久しぶりの帰郷とバカな奴ら ③
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盗賊団を討伐と言う名の虐殺を終えたスレイは、惨殺シーンを間近で見たせいで精神に多大なダメージを受けた団員のみなさんを休ませたあと、簡単に身支度を整えていた。
スレイもさすがに血だらけというのはあれだったので水魔法で髪と手を簡単に洗ってたり、粗相をしていたバカどももあのまま街の中を歩かせると、街の人たちが迷惑になるので魔法でまんべんなく水洗いしてから、精神的に参っていたバカたちとリタイア組を先に街の返し、その際にトラヴィスが簡易の報告書を帰還組に渡しており、そこにかかれている内容を簡単にまとめてるとこうだ。
任務は成功したがバカたちの自分勝手な理由により、派遣されるはずであった騎士の派遣を断ったあげく多くの仲間を危険にさらした。なので厳重な処分を要求する。
という内容で、あのバカたちには大分腹を立てていたトラヴィスは帰ったら正式な処分を下すと言っていた。そのときのトラヴィスの顔は、なんとも清々しいの一言に尽きる。
それからスレイたちは奴らのアジトから金品を回収と、捕まっていた人たちを──ほとんどが女性や小さな女の子だった──助けだしたところ、捕まっていた全員が涙を流しながら自由になったことを喜んでいた。
アジトの中を捜索しながら一緒に作業していた魔法師団の一人に聞いた所──先ほどの虐殺をみてかなり怯えられたが、話をするにつれてなんとかまともな反応をしてくれたので──、あの盗賊団は人身売買にまで手を出していたらしく、今回捕まっていた女の子たちはそう言った商品だったのだろうとのことだ。
助けた人たちの安全を確保するために街に帰還したスレイたちだったが、帰ってきていきなり拘束されるなんてこともなかったことこに安心した。
これでみんなのところにいけるな、そう思ったスレイだったがトラヴィスから事情説明のために一度城に来てほしいと言われた。
妹たちが待ってるから嫌だと断ったところ、トラヴィスの命令で新人団員たちに取り押さえられたスレイは──いくら人外レベルの膂力を持つスレイでも支えきれる限界は存在する──、暴れるわけにもいかないので着いていくことに、して逃げ出そうとすると同じように取り押さえられたので諦めた。
「結局のところ、あいつらの親とかはなにも言って来ないどころか、結構な金を貰っちゃってかなり複雑なんだけど………なんなのこの金、口止め料?」
今スレイは魔法師団の客室ににいた。
しばらくその部屋で待たされたスレイは、ソファに座りながらトラヴィスの秘書と名乗る女性に淹れてもらったコーヒーを飲みながら、魔法師団の団長に提出する報告書の作成をしているトラヴィスから話を聞いていた。
「大貴族ともなるといろいろとあるんじゃろう。………これはわしの勝手な想像なんじゃが、今回の任務であ奴らは死んでも良かった、いいや死んで欲しかったそうじゃな」
「死んで欲しかったって、あいつら有力貴族の嫡男………あぁ、もしかしてあのバカたちの親が跡目を継がせるための箔を付けさせるために入れたんじゃなくて、始めっから継がせないためにあえて危険に、というか死ぬような条件にして行かせたって訳ね」
なにも言わずにうなずいたトラヴィスを見てどうやらトラヴィスも同じ考えなのだと理解した。
だがそれが本当に産みの親のすることなのか、そう思ったスレイだったがトラヴィスにそこのところの話を聞いてみたところ、あのバカたちは昔からいろいろと事件を起こしては家の威光を盾にそれを封殺してきたらしい。
