学園からの追加依頼
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スレイが単独依頼を終えてから半月、その間トラヴィスとジャルナからあの研究者のその後についての話しを聞くことになった。
研究者は様々な魔物も交配についての研究を行っていたらしく、研究者が森に逃がした異様に女性に執着するスライム等は繁殖を容易に進めるために調整された異質な変異体だったそうだ。
本人が意図して作り出した物ではなかったそうだが、危険生物を故意に逃がしたたことと年端もいかない女の子を監禁、さらには違法奴隷と知りながら購入した罪を問われている。
これだけではなく人間と魔物の交配種の研究という非人道的な実験にまで手を出そうとしたことから、研究者は短くとも数年の投獄の後に監視付きで国外追放の刑になるらしい。
今回は一から関わっているわけではないので、そこまで犯罪者のその後について気にならなかったスレイは、話し半分でしか聞いていなかった。
次にスレイが助けたアニエスとスーシーの二人なのだが、週に四日で遊びに来るジュディスとマリアの話によると、二人ともすっかり元気になってはいるそうだ。
その際に聞いた話では、なんでもスレイに雇ってもらえるようにメイドの仕事を頑張りたいと言っているそうだ。
しかし、誰かに身も周りの世話をしてもらうことが苦手なスレイに、メイドを雇う気など更々ないと断っては見たが、今では二人とも先輩メイドの元で仕事にいそしんでいるらしい。
どうでもいいことかも知れないが、二人に貸している服を早く返してほしいスレイだった。
そんなこんなでいつの間にか二週間が過ぎており、今日は学園での授業の日だった。
まず初めの授業でわかったことが、やはりというかなんというか、この国の生徒たちほとんどが詠唱によって魔法を使っている。
極々少数ではあったが、他国からこの国に留学をしているミーニャのような生徒が無詠唱で魔法を使える。
その為今では一度クラスを二つに分けて、片方のクラスはユフィとクレイアルラが生徒たちに魔法文字を覚えさせるために書き取りを、もう片方のクラスはスレイが魔力増強訓練と銘打って身体強化を施したまま魔力を限界まで使わせる。
後者の授業ではたまに気絶する生徒まで出てくるが、ただの魔力切れなのですぐに目を覚ましている。
そして、たまにではあるが魔法文字の書き取りクラスでは反発が起きるが、それと同時にスレイが教室の後ろに配備していた護衛用の黒騎士によって制圧されると言うのを何度も繰り返しおこなわれた。
そんなことがあったある日のこといつものように授業を終えた二人は、ちょうど昼時なのでこのままカフェテリアで昼食を食べてから帰ろうか、とそんな話していると校長のレクスディナがスレイに声をかけてきた。
「おうスレイ、ちょっとお前さんに用事があるんだがこっちに来ちゃくれねぇか?」
「はい。なんでしょうかレクスディナさま」
「だからそんなかしこまるなって……まぁいいや」
なんだか早々に諦めに入ったレクスディナにユフィは、なんのようなのかを問いかけた。
「あぁそうだ。さっきのクレイアルラの授業を見ていたんだが、生徒を取り押さえていたゴーレム、お前が作ったんだってな」
「黒騎士のことですよね。それならボクが造りましたけど、どうかしたんですか?」
「おっし、これから暇か?暇ならお前に着いてきてもらいたいところがあるんだがいいかな?」
「構いませんが、ユフィも連れていっていいのなら」
「構わん構わん、二人とも私に着いてこい」
なんの用だったのかは分からないが、偉く上機嫌なレクスディナの後を付いていくとなにやら巨大なゴーレムの像が立ってい変な建物だった。
「なんなんですかここ」
「そういやぁ、連れてきたのは初めてだったな。ここは魔道総合学部の保有する学科棟の一つだ」
今更だがこの学園では主に三つの学部が存在し、一つは今上がった錬金術などを専門に扱う魔道総合学部、次に魔法を専門に扱う魔法総合学科、そして最後は魔術などを専門に扱う魔術総合学科にわかれる。
主に分けられるここ三つの学科の中からさらに細かく学部が別れている。
