話したんだよね?それで、ラピスちゃんとアニエスちゃんのこと、どうするか覚悟は決まったの?」

「あぁ。一応はどうするかは決めた。まぁ、ユフィが想像している通りのことだと思うけど、ちゃんと責任は取りますので、許していただけないでしょうか?」

「もぉ~。何度もいってるでしょ~、許すもなにも私たちのことをしっかりと愛してくれるなら、奥さんは何人いても構わないよ~。目指せお嫁さん八人!」

「おいおい、ボクの持ってる腕輪を全部渡さないといけないの?ってか嫁八人って、結構な事なきがするんだけどいいの?」

「ふふふっ」


 笑ったユフィがスレイの頬に手を当てると、ゆっくりと顔を近づけて来てスレイもそれを受け入れるように顔を近付けていくと、ドサッとなにかが落ちる音が聞こえてきたので顔を離して音のした方を見ると、床に紙袋を見事にぶちまけたアニエスと、不満そうな顔をしたまま立っているノクトたちが一気にスレイに押し寄せてきた。


「ユフィお姉さんだけズルいです!わたしたちがお仕事してるのにお兄さんとイチャイチャしてたなんて!わたしもお兄さんとイチャイチャしたいです!」

「……ん。ノクト落ち着く、恥ずかしいことを惜しげもなくいってるから」

「これは負けてられません!私たちも行きましょう!」

「わたくしも負けませんわ!さぁ!アニエスさまも!」

「ちょ、あんたこも状況で向かっていくの!?ってか、なんかキャラが変わってない!?」


 上からノクト、ライア、リーフ、ラピス、アニエスの順番なのだが、五人が一斉にソファーの方に走ってくる。


「いや、ちょっ、みんな待て!」

「危ないからやめて!?」


 さて、ソファーに容量を越えるほどの人数が突撃してくるとどうなるか、それはもちろん後ろに倒れる。そうするとみんな揃って怪我をしかねないので、スレイは風魔法で五人を受け止めると全員をソファーの上に乗せる。

 こういう状況って、ある意味男としては夢のような状況なのだが、さすがに五人が乗っていると重いなっと、口に出したら魔法で消されるくらいのことにはなりそうなことを考えていると、スレイの腕の中から黒い闇が漏れ出てきた。


「うわぉ!?闇ノクト久しぶりにご顕現なさりましたよ!?」

「あんた、びっくりしすぎて口調が凄いことになってるわよ?というか、なんでノクトは闇を出してんのよ」

「……多分、アニエスとラピスのせい。あと、リーフその二つもいでもいい?」

「どこをですか!?やめてくださいよ!」


 どうやらライアも巨乳には怒りを向けるらしいが、これはただの八つ当たりでしかないため自分の胸をもがれそうになったリーフからしたら全くのとばっちりなので、スレイは耳元で聞こえてくる言い合いに苦笑しながら見ていると、自分の胸板にぴったりと張り付いているユフィと視線があった。



「こういうのって、やっぱりいいよねスレイくん」

「そうだな………っと言いたいんだけど、正直に言ってはやく退いてほしい」

「えぇ~なんでぇ~。面白いからもう少しくらい引っ付いてようよぉ~」

「いや、でもさぁ。さっきかからユフィの胸がボクの身体に押し当てられたり、さりげなくライアがボクの手を掴んで自分の胸を揉ませてるし、他にもいろいろと言いたいけどさぁ、我慢できないからはやく退いて?」


 それを聞いたユフィがみんなの間を縫って、そろっとスレイのある部分に手を持っていき触ろうとした次の瞬間、スレイがその場から消えてソファーの上に残されたみんながビックリした顔をしている。驚いた顔をしているみんなを見下ろすように立っていたスレイは、取り敢えずデリケートな部分を触ろうとしたユフィにはデコピンを食らわせる。

 コツンと指を弾くと、頭を押さえたユフィが痛そうに額をさすっていた。


「ったく、女の子が簡単にそう言うところ触ろうとするんじゃありませんっての!」

「もぉ~!いつも見てるし触ってるでしょ~?いいじゃんちょっと確認するくらいさぁ~」

「………なぁ、ユフィ。一回おばさんにこのこと報告して怒ってもらおうか?」

「ごめんなさい!今は大丈夫かもしれないけど、赤ちゃん産んだあとになんだか言われそうだからやめてください!?」


 容赦なくユフィに対する切り札を切ったスレイにみんなが戦々恐々としている。しかしなぜスレイがここまでやったかと言うと、話を聞いていたアニエスが顔を真っ赤にしてバタバタと高速で尻尾を降っている。

