ゴーレムの戦い、そして甦る子供の心
魔導士科の学部長アドモア・ダンモルアと一緒に昼食を食べ終わったスレイたちは、授業の時間も差し迫っているので向かうことにしたのだが、すでに生徒たちが集まって降り遅れてやってきたスレイたちを見て、生徒たちが不思議そうな顔をしていた。
「遅れてすまんの、今日は予定通りゴーレム同士の戦闘実習じゃが、当初予定していた講師の先生が急用で来れなくなっての。その代理として実戦魔法訓練の先生であるスレイ・アルファスタ先生、君たちのゴーレムが相手をしてくれることになった」
「紹介に預かりました。スレイ・アルファスタです。今日は君たちのゴーレムと戦えることを楽しみに思っています。どうかよろしくお願いします」
言うことばが特になかったが、これくらいなら別に問題はないだろうな、そう思いながらスレイが口にすると部屋の後ろの方に佇んでいるユフィたちから、なんとも言えないプレッシャーを含んだ視線を受けて後退る。
そっと視線をはずしたスレイだったが、目をそらそうともピンポイントでプレッシャーを浴びせてくるユフィに逃げられないと察し、分かりました、と視線でうなずくと、ユフィから、ホントに?、っと聞き返されたので思わず頷いてしまうと、生徒たちからなにやってるんだ?そんな視線を向けられることになった。
「それでは皆のもの、講義を始めよう。ではまずはイーストくん、君からだ」
ついに来た!スレイは内心でそう叫びながら喜んでいると、ユフィたちからプレッシャーが降り注いでいるので今度はみんなに対して分かっていると伝えたが、全く信用されていないのか、プレッシャーが止むことはなかったが、相手側の生徒がゴーレムをだしていたのでスレイもゴーレムを出すことにした。
相手側の生徒が出したのは剣士型のゴーレムだったので、こちらも近接戦闘型の黒騎士・壱式・改・弐型が姿を表した。
前の壱式とは違い前は背面に存在した動力部を取り外し、用途不明の機械が存在した。両肩には動力となる部分にシールドのようなものが取り付けられ、そこから細かい魔力の粒子が現れる。そして現れると同時に腰に装備されていた直剣型の銃剣を抜き放った。
生徒たちから感心の声が上がった。それほどスレイの作った黒騎士の動きが滑らかで、それでいて洗練されていたからだ。そして、一部の男子生徒からは感心ではなくスレイと熱い少年の心を呼び起こされた同士のようだ。
あぁ、これぞロマン!あふれでてくるこの高揚感!最高だ!そうスレイが心の中で叫んでいるなか、ユフィから大きな声で叫ばれた。
「スレイくん!ちょっとこっちに来なさい!!」
「えっ、どうしたのユフィ?なんでそんな怒ってるの?」
「怒ってるのじゃないでしょ!なんなのその黒騎士!さっき教室で使ってたのよりもさらに変化してるじゃない!ううん、違うね、変化じゃなくて世代交代だよ!というかその前に他の黒騎士三機も、あとどうせ作ってるであろう外付けアーマーも全部だしなさい!どうせあれなことになってるんでしょ?覚悟できてるからさぁ、はやく!」
鬼気迫るユフィさんの迫力に負けてスレイは黒騎士の弐式・改と惨式・改、そして肆式・改を空間収納から取り出すと、ユフィは大きなため息を一つつくと案の定と言いたげな顔をし、鋭い眼差しでスレイのことを睨み付けながら、まだあるんでしょ?さぁ出しなさい、全部出しなさい!そう訴えかけてきたためそっぽを向きながら、なにも言わずに空間収納を開ける。
するとでっかい物が出てきたことに全員が口を開けて驚いているなか、ユフィは頭が痛そうに押さえていた。
これはそう、地球で有名なあのロボットアニメの最終話近くになって出てくる、あの主人公機の強化武装のようなものだ。
「スレイくん、あなた。世界を平和にする戦いをしたの?ねぇ?」
「いや、男のロマンを追求した結果、この姿が一番適していたと言うことしかないので、そんな果てし無い目的はありませんので」
「じゃあなんでこんなの作ったの!」
「さっきも言ったじゃないかユフィ、すべてはロマンのためさ」