ちなみにスレイとユフィが講師を務める実践魔法学科は、便宜状は魔法総合学科に所属しているものの行っている授業の内容からもしかしたら独立した学部を立ち上げることになるかもしれないとのことだ。
「実はそこの教師の一人が病欠で実習が出来なくてな、その代わりを探してたんだ」
「なるほど、そこでスレイくんに白羽の矢がたったって訳ですか」
そう言うことかと思ったスレイは、一時間くらいなら別にいいかと言うことで受けることを決めた。
⚔⚔⚔
次に連れてこられたのは、この学部の学部長とか言う人のいる場所だった。
そこで会わせてもらったのはいかにもその手の人だと一目でわかるような真っ白な長い髪に、これまた真っ白な長い髭を生やし、灰色のゆったりとしたローブを身に纏った、某有名な魔法使いの映画に出てくるあの校長先生を地で行くような人だった。
「ほっほっほっ、わしはアドモア・ダンモルアじゃ。今日はよろしくのぉ」
「どうも、スレイ・アルファスタです」
「スレイくんの婚約者のユフィ・メルレイクです」
「そうかそうか、お二人のことは学園長から聞いておる」
いったいどんな話をしていたのやら、そう思いながらスレイはチラッとレクスディナの方を見るが、笑ってごまかしてきたのでなにも聞かなかったことにした。
「それでなんじゃが、今日の授業では生徒の作った戦闘用のゴーレムとの模擬戦を行ってもらいたいんじゃが構わんかの?」
「構いませんけど、やっぱり生徒たちのゴーレムは壊さない方がいいですか?」
「そりゃあ、壊しちゃダメですよね。分かってますよアドモアさん!ちゃんと危ない武器は全部撤去させておきますから!大丈夫です!えぇ大丈夫です、夫の暴走は妻であるこの私が押さえますから!」
スレイくんゴーレム同士の戦いが見れるとわかった途端、心が小さな少年のようになっており、もしも壊してくれて構わないと言われた場合は今の黒騎士の持てるすべての力をもって相手をしよう、そう思っているスレイくん、だが長い付き合いがあるユフィはそれをすべて見切っていた。
さぁ、早く黒騎士をだしなさい、出して武器をすべて私に出しなさい!一応笑顔ではあるが威圧が凄い。
「いや、壊してくれても構わんよ。授業で作ったとはいえ、簡単に壊れてしまうような物を作ったあの子らの責任じゃでの」
「分かりました。ボクのゴーレムの全性能を用いて生徒たちのゴーレムと戦わせていただきますね!」
「やめなさい!ダメだ~、私だけじゃスレイくんを止められないよぉ~。あっ、そうだ!」
すぐにユフィはプレートを取り出すと、ノクトたちに連絡を入れてヘルプに来てもらうことにした。
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それらなるべく急いで駆けつけてもらったノクトたちと合流したスレイとユフィは、アドモアと対面して一緒にカフェテリアで昼食をとることとなった。
その際にアドモアから聞いた話しではあるが、なんでもこの学科は二年から取れるカリキュラムらしく、今回はスレイが模擬戦を依頼されたのは三年生が二年の後半から作ってきた戦闘戦術を組み込んだ擬似精霊を入れたゴーレムらしい。
その話を聞いたライアが首をかしげる。
「……ねぇノクト、擬似精霊ってなんなの?」
「ごめんなさいライアさん、わたしではちょっとうまく説明できないのでお兄さんかユフィお姉さんお願いします」
元々魔道具を作ることはしないノクトは、擬似精霊についての説明が出来ない、なのでスレイかユフィに説明を投げると、ユフィはスレイにすべてを投げ渡した。
「擬似精霊、本当の名前は人工精霊って言うんだ。まぁ定義は人それぞれでことなるけど、大雑把に言えば人の手によって作られた意識の集合体とでも言えばいいな」
「スレイさま、それではよくは分かりませんし、なんだかより難解な問答になってしまいました」
「まぁ、これでも十分に分かりやすく説明したんだけど、これ以上は精霊についての説明になるんだけど」
「精霊といいますと、あの物語によく出て来ますね。確か勇者レオンの物語にも出ていました」
「あぁ。そう、その精霊。じゃあ精霊とはいったいなんなのか、みんな考えたことはあるかな?」