ここからはスレイの勝手な妄想も入るのだが、段々とエスカレートしていくバカたちに、いい加減堪忍袋の尾が切れたらしい親御さんたちが、家督を継がせるにはそれなりの箔が必要、なので魔法師団に入団してのしあがれ、何て言って心の中ではそこで死ねばいいと思うまでに至ったのだろう。
「まぁ、どのみち今回の件であ奴らは廃人同然、家督を継ぐこともできんくなったがのぉ」
「はっ、それどういうこと?」
そこのところのついて詳しく訊ねてみると、なんでも帰ってきたと同時に街中で粗相をして、泣きわめいたと思ったら幼児後退を起こしたらしく、すぐに引き取りにきた家の人間が手を引かなければ歩けなくなったらしい。
「もしかして、やり過ぎちゃった?」
「死ぬよりはマシじゃし構わないんじゃなかろうかのぉ」
それもそうだなっと、スレイが思いながらお茶を飲んでいると
「そうそう、話しは変わるんじゃが盗賊団の懸賞金と、アジトから押収した物品、ついでに前のドラゴン討伐の際にお前さんらが持ち帰った遺品の持ち主からの謝礼金と、いろいろとあるんじゃが」
スレイの前に金貨のつまった袋を置いたトラヴィス。
「謝礼金だけは今もらっておくよ。アジトの物品はそっちで何とかして、ちゃんと裏が取れてるんなら返してくれて構わないし、分配とかもそっちに全部任せるから」
「そうか、一応取り分はスレイが討伐したから八対二でよいか?」
「六四でいいよ。迷惑料ってことで……それで、もう行っていいかな?可愛い妹に久しぶりに会いに行くってのに、半日も血生臭くて腹立つ奴らの後始末やらされてもういい加減にして欲しい?」
「あぁ。すまなんだのぉ。これで最後なんじゃが、お前が討伐した盗賊団のことじゃ」
「なにか問題あったの?」
「あ奴等、ギルドだけではなくうちでも懸賞金が出ておったんじゃ、こっちは用意が出来しだい渡すでの」
「オッケー、それだけだね。それじゃあまた!バイバイ!」
速攻で扉を閉めて出ていったスレイを見送ったトラヴィスは、一つ大きなため息をついてディスクの引き出しの中から一枚の写真を取り出す。
そこに写っているのは二歳か三歳くらいの時のリーシャの写真だ。
以前ジュリアから送られた手紙に入っていた物で、これと一緒に家族で撮ったと送ってきた写真はトラヴィスの宝物だ。
これさえ見れば仕事を頑張れるのだが、今日はそうも行かないらしく小さなため息を一つついた。
「わしも、リーシャに会いたかったのぉ」
おじいちゃんも孫娘にどうしても会いたかったらしいが、仕事が忙しくて無理なので諦めて早く終わるように頑張ろうと思い直したのだった。
街を出てゲートを開いたスレイはノーザンスの関所で入税を払い──一応領主の息子ということで要らないとは言われるのだが、こういうのはちゃんとしたいスレイは無理やり渡していた──、一目散に屋敷に行くと前に一悶着あったあの仕事熱心な門番に門を開けてもらうと、庭で誰かが剣を降っているなと思ったら、その人がスレイのことに気がついて走ってくる。
「あっ、お兄ちゃんだ!」
「あぁ。パーシーくん。久しぶりだね、ちょっと見ない間にまた背が伸びてるみたいだな」
「成長期だからね。あっ、お兄ちゃん。後で剣を見てよ」
「あぁ。いいよ」
「やった!」
嬉しそうなパーシーの頭を撫でてから屋敷に入ると、すぐに老執事──今さら聞くのもあれだが、名前を聞いておきたいない──がで迎えてくれた。
老執事の案内で先にジュリアとマリー、それにみんなに来たことを挨拶したあと、その足でリーシャとヴァルマリア、それとスーシーの三人が遊んでいる場所に案内してもらうことになった。
「マリア、まだこの屋敷にいたんですか」
「はい。ごくたまにではありますが、ヴァルミリアさまもおみえになります」
そうなんだなっとスレイが思いながら後ろを歩いて行くと、どうやら裏庭で遊んでいるらしくまだ屋敷の中にいるのだが楽しそうな声が聞こえてくる。