 話をする前に何してるんだこれ、そう思いながら取り敢えずユフィにはもう一度デコピンを食らわしてこの話しは終わりにしたかったのだが、


「むむむっ、こうなったら今夜の一戦でスレイくんにお返ししてあげるしかないかな?みんな、手伝ってね」

「わたし、今日は遠慮させてもらいます。これ以上格差を見せつけられると闇が深くなります」

「……ん。ノクトに賛成、今日は間違ってもいじゃうかもしれないから」


 ライアが竜爪を出すとユフィとリーフが、一斉に自分の胸をかばうように胸の前で腕を組んだが、それが逆効果となった。

 ユフィとリーフの胸が腕に押さえつけられて、服の上からでも分かるように形の変わる胸を見て本日二度目の闇を吹き出したノクトが無言で杖を構える。これにはさすがのスレイもヤバイと思ったが、次のリーフの言葉で矛先を納められることとなった。


「そっ、そうです!胸ならば好きな異性の方に揉んでもらうと大きくなる!つまりスレイ殿が──」

「お兄さん!今夜はいっぱいヤりましょうね!」

「……スレイ、夕食は寝かせない、覚悟するがいい!」


 ノクトとライアの目が怪しく光った。耳がいいアニエスの顔が爆発したどうやら羞恥心のメーターが降りきれたらしい。

 それはそうとして、二人がここまでやる気になったせいで今夜の戦いはかなり激しいことになりそうだ。今夜の夕食は少し精の付く物にでもしてみようかなっと思いながら、大きく息を吐いたスレイはラピスとアニエスの二人に声をかける。


「二人にさ、話があるんだけど……いいかな?」

「なによ?わたし、これから夕食を作らないといけにあのよ?」

「はい。なんでございますしょうか?」


 スレイは空間収納から二つの箱を取り出すと、それをラピスとアニエスに手渡すとそれを開けるようにいう。箱の中には魔石を取り付けられた同じ形の腕輪が納められており、二人はこれはどう言うことかと首をかしげている。


「これは、ボクの故郷での習わしなんだけど、男女が同じ腕輪をするって理由は婚約したって意味なんだけど、恋人をスッ飛ばして婚約ってことになるけど、それでもいいのなら受け取ってください」


 今までは受け取ってもらえたが、毎回そううまく行くとは限らない。その証拠にアニエスが今にも沸騰しそうなほど顔を真っ赤にしている。ラピスは幸いなことにいつも通りのようだが、視線があっちに行ったりこっちに行ったりしている。

 二人ともめちゃくちゃどうよしておりました。ユフィのときは誤解から喧嘩になって、リーフとノクトのときは嬉しさのあまりに泣かれ、ライアのときは周りから祝福という名のいじりをうけ、そして今回は狼狽えられる、これは次に腕輪を渡すことがあったらどんな反応をされるんだろうな、そうおもっているとラピスが箱から腕輪を取り出してスレイに差し出してきた。


「わたくしは、そのお言葉をお待ちしておりましたが、お一つだけお約束願いたいことがございます」

「あぁ。なんだい?」

「例えばの話なのですが、もしも記憶が戻ったとき……わたくしを見捨てないことをお約束していただけますか?」


 どうやらラピスはまだあの事を気にしていたようだが、そんなこと関係はない。スレイは優しくラピスの頭を撫でながら口を開いた。


「何度も言ってるだろ?変わっても見捨てない、大丈夫だから信じてよ」


 何度も言い聞かせるようにラピスに言うと、ラピスの目に大粒の涙が浮かび上がりそして、小さくはにかむように笑った。


「……はい、そうでしたねスレイさま!」


 スレイは受け取った腕輪をラピスの腕にはめる。腕には蒼く輝く魔石の付いた腕輪を眺めていたラピスが、不意にスレイの方を見るととても嬉しそうな笑みを浮かべると、今度はユフィたちの方に向き直った。


「みなさま、わたくしはまだまだ若輩者ではありますが、これからはスレイさまの妻として仲良くしてくださいませ」

「いや、まだ結婚する訳じゃないから妻じゃないって………なんか同じことをユフィたちにも言った気がする」


 そんなことを考えているとユフィたちがラピスに抱きついた。


「ふふふぅ~、これからもよろしくねぇ~。それで、アニエスちゃんはどうなの~お返事?」

「いっ、今しないとダメなの?」

「当たり前ですよ。前にわたしたちの前でお兄さんに告白したあの言葉は嘘だったんですか?」

「うっ、嘘なんかじゃないわよ」

「でしたらアニエス殿も早くスレイ殿に腕輪をはめていただきましょう」

「……ん。でないとその腕輪は没収する」

「それは嫌よ!」


 つまりは受け入れると言うつもりらしく、アニエスは自分のに腕輪と左腕を差し出したのを見てスレイは腕を受け取り、それをスッとアニエスの腕にはめた。


「アニエス、これからもよろしく」

「分かってるわよ。だからよろしくスレイ」


 優しく頬笑むアニエスにスレイも優しき微笑み返した。


 この日の夕食はお祝いと言うことで前の狩ったドラゴンの肉を使ってパーティーをした。

 そしてその日の夜からラピスとアニエスも参戦が決定し、スレイはこれから自分の身が持つかどうか心配になって来たことは胸の内にしっかりと圧し殺しておいた。

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