もう話になりませんといいたげに落胆したユフィが、お騒がせしましたと言ってノクトたちのいる場所に戻っていくと、ノクトたちが憔悴仕切ったユフィを心配して声をかけた。
「ユフィお姉さん、お兄さんが作ったあれなんなんですか?」
「あのゴーレムの支援兵器だよ~、もう性能的にはすごい危ない兵器なんだよ~」
「つまり、スレイ殿が作ったのはかなりまずいと言うわけですか」
「……でもカッコイイね、とても強そうだし」
「ライアさまって、感性がなかなかに変わっておりますよね。わたくしは恐ろしいと感じてしまいますね」
遠くで聞こえてくるユフィたちの会話を聞きながら、スレイは使う気の無かった支援機を空間収納に仕舞うと、壱式以外の他の三機は使うこともあるかもしれないのでそのまま控えさせておくことにした。
「ごめんよ、長くなって。それじゃあ始めようか」
「はっ、はい!よろしくお願いします!」
両者がゴーレムを前に出した。スレイが黒騎士を前に出すと、イーストと呼ばれた少年も自分のゴーレムを前に出した。二人がゴーレムを中央に並べ二機のゴーレムが向かい合ったところで、アドモアが外に被害が出ないように結界を発動する。二人のゴーレムの準備が整ったのを確認してアドモアが大きく手を上げる。
「それでは始めじゃ!」
アドモアが手を振り下ろしたと同時に、スレイは壱式に戦闘を開始する指示を与える。本来ならば相手の動きを黒騎士自身に搭載されている擬似精霊が動きを確認して、今までの戦いで収集した動きのデータを分析解析、トレースすることによって戦うのだが、黒騎士は初期の動きはスレイが魔力で指示を出さなければならない。まぁその指示と言うのは簡単な移動指示で、そこからは完全なオート操作でいい。
「行けよ、黒騎士!」
「迎え撃てアルファ―ワン!」
スレイが叫ぶと同時にイーストもゴーレムに指示を出した。
黒騎士が右手の試作型銃剣をブレイドモードに変形させ斬りかかると、アルファ―ワンのスモールシールドが受け止めるとアルファ―ワンが剣を振り抜いたが、それと同時に黒騎士が地面を蹴りあげ空中を舞った。アルファ―ワンの肩に手を置き、アルファ―ワンは自分を飛び越え後ろに降り立った黒騎士に振り向き様に黒騎士に斬りかかったが、黒騎士は降り立つと同時にまるでその一撃を予知していたかのように屈むと、アルファ―ワンの足を蹴り転がした。
転がったアルファ―ワンの首に黒騎士の銃剣の切っ先が当てられた。
あっけなく終わった戦いに周りは呆然、だが次の瞬間生徒たちが大歓声をあげた。
「スゲー!なんだあのゴーレムの動き!」
「本当にゴーレムなのか?人間みたいな動き、いやそれも武人のそれだぞ!」
「アドモア学長のゴーレムと戦ったらどっちが上なのかしら!?」
なんだか騒がしくなった生徒たちを横目に、スレイはイースト方に歩み寄るとそっと手をさしのべた。
「ありがとう、いい戦いだった」
「こちらこそありがとうございました。先生のお陰で自分の未熟さを知るいい機会になりました」
もう一度固い握手を交わしあったスレイは、アドモアに頼んで次の相手を呼んでもらうことにした。
それからスレイは四機の黒騎士を使って生徒たちのゴーレムと戦っていった。魔法を主体としているゴーレムには魔道銃装備した黒騎士・弐式・改を、スピード重視のゴーレムの相手には変形機構とスピードを兼ね備えた黒騎士・惨式・改を、パワー重視のゴーレムには同じくパワーを持った黒騎士・肆式・改を使って倒していった。
最後の方で複数体のゴーレムと戦うことになったので、今までは一対複数を想定した戦い型しか学ばせていなかった黒騎士に、大軍戦闘を学ばせる機会だと思い四対四のレギュレーションで戦い、慣れない連携に悪戦苦闘した黒騎士だったが、戦闘中のデータを集積して何とか勝てた。
一応、ユフィたちが懸念していた生徒たちのゴーレムを全損させる、と言うことはなかったので怒るに怒れないと言った具合で、なんとも言えない表情をしながらスレイのことを睨んでいるのだった。