「ここまでで結構です。ありがとうございました」
「私は執事でございます。礼は不要です」
「お礼を言うのは人として当たり前のことですから、しっかり受け取ってください」
最後にスレイがそう言いながら裏庭に続く扉を開けて外に出ると、リーシャとヴァルマリア、そしてスーシーの三人が前にスレイとユフィが送ったウサギのうーちゃんとドラゴンのドラちゃんを戦わせて──実はこのゴーレム、かなり弱いが魔法を使えるように作ってある──遊んでいるのだ。
その姿はまるで、某有名なポケットの中に入るモンスターに指示を出すあのアニメのようだなっと思いながら、微笑ましい光景に参加しようと、レイヴンを取り出そうとしたそのとき結んである髪を引っ張られて屋敷の中に連れ込まれると、さらに後ろに引っ張られ後ろに倒れかけさらにそこから首を絞められ、背中に当たるなんとも言えない柔らかい感触に、まるでムニュっと言う音が聞こえそうな物の存在を感じ顔を赤くしながら驚いたスレイは、背後にいる人物に声をかける。
「ちょっ、いったい誰だよ!?」
「わたしよスレイ」
「アニエス!あのさぁ、背中に君の大きい胸が当たってるから………離していただけませんでしょうか?」
「う、うううう、うるさいわね!ってか、この変態!」
「すまないなアニエス、男っていうのはみんな胸には弱いんだよ」
なにを年下の、それも女の子相手に言ってるんだろうなっと、スレイが自分で呆れながらそんなことを思っていると、ようやく拘束が解けて振り替えると自分の胸を庇うようにしながら、顔を真っ赤にして牙を剥き出しに唸っているアニエスの姿を見る。
こう言うときにこういう格好は逆効果なんだよなっと、心の中で思ったスレイは未だに牙を向けてくるアニエスに声をかけた。
「それで、いったい何で止めるんだよ?」
「あんたねぇ、何て言うか臭いわよ。屋敷に入ってきたときからすごい臭いよ?」
真顔で訴えかけてくるアニエスの顔を見て、スレイはショックを受ける。風呂はかかさずに入っているのだが、何で臭いと言われるのか、そう思いながら落ち込んでいるとアニエスが何かを察し、弁解のために慌て始める。
「ごめんスレイ、今のは違うの!確かに臭いんだけど、お風呂に入ってないからってことじゃなくて、何て言うかそのあんたの全身から血の臭いがするのよ」
「あぁ~、そう言えば全身血を浴びてたっけ………一応洗ったけど、そんなに匂う?」
「匂うわよ。そのコート貸しなさい洗っといてあげるから」
「自分でやるさ、これでも家事は得意なんだよ」
今着ているコートを脱いで予備のコートを羽織ったスレイは、その手に持っていた方のコートを空間収納に仕舞うと、羽織ったコートの具合を確かめていると何やら視線を感じたスレイが振り替えると、そこにはなにやらシラァ~っとした顔をしているのだ。
「なっ、なんなんだよアニエス、その目は」
「あんた、わたしとスーと会ったときもその格好だったわよね?あんた、たまにはオシャレに気を使いなさいよでないと、いつかユフィたちに捨てられるかもしれないわよ」
「嫌なこというなっての……これでもユフィたちにも結構言われてて気にしてるんだからさぁ」
そう言いながらその場を離れたスレイは、せっかくだから温泉にでも入りに行こうと考え、そうなると一度屋敷を出ることになるのでジュリアに一声かけてからオススメの温泉を教えてもらおうと思った。
「母さん、来て早々で悪いんだけどちょっと温泉入ってくるから、どこかオススメの宿教えてもらってもいいかな」
「あらスレイが温泉に行くのなら私も行きたいわね。教えてくれないかしら」
「それはいいのだけど、スレイちゃん。急にどうして温泉に行こうと思ったのよ?そんなに温泉好きなの?」