そうスレイがユフィとノクト以外のみんなに質問をするが、リーフとライア、それにラピスの三人は揃って首をかしげてしまっており、全くわからないと言った具合だったので、そんな三人のために説明を始める。
「正解は概念の集合体、人が作り出したいわば幻想の具現化なんだよ」
「幻想の具現化……つまりは、存在しないものを人が作り出したのが精霊、ということでございましょうか?」
「確かに今のラピスの解釈でも間違いじゃないんだけど、正確に言うなら精霊とは人が作り出すんじゃなくて、人によって産み出される存在なんだ」
「作り出すのではなく、産み出されるのですか?」
「あぁ。もっと分かりやすく説明すると、みんなはこの炎を見てどうおもう?」
スレイは手のひらに小さな炎を産み出してみんなに見せる。
「……熱い、燃えてる」
「そう、炎を見るとすぐにそのことが思い浮かぶびそれさえ分かればそれは炎として認識できる。つまり精霊というのは、人が認識できる物、概念が存在する物が集まって産まれる存在のことで、逆にボクらみたいな人の精霊は存在しないと言われているんだ」
スレイがそう言うとリーフたちはわからないと言った顔をしている。
「えっ、それはどうしてなんですか?」
「なんだ、ノクトも知らなかったのか。………じゃあ、ノクトに聞くけど人を説明するとどうなるか言ってみてくれないか?」
「えっと、まずは意思があるでしょうか?」
「いい答えだけどそれだけじゃ精霊は産まれない。なぜなら意思と言うもの事態が曖昧だからだ」
ここまでの話しで、早々についていけなくなったらしいライアはもう口を挟まない、そしてギリギリまでついていけそうだったラピスもギブアップ、残るリーフも今の話の前までなら付いてこれたがもう置いていかれてしまった。そしてノクトも今のスレイの言葉は理解できないらしい、それを察してユフィが合いの手を入れる。
「ノクトちゃん、意思って人にだけ備わってるものじゃないよ。動物だって持ってるし、魔物にだってあるの」
「そう、今ユフィが言ったように、意思と言うのは生きているものなら何にでもある。もしかしたら草木にもあるかもしれない曖昧なものだ。もし今ノクトの言ったような概念で精霊が産まれたとしても、不安定ですぐに消えてしまうよ」
この話に付け加えるとするならば、この世界では今でも新しい精霊が産まれそして消えていると言われている。そんな精霊の中で、太古の時代より存在し続けている精霊が魔力の属性と同じ炎、風、水、雷、土、聖、闇、そして最後に無の精霊で、勇者レオンの物語でもこの八つの精霊が力を貸し与え作られたのが、かの有名な聖剣だと言われている。
「精霊については分かりましたが、擬似精霊はどうやって産まれるんですか?」
「そうだな。精霊と擬似精霊との違いって言うのが一番難しいんだけど、さっき言った通り精霊は概念の集合体で、逆に擬似精霊って言うのは概念を作り出して精霊を産み出すんだ」
「……でもスレイはさっき精霊は曖昧だと消えるって言ってた」
「そうだ。だけどね、いくつかの概念を抽出し、そのゴーレムに合わした概念を集めればそれだけでも精霊は産まれる。ボクの黒騎士にも擬似精霊を入れてるんだ」
「それでは、黒騎士も話すことが出来るんですか?」
「いや、黒騎士に意思はない、作ろうと思えば作れるんだけどそれじゃあ黒騎士の概念が崩れるからあえていれなかったんだ」
と、ここまで話していたスレイは、自分たちの側に錬金術士の学長先生がいるのに、こんな素人の説明を長々とするのはいかがなものかと思ってしまった。
「すみません、素人のボクがこんなに長々と説明してしまって」
「いやいや構わんぞ。それになかなか分かりやすくいい説明じゃったよ。さすがはクレイアルラ先輩のお弟子さんと言ったところじゃの」
「ルラ先生のことを先輩って、もしかして」
「あぁそうじゃの。わしはあの人がこの学園にいた頃の一学年下だったんじゃよ。あの頃からあの人は憧れでのぉ、久しぶりにお会いして年甲斐もなくのぉ」
くしゃりと破顔したアドモアの顔を見て、あぁ、この人は昔からクレイアルラ恋心を抱いていたらしいと、理解したスレイたちは──自分のことは鈍感な癖に他者のことは鋭いらしい──顔を見愛ながら微笑んでいいるのであった。