戦いを終えてかなりいいデータが取れ──ついでにゴーレム同士の生バトルの撮影と言う、なんとも興奮するものも撮れて──、人生最良の一言わんばかりの笑顔で──普段の笑顔の二割増しくらい破顔している──相手をしてくれた生徒たちにお礼をいい終えたスレイは、笑顔を崩さずにユフィたちの方に走っていった。
「見てみてみんな!いいデータがすごい取れたんだよ!これで次の黒騎士の設計に入っても問題ないし、なんなら新しい黒騎士を作れるし、今の黒騎士たちを改造しても問題なく機能するんだ!凄いだろ!」
もう幼児後退しているのではないかと思うほどの笑みと、子供のような満面の笑み、それを見たユフィたちは、こんな顔始めてみた、と言いたげに驚いている。
「なんか、いつものスレイ殿ではありませんが、なんだが普段見ない表情で素敵です」
「なんと言いますか、小さな子供のように思えますけど、男の子が出来たらあんな感じなんですかね?」
「……子供と言うより幼子みたい。でもあの表情のスレイもかわいい」
「みなさまは本当にスレイさまのことを愛していらっしゃるようですね………うらやましい」
「ラピスちゃん?」
近くにいたユフィが、消えるようなラピスの言葉を耳にした。一瞬ではあるがラピスの寂しそうな表情を目にしたが、ラピスはすぐにいつもの柔らかな笑みに戻っていた。だけど、ユフィにはその笑顔が、とての寂しそうな、悲しみを帯びているようにおもえた。
授業も終わったにも関わらずホクホク顔のスレイ、実はあのあと一月後にもう一度同じように生徒たちのゴーレムの相手をしてほしいとアドモアから頼まれたのだ。なんでもスレイの黒騎士との戦いで自分のゴーレムの欠点に気付けた生徒や、黒騎士との戦いで新たなゴーレムの構想を思いついたせいとなど、授業の最後の挨拶の時に全員がスレイに挨拶をしていき、それを聞いたアドモアがそれならと、月に一回こういった授業をするのも悪くないと言い出し、その場で月一のゴーレムの実戦授業が行われることが決定し、アドモアからスレイもなるべく参加してくれと頼まれ、自分のゴーレムではなくてもゴーレム同士の戦いを見るといいのは心引かれる、そういう理由でスレイは二つ返事で参加することを決め、ウキウキと言った具合だった。
「……スレイ、とてもうれしそう。そんなにゴーレムの戦いが見れるのがうれしいの?」
「当たり前だろライア、ゴーレムの戦いなんてそう見れることじゃない。ここくらいなもんだぞ、戦闘用のゴーレムを作って街の警備をさせてるところなんて」
「そう言えばよく見かけますよね。たまに大捕物に出会すこともありますし、確か前にラピス殿と出掛けたときに出会しましたよね?」
「えっ、そんなことあったんですか?リーフお姉さんもラピスさんも大丈夫だったんですか、巻き込まれたりとか」
「えぇ。あのときわたくしが動くよりも先にリーフさまが颯爽と強盗を追いかけて投げ技で倒してから、流れるような動きで関節を極めて制圧していましたね」
「ちょっ、ラピス殿!?みんなには内緒にして欲しいと約束しましたよね!?なんでいってしまうんですか!しかもそんなにこと細かく説明する必要あったんですか!?」
なんか作り話のような内容だが、リーフの必死な弁解を聞いてラピスの作り話しなどではなく、本当にあった話なのだなと理解したスレイたちだったが、話の内容にもおどろいたがリーフその行動の方にも驚いていた。
「……ねぇリーフ、なんで強盗制圧したの?」
「騎士だったころの血が騒ぎまして思わず身体が動いていました」
「良いことですけどリーフさん。もう騎士じゃないんですから危ないことはやめましょうね?あと、ラピスちゃんも、危ないことはしないの」
「申し訳ありません。ですが、どうしても身体が動いてしまいまして」
「私も分かってはいるんですが、みなさんも同じ状況でしたら私たちと同じことをしたと思うんですが」
リーフの言葉にみんなは確かにそうかもしれないと、そろってうなずいた。つまりは全員が全員、誰かが困った時には人助けをする、そう言う人たちなのでしかたがないという結論にいたったが、なるべくみんな無理しない範囲で人助けをしようと約束したのだった。