「まぁ温泉は好きなんだけどさ………ついさっき、アニエスから血の臭いがして臭いって言われてさ」
どういうことなのかとユフィたちがスレイに訊ねると、スレイはここに来る前にトラヴィスの頼みで盗賊たちを全滅させた──さすがに素手で倒したとは言わなかった。今思うと結構、というよりもかなり人としてどうかというやり方だったので──ことを話し、そのときに大量の血を浴びることとなったのを話した。
「ねぇねぇ。せっかくだしまたみんなで温泉行こっか」
「いいですね!わたしもみなさんとお風呂入りたいです!」
「私もお二人に賛成です」
「……ん。ラピスも一緒に行こう。それにアニエスも連れてく」
「あら、わたくしもよろしいんですか?」
「当たり前ですよ。ラピス殿ももう立派な私たちの家族でもあるんですからね」
驚いたように目を開けて固まっているラピスは、リーフのその言葉にユフィたちもうんうんっとうなずいているのを見て、どう言葉にしていいのかと悩んでいると、そんなラピスに向かってスレイは耳打ちした。
「こういうときは、変に考えずにただありがとうってお礼を言うだけでいいんだよ」
「ありがとうございます。スレイさま」
少しだけ頬を赤く染めながら微笑んだラピスにスレイも笑い返す。
すると、なにやら視線を感じてそちらを見るとユフィたちからは、なにやら疑いの眼差しを向けられ、ジュリアとマリー、それにジュディスからはなんとも言えない笑みを浮かべられた。
ついでにミーニャからはどこか怒りのこもったの眼差しを向けられるはめとなったスレイは、何でそんな目を向けられるのか分からないと言った顔をしていた。
「これはなんともまぁ、スレイちゃんって結構女ったらしの素質があるかもしれないわね」
「それよりもジュリア~、私のユフィちゃんにぃ~、新しい奥さん仲間が~出来るかもしれないってことかしらぁ~」
「二人とも、まだもう一人増えるかもしれないわよ」
耳は悪くないので三人の言っていることは聞こえているのだが、スレイからしたらいったい何の話をしてるんだと、ツッコミをいれたくなるような内容だった。
「ねぇ、やっぱりそうなのかな?今日初めて会ったけどちょっと怪しかったもんね」
「そうですね。アニエス殿がスレイ殿を見る目、完全に私たちと同じでしたからその可能性は高いです。それにですが、ラピス殿もいつこちら側に来るか」
「ライアさんの魔眼で確認できないんですか?アニエスさんがいつどんなアプローチをかけるかとか、ラピスさんがどうやって落ちるかとか」
「……多少なら見えるけど数分や数十分が限界。だからノクトが言ってるようなこと見れない」
今度は別のところでユフィ、リーフ、ノクト、ライアの四人がラピスとアニエスがどうのこうのと話しているのが聞こえてきたが、だからいったい何の話をしてるんだとスレイがツッコミを入れそうになると、最後までどちらにも話に入ろうとしなかったミーニャが、ラピスといつの間にかこっちに来ていたアニエスに向かってこんなことを言っていた。
「ラピスさん、アニエスさん。兄は超が付くほどの鈍感で、超が付くほどのド天然ジゴロなところがありますが、決して女ったらしではないです!妹の私が命を懸けてでも保証しますからか、安心してください!」
「あの、ミーニャさま?わたくしはただの居候ですから、そのようなことはないかと」
「わっ、わたしだってそうよ!」
困ったように微笑みを浮かべながら子首をかしげるラピスと、牙を向いて否定するアニエスに詰め寄られているミーニャの頭を軽く撫でる。
「二人が困ってるだろ?冗談はそれまでにして、みんなで温泉に入りに行こう」
そうスレイが言って先に出ていこうとすると、なにやらミーニャから呆れたようなため息が聞こえてきたが、多分気のせいだろうな、そうスレイは思ったのだった。




